第15話「きっと頼りになる人だから」
五万人規模のスタジアムであろうとも、精々、両翼100メートル、センター方向は120メートルに過ぎず、スタンド席から見下ろしたのでは狭苦しく感じるものだ。
だがグラウンドに出ると、途端にその広さが圧倒的な存在感を示してくる。
――凄い。
カクテルレーザによる演出に対しても、
舞台という名の通り、ここは
照明も音響も観客を楽しませるためにある。華やかであればある程、この舞台の上で繰り広げられるものの凄惨さが増す。
暇も金もあると思っている者にとって、
音楽のフェードアウトによって会たちの入場が終わり、カクテルレーザの演出が変わる。
赤から青に変わり、スピーカーがロック調のJ-POPを流し始めると、スモークの向こう側からレバインたちが姿を見せた。
「ふん」
気持ちだけ強く鼻を鳴らしたのは
睨み付けているのは、自分に苦汁をなめさせた
「はしゃぐなよ」
レバインが雅の方を見ようともせずに釘を刺した。始めの合図がなくとも、ステージに指定されている範囲に入れば戦闘開始となる。
「一人だけに注目して、全員に迷惑をかけるな」
更に言葉を重ねた
――ステージに上れば始まる事くらい知っている。
それを無視して奇襲を許す自分ではない、と雅は他の面々を一瞥した。
「見えてない、見えてない」
そんな雅の様子に薄笑いを浮かべつつ、
「相変わらずバラバラだな」
笑えるといいたかった丹下であったが、話しかけられた鳥飼も別の者を睨み付けていた。
――あの女!
珠璃とのドライブを中断させられた事故を起こした――起こされた相手だ。
「……」
返事をしない鳥飼に、丹下は肩を竦めた。
ステージの境界ギリギリで7人は立ち止まる。
視線が交錯する中、全ての演出が停止した。
「さぁ……」
スタンド席から見ている小川は、ニィィィと醜悪な笑みを浮かべていた。
自身に科せられたペナルティは、この戦いの勝者に自費で賞金を上乗せさせる事。
だがレバイン陣営が勝利すれば、この賞金は多少なりとも小川に戻ってくるチャンスもある。
「準備不足だろう? 本当なら、
十分な体制ではない、と小川は嘲笑していた。
だが現実には、不十分である事にしがみつかなければ、どうしようもない精神状態だからだ。
安土が十分な体制で小川陣営と戦えた事などない。
だが、それをどうにかしてしまう人員を、常に揃えてきている。
――いいや、今度は違う! ボロボロの体制だ。本当なら、まだ2戦、
どれだけの時間、どれ程の修練をしようとも、十分という言葉からは無縁の筈だ。
「場合によっては瞬殺できる……開始直後に終了だ!」
不安の声である以上に、声に出すという事は、小川自身が認めたくない弱気の種が存在している事を如実に語っている。
互いに7人ずつがラインに並んだところで、音楽を鳴らしていたスピーカーが人の声を流す。
審判だ。
「始めろ!」
その声と同時に、
「来るぞ!」
声を上げつつ、レバインが円月刀とダガーを構える。
矢矯が得意とするソニックブレイブは、この開幕の一瞬に奇襲を仕掛けてくる事ができる。
しかし――、
「見えてるぞ!」
空島の《導》――大罪が与えた能力により、レバインの全てが矢矯を捉えていた。
ソニックブレイブといえども、光よりは遅い。
見えて当然と7人全員が構えるも、矢矯のソニックブレイブは唐突に切り替わった。
――コマ落とし!
感知の《方》を得意とする孝介には把握できた。
コマ落とし――即ち、時間と空間の軸を念動で操る《方》だ。
雅へ一気に肉薄する!
「!?」
肉薄された雅が目を剥き、しかし動きは止めない。
「うぉぉーりゃああッ!」
独特の甲高い雄叫びを上げながら、手にしたランサーを振るう。
だが空振りだ。
矢矯の身体は既に間合いの外に移っていた。
――
駆け引きのつもりだった。矢矯の弱点は、この切り札・超時空戦斗砕が他のメンバーと連携が取れない事。
そのフェイントのような動きで、レバイン陣営の混乱を誘ったつもりだった。
ここからが矢矯の真骨頂だ。
「超時空戦斗砕!」
時間と空間を歪め、極めて近しい時間に、あらゆる所へ自身を出現させる《方》が発動した。
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