第3話「その逡巡は?」
新家月派の男なのだから。
「新家月派の男性で、舞台に上がっている百識……ですか」
「知って、どうするんですか?」
隠す以外の選択肢はなく、聞き返した時には自分でも冷や汗を掻く程、隠し切れていないと感じていた。
「子供の頃、時々、会っていた新家月派の人がいたんです。その人、どうしているかと思って」
会が
「私が知る限り、新家月派の方はいません。新家は確か、月さんの曾祖父の世代でしたか? 男性が興した訳ですし、
必ずしも《導》の有無が勝敗を決める訳ではないが、これを覆せる
在野の百識は、大抵は
――当たらずとも遠からず……でしょう。
安土もそう思っている。《導》は六家二十三派の専売特許ではないし、ルゥウシェや
何より会や
「新家月派と名乗っていても、実質、百識として動いていなかった?」
会は一度、首を傾げたが、そのまま苦笑いした。
「ごめんなさい。舞台に上がるのだけが百識の仕事じゃなかったですね」
自分が舞台に上がってから、他の百識と交わるようになったための思い込みだ。
「六家二十三派の百識は、当主を目指して色々な努力をするのでしょうけれど、新家はそういう目標のない人達です」
安土のいう通り、新家が皆、上がる訳ではないが、新家が多いのも確かである。
――だから私の仕事が成り立っている訳ですが。
安土の顔に苦笑いが浮かびかける。六家二十三派の百識との面識は、それこそ会と梓が初めてであり、安土が世話してきた百識は全員、新家だった。
自嘲が浮かび、その自嘲が油断を呼んで、軽口を叩かせていた。
「自分たちは特別なんだと思い込んで、色々と追い詰められる人が多いというのも確かですが」
嘲笑には自分が世話をしている
軽口は油断であり、油断は続く。
「……その知っている月家の人の名前は、アキラ?」
口にしてしまった名前は、聡子の父親だ。
いってしまってから自分の油断に気付き、安土は顔が青くなるのを感じた。
――馴染みすぎてました……!
会が親戚である事、自分が世話人として関わる初めての六家二十三派である事、その性格が
だが会がどう思ったかは分からない。
「違うと思います」
気にした様子もなかった。空気を読まないのは、会に限らず六家二十三派では常識的な態度とされていたもの。直していくべきなのかも知れないが、直っていない。
「三文字名だった事は当たっていますけど、あ行じゃなかったはずです」
「そうですか」
安土はホッとした気持ちは隠せた。
しかし――、
「多分、たかし?」
それも覚えのある名前だったが。
――孝さん?
それは義弟の名前でもある。
タカシもアキラも珍しい名前ではないが、月という名字は珍しい。
「月 孝……」
義弟の名前と同一ならば、どうしても安土とて言い淀んでしまう。
そして、この言い淀みだけは会が見逃さない。
「知っている相手なんですね?」
切り込まれたと感じたと感じたのだから、安土が思考を先回りする。
――連絡が取れるか?
取れる。
――セッティングできるか?
できる。
――私との関係を、孝さんがいうか?
これは不明。
――孝さんは、私がこういう仕事をしているなんて知らないはずなんですから。
安土という偽名を会が明かしても、孝は安土=義姉の安奈と繋げて考える確率は……?
「連絡を取ってみてましょうか?」
安土が出した結論は、会を拒絶するのではなく、こちらから誘導する事だった。
「お願いします」
会は二つ返事だった。
秒単位で考えた事だけに、これが正解であるかどうかは、様々な算段を立ててきた熟練の世話人である安土にも分からないのだが。
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