第3話 今日は最悪か最高か
足の速さは圧倒的に将軍猪が上、となると俺達は障害物を使って逃げるしかないのだ
直ぐに獣道に入り、木や茂み、そして倒れた木を障害物にして逃げるが将軍猪はそんな障害物を軽々と破壊しながら俺達を追いかけてきてるけども僅かに失速しているし効果はある
『距離縮まらねぇぞぉ!!』
『ほぼ同じ速度ですがこれじゃ先にガス欠ですよ!!』
ティアマトとリリディが声を荒げ、叫ぶ
俺も逃げるのに必死さ、勝てるわけない
獣道に入らなければきっと直ぐ追い付かれてたろうし、食われていても可笑しくはない
将軍猪は肉食だからな
バキバキと轟音が背後から鳴り響くと自然と体が強張る
俺はスピードアップスキルのおかげで引き離せるが二人を置いてはいけない
『このまま崖の川底に突き落とす!』
『出来んのかよぉ!!?』
『じゃないと全員死ぬぞティアマト!』
『くっそがぁ!』
このままだと俺達が先に息切れを起こすのは確実だ
『リリディ!崖どこだ!』
『こっちです!ついてきてください!』
リリディは俺達よりも前に出ると先導し始める
『数百メートル行けば直ぐに崖です!』
『俺はスピードアップスキルがある!避けれるだろうから任せろ!』
『お前ぇ出来んのか!?』
『やるしかないだろ!』
それしかない、後ろからは走りながら獣道の障害物を破壊しながらも徐々に距離を積める大きな猪が迫っている
奴は目があった対象に優先的に襲いかかる傾向があるので俺はそれを利用することに賭けた
既に体力が限界だ、しかしそう思った瞬間に獣道の終わりが見える
出れば崖がある、崖の下は川となっているが深いか浅いかはわからない
そして川の先は広大な森が広がっているがそこは魔物の巣窟だ、冒険者達でもそこに近付くことなんてそうそうない、皆はそこを海抜の低い森と言う。
その森はここら辺よりもランクの高い魔物で溢れかえっている、今追いかけてきている将軍猪も海抜の低い森でしかいない筈なのにな
俺は獣道を抜ける前に顔を背後の将軍猪に向けた、すると巨大な猪はカッと目を見開き
大きく咆哮を響かせる
『ブギュルァァァァ!!』
鬼の様な形相で木々を薙ぎ倒して走ってくる光景は流石に俺も怖い
『今だ!跳べ!』
俺の声を合図にリリディとティアマトは左右に飛び退いて茂みに身を隠した
獣道を抜けてから俺は急ブレーキをかける、落ちてしまうからだよ
ギリギリ立ち止まることが出来てホッとするが崖下を見ると大きな川が小さく見える、深いのか浅いのか、落ちたらきっと無事じゃ済まないだろうな
死ぬかもしれない
しかしこれしかないんだ
『ブギィィィィ!』
その声で背後に振り向いた、スピードupスキルがあれば避けられる、ギリギリまで引き付けてから真横に飛べばいい
森を抜けた将軍猪を見ると心臓が先ほどよりもバクバクしていることに俺はようやく気付いた
息切れから来るものなのか、恐怖から来るものなのか、答えは両方である
『来い!!!!』
俺は低く構えて巨大な猪を待ち構えた、しかし訪れた光景は予想外過ぎるものだ
将軍猪はビクンと体を震わせると目を大きく開き、急ブレーキをかける
何故止まった?何故驚いた?俺の作戦がバレて崖に驚いたのかと思うと俺は焦り始める
完全なる詰みだからだ
走っていないと駄目なんだ、こいつは走れば真横に移動する対象に反応しきれないからこの作戦を遂行したけども、走ってないと普通に反応できるんだよなぁ
『マジかよ・・・』
死ぬ、そう思ったが目の前の猪の様子が可笑しい、明らかに何かに怯えているからだ
俺じゃない、何が起きているかわからない俺はただただ必死に呼吸をして将軍猪の様子を伺う事しかできない
『ブギブギブギィィィィ!!』
将軍猪は俺に背を向けると一目散に森の中に逃げていったのだ
安心からなのか、俺は体の力が抜けてしまいその場に座り込む
よくわからないが危機が脱した、それだけでも俺は嬉しい
普通にあいつと相手しても絶対に勝てない、俺が100人いたとしても意味は無い
蚊が100匹人間に襲い掛かっても勝てるかと言われると首を横に振るだろう
そんな差があるのは俺に対抗できるスキルが無いからである
『助かった・・・』
俺は立ち上がろうと足に力を入れたがその瞬間、俺の足場が崩れてしまいバランスを崩す
『なっ!?不味い!!!』
落ちてしまう、しかしバランスを崩した俺には崖に手を伸ばすことが精一杯
森の中からリリディとティアマトが血相を変えてこちらに走ってくるのが見えるが到底間に合う筈もない
落ちる瞬間とはこんなにも視界がゆっくり動くんだなと俺は初めて知った、音も耳鳴りしか聞こえない
俺は崩れた足場と共に崖から真っ逆さまに落ちていった
不思議と声が出ない、出そうとしても出ないんだよ、叫びたくても体が酷く緊張してしまって空気が口から吐き出せない
俺は落ちる恐怖によって意識が消える迄、崖の上から身を乗り出し、口を開けて何かを叫んでいる2人の様子を見続けた
死ぬのか
人生とは何が起きるかわからない、今日死ぬかもしれないし明日死ぬかもしれない
それが冒険者だ、覚悟はしていてもやっぱり土壇場で起きる確定した死の恐怖には勝てないな
『早く起きてもらわねば我は困る』
何か声が聞こえる、視界は暗いのにだ
死後の世界なのかと目を開けると大きな木が上に見えた
『ぬおっ!?・・ぐ・・』
上体を起こすと右足に激痛が走る、どうやら折れているが俺は生きていた
体が冷たいのは崖下の川に落ちて防具と服が濡れているからである
少しだけ流されて陸地に漂流したらしいけどさほど流されていないな、
だが生い茂る木々によって空が見えない、自然の傘みたいなもんだな
『おい、人間』
『ん』
陸地に顔を向ける、そこには見た事もない魔物が座り込んでいたが俺は逃げ出す力はもうない
しかしその魔物の姿に俺の体は先ほどよりも強く強張った、魔物とはいえない魔物がいたからだ
それは龍、黒い龍である
全長はゆうに20mはあるほどの巨大さだがそんな物体が円を描くように丸くなり、地面に伏せている
本当に龍なのかと思いながらも驚きを顔に浮かべた、しかし様子が可笑しい
かなり重大な怪我を負っているからだが背中の刺々しい黒い刃は殆どが砕けれており、強靭そうな鱗が何個も剥がれて大量の血を流しているんだ
手負いの龍、どうやら動けないんだな
迂闊に近づいたらバクンと食べられそうだし近付くことは出来ない
『致し方ないか、お前しかいないしな』
『何を言って…いや、お前は龍なのか?』
川から体を引きずるようにして抜け出し、陸地で黒龍と距離を保ちつつ話しかけた
目の前の黒龍の息が荒い、死期が近いのだと俺でもわかる
目が虚ろだな
『我は龍だ、名は・・・』
ふと彼は言葉を止めた、俺は軽く首を傾げるとその黒龍はフッと鼻で笑い、答える
『我はリュグナ、龍の中の龍であり最強種の中の最強だ』
『そんな龍が手負いか』
『気に障る言葉を言う人間だな、まぁいい』
怒らせたら不味い、手負いでも絶対に勝てない
というか人間が束になっても勝てるどうかすら怪しい存在だ
昔には他国が半壊するまで龍と戦ってやっと打ち倒したと言われているけども単騎で国とまともに戦える生き物なんて化け物の中の化け物しか出来ない
こいつはその中の1頭、怪我をしていてよかったし死ぬ間際だ
『なんで手負いなんだ?』
『時間が無い、貴様に俺のスキルを託す』
『はっ?』
勝手に口が半開きになる
頭の整理が追い付かないぞ
『俺はもう死ぬ、しかし俺のスキルを墓場に持っていくのは我慢ならぬから貴様が持て』
どういうことだ?罠じゃないのかと話しかけるが瀕死の龍は死ぬ寸前にそんなつまらない事をして何の意味がある?と告げるがその通りだ
