第2話「別の舞台でなりたかった超新星」
この舞台で、騎士をイメージした衣装は珍しくない。自分の姿で目立ち、攻撃手段で目立ち、相手を叩き潰す光景を目立たせる――これが百識に限らず、舞台に上がる者の鉄則だ。
騎士をイメージさせる衣装、浮遊してレーザービームを放つ金属球、そして鞘走らせる片手剣。
金色の鍔と柄、鈍色の刀身を持つ剣だが、その抜き方、持ち方はルゥウシェと同様、剣技など知らない者のそれだ。
――脅しだろうが!
握り込んでしまっている珠璃の手を見て、ルゥウシェは言葉を吐き捨てたい衝動を覚えていた。
――
ハチでもハエでもいいのだが、ルゥウシェは蚊と表現したのも、その鬱陶しさ故だ。レーザービームそのものの殺傷力は弱い。
穿たれると焼かれるという2種類の痛みが集中力を疎外し、リメンバランスを展開させられない。それが苛立ちを強くさせていった。
――こんなもの、一網打尽にできるのに!
それなりの障壁、結界が使えれば無効化できる確信があるルゥウシェだが、
力を高めるリメンバランスと一言いうだけの間を突破し、接近戦を仕掛けられるのならば勝機はある。
珠璃の攻撃も同様だ。
インフェルノでもダイヤモンドダストでも、広範囲に効果を及ぼすリメンバランスを発動させれば、この
だが発動させまいとしているのだから、別の手段を考えなければならない。
「このッ!」
だが直接攻撃で叩き落とそうというのは無謀というものだ。
ルゥウシェの切っ先は空を切るのみ。そもそも剣術の心得などなく、この刀とて《導》と組み合わせ、重ね合わせる事で必殺の武器に変えるものだった。
「とりゃ!」
そこへ
珠璃の剣も素人が振り回しているのだから有効な太刀筋ではなく、黒白無常によって行動を制限されているルゥウシェも避けるのは容易い。
「客は望んでないだろ、そんなの」
互いの素人剣法など観客が望む展開ではないというルゥウシェは、挑発と黒白無常を引っ込めさせる切っ掛けを狙ったのだが、
「そうでしょうね」
珠璃の返しも平凡といえば余りにも平凡だったが、次に起こる事は平凡ではなかった。
「シャドウ・フェイズ」
黒白無常に続く《導》は、珠璃の顔を黒い仮面で覆った。
次の瞬間、剣が振り切られる。
「ぎゃあああああ」
高いが濁った悲鳴がルゥウシェの喉から溢れ出した。
振り切られた珠璃の剣は、ルゥウシェの腕を弾け飛ばせたのだ。
斬ったのでない。そもそも珠璃の片手剣は飾り同然の華美なものだった。切れ味など皆無。
力任せに振り切り、剣の重量、強度にものをいわせた一撃だった。
――身体強化……。
激痛に顔を歪めるルゥウシェにとって、珠璃の一撃が矢矯や孝介と真逆だった事がせめてもの救いだろうか。
だが強引に腕一本を吹き飛ばされたルゥウシェの思考力では、明確に考えられたのはそれが最後だった。珠璃の《導》は、浮遊砲台のような金属球を呼び出し操る事と、身体強化による強引な剣技――気付きはできたが、把握はできない。
自分の身体が倒れようとしている事、また黒白無常のレーザービームが背を穿ち始めた事も分からなかったくらいだ。
それでも悲鳴は、もう一度、上がる。
「ぎゃあああああ」
濁り方がより強く、より汚くなるのは、次の一撃はルゥウシェの足を爆裂させたからだ。
奇しくもルゥウシェが基から奪っていった順と同じだった。
だが基のように、届きもしない言葉は口にしない。
正確にいうならばできない。
珠璃が距離を取り、剣をくるりと一回転半させて胸の前で切っ先を下にして構える。
「これで終わり」
高らかに宣言すると共に、顔を覆っていた黒い仮面に手を遣った。
「ペルソナ・フェイズ」
脱ぐ捨てるような手付きと共に、白い仮面に変わる。
「シュペル・ノーヴァ」
剣から放たれる《導》が光を呼び、黒白無常に宿る。
燐光を撒き散らし、螺旋を描いてルゥウシェへと襲いかかる二つの光球は、ルゥウシェの身体に命中すると一層、輝きを強くし、ルゥウシェの身体を内部から貫く閃光を生じさせた。
閃光は太く、強くなり、ついにはルゥウシェの身体を爆裂させ――何も残さなかった。
歓声が上がる。血肉が飛び散るグロテスクな光景は残らないが、ルゥウシェが無事であると思う者など皆無な結果だ。
「引き分けでも良いけど」
だが珠璃は、一度だけ観客の声とは真逆の言葉を投げかけた。
「最後に立ってるのは私」
一瞬、小さくなった歓声だったが、天へと突き上げた珠璃の剣に、もう一度、歓声は大きくなったのだった。
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