第27話「何故、ベストを尽くしてもダメなのか?」
――息苦しいですね。
周囲の空気から感じてしまう
しかし舞台に応用できる幅は狭いと痛感させられる事ばかりだった。
――感覚、常識が
何もかも投げ捨てて庇いに走るといってしまえば、後先を考えていない馬鹿な真似であり、ルゥウシェたちが見ていれば、まず間違いなく「ベクターに相応しい馬鹿な死に様だ」というのだろうが、それを梓は
――そういう方だから、的場くんはついてきていたのですから。
その差異を、梓は
後からならばいくらでもいえるし、少し考えれば分かる事であっても、
それを理解しきれていない事が、今、梓が感じている思うように事態が進んでいかないもどかしさの原因だ。
――全体的には上手く行っているはずでも、そんな事が少しずつ溜まってしまいます。
有利な状況は作れているはずだが、そんな少しずつが引っかかり、空気を重く感じさせている。
ただ顔には出さない。
口げんかしていてくれると梓は表現し、冗談めかしたのだが、眼前にいる
――まだ色々と使える様子はないですが、注意していなければ……。
空島の《導》は、
しかし梓の注意を余所に、空島も梓同様の忌ま忌ましさを感じずにはいられなかった。
――何で、何人も
空島は自分の《導》に絶対の自信を持っていた。7種の呪詛を受けた日本刀から呪詛を取り出し、力に変えて各人に宿した。それは《方》しか持っていなかった
――それなのに、なんでベストを尽くさないのよ!?
歯軋りと共に思い出すのは、いつもいじっている携帯ゲーム機だった。
大好きなオンライン対戦ができるシミュレーションゲームだ。剣と魔法の世界を舞台としたファンタジーで、対戦では育てた5人のキャラを選択し、交互に戦闘を進めていくという単純だが、奥深さを持ったゲームだった。
思い出す名前がある。
――アズマ……あのチート野郎!
全く歯が立たなかった相手の名前だ。
――チートじゃないとでも言い訳する気か、パラメータには隙を残してるけど、フルカンの武器に、強化アイテム使いまくってるんだから、チートだってバレバレ! チーターなんていなくなればいいのに!
ゲームとこの舞台では大分、違うのだが、その相手とのゲームを思い出してしまうのが、今の状況だった。
――掲示板に晒してやった!
そんなストレス発散も、この舞台では使いようがない。
「共通する事がありますから」
その声は梓から投げかけられた。
「あん?」
空島が眉間に皺を刻んだ顔を振り向かせると、梓は
「その……アズマさん? チートな訳ないでしょう。可能か不可能かを検証した訳ではなく、またチートだというパラメータをねつ造して掲示板に晒しましたね? つまり、あなたは自分が勝てない相手を、そうやって貶める事しかできないんでしょう」
嘲笑は口げんかに相応しい低俗なものにする。
「チートなら勝てなくても仕方がない、チートしなければ勝てないのは恥、と、そういういい訳をするために、勝てない相手は全員、チート扱いにしていく。そのいう生来の性質、気質ですね」
ここまでは態と声を潜ませておいて、梓はここから大声に転調させる。
「何故、ベストをつくしても、
「こいつゥッ!」
空島が
「来い!」
――絶望の悲鳴をあげさせてやる!
走り来る陽大に対し、万全に体勢だと鳥飼は必勝の笑みまで浮かべていた。
「何故、ベストを尽くしてもダメなんでしょうね?」
もう一度、梓が声を大にしていった。
そんな言葉など聞き捨て、鳥飼は刀を大上段に構えた。真っ向から縦一文字に――真っ向唐竹割りにしてやるつもりだ。
――殴ることしかできないんだから、一度、止まる必要があるだろう! その時が……!
勝敗の分け目は、正にその瞬間だった。
陽大は止まらない。対数螺旋を利用した身体操作は、最早、初心者ではなくなっている。
目指す一点へ向けられている足は、止まる事を前提にしていない。
その一点、鳥飼の足へ向かって身体を沈み込ませる。
相対螺旋をなぞって放たされるのは、身体を沈み込ませる勢いすらも利用した足払いだ。
「ッ!?」
脛を蹴り飛ばされる訳だから、思わず鳥飼も身体を硬直させてしまう。それ程の痛みだ。
そこへ繰り出すのは、対数螺旋を横ではなく、縦へと変化させた陽大の膝。
「――ッ」
鳥飼の息を詰めさせる胸骨への一撃。 最初に教えられた、軟骨で肋骨を繋げている一点へ、陽大の身体が浮き上がってしまうくらいの反動をつけた一撃だ。
それでも陽大の攻撃は終わらない。
もう一度、宙を舞う身体に対数螺旋を応用させる。
最早、体勢はかえられないが、障壁によって理想的な身体操作を用いれる陽大は、その左足に全てを托す。
顎先へ炸裂する回し蹴り!
「ストライク・スリー!」
神名の
顎に爆弾でも炸裂したかのような痛みと、その衝撃が脳を激しく左右に揺らし、頭蓋骨に激突させる。
「何故、ベストを尽くしてもダメなのか?」
梓は三度、同じ言葉を空島へ向けた。
しかし――、続けざまに、そしていいたい放題、ぶつけた嘲笑は梓にとっても隙なのだ。
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