第19話「親友であり、姫と主従――聡子と基」
高収益層の情報網が「ハイウェイ」という通称で呼ばれるのは、皮肉な意味もある。
一度、乗ったら、引き返せない高速道路と同じく、乗って行き来を始めた情報は、目的とする者に届くまで消えないからだ。
今日、そのハイウェイには様々な情報が
聡子は舞台の関係者にとってアンタッチャブルになっているからこそ、この情報に食いつく者は多い――小川が読んだ通りに。
この情報戦ともいえない程度のものでも、攻める側が守る側よりも有利になるのは、聡子本人はハイウェイの存在を
今日の聡子は、放課後の通学路を始めとともに歩いている。
「重いなら、いつでも代わるから」
言葉と共に投げかける視線の先には、
古いタオルが敷かれた段ボール箱の中身は、小学校で世話をしているウサギが一羽、入っている。
「大丈夫。重くないから」
生後二ヶ月の子ウサギは、1キロを切るくらいしか体重がない。
「新しいおうちにに慣れるといいね」
赤信号で立ち止まったタイミングで、聡子は段ボールを覗き込んだ。
この子ウサギは今日、里子に出される事になった。
ウサギは一度に4羽から6羽の子供を産み、年に6回程度、出産する。放置していれば増えすぎてしまうのだから、里親捜しは必須。
放置されがちな点であるから、聡子と基が心を砕いて里親捜しをした結果、もらい手が見つかり、今日、そこまで運ぶ約束をしていた。
「慣れるといいな」
基も段ボール箱を覗き込み、にこっと笑った。
「こいつ……何だか他人と思えなくて」
この子ウサギは、基が舞台で惨殺された翌朝、生まれているというのは、二人とも何やら運命めいたものを感じてしまう所もある。
母ウサギと共に隔離し、2週目から徐々に子ウサギ一人での生活に慣らし、4週目で親離れというのは、理想的な育ち方だった。
だからこそ、聡子が思う。
――
今、二人で里親のところへ歩いて行けるのも、基の成長があればこそだ。
「
そんな基がいった。
「里親捜しなんて、僕は思いつかなかった。ウサギ小屋を増やしていくのかなって思ってたけど、そんな風にして増やしすぎると、限界が来るよね」
基は、自分の成長をそれ程、大きいとは自覚できていないようだ。
「私も、思いついてなかったよ。鳥打君が、先生にウサギ小屋を大きくしていいかって聞きに行こうとしたから思いついただけ」
職員室へ基が行っても、ウサギ小屋の増築など許可される事がないのは想像できてしまう。
――許可どころか、怒られて、またクラスのみんながバカにし始めるに決まってるんだから。
これはやる前から諦めているというよりも、正しい物の見方といえる。
「だから里親を探そうって思いついたの。
基が成長する事で手に入れてきた人脈のお陰――というのは、実に簡単な一言に集約できる。
「鳥打君の、友情のお陰」
基が聡子を頼りになる友達と思っている通り、聡子も基を頼りにしているからこそ、今、基の顔に冗談っぽい笑顔が浮かんだ。
「……手下だから」
それは基がこの世に戻ってきた時、聡子から初めて投げかけられた言葉。
「え?」
聡子は疑問詞で答えてたしまったが、忘れている訳ではない。
追い詰められていたからこそ適切な言葉が出てこなかっただけで、基を見下したい気持ちなど微塵もなかった。
あったとすれば、基に自分を守って欲しいという気持ちと、友達になって欲しいという気持ちだ。
「ゴメンゴメン。でも、そういわせてる本筈さんの気持ちが、僕は……何だかとっても救われた。本筈さんがしようとする事は、僕も一生懸命になりたいって思ったから、一生懸命なんだ。……でも、時々、間抜けな事になっちゃうけど」
丁度、今みたいに――と続く言葉は、誰にも聞こえないようにいったつもりだった。
「丁度、今みたいに、ですねェ」
聞いている存在が、聡子の鞄の中から顔を出す。
「聞いたよー」
クマのペテルと、ネコのカミーラだ。聡子の動によって命が与えられているぬいぐるみは、聡子に向けられた言葉を逐一、聞いている。
「ごめん、ごめんって」
聡子が背負っているランドセルからカミーラは尻尾を伸ばし、基の背筋をくすぐったのだった。
そういうじゃれ合いの中から、本音は出てくる。
「友達さ。最高の」
友情――聡子と基を繋げているのは、忠義とか愛情とか、ゲームのパラメータにありそうな項目ではない。
「あ、そこだよ、申し込んできた人の家」
聡子が指差すのは、この人工島では珍しくない公営住宅。他県では生活保護受給者や、低収入世帯が入居するものというイメージがあるが、ここ人工島では違う。
好調な人口増に合わせて作られた公営住宅は、寧ろ中流層の住む所。
「ごめんくださーい」
インターフォンを鳴らす聡子。
ややあって「ハーイ」と声が聞こえ、
「松嶋小学校から来ました。本筈聡子と、鳥打基と申します。子ウサギの里親になっていただけるって聞いて来ました」
緊張して言葉を噛みそうになるのは仕方がないが、聡子は丁寧に話したつもりだった。
しかし開いたのは、眼前のドアではない、両隣。
「!?」
聡子の背で、ペテルが身構える。ペテルの目に宿る、未来を見通す《方》が反応したからだ。
「……罠?」
ペテルがいうが早いか、基は身構えた。清が教えてくれた通りの騎馬立ちだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます