第30話「強烈な反撃」
崩れ落ちたレバインの姿は皆の目を奪う事に成功した。まるで雪像が溶け落ちる様は尋常ではなかったからだ。
だが自爆したとは思えず、続いて聞こえてきた声が事態を告げた。
「これこそ、攻防一体・絶対の陣だ!」
即座にレバインの声がどこから聞こえてきたのかが分かったのは、
「散開しろ!」
そう怒鳴った弓削が構える方向を
レバインの変容は《導》の効果だ。
レバインがいた場所に残されていた水溜まりが不意に盛り上がると、生きている水というものがあればこうなると思わされる姿に変わった。
「リィッ」
その脳天に向かって、弓削の剣が振り下ろされる。弓削とて最大戦速は時速1200キロ。角速度が加わる分、真っ向唐竹割りは音よりも速い。
だが手応えのなさは弓削の顔を歪ませた。
――水の中に突っ込んだような手応えだな!
それは如実に斬れていない事を告げていた。
「斬れる訳がないだろうが!」
その嘲笑と共に、再びレバインの身体が崩れる。
そして液化したまま宙を舞い、弓削に襲いかかった。
「!」
感知と身体操作を駆使して回避に入る弓削であったが、対峙した事のない状態という事が
「液体はどんな形にもなれる!」
レバインの声に、鮮血が舞わされた。すれ違い様に弓削の脇が切り裂かれていた。
「カミソリの薄さに、斧の重さを兼ね備えた最高の剣にもな!」
液化した身体の形を変化させ、刃として伸ばしたのだった。刃物の鋭さは薄さに比例し、断つ強さは重さに比例する。薄さと重さは両立しがたい要素であるが、形を自在に変え、また間接的にではあっても圧力を操るレバインにとって、自身の身体はこの世で最も優れた剣にもなる。
そして変化させるという特性が、弓削の回避力を上回った。
「くッ」
身体に沿わせて障壁を展開しているとはいえ、弓削の障壁も防御力という点に於いては劣等だ。精々、ソフトボールやドッジボールをぶつけられても痛くない程度であるから、レバインの攻撃は防げない。
「この野郎!」
ヘビのように蛇行しつつも、猛スピードで動くレバインへ
――何が絶対回避だ! 捕まえられるぞ!
自分の感知でも動きが読める、と陽大が目を見開き、レバインを終点とした対数螺旋を思い描く。
トレースは今までで最も鮮やかだと自負できた。
「
――液体だろうが固体だろうが、知った事じゃない!
事実、陽大の肘はパンッと何かを破裂させたような、小気味いい音を響かせた。
しかし――、
「液体に衝撃とか、頭、大丈夫か?」
レバインの嗤いが聞こえてくるのだから、有効打ではない。
そればかりか、今度はレバインがカウンターを取っていた。
「……」
腹部を襲った熱さに陽大の顔が苦痛に歪まされる。レバインが《導》に慣れていない事、また純粋な格闘を下品と思っている百識らしい百識である事が幸いしてか禍してか、急所を貫かれた、切り裂かれたという訳ではないのだが、陽大は膝を着かせる事となった。
「この……!」
そこへ続いたのは
――打撃が無効なのはわかった。でも毒を流し込めば!
レバインの身体が自在に変化する液体だとしても、そこに毒が混じれば或いは――神名の狙いはそれだ。
陽大に捉えられたのだから、神名の感知もレバインを捉えるのは容易だ。
まず右拳を真っ直ぐ突き出す。
右を引く反動を左拳に伝え、ボディブロー。
右の
「
最後の蹴りは、いくら宙返りしてしまう程の反動をつけても意味はないのだが、それまでの7回の打撃は全てバグ・ナクの刃に秘められた毒が機能している。
――これで……!
その言葉が出せなかったのだから、神名の身体へレバインの刃が斬り込まれていた。
「毒も俺の身体には混ざらねェ。密度も比重も違うんだからな!」
バグ・ナクから流し込まれた毒は、そのまま素通りして床に散っていた。
レバインの目が次に向けられるのは、今まで通用しなかった3名と同じく打撃しか持っていない
「ッ!」
それでもと孝介は剣を構える。
――俺を追ったな!
大上段に剣を構えるのは、ゆっくりと旋回させるためだ。
相手の意識が集中している今ならば、切っ先の動きに注視させられる。
――
その姿にレバインが止まったのは、孝介の狙い通り……ではなかった。
「来ォい!」
レバインの声。
呼応したのは上空にいる
「ええ!」
返事と共に、梓の《導》で無力化されたセラフィック・シャインを終息させる。
「さぁ!」
翳した剣に宿る《導》が光を呼び、光が
黒白無常は尾を引く程の光を纏って螺旋模様を描き――、
――シュペル・ノーヴァ!
梓が知る内で、珠璃の持つ最大の攻撃だ。
珠璃も見ている。
だが珠璃は構えた剣をそのままに、黒白無常の光の中へと自身の身体を躍らせた。
「NegativeCorridor」
見た事のない技が来ると直感したが、梓は《導》を変化させた。
「
序盤で全員を区切った結界を張る。相手のスピードを考えて、このまま
現実は、その梓の見立てをも上回る高速だったが。
「アカシャ・ノーヴァ!」
黒白無常が纏う光を、まるで双翼のように
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