第73話 見捨てられた仏編 5 無縁墓地カタコンペル

無縁墓地カタコンベル

大昔にこの広大な霊園の中にある火葬場の床が抜け、大量のアンデットが現れた

国での対応が追い付かず、ここを放棄することになってしまい、立ち入り禁止区域となる


ここに埋葬された過去の者たちは誰からの祈りをされることなく、数十年が経過しているという

真夜中は霧が立ち込め、視界が良いとは言えない

タイル床の道を慎重に歩いて進み、俺は目だけで周りを見て警戒を高めた


仲間の会話はない、ブルドンでさえ鳴くことを止めている

ティアが馬の傍でランタンを持ち、リュウグウと共に後方を気にしている様子を見ていると、リリディが険しい顔をし始める


リリディ

『不気味な音がしますね、カサカサと』


アカツキ

『気配はあるか』


リリディが口を開こうとすると、俺たちにもそれは感じた

数が多い、だが気は弱い…どこかで感じたことがあるなと思いながらも全員で正面や左右に武器を構えてその場で待ち構えると、現れたのはハンドリッパーという虫種の魔物だ

ウデムシという腕が長い虫がいる、それが30センチほどの大きさになった感じさ


そいつは霧の中からゾロゾロと姿を現し、ティアの持つランタンの灯りで黒光りしたいる

攻撃しなければ攻撃してこないので無視だ

前に進めば前にいるハンドリッパーは左右に避けてくれるからありがたいよ


ティア

『うわぁ…』


リュウグウ

『既に後ろにもいるぞ』


数など数えたくない、多すぎる

進むだけで気負いしてしまうので俺は少し足を止めるように仲間に伝える

誰もが一息ついてその場に立ち止まり、肩の力を抜いていた


空気が重すぎる、仲間の雰囲気ではなくてこの場所全体が重く感じられる

小休憩でも会話は生まれない、あるのは何が起こるかわからない未知の不安だ


『ヒヒン』


アカツキ

『ブルドン、どうした?』


赤騎馬のブルドンは正面をしきりに気にし始め、俺の背中を鼻先で軽く押す

言葉は通じなくても、こいつが何が言いたいのかわかる気がする

人間よりも感覚が鋭いのだろう


アカツキ

『ティアマト、正面』


ティアマト

『あいよぉ、出番か…』


アカツキ

『リリディ、ティアのランタン頼む』


リリディ

『では頂きます、前は頼みましたよ?』


彼にランタンを渡し、ティアマトと共に霧の向こうの見えない何かに向けて身構える

気配など感じない、リリディやティアが今じゃ気配感知レベルは高いが2人ともまだ気配を感じ取れていないから、まだ遠いはずだ


夏なのに、やけに涼しい…助かるけどもこんな場所で涼しさを感じたくはないな


アカツキ

『テラ、どうだ?』


《気をつけな?いきなる来る》


アカツキ

『ティアマト、突拍子もなく来るかもしれないってさ』


ティアマト

『ケッ…了解、俺がこぼしたら頼むぜ?』


アカツキ

『わかっ…』


俺は返事をしようとすると、リリディが小さな声で『来ます』と強く言い放つ

同時に俺にも感じる、その気配はもの凄い勢いで俺たちに真っすぐ向かっており、まるで遠くからわかっていたような動きだった


霧の中から現れたのは爪が長いリッパーというグールの強化版みたいな魔物だ

灰色の肉体をし、頭部は大きく裂けた口、そして手足の爪は長くて獲物を切り裂くようにできている

しかも今までみたサイズとは比べ物にならない大きさ、普通は俺たちより僅かに身長が低いのにこいつは180センチはあるだろう大きさをしている


Dランクの魔物、しかしこいつは普通のリッパーより強いと感じた

それが2体だ


『キッ!』


『ギィ!』


アカツキ

『くっ!』


両爪をジャキンと伸ばし、真っすぐ襲い掛かるリッパー

自然とティアマトは右のリッパーに狙いを定めたので、俺は左のリッパーに視線を向ける

