第15話「大願成就」
だからこそ、
古い
そんな雲家衛藤派であるからこそ、
――さぁ、幕引き……。
顔を歪ませつつも、歌織は必殺を確信して会を睨み付けていた。
鬼神を纏った
ソロモンやインフェルノ、エクスプロージョンは歌織にとって添え物に過ぎない。
――確実に仕留められる冷気こそ、我が最高の《導》よ。
相手の血液を凍らせるという攻撃は、百識が辿り着くには珍しい境地であるが、歌織は辿り着いた。
破壊の力といえば、皆が大火を想像しやすい。
大火でなくとも大水を想像する者もいれば、落雷、地震という者もいるだろう。
事実、それらの巨大な力を操る者が六家二十三派を頂点とした百識である。
だが歌織は、それらを全て無視した。
人一人を確実に殺す《導》――選んだのは派手さよりも堅実さ。
冷気を操るが故に、ルゥウシェに特別な想いを抱いたのかも知れない。
コフィンと名付けたリメンバランスは、その名の通り、確実に
それを受けた会は――、
「
その時、会は自分の身体に異変など感じていなかったのだ。
歌織の首を締め上げる。窒息させるのではなく、骨を握り潰すつもりで力を込める姿は、六家二十三派の百識らしからぬ姿だった事だろう。
――コレは無理があるかも、ねッ!
会が眉間に刻んだ皺を、より深くしていくのは、インフェルノとエアリアルは鬼神によって阻まれているが、このまま歌織の首をへし折るというのは難しそうだと実感させられている分だ。
元より人を筋力のみを頼みに殺す事は不条理である。骨を握りつぶすには百キロ単位の握力が必要であるし、握りしめるという行為は瞬発力を伴えない。打撃にしても、急所は急所故に容易に打てず、
その不条理さが二人に時間をもたらし、歌織にも
その時、視界の隅に客席を捉えたのは偶然か。
――あの女……ッ!
歌織が捉えた客席の姿は、薄れていく視界であるし、遠くて確信を持って「そいつだ」といえるはずもないのだが、今の状況から考えれば確実にいると思える女。
――
会からは何も告げられていないが、雲家椿井派の当主、椿井 梓――椿井派が滅んだ後は
「
その《導》は、厳密にいえば乱入。即ち決して歓迎されないものであったが、歌織が自慢する必殺の《導》が小さかった事が幸い、或いは
「
会を蝕もうとした歌織の《導》だけを消し去る、余人には見分けられない《導》だったのだから。
これが、エアリアルで作り出した空間を消し去って歌織をインフェルノの炎に巻き込んだり、エクスプロージョンを無効化して会を救ったのならば、誰の目にも乱入が明らかであったのだが、会の血液を凍らせるという目立たない《導》を無効化するだけならば、誰にも分からない。
事実、当事者である会も自覚できず、歌織だけが気付けた。
「う……こッ……」
息が詰まると鬼神に腕に触れる歌織。
「――」
悲鳴も上げられなかった。鬼神は自らに触れる者に流血を要求する。
歌織が掌に感じた焼け付くような痛みは、皮膚を焼かれ、肉を抉られた痛みだ。
「――」
それでも脱出しなければならないと、今度は蹴る歌織であったが、またしても同じ事が繰り返される。
全身に激痛が走り、それとは反比例して身体の自由が奪われていく。
酸欠は脳から思考力や判断力を奪い――、
「……この……」
――脳筋が……。
それも愛娘ルゥウシェが矢矯や孝介へ向かって吐き出した言葉と同様。
インフェルノの業火の中、仁王立ちで歌織を締め上げる鬼神の姿は、観客にとっては興奮するものだったはず。
「無茶をなさいます」
勝利を確信した梓は、スッと席を立つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます