第24話「誰に恥じ入る事があろうか」
障壁を身体に沿わせて展開させる関係上、どうしても感覚が鈍くなる
その感知が、肘打ちの威力が拡散させられている事を告げていた。
――推力に使っている光か!
この光もエネルギーを召喚するだけの《方》ではなく、物質・事象を召喚する《導》だ。
それに
――衝突させた《方》を、《導》で起こした風で後方へ集中させてる!
反動を生むための手段であるから、そこへ突っ込んでしまっては陽大の力も削られてしまう。
「残念だったわね」
正確に
無傷とはいわないが、珠璃はねじ伏せるように、挑みかかる気持ちを乗せた笑みで振り向いた。
「今のが全力でしょう!?」
必殺の一撃を外したのだから、今度はこちらの番だと手にした剣の切っ先を向ける珠璃。
「戦況に変化はなかったな!」
レバインの嘲笑が
「
レバインは、選択を誤ったのだ、と口調、身振り、表情、それら全てで告げる。
「劣等に上乗せしようとしたんだろうが、元が弱い
新家であろうとも、珠璃は
――バッシュに敗北したゴミとはモノが違う!
空島の大罪が不完全な《導》であり、完成された《導》を持っていた梓が上書きし、固定してしまえた事はレバインにとっても計算外だったが、そこに恥じ入る点はないと感じている。
「そうやってかき集めたのに、3つしかない力を、お前と、あのメイドと、なんで弦葉陽大になんぞ与えた? 弓削かベクターだろ、常考」
2トップの二人を強化しなければ、ただ全滅する時間が延びただけだ、とレバインは言葉を吐き続ける。
「――」
それに対して反論しようとした会であったが、言葉は飲み込んだ。
確かに、散々、鬼家月派の家にいて、当主争いのただ中にいた会にとっては、相手を完膚なきまでに叩き潰したいという欲求は大きい。レバインを力だけでなく、
――口げんかしたい訳じゃないわね。
意味のない行動だと分かっていた。当主争いであれば、一歩でも退けば二歩も三歩も、場合によっては十歩でも百歩でも踏み込んでくるのが六家二十三派の常識だったが、今は違う。
――相手を黙らせるのは、論破宣言する事じゃない。
そもそも大抵の者が論破と口にするが、本当に論破できている事は稀だ。呆れられ、黙ってしまわれた事に対し、はしゃいでいてはみっともない話ではないか。
「もし弦葉陽大に、風属性に強い炎属性があったらなァ」
レバインは、どうやら相手が退いてくれた事に気付けないタイプだったようだ。
「まぁ、
ただ会も、このタイミングだけは逃さずにいう。
「ええ、私が教えてもらった事は、どれだけ大火力だろうと、当てられないのでは無能も同じという事よ!」
未だ会たちは致命傷をもらっていない。
「唯一、当てられるのは相手のミスに乗じられた時だけなんて《導》は最悪とだけは、私も鬼家月派の家を出てから教わりました」
レバインへの挑発も混じらせたのは、口げんかを挑ませる心づもりがあった。
「ミスをしたのは、ベクターみたいなチンケな野郎が――」
レバインは乗った。
乗らずにはいられなかった。
今、眼前にいるのは、不意打ちと特攻で生き残ってきただけの、百識から見れば運に頼った脳筋なのだ。
そんな相手してきた反論は、完膚なきまでに叩き潰さなければならない。
口を開けば言葉が止まらなくなり、それは会たちを前にしてしまっている状況では致命的な隙となる。
――梓の《導》が加われば……!
会は一瞬でもいいから、覚悟を決める時間が必要だった。
そしてレバインが渡してしまった時間は、一瞬どころではない。
「
会の宣言により、傍らで戦っていた鬼神が姿を消す。
「!?」
何かを仕掛けてくると感じさせるには十分であるから、レバインも無駄口を叩くのは止める。
ただし戦闘態勢を再び整えるのには、もう一秒分の時間が必要で、その一秒は長いと言うには、あまりにも長かった。
会が鬼神を消したのは、維持できなくなったのでも、戦いを放棄したからでもない。
鬼神は会の身体を覆うように変化して現れた。
「会様!」
梓が目を輝かせた。
――人鬼合一!
会が辿り着いた境地だ。鬼神の中府へ自らが入る事により、攻撃と防御を完璧なものにする。
欠点は、鬼神の動きと自分の動きをシンクロさせなければならないが、それを可能とするのが、弓削が使う障壁による身体操作。
安土は、どの百識に引き合わせればよいかという選択肢を、決して間違えない。
「ッッッ」
歯を食い縛り、気合いの声すら噛み殺し、会が槍を振るった。
同時にもう一つの変化を見せる。
「
梓の《導》だ。
「
それは1対1で区切っていた結界を解除するというもの。
当然、対応できた百識は、必勝を期して動くはずだ。
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