第24話 捜索隊 2
リュウグウを探すために森に向かい、川辺にて彼女が岩に腰をおろして休んでいるのを発見した。
右足からは血が出ており、結構傷は深い
リュウグウは溜め息を漏らしながら口を開いた
『ハイゴブリンに気を取られ過ぎてな、赤猪が突っ込んでくるのに反応が遅れてこのザマだ』
『痛い?リュウグウちゃん』
『まぁね、ここまで歩いてきたけど疲れて休んでいる…、あと面倒な魔物がいるから周りの警戒よ』
『その前に、ケア』
ティアはしゃがみ込むとリュウグウの怪我をした右足に両手を伸ばし、回復魔法を使った
緑色の魔力がリュウグウの右足を包み込むが、直ぐには治らない
まだティアが持つケアのレベルが1だからだ
彼女は魔法を発動させながらリュウグウの怪我を徐々に治していくとリュウグウはホッと胸を撫で下ろし、口を開く
『助かるわティア、ケアが無ければ今頃私は熊に背負って…森を…抜け…あれ?』
リュウグウは首を傾げ、足元に素早く視線を向けると美人に似合わぬ驚愕を浮かべ始めた。
目が今にも飛び出そうな反応に誰もが口元に笑みをこぼす
『ケアだと!?!?ケアだと!?!?』
『うん、私使えるから安心して』
リュウグウは彼女の言葉に無意識に立ち上がる
アッ!とリュウグウは怪我をしていることを思い出すが、丁度怪我は治った
ティアはニコニコしながらブイサインをし、リュウグウは渇いた笑みを浮かべる
驚くのが普通、ケアなんてこの田舎街グリンピアには入る話はなかったからだ。
数人いるだろうと思ったが、リリディが調べたらゼロだ
『初めて…みたわ』
『手に入れた経緯は省くね、ケラサンちゃんを倒した訳じゃないの』
『…複雑そうだから聞かないわ、これで熊男に背負われなくて済む』
リュウグウはティアマトに視線を向ける
『誰が熊だ』
勿論ティアマトは反応するよな
リュウグウはまだ足を気にしている、ティアにステータスを見てみたいと話すが彼女は両手の平を合わせ、それは出来ないことを答えた。
リュウグウは残念そうにはするが、同時にティアからはケアの件は口にしないでほしいと告げるとリュウグウはあっさり了承し、
置いていた槍を手にこちらに顔を向ける
ティアと会話してるときとは大違いなムスッとした顔
やはり男は駄目か…
『助かった……うん』
彼女はそう告げると、森の入り口に向かう方向にティアと並んで歩き出す。
不慣れな言葉を使おうとしたようだが結局言えなかった感がある
しかし、別に気にはしない
俺達が様子を見に来たことぐらい彼女はわかってる筈だからだ
『行きますよアカツキさん』
『行くぜアカツキ?』
『そうだな』
暗いな、俺達は彼女らに追い付き、街を目指す
森の魔物に警戒しながらも後方から聞こえる女性の会話が耳に入る。
『リュウグウちゃん、今日は稼げたの?』
『ギリギリね、Eの魔物が今日は少なかったわ』
『アパート追い出されない』
『だっ…大丈夫に決まってるわよっ!その分は稼いだし』
リュウグウは慌ただしく答えるとティアはまた奢るから時間あれば羽を伸ばそうと彼女に向かって楽しく話していた
『おや…?』
リリディが空を見上げ、口を開いた
歩きながらだが…
あぁなるほどな、雨の匂い…である
風も生暖かい、これなら森全体に霧が立ち込めるのも時間の問題
多少ジメジメしてきたし、ティアマトも面倒臭そうに空を眺めていた。
薄雲だがそれでも降るときは降る
条件は火を見るより明らかだよな
『魔物の気配、後ろです』
リリディが振り向きながら口を開くと後方に移動する
俺やティアマトも後ろに移動すると武器を構えたまま警戒をするがリリディの気配感知は便利だな
レベル3のスキルだがら範囲も広い
俺達3人だけじゃなく、ティアやリュウグウも構えをとる
『強めです、Dに近いかと』
リリディはそう告げると緊張が走る
俺達イディオットもあまりそのランク帯は慣れてないからだ
『メガネ、何体だ』
『…3体、そのうちの1体が強いですね』
リュウグウの言葉に多少不満をあらわにしてもちゃんと答えたリリディは偉い
ティアマトが笑いを堪えていると俺達にも気配が真っ直ぐこちらに向かってくるのを察知したが、確かに強い
それと同時に小雨が降り始めるがこのタイミングは勘弁してほしいな…
『ティアマト、強い奴1体頼んでいいか?』
『頂くぜ?』
彼はとても嬉しそうだ
このまま無視して進んでも良いが、ここは街からかなり近い
あと数分歩けば入口までいけるから倒しておいて損はない筈、リュウグウも両手で槍を構え、いつにも増して真剣な面持ちだが、戦う時はあんな強い目をするんだなと少し意外な一面を見た俺はちょっとした満足感に浸る