どちらも待ち構える、こっちから走って仲間とはぐれたくはない


リッパーは両手の爪を同時に突きだし、俺の頭部を狙ってくる

カウンターを狙った俺はギリギリでしゃがみながら回転し、抜刀してから腹部を斬って刀から左手を離し、奴の顎にアッパーをお見舞いして仰け反らせる


斬り裂いた腹部からは血ではなく、黒い液体が流れている

それでも奴は止まらない


『キッ!』


アカツキ

『なっ!?』


仰け反った状態から大きな口を精いっぱい開き、顔を前に戻すと同時に俺に噛みつこうとしてきた

それを刀で受け止め、斬り裂いた腹部を蹴って吹き飛ばす


ただのDランクじゃない

Cに近い獰猛さがある

俺は数歩、後ろに下がって身構えると、リッパーは不気味に体を振らしながら立ち上がり、ニタニタと笑い始める

ゾッとするよ…。変な汗が出ている


ティアマト

『しゃっ!』


ティアマトが片手斧でリッパーの首が跳ね飛ばされると、俺が相対していたリッパーがそちらに顔を向けた

今しかないと悟り、光速斬で一気に襲い掛かると、俺はティアマトの真似をするようにして首を跳ね飛ばした


体は頑丈じゃないから斬るのは簡単さ、直ぐに後ろに下がって皆の元に戻ると、ティアマトは魔石を回収して戻ってくる


ティアマト

『でっけぇな、しかも力もある』


リリディ

『驚きましたよ、どっちが魔物なのかわかりませんでしたから』


ティアマト

『てめぇアンデットの餌にするぞ』


ティア

『あ、いつも通りだ』


ティアの表情が少し和らぐ

水筒で水分補給してから直ぐに歩き始めると、後方から不気味な呻き声を上げながら忍び寄る気配にティアとリュウグウが嫌そうな顔をした


その声は聞きなれた声であり

ゾンビナイトだとわかった


リュウグウ

『やるか…』


ティア

『結構な数だね』


リリディ

『左右からも僅かに感じますがそちらは任せてください』


霧の中からノソノソと黒い影が見え始める

1つ、2つと、それは多くなって6体のゾンビナイトが後方から現れた

ランクは最低ランクのF


頭部を緩やかに揺らし、両手をだらりと垂らしながら現れるゾンビナイトの右手には錆びついた片手剣


違うといえば左の二の腕の錆びた手甲に小さな盾がついていることぐらいだ

ここのアンデットは他の場所の魔物より質がいいらしいが良い迷惑だ


左右から現れたゾンビナイトに紛れて同じくFランクのゴーストがいる

黒い靄に釣り目の魔物だが、それはリリディの突風で直ぐに弾き飛んで魔石だけを残して消えた


『アアアア』


ティア

『いくよリュウグウちゃん』


リュウグウ

『わかってるわよ』


2人は走り出すと、ゾンビナイト6体は力なく襲い掛かってくる

ティアは巧みに攻撃を避け、サバイバルナイフでゾンビナイトの顔面を貫いてから蹴って倒すと、後方から来るゾンビナイトの振り下ろす剣を回転しながら避け、左手を伸ばす


『ショック』


小石サイズの雷弾が黄色い魔方陣の中から飛び出すと、ゾンビナイトは一撃で体を麻痺させて転倒した


リュウグウ

『雑魚め、いやらしい声で鳴くな』


『アアッ』


『アッ』


リュウグウは近づかれる前に槍で貫き、一撃で葬っていく

いやらしいかどうかは個人差がある、彼女は毎日何を思って生活しているのだろうか?

最後の1体が、ティアの後ろに歩み寄っている


それは俺たちが動く前に、馬のブルドンが体を反転させて後ろ足で強力な蹴りを放って吹き飛ばした

凄い威力にティアマトは驚いている

だってさ、蹴った瞬間に凄い音したんだよね…パコーン!て

ゾンビナイトの体はまるで爆散したかのようにバラバサさ


ティア

『流石ブルドンちゃん』


『ヒヒンッ』


ブルドン、何故か俺を見ているけどなんなんだ?

