第16話「万人之敵・矢矯」
「いいや、弱点だらけ!」
その光景に対し、まず
――時間を停止させられる訳じゃないんだから、タイムラグがある!
一方的に攻撃を仕掛けられる攻撃ではない。
――全部、的!
残像だの、無数の中に潜む一人だけが本人だのというものではなく、その全員が矢矯本人であり、一人でも致命傷をもらえば終わるという《方》だ。炎や氷、
「自慢そうに見せすぎたわね!」
初見で出されれば対応しきれない事もあろうが、矢矯がこの攻撃方法を持っている事は有名な話だ。
録画は厳重に禁止されている舞台であるが、見るのは自由だ。
「
レーザービームを放つ球体を出現させる珠璃。
「行けェッ!」
数の上では圧倒的に足りないが、手数では肉薄できる《導》だ、と珠璃は挑発的な光を相貌に浮かべた。
黒白無常の放つレーザービームに、矢矯の足が鈍る。アヤと
「飽和攻撃!」
停止させられないとの珠璃の叫びに、もう一人、同様の攻撃ができる丹下が動いた。
「短剣よ」
装飾ナイフの類いであるが、刃物である事も間違いない。
「飛んで、刺されェッ!」
丹下が振り下ろす腕に操られ、矢矯へ向かって一斉にクファンジャルが飛ぶ。
そのクファンジャルは黒白無常のように、自在に宙を飛行するという事はできないようだが、こちらは数が違う。
「これが、
尽きる事のない《導》に、丹下が大きく口を開けて笑った。アヤと明津にトドメを刺した時は、精々、ナイフを2本、出すに過ぎなかった《導》が、今や無数のクファンジャルを出現させているのだから。
手数が増えれば、矢矯の足はより鈍る。停止してしまうような事はないが、矢矯が超時空戦斗砕を維持できる時間を磨り潰していくには十分な効果だ。
「その攻撃は弱点だらけだ」
丹下と珠璃の攻撃を見ながら、レバインも愉快そうな表情を見せていた。
「感知と念動を最大にしなければならないため、消費が激しい。保って数分!」
レバインのいう通り、逃げ切られてしまえばお手上げだ。
「欠点は多い!」
レバインに続いて雅が口を開く。
効果時間もそうだが、最大の欠点は――、
「お前たちの中に、遠隔攻撃ができる者がいない事だ!」
今の矢矯は台風のようなものであるから、肩を並べて一気呵成に攻撃という訳にはいかない。この中に飛び込んでいけるとすれば。感知と身体操作が矢矯と同レベルでなければならず、またそんな
しかし弓削も割り込むという選択肢は
――負担を増させるだけだ。
敵の位置に加え、味方の位置まで目まぐるしく変わるのでは矢矯の負担は鰻登りだ。
もしも
それに対し、レバイン陣営には
「そしてこちらには、強力な攻撃手段を持つ私がいる」
このメンバーで唯一、大罪によって宿っていた《導》を失ったにも関わらず、石井の刀を持っている雅は、その刀を肩に担ぐようにして構えた。
雅の《導》は――、
「リフレクター展開!」
雅の背に十字に見える翼が展開する。その翼はリフレクターと呼ばれた通り、周囲から戦いの残滓ともいえる《導》の燐光を集めていく。
消滅していくしかない燐光であるが、それをリアクターとよばれる器官で吸収し、再収束させるのが、雅自身が「いずれ《導》に引き上げてみせる」といっていた《方》が、《導》になった姿だ。
集束させた《導》は雅が得意とする光に変換される。
光――高温、高圧を伴ったプラズマだ。
日本刀を銃身に見立てて肩に乗せる雅の《導》は……、
「ボルテックスキャノン!」
黒白無常とクファンジャルによって動きを制限されている矢矯へ、この行動範囲の全てを飲み込めとばかり放たれた。
「!」
矢矯も目を見張ったかも知れない。
知れないというのは、矢矯の表情など見ている暇がなかったからだ。
「瞬殺だ!」
観客的から歓声が上がった。
瞬殺しようとした矢矯を、逆に返り討ちで瞬殺した――そう見たはずだと、雅たち思った。
だが観客から見れば、ボルテックスキャノンがクファンジャルと黒白無常を飲み込み、矢矯へと迫る一瞬の時間を隙を突いた事が現実だ。
一秒に満たない、文字通りの
空間を歪めて突破して一気に雅へと肉薄、そして――、
矢矯は日本刀を保持していた雅の両腕を斬り飛ばして戦力を奪い、膝を断って体勢を崩す。
崩れ落ちる雅の眼前に立ち、天を突かんばかりに切っ先を上げた。
「
対する雅の怒鳴り声は、激痛に耐え、反撃のために意識を繋ぐ咆哮だ。
失った両腕だけが雅の武器を保持している訳ではない。
肩と腰の装甲が開き、そこに光を集中させる。
「ゼロ距離、取ったぞ!」
これも《方》の光ではなく、《導》によって造り上げたプラズマだ。それを高速で打ち出す事によって固体に近い密度を持たせる。
「ボルテックス!」
外すはずのない距離だった。
ただし雅の感覚では。
「ゼロ距離というのは、水平発射で命中させられる距離だ。斜めに撃っておいて、ゼロ距離とは片腹痛い!」
雅が想定していた場所に留まっている矢矯であろう筈もない。
「お前がいいたかったのは、至近距離。もしくは接射だ」
矢矯の切っ先は雅の
「いいや、止まったぞ!」
そこへ投げかけられるレバインの声と刃。その刃に宿る《導》は旋風をイメージした《導》だ。
「サイクロン!」
レバインのナイフが右から左へと横薙ぎに振るわれ、切り返しと共に刃の起こした風が渦を巻いて矢矯の周囲を無差別に殺傷する。
雅を巻き込む《導》になってしまうだが、矢矯を止めるには面で受け止めるしかないのだから無視した。
――どうせ死体だろ!
死体でなくとも気にしないレバインであるから、旋風の《導》は小規模な竜巻となって襲いかかる。
矢矯の回避がどうであったかは、放っているレバインも確認できない。ただ回避不能を確信して《導》を放つのみだ。
しかし――、
「
梓の《導》が、そこへ割り込んできた。
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