俺が追いかけられていた将軍猪はこいつの気配を感じ取ってしまって逃げていたんだ
格上にも果敢に突っ込むと言われる猪でさえ龍の気配には勝てなかったんだな
森からは鳥の鳴き声も、生物が近くにいるような様子は見えない
まるでこの龍を避けるかのようにこの場所だけが異様な空気となっている
龍に体を向け、両足を伸ばした状態で地面に座ると奴は話し始めた
『俺が死ねばスキルが籠った魔石が出てくる、だが魔石は誰にも見せるな?龍の魔石となると人間の世界では莫大な金となる、夜に歩けなくなるぞ?殺してでも大金を欲しがる輩など人間には多いだろうしな』
龍の魔石はいくらなのか考えた事は無い
この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、桃金貨とあるが銅貨10枚で銀貨1枚分
銀貨10枚で金貨1枚分そして金貨100枚で桃金貨1枚分である
龍の魔石ならば楽して当分楽して暮らせるが売って換金して狙われるのは嫌だ
とりあえずは売らないで隠しておこう
俺は何のスキルなのかとても気になった、龍のスキルとなると誰も知らないからだ
基本的に100回倒して1回スキルが入った魔石が手に入るんだけども龍を100回倒しましたなんて頭可笑しいレベルの人間なんて見た事も聞いた事もないからな
誰も知らないスキルか、恐怖を忘れて興味が先行した俺は片足で立ち上がると勇気を振り絞って黒龍リュグナに話しかけてみた
『わかった、お前の魔石は売らないで隠しておく』
『そうしろ、お前が死ねば今迄お前がドロップした中で希少価値のあるスキルだけが体内から魔石となって出てきて奪われるだろうな・・・スキルも隠し通さねばお前はいつか狙われる存在となる、それでもいいか?』
『冴えない冒険者だしちっこく冒険者ライフして誤魔化すさ』
『ならば安心だ』
黒龍リュグナは話し終えると呼吸を弱らせ、徐々に目を閉じていく
『サザヴィーめが、次は・・・こうはいかん・・ぞ』
リュグナはそれを最後に目を閉じた、息も既に無い
死んだとわかっても近付く事が出来ないのだがそんな黒龍の体から小石程度の垢黒く光る魔石が出てくると俺は恐る恐る黒龍に近付き、地面に落ちた魔石に手を伸ばした。
とても綺麗だ、魔石の中に綺麗な夜空のような星が沢山見える、こんな魔石見た事ない
『これは・・・』
黒く発光する魔石に手を近づけた時にスキルの名が頭に流れ込んで来た
『開闢(カイビャク)?』
やはり聞いた事もないスキルだが首を傾げた瞬間にそのスキル情報が俺の脳に流れてくる
別に吸収しないとどんな効果なのかわからないというギャンブルは無い、手を伸ばして触れればスキル名とその効果が自然と脳に情報が流れ込むんだよ
今の俺の実力では1日に1回しか使えないのかこれ・・・しかし
俺は黒い魔石を握りしめ、そのスキルを吸収した
黒い光が俺の腕を通って体に浸透するとそれは体の中に消えてしまう
ステータスを開いてスキルスロットを直ぐに確認し、夢かどうかを見定めた
・・・・・・・・・・
アカツキ・ライオット
☆アビリティースキル
スピード強化【Le1】
☆技スキル
龍・開闢【Le1】
☆魔法スキル
称号
・・・・・・・・・・
『マジかよ』
俺は片足で黒龍から離れると川の近くで腰を下ろす。
死に絶えた龍に視線を向けるとその巨大な体は光り輝くと粒子となって空に消えていったのである
他の魔物とは違って死体が残らないんだな、初めて知ったよ
んで俺は生きてるんだな、死んでない
『よかった』
ドサッと後ろに倒れて手を広げた
春で良かった、寒い季節に川に落ちていたら今頃凍死してたかもな
『開闢(カイビャク)か・・・』
上に手を伸ばし、呟く
レベルはまだ1だがこれを最大の5にする為には沢山使用しないと熟練度は上がらない
