第14話「乱暴な終結」
――何故、ここに!?
この舞台は、梓が最も隠したかった事だ。
――何故……何故……。
結論が出ない事をグルグルと考えてしまう。
梓はそうして舞台から目を話してしまうのだが、会の目はステージに向いていた。
――弓削さん?
その動きは明らかに人間離れしており、明らかに《方》を使っている。
――百識……。
会は《方》は《導》に劣る弱いものという意識はなかったが、それを払拭する光景が眼前で繰り広げられていた。
共に最大戦速は時速1200キロ。《導》を操れる百識でも、そんなスピードで戦闘を展開する者は稀だ。
矢矯が空間と時間を歪めた事もそうだ。
――これでも《方》……?
会も度肝を抜かれている。
それらを使ったやっている事は、どう取り繕っても殺し合いだ。
百識が殺し合いをし、それを観客が大歓声で迎える空間――。
「異常……」
そう感じるメンタリティが会にはあった。
だがステージから目を離せないのも事実。
その事実が激突音と歓声を会の耳から遠ざけ、梓をここへ導いた声を蘇らせる。
――同じ教室に通っている弓削さんが、トラブルに巻き込まれているらしいんです。
その言葉は、不意に訪れた中年男からもたらされた。170センチに届いていないのではないかという
会の脳裏に言葉が蘇ってきたタイミングで、梓も悟った。主人と従者の絆という訳でもないだろうが、梓の直感が働いたのだ。
「……」
会へと向けていた目を、スッと横へ向ける梓。
写るのは小川。
――弓削さんが瞬殺されると予想していましたね。会様は、そのために……?
小川へ質問をぶつけた訳ではない。
だが小川の態度は、雄弁だった。
小川の目はステージを追うだけではなく、会も追っている。
――予定外の展開だが、これはこれで……。
弓削が瞬殺され、それを眼前で見た会へ「ベクターとの渡りならばつけられますよ」と話を持っていくのが小川の立てていた計画だ。会を舞台へ上げ、弓削の形打ちを挑ませる。その戦いがどうなるかは分からないが、矢矯が勝とうと、会が勝とうと、そこ場に
「ははは」
小川は思わず笑ってしまった。
矢矯と弓削の次は、勝者と会が。
その後は孝介が勝敗に苦しむ事となる。
――
小川が心中で繰り返す状況が訪れるではないか!
――この男……ッ。
梓は視線だけ向けるつもりであったが、気が付けば拳を握っていた。梓を巻き込まない事を条件に、会は小川の側へついた。
だが小川は、それを明確に裏切った!
「!」
梓は拳を振るおうとしたが、その時、歓声が一層、大きくなり、それが梓の意識を舞台へと呼び戻した。
「
剣を捨てた矢矯は切り札を切ってきたのだ。
赤く輝く光が形成する刀身は、《方》の循環により物質として存在しているものは全てを断ち切れるという必殺の兵器だ。
だが、それは矢矯に限界が訪れようとしている事を示している。
――痛ェ……。
顔を顰める矢矯は、先程から胸に走っている激痛が耐え難いものになってきていると感じていた。
度重なる無理によって抱え込まされた持病だ。
極度のストレス、緊張に
機能的には何ら問題がないが、その痛みたるや
痛みは絶対であり、感知や身体操作に必須となる集中力を削いでいくのだから、切り札を切ったという事は、限界が近い事を現している。
「来たな……」
弓削も思わず呟いた。
電装剣だけで済むとは思っていない。
最後の瞬間なのだ。
「全部、出すんだろう!」
観客が発する歓声に掻き消されてしまう弓削の声だが、矢矯にはハッキリと捉えられた。
「当たり前だ!」
――全く!
梓は
「
小川が驚いた顔で見上げてきたが、梓は一顧だにせず、
「裏切ったのは、貴方が先ですよ」
そういうと地面を蹴り、ステージへと跳躍した。
――チィィィッ!
矢矯が二本の電装剣を連結させると、赤い光の刀身は一層、長くなる。
「……!」
弓削も超時空戦斗砕が来ると身構え、感知を最大限まで高める。
――逃げるぞ!
唯一、逃避こそが超時空戦斗砕の対処法だ。
梓が着地したのは、そんな二人の丁度、真ん中。
「何だぁ!?」
突然の乱入者、それも矢矯の味方なのか、弓削の味方なのはハッキリしない梓の登場に、観客から苛立った声が発せられた。
「梓……!?」
唯一、苛立ちではなく驚きの声を出したのは会であったが、梓が会を見る事はなかった。
「
梓の身体から発せられたのは、《導》だ。
渦を巻いて矢矯と弓削を取り込むエネルギーは、Corridorの名の通り回廊をイメージさせる空間を創り上げる。
回廊にはいくつもの扉があり――、
「
梓の声と共に火の一つが開く。
そこから溢れ出すのは真っ白い光。
誰もが目を眩まされ、そして光が消滅した後には……、
「何……?」
ステージには静寂が、観客にはざわめきが起きた。
矢矯と弓削の姿がステージ上から消えていたのだ。
残っているのは、ただ一人、梓のみ。
「……」
その梓も、会へと一礼するとステージから飛び降りたのだった。
勝利のアナウンスなど待たなかった。
「……やってくれたな!」
ややあって小川は怒鳴った。
怒鳴り声は怒声となり、ブーイングに変わる。
これは許されない結末だった。
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