そうしていると、気配が多くなっていく、きっと先ほどの音で気づかれたか…


アカツキ

『アンデットは生気を感じるのか?リリディ』


リリディ

『音がメインですね』


リュウグウ

『馬、やらかしたな…』


ティアマト

『まぁ仕方ねぇ、行こうぜ?』


アカツキ

『ティアマトの言う通りだ、最後まで忍ぶなんて俺たちには無理な話でしかない…突っ切るぞ』


四方を囲まれている、霧が深くてもそれだけはわかる

足早に先頭を進んでいく、バレたならば仕方がない


《兄弟、数が多すぎる!一度どこかに隠れろ!道の分かれ道を左に行きゃ掘立小屋みたいなのがある!》


俺は正面から襲い掛かるリッパーの爪を刀で弾き、ティアマトが首を掻っ切ると口を開いた


アカツキ

『ついてきてくれ、一度隠れる』


リュウグウ

『例のスキルの生き物か』


アカツキ

『そうだ、開闢ちゃんて呼んでくれ』


リュウグウはいまいちな顔を向けるとテラ・トーヴァは溜息を漏らして反応を示す


《恨むぜ?兄弟…》


霧の中からグールやゾンビナイトが現れ、俺たちは討伐しながら先を急ぐ

魔石の回収なんてしている暇はない


ブルドンは目の前に迫るゾンビナイトを体当たりで弾き飛ばす、凄いなと感じながら横目で見ているとリリディが口を開く


リリディ

『アカツキさん、分かれ道』


テラ・トーヴァのいう通りに分かれ道だ、左に俺は走ると皆がついてくる

気配は魔物でいっぱいだ、霧で見えないことが不幸中の幸いとも思えるだろう

霧がなければ俺たちの視界にはもの凄い数のアンデットによって士気がそがれている筈だ


迷わずにひび割れたタイル床を左に進み、その先にいたゾンビナイトに走りながら居合突で頭部を吹き飛ばして進むと霧の中から小さな建物が現れた

ドアノブが腐っており、僅かな風によって開いたり閉まったりしている


アカツキ

『ここか?!』


《中に入れ!その先はわかる!》


ティア

『ふわぁぁぁぁ!後ろ凄い気配だよ!姿は見えないけど』


リュウグウ

『不味いぞ!どうする?』


アカツキ

『静かに、ついてこい』


俺はドアを押して開けてからランタンで中を照らす

どうやら作業員の詰所だったらしいが家具等は無残にも倒れて朽ちている

誇り臭いし咳が出そうになる

2つの窓ガラスもすべて割れていて外から丸見えだ


奥にドアがあり、俺は仲間と共にドアを開けて中に入るとその部屋は窓がなく、汚いベットが2つほど壁の隅に設置されている

部屋の中心に急いで向かうと、足元に違和感を感じる


アカツキ

『ん?』


ティアマト

『お?倉庫か?』


床には観音開きのドアがあるが大きいな、ブルドンも入れそうだ

俺はしゃがんでドアノブを立ててから開けると階段があるのを見て直ぐに皆を中に入れる


ゾンビナイトの呻き声が近い、この建物の前まで来ているようだ

急いで皆を中に入れてから俺は最後にドアを閉めた

息を潜め、石の階段で誰もが腰をおろしていると、上の部屋のドアが強めに開かれた


『アアアア』


『キッ!キッ!』


アンデット種の魔物がたくさんいる

息がしずらい…

ティアは何故か俺の腕をがっちり掴んで体を強張らせているからこそ俺は違うことに気をつられて冷静になれる


腕に幸せ袋が2つ、当たってますよ?

至福が緊迫した状況に勝つ、女性の胸に勝てるものはないと俺は知る


リュウグウの視線はわかる、俺は何も言わずに勝ち誇った顔をしてしまう


《静かにな?流石に数がやべぇ…建物の周りに50はいるぞ》


流石にそれは辛い

ここはバレるかが心配だが、上の音を聞くと大丈夫そうだ

魔物たちがただただ部屋の周りを巡回している感じがする


その間、リリディはリュウグウとブルドンを連れて階段の先を見に静かに探索しに行く

ティアはランタンをリリディに渡していたらしい、灯りは今俺がもつランタンだけか…


ティア

『バレないかな?』


その問いに俺は答えれない

声でバレない様に彼女は俺の耳元で囁いたからだ、息が耳にあたり…違う気が生まれ始める

あれ?俺なんて言われたっけ?忘れてしまう


アカツキ

『ありがとう』


ティア

『?』


すまない


数分後、上でうろうろしているアンデットは静かになると、部屋を出ていってしまう

ホッと胸を撫でおろし、溜息を漏らした瞬間に階段の先から大きな音が聞こえた


バコーン!