技スキルや魔法スキルは回数で経験値が上がる、アビリティースキルは同スキル付き魔石の吸収か、熟練度でレベルが上がる
しかしかなり敵と戦わないと駄目だし、近道である強敵と戦う方法も危険なので俺には無理だ
強い技じゃないく凄い技だ
『アカツキィどこだぁ!』
『アカツキさん!どこですか!』
ティアマトとリリディの声が聞こえてくるが崖を迂回して降りて来てくれたか
タイミングは完璧だ、助かったんだな
俺は大声を上げて彼らに居場所を知らせてからティアマトにおんぶされ、俺達の街であるグリンピア迄運んでもらう事にした
帰り道の森の中はやけに静かだ、魔物の気配も感じないとリリディが話す
1回ぐらいは魔物と遭遇しても可笑しくは無い筈なのに今回は逆に運よく出くわさない
『本当に死んだと思って思考が停止したぜ?』
『そうですよアカツキさん、僕でも流石に驚きますからね?』
いつもクールな顔をしていたリリディは将軍猪に追っかけられている時は見た事もない必死な顔だった、それを思い出すと笑いが込み上げてくる
『大怪我してるのに何笑っているんですか・・・』
リリディは溜息を洩らした
『まぁ無事だったんだ、次はてめぇ無理すんなよ?』
『わかったよティアマト、すまなかった』
『おう、まぁしかし助かったぜ・・・サンキューな』
良い仲間達だ、永年連れ添っているが飽きる事は無い
こいつらといると毎日が楽しいと感じるが彼らもそう思ってくれているのだろうかといつも考えない事を考えてしまう
しかし笑いながら話す2人の顔を見ているとそんな疑問も忘れてしまう
夕方過ぎ、俺達は冒険者ギルドに行くとティアマトにおんぶされたまま受付でゴブリンの魔石3つとディノスライムの魔石2つを受付嬢に渡して依頼書に完了の判子を押してもらう
報酬金額は金貨1枚に銀貨6枚、んで魔石報酬が丁度銀貨4枚と安いがゴブリンとディノスライムだし仕方がない、時価って時もあるけどもこの低ランクの魔石にそんな現象は起きることはないと俺は思う
いつでも安いんだ
『今すぐ治療室に来なさいアカツキ君!』
その声に俺はびっくりしてティアマトの背中から落っこちてしまった
声の正体はここの副ギルド長クローディアさんだが彼女はカンカンになりながら俺の首を掴み、1階の奥へと連行されてしまう
苦笑いする仲間2人に後は任せ、俺は強引に彼女に釣られて治療室に運ばれた
依頼中に怪我をすればギルド保険に加入していた俺は無料で治療を行える、月に銀貨3枚を毎月払っているから問題は無い
7畳ほどの小さな部屋、壁も天井も白いしベットはクリーム色をしている
椅子が横に2つ並んであるが同時に茶色の大きめな机もそこにはあった
その椅子にはクローディアさんと医者が座っており、俺の足の容態を見てくれていたが綺麗に折れているらしく
ギブスをつけてもらう事にしたんだけどもいざつけるとこれが重いんだ、ちゃんと骨を固定するためなんだから文句を言わないの!ってクローディアさんがプンスカ怒ってくるが医者はそんな彼女の様子をみて苦笑いをして口を開いた
『まぁでも先ほどの話を聞く限り、奇跡的に骨折だけで済んだのですから良しとしましょう』
『ですが先生』
『それよりも将軍猪がいることを他の冒険者に知らせて素早く対応しないと最悪街の近くに降りてくるやもしれませんよ?』
医者の言葉にクローディアさんは頭を抱えると一息ついて立ち上がり、俺の頭を撫でて口を開いた
『今回は運が悪かった・・・でいいわ、でも無理は駄目よ?まだピヨピヨなんだから』
『ご迷惑かけました』
『それで良し、じゃ私は将軍猪の報告を上に言うわ・・・発見は有難いわ』
クローディアさんは笑顔になると俺に背を向けて部屋を出て言った
将軍猪となると普通の冒険者でもかなりの強敵だから警戒する必要があるんだよ
魔物ランクBはそれだけ人間には脅威になる存在だ、早めに排除する対象となる
