第28話「魔法使いの一番弟子――2対2」
チーム戦とは本来、不条理なものだ。接近戦を主とする
その理由は危険であるからだといわれる。
それだけ死角から襲いかかってくる攻撃は凶悪であるのだが、この舞台では凶悪とは美徳だ。
――ま、何も知らないんだろうけど。
刀を抜くルゥウシェは開始の合図と共に地面を蹴った
――大体、その格好、何? コスプレなの?
舞台に上がる百識の衣装は多かれ少なかれ、自分の戦闘スタイルに合ったものを選ぶが、真弓の場合、一体、何を主としているのか分からない。
――バッシュは魔道士をイメージしたし、
ヘソ出しのキャミソールにベスト、ハーフパンツにモカシンという格好からイメージではものは、剣士でも魔道士でもない。
「何する気? バカじゃないの!」
真っ向から切り捨ててやると刀を上段に構えるルゥウシェは、その刀身に宿った《導》を目覚めさせる。親友の石井が鍛えた刀は、やはりルゥウシェとの相性が最も良かった。
刀身に触れたものへと呪詛を流し込み、それを猛毒のように操るだけが能ではない。
「おい!」
孝介が背後から声をかけたが、真弓の足は止まらなかった。地面を蹴って反動を利用しているのだから、声が聞こえたとしても止まったり方向転換する事は不可能だ。
ルゥウシェの刀身から溢れ出した呪詛の《導》は、ゆらゆらと揺らめくばかりではなく、刀身を巨大化させたかのように静止させる事もできる。
――リメンバランスを理解しているルーだからこそよ!
石井がほくそ笑んだ。石井はリメンバランスを攻撃に使えないが、ルゥウシェは違う。攻撃にも、また防御にも使える。石井のように精巧なものは作れないが、物質化も可能だ。
そんなルゥウシェであるから、その刀身からは間合いを計る事ができない。
飛び込んでくるのは、文字通り飛んで火に入る夏の虫。
「チェイッ!」
裂帛の気合いと共にルゥウシェが剣を振り下ろす。ルゥウシェも正式に武術を納めた事も、格闘技の経験もないのだが、フィジカルではプロスポーツも
そのルゥウシェをバックアップするような立ち位置に立つ石井は思った。
――特等席でしょ、ここ。
ルゥウシェの一撃は流れを作る。2連勝の後に2連敗という流れは退潮といえる。そこへ来て、この大一番で瞬殺が出る事は流れが変わる。
――2対2のチーム戦だから、一人倒すごとに星が入る訳ではないけど、2対1にして、しかも残るのが半死人っていうのなら、もうこっちの勝ち!
石井の手にも力が入った。
「さァ、斬って!」
石井の声援を背に、ルゥウシェの刃が真弓の脳天めがけて振り下ろされる。
が――、
「ちちんぷいぷい」
止まらない真弓の口から漏れる言葉。
「ビビデ・バビデ・ブー」
それはおまじないの呪文。
聞いたルゥウシェは苦笑いした。
――おまじない? 何? それで笑いでもとって隙を作ろうっての?
振り下ろす刀が鈍るはずがない、とルゥウシェの目に宿る炎が告げる。
だが真弓とて、笑わせようとなど思っていない。
「!?」
ルゥウシェが両手に感じたのは、真弓を切り裂いた感触ではなく地面を叩いた衝撃だった。
「逃げた!」
ルゥウシェは怒鳴った。避けた、ではなく、逃げた、と。
「ルー、上よ!」
石井が指差すのは頭上。
おまじないの呪文は、それだけで全ての奇跡を起こすものだ。
真弓が活路を見出したのは頭上。
そして頭上では、真弓の手には細剣が二口、握られていた。
その剣で挟むのは、魔法によって出現させた絶縁体の球体。
真弓の唇から発せられる言葉は――、
「
それを聞き違えるルゥウシェではない。
――あの女の!
ルゥウシェが思い出すのは、基に罰を与えた夜の事。
真弓が鼻痛としているのは、乙矢の切り札!
――
ルゥウシェを捉えている相貌であるが、そこに浮かぶのは怨敵だけではない。
――お父さん、お母さん……。
母の裏切りと父の苦悩により、大切なもの程、取り上げられるようになってしまったと感じ、俯き癖がついていた頃の自分。
大切な人程、離れていくようになってしまった、と、さよなら癖がついたと感じていた自分だ。
――
断じて違うのだと、真弓は歯を食い縛る。
――流れを掴むのは、私!
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