ブルドン、何を蹴った?

勿論部屋を出ていったアンデットが地下から漏れた音に反応し、数体だけ戻ってくると部屋の中を歩き回り始める

地下からだとバレてはないのが助かる


グールの気配がすぐ真上だ

キキキッ!と甲高い声を出しながら扉の上に立っている

そこまでの知能はアンデットにはない、床に扉があると目視しても開けることはないだろう

しかし、油断はできない


俺はティアとティアマトと共に静かに階段を下りていく

階段を降りると、長い廊下だ

壁は木材で出来ているが、所々剥がれていて土が顔を出している

何かの木の根も伸びてるけども、それが天井までつたっている


音は奥のドアの先からだ

ティアマトを先頭に、ドアを開けてもらうと部屋の奥でリッパーが頭を吹き飛ばされて倒れていた

ここは倉庫らしく、上の部屋よりも広い…・15畳くらいありそうだ


壁には錆びれたツルハシやランタン、ローブなどが釣らされている

棚には本が沢山だが誇りまみれで触る気になれない、右の壁には大きな穴が開いている

そこからこのリッパーが現れたのだろうな…


アカツキ

『ブルドン、もう少し穏便に倒せないか?』


ブルドン

『ブシュルル』


無理だってさ

俺は苦笑いを浮かべ、仲間と共に壁の穴を除く

どこまで続いているかわからないが、きっとかなり長い・・何が通ったんだ?


リュウグウ

『でかい…大きな魔物が掘り進んだような感じに思えるわ』


リリディ

『人の掘った洞窟とは思えませんね』


横幅が3メートル、高さも3メートルと掘り進んだにしては大きな魔物を思わせるサイズの穴だな


ティア

『あれ?穴?』


アカツキ

『これって…』


ティア

『まさかぁ…』


ふとティアと2人だけの時の出来事が思い出される

地下から魔物が現れた時だ、原因は土駆龍モグラントちゃんの掘り進んだ穴だ

これもしかして…・


《モグラントちゃんの穴だ、ちょっと気配が残ってたんでな》


アカツキ

『どういうことだ?』


《最近掘った穴には僅かに気配が残るからな、悪いがアンデットは音のした場所に居続けるから戻るのは無理だ。この穴を通って別の抜け道を見つけるしかない》


アカツキ

『気配はどうなんだ?』


俺の独り言の様な言葉に皆、耳を傾ける

テラ・トーヴァと会話してるって理解してくれてるのはありがたい


《100以上だ、無理過ぎるぞ?》


ティアマト

『開闢マンがなんだって?』


アカツキ

『上は無理だ、100以上いる』


リリディ

『ではここを進みましょう』


リュウグウ

『本気で言ってるのかメガネ』


リリディ

『皆さん話を思い出してください』


彼は自慢げに近くに置いてある椅子に座って話そうとする

しかし格好良くいくことはなかった

座った瞬間に椅子が壊れ、彼は尻もちをつく


ティア

『静かに、リリディ君』


リリディ

『…』


彼は尻もちをついたまま眼鏡を触り、続きを話す


リリディ

『火葬場の床が抜けたとなると、この穴はそこまで通じている可能性があります』


ティアマト

『そうだが迷路みたいになってて迷ったらどうする?上がわからねぇんだぞ?』


リリディ

『霊園の地図を見つけましたのでそこまで迷うことはないはず』


彼は懐から古びた地図を取り出す、そんな古いの懐にしまうなよ…

だけども大体の方向はこれでわかるから適当に進まない限り迷うことはない


ティア

『行くしかないね、でも目的はこの建物の遠くに出ることだね』


リリディ

『火葬場まで行くことはないのですからそれでいいと思います』


アカツキ

『じゃあ早速行こうか…』


俺はランタンをリリディから受け取り、穴の前に歩み寄る

最後尾はティアマトに任せるか・・・ブルドンは真ん中にしよう


ティアを隣に、俺は一息ついてからランタンを前に出して歩き始めた

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