第11話「その名は大罪」
舞台が始まれば
今も
――
安土が描いている絵図面は、レバイン、
安土が動かせる百識は、あと二名、乙矢と真弓がいるのだが、その二人は計算に入れない。
――鳥打くんがいても、今回は乙矢さんと久保居さんは来ないでしょうね。
乙矢が来てくれれば最高だが、それだけは安土も算段が立てられない。魔法使いと異名をとる女占い師は、
場合によれば、どれ程の敵を相手にしても勝てる程の力を持っている程だが、その行動原理が問題だ。
――
乙矢が動くとすれば、その二人が関わった時だけだ。
しかも味方に付くという意味ではないところが、厄介な点でもある。
――前回は、聡子さんと鳥打くんを舞台から下ろせなかったから味方になってくれたけれど、今度は下ろせますからね。何としてでも下ろそうとするでしょう。
基が抜けたとしても8対7と数的有利は動かないが、六家二十三派の百識を平らげてきたレバインたちに対し、人数を減らすのは愚策というものだ。
――私が今回の舞台に関われるのは、極々、一部ですから。
次に用意されている舞台は、小川への制裁マッチだ。ハメられた形となっているため、弓削、矢矯については安土が介入する余地があったのだが、その一点のみ。
自由度が少ない。
――まぁ、何とかしていくしかないでしょう。
安土は伸びをしながら、そのためにあと二人、
「!?」
今日、舞台の外で基に襲いかかった二人が死亡したというメッセージだった。
「これは……ダメですね……」
声を震わせたのは、安土にできたせめてもの抵抗だろうか。
「おいおい」
たまり場になっているカラオケ屋で、レバインは苦笑いで丹下を出迎えた。
「他になかったんだ。格好なんて、別にどうでもいいだろ」
裸で日本刀を持ち歩く訳にはいかず、さりとて刀袋を持っている訳でもない丹下は、アヤと明津の日本刀を新聞紙に包んで持ってきた。
ガサガサと耳障りな音を立てる丹下が二振りの刀をテーブルに置き、合計七振りの日本刀が集められた。
「空島」
レバインに呼ばれた少女は、こくんと頷いて立ち上がると――、
「みんな、ひとつずつ抜いて」
目に付いた刀を一つ手に取った。重さはどれも金属バットと然程、変わらない1キロ程度だが、切っ先に重心がある日本刀の重さは数字以上の重さに感じられる。中学を卒業したばかりの空島には、持ち上げて保持するだけでも辛い代物だった。
どうしても
「重いでしょ。早くして」
珠璃だ。無造作に手に取って抜く動作は慣れているとはいい難く、これが観賞用の日本刀であれば、鞘とこすれ合って刀身に傷が付くと怒られるようなものだったが。
「仕方ない」
何が仕方ないか自身もわからないであろうレバインも刀を取った。
リベロン、雅、丹下、鳥飼も続き、それぞれ抜き放つ。
鍛造でも鋳造でもなく、《導》によって単一結晶を作り出して作られた刀は、安っぽいLEDライトの下でもギラリと鋭い光を放っていた。
それを美しいというメンタリティなど持ち合わせていない集団であるから、レバインは空島へ顎をしゃくるだけだ。
空島は震える腕に力を入れて刀を保持しつつ、その刀身に宿る石井の呪詛に自分の《導》を混ぜていく。
「グラトニー」
石井と空島の《導》が混じり合い、黄色い光が刀身に宿る。
「プライド」
雅の刀身には青。
「グリード」
鳥飼には紫。
「エンヴィー」
リベロンに緑。
「ラスト」
珠璃には黒。
「スロース」
丹下には白。
「ラース」
レバインには赤。
七つの刀身に宿った七色の光を、空島の《導》が立ち上らせる。
その動きは竜が首をもたげたようにも見えるのだが、下から波を打つように揺れるのは、竜が飲み込まれていくようにも見える。
石井の《導》を流し込まれた孝介は、身体の中で七頭の竜が暴れているような感覚に襲われたのだから、石井の《導》を飲み込もうとする空島の《導》は、竜を飲み込もうとしているというイメージが正解かも知れない。
防音がしっかりしているカラオケ屋であるが、七色の光が竜を飲み込み終える瞬間、外に漏れてしまう程、低く棚引くような声が響いた。
竜を飲み込んだ光は刀に戻り、刀身、柄へ流れてそれぞれの身体に宿った。
「!」
全員が一瞬、身体を震わせた。
単一結晶で作られた刀を、更に恐るべき武器に変えた石井の《導》が造り上げた怨敵必殺の呪詛は、空島によって作り替えられ、レバインたち7人の身体に強靱な力として宿ったのだ。
「来たれ――」
その《導》を空島はこう呼ぶ。
「
ここに、稼げていたはずの安土の時間は潰えたのだった。
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