第3話「呪詛返し」
カラオケのパーティールームが、こんな会合を開く場として適当かどうかは意見が分かれるだろう。不適切な使用を防ぐためカメラが据えられている部屋は、話の内容こそ分からないが、ここに7人が集まっている事は筒抜けになる。
舞台の運営は外部流出を最も嫌う。
上手の手から水が漏るという言葉すらもあるのだから、こんな場所で会合を開いているといわれれば、舞台の運営は眉を潜めるはずだ。
だが突出した百識ではないレバインたちは排除する事も切り捨てる事も簡単であるから、このグレーゾーンに存在している事が許されるかも知れない。
「それで、武器って何だ?」
中央に陣取るレバインは、雅へ向かって目を細め、睨むような目つきになっていた。
――情報か? 刃物か?
落ち目となった
上座に座って相手に自分からいわせる事に、レバインは得も言われぬ快感を覚えるタイプだった。
――そういう趣味だったな。
レバインに限らず、この場にいる7人に共通していると、下座に座っている雅は知っていた。
そして出したのは……、
「どちらも」
刃物であり、情報でもある。
「刀がある。《導》で作られた奴だ」
それは石井が
「
「
レバインが唇の片方を吊り上げ、挑発的な表情を見せた。マウントを取ってやったぞという顔だった。
雅の顔にも、僅かな苛立ちが見えた。
「知っているなら、説明を省けていい」
それが口調に出てしまうと、周囲の6人が失笑した。
「その刀だ」
笑いを切り裂くように、雅の声は気持ちだけ強かった。
「刀も、ここにいる
笑いを封じ込められる訳ではないが。
「私の《導》の事をいってる?」
ただ空島は笑いを引っ込めた。
そして出した単語は《導》だ。
「
雅も空島へ目を向けていた。確かに《導》は六家二十三派の専売特許ではない。雅も《方》を進歩させ、《導》へと至らせようとしている身であるから、《導》を身に着けている百識をマークしていた。
「
普段の雅ならば嘲笑したであろう名前だった。
「既に刀に宿っている《導》に、更に《導》を重ねる?」
「そうだ」
レバインに対し、雅は頷いた。
「大罪は七つ、刀も七振り、ここに七人」
その左手には、刀が一振り。
「それをかけてもらった」
その刀は、バッシュが持っていたもの。バッシュが放ったソロモンの渦中にあっても残ったのだから、石井も六家二十三派――百識の頂点を作る家の一員だったという事だ。
その一振りを雅が手にし、空島の《導》ほ重ねられる機会を得られた事が、ここへ話を持ってくる事になった切っ掛けだ。
「この呪詛で、六家二十三派を斬ったとしたら?」
雅が一言だけ、残す。
「人を呪わば穴二つ」
ルウウシェは神器名剣といったが、石井が矢矯を斬るために仕掛けたのは呪詛なのだ。
そして六家二十三派は破れた。
「呪詛が破れると……?」
今度は雅が挑発的な目つきで、視線を周囲に巡らせた。
「呪詛返し」
今度はレバインが不機嫌な声を出す番だったが、雅はパンッと小気味よく手を叩き、
「その通り!」
発から侮蔑への移行はない。
ここに込められた矢矯を斬るという呪詛は破れた。
ならば今、この刀を持っていた者へと向くはずなのだ。
「あの舞台に上がった衛藤椎子、石井裕美、上野アヤ、涼月 那は生きている。それを、斬る事ができれば……答えは?」
下座からだが、雅が身を乗り出した。
勝敗は観客が決める舞台であるが、暗黙の了解の内に「決着は死」というものがある。
「その刀があれば、呪詛が味方をしてくれる。その上、空島の《導》を重ねれば、勝利は盤石……か?」
レバインは顎に手を這わせ、若干、勿体つけた。返答を態と遅らせる事により、イニシアティブを取ろうというポーズだ。
「十中八九」
雅の頷き。
「……よし」
レバインは他の5名へ視線を一巡させた後、雅の刀へ顎をしゃくった。
「言い出しっぺ。一人くらい斬ってこられるな?」
先陣を切らせるのは、指示する自分を大きく見せるためかも知れない。
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