第11話「LastResort」

 見ている者には、驚異の5連撃と映ったかも知れない。


 このとき、余裕のなかった孝介こうすけ仁和になには、特にそう映った。


 ――ヤバい! ヤバい! ヤバい!


 迫り来るアヤの攻撃を回避しながらであるから、孝介には明津あくつの攻撃が絶技としか見えていなかった。


「ソニックブレイブなんて、たいそうな名前をつけていても、結局、お前たちのは、ただの面だ!」


 飛翔していたアヤが宙で停止する。


「ただの基本的な、初歩の《方》だ。その程度では何をしても、姑息の一言しかない」


 工夫ではなく姑息だというアヤは、更なる《導》を発動させようと両手を広げる。


「世を灰燼と化させるものを封じる地獄の門。その封印を守る七つの鍵。冥界の賢者、その威を示せ!」


 アヤの声に呼応するように、青い炎から7筋の閃光が弾き出される。


「七つのかぎかぎけんとなり、即ちけん。地獄の門に向かう百鬼夜行――ハロウィン!」


 光が剣の形を取り、アヤの周囲に浮かぶ。


 何が起きているかは考えずとも分かる。



 剣は《導》が作り出した武器だ。



 浮かんでいるという事は、飛翔して退路を断とうとするはずだ。


 ――散った方がいい?


 仁和に迷いが生まれてしまう。孝介と逆方向へ動き、的を散らした方がいいのかと思うが、逆にかばえる位置を維持する方がいいのか、判断に困った。


 ルールが存在しないことの弊害と言えた。サッカーが22人で入り乱れても成立するのは、ルールの存在が最も大きな理由だ。


 ルールとは法則に等しく、否応なしに縛る。


 縛るものがなければ手探りとなり、それはタブーを持たない者が有利。


 互いに互いを守らなければならないと思っている孝介と仁和は、それだけで動けなくなる。


 アヤにせよ明津にせよ、分断は容易かったはずだ。


 そして今、アヤは更に二人を縛ろうとしていた。


「!」


 アヤの周囲から剣が飛び立つと同時に、孝介は床を蹴った。


 選んだのは――仁和を庇う位置を堅持する事だ。


「姉ちゃん、背中――」


 背中合わせで死角をなくそうと声を荒らげる孝介であったが、姉の元へと蹴った地面を穿うがつ眩しい光線があった。


「孝介!」


 転びはしなかったが、体勢を崩した弟の身体を仁和が支えた。


 光線の正体は、アヤの剣だ。



 剣の切っ先から放たれたのだ。



 切っ先から放たれているのは、プラズマ化した炎だった。


「剣の形をしているからって、剣としてしか使えない訳がない」


 アヤが嘲笑と共に、二人への突進を再開した。





 矢矯やはぎも横目で見る程度の事しかできなかった。


 割り込むにしても、明津が黙って見逃すとは思えない。


「……チィーッ!」


 わざとらしい程、大きく舌打ちした矢矯は、切っ先を失った剣を右脇へ構えた。


「フッ」


 その構えに明津が口の片方を吊り上げる。


 ――折れた剣で電装剣でんそうけんに対抗する? バカも休み休みするものだ。


 超硬金属でできているのだから、刃を失っても剣が凶器であることに変わりはないのだが、鈍器と言うには頼りない。金属バットの方がいくらかマシだ。


「よかろう」


 嘲笑を浮かべた顔で、明津は電装剣を構え直した。


「奥義――」


 5連撃を超える技だ。



「奥義にて、お前をほふる!」



 観客が湧いた。


「……」


 矢矯は黙っていた。


 その沈黙を破るのは、床を鳴らした乾いた音。


「……?」


 それには明津も訝しげな顔を見せてしまう。



 床を鳴らしたのは、矢矯が手放した剣だった。



 ――何のつもりだ?


 その疑問はもっともだが、口に出すことはなかった。


 矢矯が黙らせた。


「!」


 明津の息を呑ませて。


 矢矯が右の脇構えを取ったのは右の袖口を隠すためだった。


 剣を放した次の瞬間、袖が翻る。何の事はない。カーテンレールとマジックテープを組み合わせた、おもちゃのような仕掛けが動いただけだが、矢矯の右手に握られた物には目を剥かされる。


 赤い光が迸り、それが刃を形作った。



「電装剣――!」



 明津が目を見開いた。

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