第29話「不利は必然――2対2」
音速の10倍ものスピードで飛来する
当てられるのか、外してしまうのかの二択だからだ。
――もらった!
必殺のタイミングだと
真弓の相貌は勝負ありだと告げていたが、見上げる目が全て絶望している訳ではなかった。
「いいや、甘いね!」
石井が怒鳴りながら地を蹴った。
真弓の波動砲は両手に持った細剣で挟み込んだ弾体を弾き出すのだが、それ故に照準器がない。
そして間が悪かった。
1対1ならば、反応できなかったルゥウシェはお終いだったが、この戦いは2対2のチーム戦だ。
波動砲が向けられていない石井は動けた。
「!」
視界に飛び込んでくる石井に、真弓が顔を歪ませる。跳躍した石井には空中を自由自在に動ける《導》はなく、真弓にも空中に留まっているだけの能力しかない。
身を捩って石井の攻撃から逃れつつ、発射する。
ルゥウシェに回避する事はできなかったが、南無三と祈りながら放った真弓の波動砲は逸れる。
「もらった!」
そして石井は刃を振り抜いた。放たれた声とは裏腹に、石井が振るった刀は真弓を掠める程度であったが、ルゥウシェに致命傷を負わせられなかっただけで目的は達している。
着地した真弓は、地面に散った赤い斑点に舌打ちした。
「
ステージの外から
刃か真弓を掠めた程度であったが、掠めただけで猛毒にも似た呪詛が流れ込む事は、最早、周知のことだ。
「この……ッ」
着地と同時に走った違和感に顔を歪める真弓に、ルゥウシェと石井は口元を綻ばせた。
それは呪詛が真弓を冒したからだけではない。
――勝てるでしょ、これ。簡単に。
ルゥウシェの顔に浮かぶのは嘲笑。
真弓の目に映っているのはルゥウシェだけ。自らの手元すらも見えていない。
「2対2にもなっていない。それもそうだろう」
小川も同様の笑みを見せていた。
真弓はルゥウシェしか見ておらず、仲間であるはずの孝介すら眼中に入っていない――つまり、2対2ではなく1対2が二組、存在しているという事だ。
「そう仕組んだ。当然だ」
小川の笑みには、そんな意味があった。
「必然だ」
小川はいう。
「こちらには、コンビで動けるのが何組もいた。ルゥウシェはバッシュ、石井とコンビを組める。
「けど、お前たちは、コンビで動けるのは、姉弟である
「
3人も排除したのも計算だ。
「矢矯と弓削がいなければ、初戦の鉄砲玉は、呪詛でロクに動けない的場孝介か、クソ犯罪者の弦葉陽大しかいない。出るなら、弦葉陽大だろうな。弦葉陽大が落とせば、取り返しに行くなら経験のある内竹神名か的場仁和か久保居真弓しかいない」
基では経験不足を露呈する。この時点で、組み合わせが悪くなる。仮に神名が出たとしたら、孝介と仁和しか残っていない。そして現実には仁和が出て落とした。
「3戦目に明津一朗が出れば、対抗できるのは同じく電装剣を持っている鳥打 基しかいない。まぁ、仮に鳥打 基を残しておければ久保居真弓と組めたかも知れないが、結局、3戦目を内竹神名、4戦目を的場孝介にしたのでは、的場孝介に確実性などない。初戦からの2連敗、矢矯の不戦敗に加えて4敗目になれば取り返しがつかない」
孝介を残すしかないのだから、最終戦に残せるコンビはない。
「的場孝介は最終戦だけだからな」
こうなってしまったのは必然だ。
「お前の頭が悪すぎたんだよ」
安土のミスなのだ、と小川が視線を安土へと向ける。
残せる組み合わせもあった。
――駒の選択を間違ったな!
駒として使えない事へも嘲りは向けられる。
孝介がガンだった。
もし孝介を捨て駒として扱えたならば、この事態はなかった。初戦を落としてもいい、三番手として消化してもいいと考えられていれば、この最終戦に神名と陽大、もしくは真弓と基を出す事もできた。
「後悔しろ。悔やめ!」
簡単なロジック、簡単な詰め将棋に過ぎなかったのに、それができなかった安土が招き、抱え込んだ不利なのだ。
小川の眼前で、分断された孝介と真弓へルゥウシェと石井が向かっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます