第18話「男は閃紅と共に……」
それぞれが戦いを再開する中、
故に周囲を見回す余裕もあり、事実、空島は見回した。
「これは、結界?」
自分たちを仕切っている光に眉を潜める空島は、レバイン陣営で唯一、最初から《導》を持っているだけあり、結界の強さを推し量る事ができる。
仲間はそれぞれ1対1を強いられていた。
レバインと
リベロンと
「えっ……と。こんにちは?」
5人に視線を巡らせたところで、空島へ
「こんな時、どう声を掛けていいのか分からないのです。ごめんなさい。
「今のも十分、態とらしくて変だったし、気取ってて気持ち悪い」
空島は身構えながら梓へ向かって睨むように目を細めた。
「ですから、ごめんなさい。慣れていないのです」
梓は苦笑いするのみ。
――こんな結界を作ったんだから、結構、強い……。
どういう戦い方をする相手かは分からないが、分からないが故に空島も警戒を強めた。空島自身も大罪により強化されている。特段、強力な攻撃手段を持っている訳ではないにせよ、無抵抗でいるつもりはない。
「1対1なら勝てると思ったら大間違いよ!」
空島の言葉は強がりも含まれているが、大部分にあるのは、梓の《導》は寧ろ勝率を下げる行為だったという挑発だ。
――寧ろこっちが有利!
空島も《導》が使える
――
落ち目であったし、万全ではなかったとはいえ、
――
自分たちは弱くなかったし、石井の刀に宿っていた《導》を自分たちへ上乗せした今の能力は、同じくルゥウシェたちに勝利した孝介たちよりも上なのだ、と睨む視線に力を込める空島。
だが梓は構えようともせず、
「勝機がある何人かはいますから」
梓はできるだけ柔和な笑みを作ったつもりだった。
――慣れませんね。
そんな気持ちがあるから苦笑いが混じってしまい、どうしても空島へ不快感を与え
てしまうのだが、梓は構わずスッと自分が作った結界の一角を指差した。
「まず、こちらにも互角以上に戦える人がいます」
その先には倒された雅の姿がある。
「ベクターさんは、こちらの切り札でしたから」
互角どころか、寧ろ勝っている部分すらあるはずだ、という言葉は否定はできない。初手は矢矯が完全に押さえ込んでいたのだから。
「でも、そのベクターは、こっちの総攻撃で――」
返り討ちにしたはずだという空島の言葉は、最後までいわせない。
「例えば弓削さん」
スッと横へスライドさせた梓の指先は、リベロンと対峙する弓削を示した。リベロンの片腕を切断した弓削であるから、互角以下とはいわせない。
「そして
鳥飼と戦う神名は、弓削や矢矯と比べれば落ちるが、それでも一方的な展開を許す程ではない。
「会様も、一方的に斬られる様な事はございません」
主人である会の実力は、梓が最もよく知るところだ。六家二十三派の女だといえば、空島とて楽勝とは断言できない。
「でも、あとの二人は、こっちの勝ちよ!」
残る孝介と陽大は、どう取り繕おうとも劣等に違いない、と空島は声を荒らげた。二人は
「
そこは梓も認める所だ。
「そんな、どうでもいいなんて顔をしてる場合なの?」
畳みかけるつもりでいった空島であったが、梓は目を向けている孝介に関してはあんな表情など無縁でいれらた。
「一人、忘れていおられるようですね」
その一人が重要だ。
「は?」
空島は気の抜けたような声で返した。寧ろ人の苛立ちを掻き立てるならば効果的だったかも知れないが、そういった悪意を受ける事に慣れている梓には、陳腐な何かに過ぎなかった。
「私の結界も、断ち切れるものが存在しています」
梓が見遣る先に、赤い閃光が立ち上っている。
空島は見慣れていないし、孝介たちにしても見慣れる程、見てきた光ではないのだが、誰もが忘れたなどいえない光だ。
「
梓が孝介の救援に向けえると確信している男の武器だ。
「ベクターさんが救援に向かうなら、的場さんに敗北は有り得ません」
梓の
「ベクターさん!」
孝介にとって、これ程、頼もしい存在はいない。
「助け来たよ」
声が掠れる程の消耗をしていても。
「そんな、ズタボロの身体でか?」
丹下も思わず笑ってしまった。レバインのサイクロン、丹下のクファンジャル、珠璃の
孝介の救援も残されていたのだから、《方》を全て消費してしまう訳にもいかず、故に飽和攻撃は矢矯に少なくないダメージを与えていた。
「そんなボロボロの身体なんだ。止めといた方がいいんじゃねェかぁ? 俺は手加減なんてしないぜ?
挑発と嘲笑をぶつける丹下であるが、それに対し、歯噛みしたのは孝介だけだ。
矢矯はどこ吹く風よと受け流し――とはしなかった。
「あのよ」
矢矯の顔に笑みはなく、ただ静かな湖面を見ているような静寂があるだけだ。
しかし言葉は強烈な皮肉を纏っていた。
「立場が逆で、お前がこれだけダメージ受けてたら、死んだふりしてやり過ごし、仲間が傷ついていくのを放置するのか? しないなら下らない事いうな。するんだったら、相手にならねェぞ」
「うるさいわ!」
丹下は怒声と共に、クファンジャルを宙に舞わせた。
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