俺はティアマトの肩を借りて家まで送ってもらうことにしたがリリディも隣にいる、近所同士だしね
俺は悩まず彼らに今日起きたことを話したんだ、その時の二人の顔は同情してますよと言わんばかりだ、信じてないな
『心も病みましたかアカツキさん、綺麗なお姉さんで癒されるべきです』
『そりゃてめぇだけだろーが』
『心外ですねぇ、男は従順に生きるためには大事ですよ』
涼しい顔して躊躇いもなくピンクな感情を口にするリリディ
それに会話するティアマトは俺に助けを求めるが俺に言われても困る
グリンピアの町並みは自然をイメージしており、道の脇には転々と均等な感覚で木が植えられている
建物の前にも上木鉢が沢山あり、花などが飾られているのだがここまで花や緑を強調した街は俺の国『マグナ』ではここグリンピアが一番だろう
すれ違う人々がこちらを見たりするが恥ずかしい
たまに知り合いが俺を見つけるとクスクス笑ったりしているのを見ると明日から外を歩けるか不安だ
『まぁお前の怪我治るまで一先ず大人しく筋トレしとくぜ』
『ティアマトさんのいう通りアカツキさんの怪我が完治するまでゆっくりしますか』
リリディは眼鏡に触りながらティアマトの意見に賛成をする
住宅街に入ると2階建ての民家が多く、店は少ないが飽く迄ここは人が住むための地区だからだ
リリディが先に俺達と別れるとティアマトは俺を家の前まで運んでくれた
松葉杖は確か家に残ってたし、大丈夫だ
玄関の前に下ろしてくれたティアマトは俺を見ると苦笑いして話しかけてくる
『お前は頑張った、じゃあな…何かあったらこいや』
『助かったよティアマト、またな』
『ああ』
彼は笑うと軽く手を上げてから背中を向けて歩いて行ってしまう
骨折してるし完治は2週間はかかる、そんな時間が空いたら逆に戻れるか不安にさえなるが大怪我だし諦めるか
治ったら思いっきり3人で冒険者生活を満喫すれば良い
『言いそびれたな』
起きたことを話したがステータスを見せるの忘れてたよ
しかし治ってからでも大丈夫だろうと思った俺は玄関に体を向けると片足で飛び跳ねながらドアに近寄って開いた
すると目の前にはタイミングよく廊下を掃除する妹のシャルロットがいたのだ
黄色髪でセミロング、小顔で可愛いと言われるが家にいるとそう感じることが出来ない
『どしたのアカ兄ぃ?新しい装備?』
『骨折だよ、崖から落ちたんだよ』
『人は空を飛べないんだよ?』
『違うからぁ!?』
丁度夜食の時間だ、シャルロットに松葉杖を持ってこさせてからはリビングに真っ直ぐ向かったよ
床はモコモコした絨毯、3人座れるソファーがあるがベットにもできるんだよこれ
奥には暖炉があり、冬に大活躍さ
壁の色はクリーム色で非常に落ち着ける広めの部屋なんだがそんな3人用のソファーには父さんが夜食前のビール片手に飲みながら俺の帰りを待っていたようだ
『アカツキどうしたそれ?』
まぁ崖から落ちたと説明すると笑われたよ
落ちた場所も教えたらあの辺の崖下に見える川は深いところが多いからそれで助かったんだなと父さんが教えてくれる
『だが無理は駄目だぞアカツキ』
『わかってるよ父さん』
『本当かしらね』
ふと違う声が台所から飛んできた
『本当だって母さん』
横の台所から顔を出した母さん、小さなクロワッサンが4つ入った皿を持って現れたがどうやら料理を運び終えたようであり、シャルロットも玄関前の掃除を切り上げてこちらにくると家族みんなでテーブルを囲んで夜食を食べ始めた
俺は四人家族、父さんの名はゲイル、街の警備兵長である
母さんはキサラ、んて妹はシャルロットだ
家族とは良好かと言われると俺は普通だと答えるだろう
『骨折だと完治は2週間だろう』
『そうだね父さん』
『復帰したときが大変だな』
父さんは笑いながら再び酒を飲み始める
