第38話「撃鉄の落ちた音――決着」

 呪詛とはいえ、《導》を念動の《方》で吸収、放出させて無効化するという方法は、前代未聞だったはずだ。仁和になが成功した前例があるが、仁和はその戦いで美星に斬られ、結果が明確でなかった。


 六家りっけ二十三派にじゅうさんぱの常識に従えば、下位であり、くまでも基本的なものである《方》が、上位の《導》を制してしまうなど有り得ない事態だ。


 ――やり方を模索した奴なんていなかったんだろうな。


 孝介こうすけも必死だ。矢矯やはぎ弓削ゆげから叩き込まれた《方》のコントロールがなければ成せない。これはファイアーといえば炎が起き、メテオといえば隕石が降ってくる《導》とは一線を画している。


 呪詛の流れを把握する感知は必須であるし、ただ力任せに吹き飛ばしてしまっては自身にダメージを負わせる事になる。


 巨岩を持ち上げる怪力と、それをマイクロ単位ででも正確に動かす精密さが必要とされるのだから、全く以て労力ばかりの作業だった。


 ――そりゃ、《導》をデカくする事だけに特化して行く方が楽だし、人に教えるのも簡単だろうからな。


 失われた技術どころでなく、誕生すらしなかった技術だ。誕生は需要によるものであるから、どんな《方》であろうとも価値を見出さないのは当然の事。


 だが今、孝介を生き残らせた――それも、六家二十三派の粋ともいえる、ルゥウシェのリメンバランス5つを合成したシャインに耐えさせたのは、間違いなく、この《方》だ。



 価値などないとした矢矯の《方》と、姑息な手段に過ぎないとした安土あづちの衣装が、孝介を守った。



 ただし無事とはいいがたい姿になっているのだろうが。


 ――腕がある。足がある、目がある、耳がある!


 それでも構わないと、孝介は歯を食い縛った。


 シャインの圧力に腕を振るわせながら、矢矯の剣を抜く。矢矯の剣も、これだけが特別製という訳ではない。孝介と仁和が持っているものと同じだ。


 ――その剣は、折れない。何故なら、孝介君が折らせないからだ。


 矢矯の声が孝介の中で繰り返させる。


 ――こんな事、誰がいってれるっていうんだ!


 シャインの輝きを振り払うように剣を起立させる孝介。


 しかしルゥウシェの身体は手が届かない上空だった。シャインの輝きへ向け、ソロモンを撃ち込むだけだ。


「バッシュ、私に力を貸して!」


 この高圧、高温下でルゥウシェの声が聞こえたのは、孝介が感知を最大にしているが故に起きた皮肉だ。


「ッ」


 ルゥウシェを見上げながら、孝介は歯を食い縛った。


 ルゥウシェにバッシュがいるように、孝介には生死の境で戦っている仁和や陽大がいる。


 だが孝介は祈らない。


 何故ならば、仁和も陽大も、美星とバッシュが消そうとしたのだ。


 ならばルゥウシェに力を貸そうとしているバッシュとは、違う世界にいる。



 仁和と陽大は、この世に生きている者へ力を貸せる世界にのだ。



 ――ここで助けなんぞ求めたら、ただ情けないだけだろ!


 孝介は同じような状況になりながらも、何もいわずに自分の役割を全うした少年を知っている。


 ――鳥打とりうちくんは、誰かに頼らなかったからな!


 はじめが自らの力で勝利を掴み取ったのを、眼前で見た。


「バッシュ……バッシュ……」


 ルゥウシェは《導》を高めつつ、愛しい男の名を口にする。


 孝介は死んでもするかと目を見開くのみ。


 その目に感知の《方》が乗る時、念動で操るが見えた。矢矯が「教えてないのに次のステップに進んだな」といった意味を理解した瞬間だ。


 ――軸は二つ!


 それを念動で歪める。



 軸――だ!



 矢矯の切り札・超時空戦斗砕と同じものが、孝介に宿る。


 とはいえ、限界まで引き出したところで、矢矯のように無数に出現させられる訳ではない。ただ一つ、獣の如く研ぎ澄ませた牙を潜めるのみ。


 この輝きの中、勝機を見出し、飛び出す獣。




銀河棲獣砕ぎんがせいじゅうさい!」



 ソロモンが放たれようとする刹那、孝介の刃がルゥウシェを襲った。空間と時間を歪め、剣の切っ先のみをルゥウシェへと届かせたのだ。



 孝介、勝利。



 決着!

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