第12話「同窓会」
その連絡をもらった時、小川は思わず笑ってしまった。
――卒業以来か。
スマートフォンの画面に表示されているのは、小川が世話人の連絡用にカスタムしたIRCだった。
表示されている名前は
ルゥウシェに渡す刀を完成させた石井は、そのまま小川に――高校時代の同級生に連絡した。
カスタムIRCを知っているのだから、石井が求めているのは世話人としての小川だ。高校を卒業して何年も経つというのに、思い出したかのように連絡してくるのが同窓会の知らせではあるまい。そもそも石井は建築、小川は電気と科が違う。
――部活の同窓会か?
茶化そうかと思った。小川は部長、石井は副部長だった。
しかし止めた。
――俺が世話人をしてるの、知ってたのか?
どこで知ったんだか、とフリック入力する小川の顔には、絵に描いたような苦笑いがあった。このIRCにメッセージを送ってくる相手は、大抵の場合、何か問題を抱えている。石井も小川も、就職した時期が悪かった。何があるか分からないし、何があってもおかしくない。
――最近ね。
石井からの返信は早い。
――小川君が関わってる
ルゥウシェの事だと知ると、小川は思わず腰を浮かせてしまった。
――
タイプはしないが、まさか同窓生に六家二十三派がいるとは思っていなかった。
「ルーシェとバッシュ……なるほどな……」
石井からのメッセージを見ながら、小川は思わず考えを声に出してしまっていた。タイミングがいい。一人、治療が長引いていたバッシュも、先日、退院してきた。フルメンバーが揃ったところで、
――IRCじゃ面倒だな。どこか店を探す。会おう。
アノニマスの如くカスタムしているIRCであるから守秘はされているはずだが、小川はネットワーク上ではなく直に話そうと誘った。
それ程の興味があったのだ。
今、小川の手元にある駒は、ルゥウシェ、バッシュ、
ここで石井が――六家二十三派の手が借りられるのならば、願ってもない。
呼ばれたのは小川と石井が共通で知っている店、つまりルゥウシェがよく使う店だ。
「マティーニ」
カウンターにてバーテンダーにカクテルを注文した小川は、さっと時計に目をやった。待ち合わせよりも15分、早い。石井も時間ぴったりではなく5分前行動を心がけているのだから、10分程度の時間が自由になる。
その間にタブレットを使って確認していく。
六家二十三派についてだ。
ただし六家二十三派の歴史は、今更、
今、小川が表示させているのは、今、小川が把握している六家二十三派だけだ。
――
まず一つ、今、唯一の勝ち星を持つ名前を出す。
――
厳密にいうならば男系になってしまうため違うが、これが聡子と基。
――
その山家本筈派に後れを取った那。
――
自ら望んだ2対3のハンディキャップマッチであるのに、矢矯に斬られたアヤ。
六家二十三派といえども、当主争いからこぼれ落ちた者ばかりだといえばフォローにもなるかも知れないが、目を覆いたくなる敗戦記録といえる。
――せめて
因縁の相手を思い浮かべる小川は、ルゥウシェと矢矯を舞台上で戦う段取りを整える見返りに、ルゥウシェと陽大の一戦を持ち出そうと考えていた。
――相性の問題だ。
ルゥウシェの敗戦を、小川はそう分析していた。
ルゥウシェはリメンバランスという強力な《導》を持っているが、矢矯との戦いでは接近戦主体ではなかった。懐に飛び込まれた場合、自爆覚悟で範囲を設定するしかないが、その選択はバカの仕業だ。
――矢矯が最大戦速を発揮しなければならない戦いがなかった事も、禍していたはずだ。
ルゥウシェとバッシュが強かったという事の裏返しでもある、と小川は思う。矢矯が時速1200キロで一瞬で加速して走れる等、誰も知らなかったのだから。
だが次は違う。
――次は接近戦の用意もできる。ルゥウシェのリメンバランスに隙はない。
矢矯がソニックブレイブを出そうが、
そして矢矯を討てるのならば、
弓削の弟子である陽大は無手の技しかないのだから、問題にならない――というのが小川の見立てだ。有利不利でいうならば、剣や拳による至近距離しか戦えない相手には、全ての距離に攻撃方法を持っているルゥウシェが有利だ。
――音速で走れるのは厄介だとしても、な。
卓越したスピードで接近戦に転じられるのは、精々、中距離までだ。超時空戦斗砕も、アヤと明津が迎撃を選んだ事が直接的な敗因となった。回避に専念すれば、矢矯が超時空戦斗砕を維持できる時間は1分に満たないのだから、その後は
「さて……」
小川の目がタブレットの端に表示させている時計に向く。
待ち合わせまで10分少々。
――新しい項目が必要か。
タブレットをタップしようとする小川だったが――、
「私は、ここ」
スッと伸ばされた指が、雲家衛藤派を指差した。
顔を上げると、高校生の頃からは変わってしまったが、思い出せる顔があった。
「石井さん。久しぶり」
10分前に来るとは思っていなかった小川は、笑みを作るしかなかった。
「久しぶり」
隣に座りながら、石井はウェイターに「ガルフストリーム」と告げた。メキシコ湾流を名前に冠したカクテルは、文字通り鮮やかなブルー――ルゥウシェや美星が好きな色だ。
「世話人に用事って事は、舞台?」
早速話を切り出した小川に対し、石井は――、
「そう。話は早いはず」
椅子の背に体重をかけ、足を組んで見せた。
「早い?」
聞き直す小川だが、すぐに早いと感じた。
「ベクター」
それは矢矯のエリアスネームだ。
「こいつを、追い詰めたいの」
「早そうだ」
小川が頷いた所で、ウェイターがカクテルを二杯、持ってきた。
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