第10話「隠者の逆位置」
小川の言葉はハッタリでしかない。
気軽に話しかけられるような関係ではなく、寧ろ敵同士という方が正しく、このハッタリを
その無神論者の祈りはさておき、会はこの頃、ずっと感じていた「生き生きとした生活」を満喫していた
案外、人との繋がりができてしまう事が、楽しいと感じる最大の理由だろう。
「ちょっと……いい?」
スマートフォンを片手に会がいる場所は、
「手伝って?」
会にそう頼まれているのは、基と共に放課後を乙矢の店で過ごしている
「いいですよ。繋ぎますね」
聡子と会が同じゲームをしていた事が、乙矢に会との関係を切る切っ掛けを失わせた。
「ああ、ありがとう。全然、勝てなくてさ。課金した方がいいのかな?」
溜息交じりにタップする会に、聡子は「そうですね」と苦笑いした。
「無理のない範囲の課金も、略して無課金ですよ」
それが聡子の持論である。兎角、悪者にされてしまう課金という要素だが、小学生の小遣いくらいならば常識の範囲内だ。
「小遣い……そこ、ちょっと痛いなぁ」
会は
「月に1万円は、高校生にしては高額だと思いますが」
梓はアップなど一切、認める気がなかった。しかも小遣いにスマートフォン代は含まれていないのだから、梓でなくとも贅沢だと感じるはずだ。
「え……?」
聡子も、それでアップは有り得ないと感じている。
「いや、ちょっと待って欲しい。ちょっと待って、考えて欲しい。キャラがコレだけいて、欲しいキャラは、一人二人。出るのまで何回も引く事になるでしょ? 普通の事でしょ?」
金が足りなくなるのは必然なのだという会であるが、梓は眉をハの字にして顔を振り向ける。
「自制して、
メーカは
「水着の女キャラばっかり増やす方が悪い! いらないし!」
「あ、それ、私も思います」
会の主張に聡子までもが手を挙げれば、梓は閉口させられた。
「でしょ? 男キャラも水着出せよって。私、このサーフィンしてるの欲しいの。でも、確率0.5%の枠で、更に何分の一? それが出るまで引いたら、月1万円とか溶けるというより、最初から存在してないも同然」
会が調子に乗って捲し立てるも、聡子が次に出した言葉は梓ではなく会を黙らせた。
「あ、ピックアップの時、引きましたよ」
「え?」
思わず振り向いた会に、聡子はスマートフォンの画面を指差した。
「今、選びました」
協力プレイのキャラクターに選ばれたキャラクターは、会のスマートフォンにも表示されており、
「ホントにいる!」
「いますよ。強い強いって思う程じゃないですけど、イベントでは強いです」
「……引いていい?」
また会が梓へ視線を向けていた。
「お小遣いの範囲でどうぞ」
「なら引く」
丁度、戦闘が終わったところだと画面を切り替えた会は、躊躇いなくタップした。
「水着のメイドが出て来ても知れませんけど」
梓が溜息交じりにいった言葉は、続く階の怒声に繋がる。
「そんな事、いうから出たでしょ!」
「あははは」
聡子が思わず笑い出した。
「全く……」
騒がしさに休憩を切り上げる気になった乙矢は、不意に商売道具でもあるタロットカードに手を伸ばした。タロットカードを使った占いには様々な方法があり、並べていく方法の他に一枚引きというものもある。
シャッフルしていないが、気まぐれに一枚を引く事が重要であると解釈している乙矢は、すいと一枚、最も上に乗っていたカードを引いた。
そのカードは――、
「逆位置の隠者」
その呟きが聞こえたのは、発した乙矢くらいなもの。
――月 会さんの運命は……?
乙矢がカードに運命を仮託した相手は、今、横目で見ている会だった。
――愚痴、虚実、混沌、隔離、拒絶、孤立、消極的、劣等感、悲観的……。
逆位置の隠者が持っている意味はそんなところであるが、乙矢は逆位置はネガティブ、正位置はポジティブと解釈する段階にはいない。
――隠者が本来持つ意味は、真実の発見と現実からの逃避、前のカードは力。確固たる信念と挫折。次のカードは運命の輪。幸福と不幸。
前後の関係と、引いたのが会本人ではなく他者であった事も解釈に加えると……、
「余り良くない相手からの誘いがある。目的地は慎重に見定め、コースやゴールを変える気持ちを留めておく事」
その呟きは聞こえてもいいくらいの大きさだったが、課金の結果に一喜一憂し、それを梓と聡子と共にバカバカしく話す事を楽しんでいる会には聞こえていなかった。
IMクライアントからの通知すらも、まともに見ていない程。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます