第3戦
第18話「快男児の出立――4対7」
「3敗目……」
流石に安土も顔を青くした。正確にいうならば矢矯は不戦敗が決定した訳ではないため3敗が確定した訳ではないが、由々しき事態だ。
――2勝が必要ですか。
残された
――
安土が考え込まされる。小川側に残されている駒で、力が劣る
――明津相手に1勝を拾っても、あと1勝は
ルゥウシェ、
「弓削さん、今、どこですか?」
そんな状況であるから、神名も堪らず弓削へ電話をかけた。後がない状況だ。
「まだ高速にも乗れてない。国道が動きゃしないんだ」
神名の声も相当、苛立っていただろうが、弓削の声も負けず劣らず苛立っていた。
GPSを起動させて確かめた弓削の位置は、まだ北県の中程だ。
「1時間は確実にかかります」
神名が繭をハの字にさせられていた。
「いい?」
乙矢が手を挙げた。
「次、こちらが後から決められるんでしょう? 次が勝負を決めに来ようとして、六家二十三派の3人を出してきたら、私が行く」
乙矢の声には、絶対に1勝を掴んでくる、という強い意志がある。
「もし勝てたら、そのまま弓削さんを迎えに行ってくるから、何とか勝ちを繋いでいて。最終的に、弓削さんを投入して逃げ切り。いい?」
「迎えに行く、ですか?」
安土が聞き返すと、乙矢は「そう」と頷いた。
それで真弓が思い出した。
「あ、葉月さんの魔法なら、瞬間移動とか何か、そういうのができる?」
「ただ、私だってここから堂々と出て行くなんて事はできないし、弓削さんの車ごと、この場に呼び寄せる訳にはいかないから、ちょっと考えないとダメだけれど」
不可能ではないならば、一も二もない。
「それで行っていただけますか?」
安土は飛びついた。
「OK」
乙矢は指で丸を作った。
「もし明津だったら、そのまま行く。その時は――」
乙矢がいい切る時間はなかった。
照明が落ち、青いカクテルレーザが乱舞し始める。
流れてくるのは、ハイテンションなJ-POP――いや、アニメソング調の曲だ。
皆の目が向く花道を歩いてくるのは、黒いスラックスに同じく黒の立て襟上着を
「明津ね」
乙矢は一瞥すると、他の面々へ目を向けた。
「私は弓削さんを、何とかして短時間でここへ連れてくるから、時間と勝ちを稼いで」
明津が容易い相手とはいい切れないが、ここで乙矢を投入してしまうには勿体ない相手だ。
「なら――」
真弓が手を挙げようとするが、それを掴む手があった。
「僕が行きます」
基だ。
「僕にも電装剣があります。条件は互角です」
対抗できる武器を持っているというのが一つ。
もう一つは、基が持っている鞄から出て来た。
「私達もいますから」
顔を出したのはクマのぬいぐるみの姿を取っているペテル。
「こっちはぬいぐるみが
ネコのカミーラもいる。
「実質、3対1で戦えるんだから、何とかなります」
基は断言するが、自信が漲っているというような事はない。
だが乙矢は、真弓の手を掴んだ基の手に自分の手も合わせ、
「任せた。きっと勝てるって思ってる」
乙矢の手が二人の手を下ろさせる。
「じゃあ、行ってきます」
乙矢は軽く手を叩くと、
「ちちんぷいぷい、ビビデ・バビデ・ブウ」
言葉と共に、乙矢は自分の姿をした虚像をその場に残し、姿を消した。
「審判! こちらは――」
安土の声と共に、基の頭上からスポットライトが照らした。その姿に、ステージ上の明津が目を細める。
――ああ、同じような服装なのか。
明津の視線で、基が気付いた。基の衣装も、学生服を思わせる黒い詰め襟に、黒いトラウザースだ。違いは明津は前を開けてボーダーのシャツを露出させているのに対し、基はホックまで留めている事と、明津はローテクスニーカーだが基は革靴である事、後は基が被っているマリンキャスケット帽くらい。
そして曲も、萌え系アニメソングではない。
赤いカクテルレーザと共にスタジアムへ放たれるのは、インストゥルメンタル・ジャズだ。
「行きます!」
基は宣言し、花道を走った。
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