『へぇ…やり甲斐あるじゃん』
ティアマトが道の奥から歩いてくる魔物を見て告げた
ハイゴブリン2体とキングゴブリン1体だが俺達が感じた強めの気配はキングゴブリンだ
あれは魔物ランクD、ゴブリンの中でも一際力強い魔物である
『ティア、ティアマトの援護を頼む』
『うん!』
『リリディは俺とハイゴブリンだ』
『わかってます、1体ずつですね』
『そうだ』
『…』
リュウグウは飽く迄怪我人だったのでどう扱っていいかわからない
しかもリュウグウ、だからである
変に指示を出しても絡んできそうだしそこは触れないでおこう
『ゴロロロ』
キングゴブリンが大剣を担ぎ、喉を鳴らすかのように唸り声を上げていた
取り巻きのハイゴブリンの武器は棍棒だ、あれなら問題ない
たまに鉄鞭持ってる奴いるから困るよ
『!?』
3体が一斉に走ってくる
ティアは奥のキングゴブリンに向けてラビットファイアーを放ち、足を止めた
5つの火の弾を足を止めてから腕を振って弾いているうちにハイゴブリン2体が前に出るがそいつらは俺の標的、リリディと同時に突っ込むと直ぐにティアマトとティアが奥に向かう
『ギャロロロ!!!』
鳴きながら棍棒を横殴りに振ってくるハイゴブリンだが今の俺はスキルがそれなりに充実しているから問題ではない
低くしゃがみ込んで避けるとそのまま一気に刀を前に突き出しながら懐に潜り込み、胸部を貫く
そのまま腹部を蹴って転倒させ、上体を起こして立ち上がる前に飛び込んで体を斬り裂くとハイゴブリンはそのままぐったりと動かなくなる
自分で倒しておいてあれだが少し気持ちよかった
同じくハイゴブリンを相手しているリリディは振り下ろされたハイゴブリンの棍棒を木製スタッフで弾き飛ばした。
『残念ですが!』
リリディはそう言いながらバランスを崩したハイゴブリンの腹部に左手をつけ、突風で吹き飛ばす
『相手が悪いですよ』
言い終わった彼は直ぐに別の術であるカッターを放ち、上体を上げるハイゴブリンの首を深く斬り裂いて倒して見せた。
大きな風の刃ではないが、首を狙えば関係ないだろうな
『護衛の要らない魔法使いで助かる』
『魔法使いが単騎で動けないなんて迷信ですよアカツキさん、護身の技術は持つべきです』
彼は我が物顔でそう告げていた
冒険者での魔法使いは護身で扱いやすい武器を持つ程度
スキルの殆どが魔法スキルで埋まるからだが、リリディはそんな彼らとは違い、普通の打撃系も備わっているのがこれまた面白い
『それよりも…』
リリディは奥に顔を向ける
俺も同じく視線を彼の見ている方向に移すとティアマトがキングゴブリン相手に接戦していたのだ
キングゴブリンの錆びた大剣とティアマトの片手斧が触れ合うたびに甲高い金属音が響き渡るが多少押されているのは敵の方だった
『意外とやるんだな‥‥』
リュウグウは囁く
そうこうしているうちに、ティアマトはキングゴブリンの大剣を連続斬りで大きく弾き、体を仰け反らせると高く跳躍しながら
『頼むぜぇぇぇぇぇぇ!!』
『ショック!』
彼女は直ぐに雷弾を1発撃ち、キングゴブリンに当てるがまだ麻痺はしない
ただビクンと体を震わせただけだがティアマトにはそれだけで良かったようだ
彼は雄叫びを上げながら両手で片手斧を力強く握り、渾身の力で振り下ろす
筋力だけではない、彼の体重を乗せた唐竹割だ
『グロロロロ!』
『無駄ぁぁぁぁぁぁ!』
キングゴブリンは大剣を盾代わりに受け止めようとするがティアマトの渾身の一撃はそれを叩き割り、体を深く斬り裂いてみせたのだ
錆びている武器でガードは流石に心もとないと思わなかったのだろうか…
キングゴブリンは断末魔を上げ、武器を地面に落として前のめりに倒れていく様子をティアマトは目を細め、武器を構えながら見守った
『グロっ!』
最後の抵抗だろう、キングゴブリンが口から血を吐き出した状態で立ち上がろうとするがティアマトがそうはさせまいと片手斧で攻撃を仕掛けるが
見ていたリュウグウが彼よりも早く動き出していた
『鬼突!』
ティアマトの横を通り過ぎながら赤い魔力を帯びた彼女の持つ槍がキングゴブリンの頭部を貫通し、トドメを刺した
今度こそ終わりだ、槍を抜いたリュウグウはそれを回転させ、肩に担ぐと同時にキングゴブリンの体から魔石が出てくる
勿論光ってない
『取られちゃかなわねぇな…まぁお前の魔石だ』
『有難い』
ティアマトの言葉にリュウグウは感謝を口にし、キングゴブリンの魔石を回収した。
俺もハイゴブリンの魔石を回収しようと動くとティアがリュウグウと話し始める
『凄いリュウグウちゃん!速かったね』
『そ…そう?まぁ普通よ、普通』
ちょっと嬉しさを顔に出している
ティアマトも獲物を取られたことに対して何も言わないでくれるのも俺は有難い
彼は満足そうにしているから報酬うんぬんはあまり気にしてないと思える
『ティアマト、助かる』
『おうよ!良い相手だったぜ!ちょっぴしビビるけどもな』
『流石熊ですね、ティアさんの術の判断も中々ですけど』
『そのおかげで気持ち良く斬れたしなぁ、ティアちゃんサンキューな』
『はーい!』
リュウグウと会話していたティアは元気よく返事をする
こうして俺達は歩いて森を出るとギルドに向かう
すっかり暗いがこんな日もある、リュウグウはキングゴブリンの魔石が有難がったらしく、いつもより機嫌が良い
『リュウグウ、少し機嫌が良いな』
『キングゴブリンの魔石も中々に金になるからよ、錆びた大剣も回収できればお金になるけど。飽く迄横取りした身だし文句は言わないわ』
大剣はティアマトが叩き割ったからな、仕方ない
そこに彼女は文句は言わない
『金貨2枚ぐらいするだろうな』
『そのくらいはある、となれば当分飯に困らないわ』
そう言う事か
彼女を連れてギルドに向かうとロビー内の丸テーブルを囲む冒険者達は帰って来た俺達を見て声をかけて来たよ
『おぉ?帰って来たな、よかったよかった』
『無理はすんなよ~?暗くなると魔物は目が利くが俺達はそうでもねぇからよっ』
適度に返事をし、受付カウンターに向かうとアンナさんはリュウグウの今日分の依頼所の報酬と追加報酬である魔石の査定を直ぐにしてくれたが金貨は4枚と銀貨1枚そして銅貨3枚だった
ちなみにキングゴブリンの魔石の価値は金貨1枚と銀が5枚だったらしい
『元気ですね貴方達』
アンナさんがニコニコ話しかけてくる
俺は笑って誤魔化すとリリディが俺を押しのけ、彼女と会話を始めた
『僕も元気ですよ、見てもらいたかったです…ハイゴブリンを綺麗に倒す僕の雄姿』
『あ、そうですね』
冷たい!笑っているが反応が凄い
しかしそれで満足するリリディもなにかと可笑しい気がしなくもない
『…フッ』
リュウグウがそれを見てちょっと笑ってくれた
彼女はロビーを抜けてこの場を後にしようとするが、俺はちょっと彼女に聞きたい事があって背中越しに話しかけてみることにしたんだ
『なぁリュウグウ…』
『私はソロよ、でも今回は有難う…』
彼女は立ち止まると振り向き、口を開くと直ぐにギルドを出ていった
ティアマトはニヤニヤしながら俺の肩を軽く叩くと話しかけてくる
『おっ?ティアちゃんだけじゃ物足りねぇってか?』
『違う違う違う違うっ!』
俺は焦るがティアも無駄に焦っている
ティアマトは高笑いすると、背伸びをしてから話す
『冗談だよ、まぁ生きてる奴は事情っつぅもんはある…今はタイミングが違っただけだ、お前が考えている事はわかるが、そうしたいならばそうなっても俺は構わねぇ、あいつの動き良かったしよ』
『確かに素早かったですね、ですが僕をメガネと道具で呼ぶのは不服申し立てますが』
『これからだね』
まだ駄目か、まぁここには冒険者が沢山いる
そのうち流れが来るはずだと信じ、俺達は解散したのだが雨は止んでいたのはラッキーだ。
アンナさんの話しじゃ今日の夜はかなり降るってさ、明日は休みにしたし問題はない
俺はティアを送る為に彼女と共に街中を歩く
リリディやティアマトは同じ道なのに、何故か私用があるからと先に行けって言われたよ
道行く人は日中よりも少ない、しかし商人の馬車は変わらず馬を走らせて物資をどこかに運んでいる
たまに出会う警備兵の人には無駄に挨拶されるけども…
『お疲れ様、そろそろ降るかもしれないから真っすぐ帰った方が良いよアカツキ君』
『ありがとうございます。父さんはもう帰りましたか?』
『ゲンコツ長はさっき交代してシグレ君と一緒に帰ったよ』
父さんの仕事場でのあだ名だ、ゲンコツ長、もしくはゲイルゲンコツ長と部下に言われているのだ
俺の父さんを普通に呼ぶ人はいない
それを気に言っている父さんも父さんだけどな
『わかりました、夜勤頑張ってください』
『勿論さ』
警備兵2人と別れ、ティアを家に送る
彼女の家の玄関が開くとパンツ一丁のシグレさんが出てくる、それにはティアも溜息だ
『お兄ちゃん、なんでいつもその恰好なの…』
『家だぞ?』
『この前そのまま外に出てた』
橋の下にある地下水路の事だろう、シグレさんも苦笑い
『丁度良かった、アカツキ君も入って』
『へっ?』
『話しておきたい事があるだけさ、なぁに心配ないさ…飲み物は出すよ』
と、言う事で俺はティアの家に久しぶりに入った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます