第15話「与太郎挽歌」
誰もが「これしかない」という
無事に舞台を降りた者はいない。
即ち――そんな舞台の関係者にとって、今の状況は混沌を呼ぶ毒薬のようなもの。
誰が漏らしたかは分からないが、漏れる。
「
警察が掴んだ
警察ならば、調査によって可能性を高め、確定してからでしか動けないが、この舞台に上がる
疑わしきは殺せ。
火にくべれば数秒で燃え尽きる紙よりも、更に軽いのが、百識の命に対する認識である。
そして月 陽の情報を握る者といえば――、
「こいつでしょうね」
自室のパソコンの前で、小川は今、動かせる百識に招集をかけていた。
目的の一つは、月 陽に安土――
「その娘、
その言葉の意味は、六家二十三派と無縁の生活を送っていた者にとって、感じ取り方が違う。そもそも治癒の《導》なのか、医療の《導》なのか、名称が揺れている事からも、小川たち百識を知っている者にとっても十分な把握など出来ていない事を示している。
「死者を生き返らせる事もできる《導》です」
質問が来る前に、小川は先回りした。
「これがあれば、墓の下から月 陽を取れ戻す事もできますし、死ぬ事を
先回りし、川下君代が消された事件――決して小川は事実に辿り着いたわけではないが――と繋げて話す。
――そんな事が……。
聡子が持つ《導》について、特に知識や意見を持っていなかった者も、その危険さに気付いた。
そして下より、六家二十三派の男だった百識にとって、医療の《導》とは禁忌である。
六家二十三派にとって最大の禁忌であった男の娘が、歴史上でも最大の禁忌だった医療の《導》を持っている――これに飛びつかないはずがない。
――始末だ。
誰ともなく、その一言は出て来た。
舞台の運営は、小川と安土が繰り広げた抗争の結果により、今後、聡子を舞台に巻き込む事を禁止しているし、運営は決定を侵す者に徹底して対処を執行してくるが、それは過去のことだと小川は考えている。
「始末です」
小川は第三者から見れば醜悪と移ったであろう笑みを浮かべた。画面越しに見ている「手下」から見れば、また印象は違うが、
「この舞台が成立する最低限の条件は、運営が個人に近い小規模なものだからです」
もう小川陣営は、運営が執行できる規模を超えたはずだと確信している。
「全員で動けば、運営も止めようがありません」
他の世話人であったなら、同じ様な事を狙っても百識が足りなかった。
六家二十三派が健在であったから、その当主争いからドロップアウトしてくる者が数人、いれば舞台には困らない。プライドの高い彼女らをマネージメントしていく事はストレスの大きい仕事であり、二桁の百識を手元に置ける世話人は皆無だった。
それが六家二十三派の崩壊により、現能力こそ新家に毛が生えた程度の百識であるが、六家二十三派に繋がる百識を自分の下に集めた。
――安土、お前じゃ無理だろ。
幾度も苦汁をなめさせられてきた女の顔を思い浮かべる小川は、その安土の顔に聡子の顔を重ねていた。
――本筈聡子を標的にすれば、必ずお前が出てくる。
小川の顔から笑みがスーッと消えた。
「
川下の件を知っているが故に、消えた笑みだった。
聡子を狙うのだから、基が来る。
――鳥打の弱点は、あまりにも多対一に弱い事。
「まずは聡子と基。それで月 陽にプレッシャーを掛ける。世話人の支持までもが俺に集まったら、さて……圧力を、どうかけてくる?」
小川が望んでいるのは、前面抗争。
いよいよ小川は、STRANGLE.
忘れているのだ。
基を狙うという事は、あの女たちを敵に回すという事を。
そしてその女たちの内、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます