第6話「種々の問題」
学校も欠席している間の事は、
しかし基が帰還した事は、様々な問題を起こした。
まずは基の遺体を処理するように命じられていた
処理が中断されていた事が基と
「聡子さんが?」
カメラの映像を確認していた安土は、思わず溜息を吐かされた。聡子と面識があるとは言い難いが、顔は知っている。
基の痛いが置かれた部屋へ聡子が入り、暫くして二人で出てきた映像が撮られていた。
――上手の手から水が漏る、ですね。
聡子がどうやって来たかは分からないが、女医の車に忍び込んだのだろうと想像するのは容易い。外部流出が命取りになる事は明白であるから、これは重大事故と言える。
普段ならば、侵入した聡子と、その関係者である女医に対して何らかの措置を取る所であるが、今はそれどころではない。
――生き返らせた?
基を連れて出てくるには、それしか考えられなかった。安土とて何度も、聡子と共に出て行った児童が基であるはずがない、と目を疑った。基の顔は
しかし舞台に上げられた者のデータと何度、照合しても、「鳥打 基」と表示される。これ以上、機械のミスを疑うのは、安土よりも上の世代だけだ。
つまり基は生き返った。
「誰の……」
安土も我が目を疑い――、
「医療の……《導》……?」
思わず出てしまった声も震えていた。
頬を伝わる汗は、聡子こそが《導》の持ち主だと思ってしまったからだ。
医療の《導》を持つ者が見つかったとなれば、どういう措置が執られるか想像もつかないだけに、暗雲を立ち込ませてしまう。
医療の《導》を使う者が舞台の裏側に侵入し、離脱した――殺される理由は十分ではないか!
「……ッ!」
矢も盾もたまらず、安土は席を立った。
――知らせなければいけません。
女医に伝えなければ、対策も取れない。
そしてもう一カ所、問題を抱えてしまった場所がある。
松嶋小学校だ。
基が生きていた事は歓迎するが、基と聡子の合流は歓迎できない。
生け贄役は孤立しているからこそ、全ての責任を押し付ける事ができる。寧ろ30人の生け贄役が全員、集まれば、そこにもう一人、生け贄役を作る事も不可能ではないが、時間がかかりすぎる。
小学生は中学生の倍の時間があるのだから、この事態を歓迎できるはずがなかった。
「問題だ」
谷は校長という地位にあるからこそ、舌打ちしかできない状況は苛立ちばかりを募らせてしまう。
決して盤石ではない。
たった30人の生け贄役で支えている、文字通り薄氷の上にある。
教員を前にして鋭い眼光を見せるのは、聡子と基の二人だけで済めば問題ないが、済むという保証はないからだ。
――30人が団結してしまえば大問題に発展する!
今のうちに手を打たなければならないと言う気持ちは大きいが、まだ声を荒らげる時ではない、と自重してしまう。
その自重は、どうしても危機感を薄める。一瞥しかしていないが、その目に映る何人かは欠伸を噛み殺しているのが分かった。
「チッ」
谷の舌打ちを聞いた者は、殆どいなかったはずだ。耳に届いたとしても、欠伸を噛み殺しているのでは心にも頭にも入らない。
「……」
故に向いたのは、基の事ならば最もよく知っている相手だった。
川下だ。
川下は欠伸を噛み殺していないどころか、苛立ちを分かり易く顔に浮かべていた。基が五体満足で帰ってくるなど、想像もしていなかったのだから。
――鳥打……ィ……。
歯軋りする音を、谷は耳に入れずとも感じ取った。
「川下先生、後で校長室まで」
名を呼ばれた時、また名を呼んだ時、二人がどう動いたかも、やはり他の教員は見ていなかった。
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