第13話「追い、追われる」
念動は《方》である。具体的なイメージを具現化できず、
感知も同様で、どちらも《方》――導けるものではないと
――時間と空間を歪めるか!
弓削も表情を歪ませられた。
自分自身を複数の場所に同時存在させて攻撃を繰り出す超時空戦斗砕に比べれば、切っ先を一撃だ飛ばす銀河棲獣砕は消耗が少なく、この段階で矢矯が出せる技の中では最適解かも知れない。
――対処法が違うってか!
だが
そして弓削は対処法を悟っている。
――前だ!
障壁の変化速度を最大に変え、前へ踏み出す。
――
ピンポイントにここという一点に向かって放つ技であるから、前を選んだ事は正解を引いていると弓削は確信した。
My Brave,Silver Moonは剣を旋回させる事で、相手の意識を切っ先へ向け、その一瞬を突く事で成立する。
銀河棲獣砕も同様だ。
奇襲は次善の策であって、万全の策ではない。
特に感知を得意とする弓削にとって、奇襲は成立しないのだから。
「ッッッ!」
歯を食い縛る弓削は、今度こそと剣を構えた。
弓削には矢矯のように名付けられた技はない。
ただ真っ直ぐ突く――それは「技などがあるから破られる」という考え方を究極的に先鋭化させたものだ。
目で追えない観客もいる程だった。
――まさか逆になったか!
目で追えなかった小川は、この一撃を逆転、決着と見た。剣を振り切ってしまっている矢矯には、弓削の突きを躱す事も、防御する事もできないと判断した。
胸でも首でも貫かれた矢矯の死体が転がると予想していたが、現れたのは互いに間合いを計り直す二人の姿だった。
「
我が目を疑う小川であるが、梓は首を横に振った。
「柄で受けました」
横一文字に振るっていた矢矯は、隙を見せていた訳ではなかった。
――脇と肘が繋がっていました。
梓は比喩的な表現を使ったが、これは切り返しができる体勢が整っていたという事だ。
――肘が脇を離れていなかったから、身体の軸を素早く反転させられたのですね。
剣の柄尻を使い、弓削の剣を横から突くという動きに、梓は舌を巻いていた。
――身体操作といいましたか? しかしベクターさんは、決して《方》だけで戦っていない。
術理を知り、動ける思考力を持っているからこその動きだ、と梓も舌を巻かされる。身体操作をする矢矯に、「無意識の内に出た」という動きはない。冷静に自分の状況を把握していなければ成立しない戦法であるから、矢矯は意識下の行動で弓削が放った必殺の一撃を回避した。
――凄い。
梓の素直な感想だ。
だが凄いばかりでは終わらない。
――凄いからこそ、これは危ういです。
弓削と矢矯はかみ合いすぎてる。互いに高度な身体操作を用い、落命必至の状況に於いても恐慌に陥る事がない。《導》による大規模、大火力な力こそ持たないものの、時速1200キロという超高速で迫る必殺の一撃を持つ二人だ。
――小川のいうように瞬殺も有り得たけど、逆に長引く事もありますね。
矢矯が持つ切り札の内、二つまでもが弓削に躱され、必殺の間合いだと思っていた弓削の一撃を凌いだ矢矯であるから、この状態は膠着と呼ぶ。
そして膠着となれば、梓には小川の挙げていない結末が浮かぶ。
――相打ちも有り得ます……。
その結末が、梓には怖い。
膠着は加速度的に二人を消耗させる。
消耗が限界に達した時、二人の刃は互いを捉える。
「クックッ」
薄笑いを浮かべている小川には、それでもいいのだろうが。
眼下のステージでは、矢矯と弓削が立ち位置を変えつつ、激しくぶつかり合っていた。合わせ太刀の技術は持っていない二人であるから、それぞれ同種の力を駆使しての回避が主となるる。
時折、体当たりも混ぜて剣を振るうという光景は、百識が六家二十三派が嫌う下品な戦闘方法であるが、観客の原始的な嗜虐心を刺激し、歓声を徐々に大きくしていった。
――
梓は歓声の中に、矢矯がいつ最後の切り札を出すのか、という期待を感じた。
そして銀河棲獣砕は回避されたが、矢矯にはもう一つ、超時空戦斗砕がある。
観客が期待するのは、矢矯が勝負に出てる瞬間だ。
超時空戦斗砕で矢矯が弓削を斬るか、《方》を使い果たした矢矯を弓削が斬るか、そんな期待感だ。
――だから膠着するのでしょう。
観客の期待感と同様に、梓の不安感は増していく、
――どちらも未完成です。
観客からは完成された百識と見えているのだろうが、梓から見た矢矯と弓削は、決して完成などしていない。
――決め技とは、それがあるという余裕を持たせるためのもので、実際に使ったのでは、追い詰められた事を意味します。
矢矯は切り札を持っているが、それを実際に切ってしまうのは本来、論外。
――持っていないのでは、余裕の幅がないという事です。
すり切れる程に研ぎ澄ませた一撃を持とうとも、切り札を持っていない弓削も同様だ。
それを考えた先に行き着く結末とは、即ち相打ちである。
――止め方は……。
それを思案しようとした梓は、ステージから目を逸らせた。
逸らせたからこそ、見てしまう。
「!」
思わず梓が腰を浮かしてしまう顔が、スタンドの中にあった。
「
ステージ上の二人を見る主人の顔だ。
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