第30話「炸裂――2対2」
1対2が二組という状況は、当然、2対2ではない。
不可能な話ではなかった。
呪詛に冒されているといっても、石井に体当たりするだけでよかった。空中を自由自在に飛翔する術はないのだから。
「ッ」
だが着地した真弓は孝介を一瞥すらしないのだから、孝介が動かなかった事に何かを思うところはない。
――分断しやすい。
その様子に石井がほくそ笑んだ。
1対2が二組というのは、こういう状況の事を指している。
真弓にとって、孝介はいないのだ。
石井に体当たりするだけで事足りたのだから、何故、しなかったと恨み言をいわない、一顧だにしないのは、実はいがみ合うよりも質が悪い。
意識の中ですら真弓は一人で石井とルゥウシェを相手にする事を選んだ。
日本刀を構え、ルゥウシェと石井が嗤う。
細剣を両手に持っている真弓だが、剣の扱いに慣れているとはいえない。それは剣を持つ姿で分かる。
――飾りかよ!
ルゥウシェの嗤いが告げた。
――切れる事と断てる事は違うし、突ける事と刺せる事は違う!
接近戦が得意という訳ではなく、また《導》による攻撃ではない身体を使った攻撃を下に見ているルゥウシェであるが、素人とはいえない腕がある。
日本刀の切っ先に《方》を宿し、《導》を乗せる。
「リメンバランス!」
真弓を捉えた相貌に力を込めた、地面と水平にした切っ先を突き出す。
「スパロー――
その《導》を、真弓は知っていた。
――
あの日、
――切っ先に乗ってるだけでしょ!
防ぐ手立てが皆無ではないと高を括り、左手の細剣を構える真弓。
「かかった!」
そこへ横やりを入れようとするのが石井だ。
この瞬間に限らず、真弓の目には石井も入っていない。
真弓が視界に捉えているのは、基の仇であるルゥウシェだけだ。
波動砲が阻止された時も、石井へ向ける事もできたのだが、しなかったのはそのためだ。
石井にとって真弓の細剣を弾くくらいは容易い。何せ意識の外にいるのだから。
――私が弾き、ルーのリメンバランスで決まり!
一瞬の交叉だけで十分だと、石井は自らが鍛えた刀を振り上げた。
が――、
「おおッ!」
横やりを入れようとした石井へ、更に横やりが入れられる。
孝介だ。
ソニックブレイブが使えれば文句がなかったが、呪詛に冒された身体では
石井を押さえようと、
「ふんッ」
その刃を一瞥しながら、石井がフットワークを変えた。
「!?」
それに逆らおうとしなかったのは孝介の勘の良さかも知れないが、如何せん矢矯から学び、打ち込んだ修練は上段からの打ち下ろしのみだ。
逆らわなくとも、左に流された孝介の身体は必然的に自分の右肩がスクリーンになって石井を隠してしまう。
そして石井は左足を踏み出す。当然だが、剣術に左足での踏み込みはない。身体の軸を意識して動くならば、同足――手足は左右が同じ方を出して動く事が基本であり、左足で踏み込んでしまえば、袈裟斬りの時、自らの足を斬る事になる。
だが石井は本来の軸足である左足で踏み込む事により、がら空きになった孝介の右側頭部へ右後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「――」
悲鳴は聞こえなかった。孝介があげなかったのか、それともあげられなかったのかも分からない。
観客の目も、石井の意識も、全て孝介ではなく真弓を狙ったルゥウシェへと向けられていたのだから。
「ッ!」
真弓が防御した細剣を持つ手が痺れる程、ルゥウシェの刀からは貫こうとする《導》が伝わった。
その衝撃が真弓の行動を制し、ルゥウシェを次の攻撃へと繋がらせてしまう。
「ゲイル――
次の攻撃は断ち切ろうとする横薙ぎ。
痺れを残したまま防御した真弓の体勢を大きく崩すが、それは《導》の威力より
も、《導》そのものに真弓が目と意識を奪われたからだ。
――こいつの、これ……!
見覚えがある。
基を惨殺した連続攻撃だ。
スパローとゲイル、その二つの《導》は混じり合い、昇華し、空間すらも歪め、曲げようとする大きな力となるからだ。
「まだまだまだまだ!」
そしてもう一つ、ルゥウシェは基の時にはできなかった、三つ目の《導》を放つ。
「ダイヤモンドダスト――
最も得意とする氷の《導》だ。
ダイヤモンドダストは、スパローとゲイルが混じり合った空間へ放たれると、凍らせるだけでなく、弾け飛ばして真っ赤な蓮の花を咲かせる文字通りの威力を見せようと蛮力を発揮する。
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