『完治まて内職手伝って貰おうかしら』
『お母さん、アカ兄の内職って何か不気味』
『なんで不気味なんだ…』
母さんが話すとシャルロットが俺の内職を不気味扱いしてくるが何を基準にそう答えたかわからん
食べ終わってからは2階の自室に戻って刀を机の横に立て掛けてから直ぐにベットに横になる、片足しか使えないとなると移動が疲れるよ…
今日は死ぬ気で走ったらから明日は軽い筋肉痛になるだろうな
しかし俺の部屋も殺風景なもんだ、焦げ茶色の机の隣には本棚が2台あり、暇なときに読む本がいくつも並んでいる
机の上にある船の模型だがかなり大きい、昔父さんに買って貰って夢中で作っていたな
『2週間か』
完治はだいたいその程度、回復魔法ならば確かスキルレベル次第では即完治出来るが回復魔法持ちはこの街にいるかと言われると、聞かないな…
都会ならば数人いるけどもそのくらい超レアな魔法スキルなんだよ
俺は上体を持ち上げると枕の下に置いていた魔物の本を取り出して読む、これは半年に1度更新されるが一部の魔物に関して新発見があれば新しく本は作り直されるのだ、その都度買う羽目になるし値段は銀貨2枚とちょっとだけ高い
『怪我してなきゃさっそく明日から試したかったのに』
新しいスキル、開闢(カイビャク)だが技の属性は龍になっていた
超強い技ではないが今の俺には役に立つだろう
まさか丁度良く斬擊系の技スキルとは運が良かったがこれは2週間後の楽しみにするしかないようだ
『アカ兄ぃ、お客さんだよー!』
ドアの外から妹のシャルロットが叫んでいる
『いれてくれー』
しばらくするとドアを開けて入ってきたのは予想通りティアマトとリリディだが彼らは部屋に入るとそのまま床に座り、直ぐに話しかけてくる
『アカツキさん、将軍猪ですがランクが高い冒険者チームが3組引き連れてクローディアさんが向かったらしいですから早めにあれは倒されるでしょう』
『ギルドの対応は速いな、さすがクローディアさん』
『今この街の冒険者ギルド長がいないんですから彼女が実質トップですよ、昇格も時間の問題ですね』
『おまけに強いとも聞くしな』
クローディアさんは元冒険者だしそりゃそうだ、しかし元冒険者時代の話を誰も知らないのは残念である
彼女にはこの1年でかなり世話になったしそろそろあの人の誕生日となるからなんか買うか?とティアマトが提案するがあの人から見たら俺達はガキだ、軽いプレゼントなら大丈夫だろうと答えると話はスムーズに進み、あの人が好きなどら焼きとなる
『冒険者活動だがアカツキの病み上がり考えりゃ初日はゆるく行こうぜ』
『僕もティアマトさんの意見に賛成ですね』
『二人共心配し過ぎじゃないか』
『あぁん?俺達ゃまだぺーぺーだからしゃーねぇだろ?』
確かにな、焦らず行こうか
『そうするよ、運動出来るくらい動けるようになったら連絡する』
『おう』
『わかりました』
俺はこの時、崖から落ちた時の話をしようかと思ったが信じてもらえなさそうだしやめるか
でもスキルを見せてから話せば大丈夫そうだ、極力は内緒がモットーだったがこの二人ならば俺は安心して教えれる
『俺のステータス見てほしい』
『『?』』
二人は首を傾げる、いつかはこの二人には必ずバレる
いつもステータスを見せ合っていたのにいきなり隠したりしたら逆に関係が悪くなりそうだしさ
俺は自分のステータスウィンドウを出現させるとそれを二人に向けた
・・・・・・・・・・
アカツキ・ライオット
☆アビリティースキル
スピード強化【Le1】
☆技スキル
龍・開闢【Le1】
☆魔法スキル
称号
・・・・・・・・・・
『どう?』
予想以上に驚いた二人の声が俺の家に響き渡った
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