第2話 特別講習
俺はどうやら寝ていたらしい
頭に痛みが走ると口から微量のヨダレを流したまま、机から頭を起こした
『暢気に寝てんじゃねぇよ』
隣にいる男は昔からの馴染みであるティアマトだが筋肉大好き男だ、見た目だとどこぞの傭兵かと間違われそうなくらい出来た体つきをしているが俺はこいつに頭を叩かれて起きた
彼は椅子に座って腕を組んでいるが俺を見て溜息を漏らしている
すると逆隣からも声がかかる
『まったく・・・緊張感がありませんよ』
こいつも幼馴染だ、名前はリリディって言うけども眼鏡を触って天才らしさを匂わせる白い髪のこの男
しかし見た目に騙されちゃいけない
俺達3人は学園卒業後、直ぐに昔から夢であった冒険者となり1年が経過する
全員が19歳であり、冒険者ライフを初めてからまだランクは最低のFだ。
何故かと言うと、とことん運が悪いのかもしれないがこれも言い訳でもある
それはこれからわかる筈だ
ここはマグナ国、その中にある田舎街グリンピアだが生まれも育ちも3人一緒だ。
その冒険者ギルド内の2階の多目的室にて特別講義をしていたのだが参加人数は俺達3人だけ、その講義をしているのは・・・
『私の講義、つまらない?』
赤い髪の女性が正面に設置されている黒板の前で腕を組み、豊満な胸を強調させながらも満面の笑みを浮かべているが額にはハッキリと青筋が見ている、完全に怒っているとわかると俺は息を飲んだ
『すいませんクローディアさん』
『よろしい、では講義再開です』
この人は副ギルド長のクローディアさん、美人だけども気が強いし力も強い
30手前で彼氏無し!!!現在彼氏募集中、とたまに決め台詞で口にする自称乙女だ
しかし冒険者の間では《鉄女》と異名を持ち、彼女の前でそれをいう事は禁句である
そして何故俺達がこんな事をしているかというとギルドの規則で1年以上ランクが上がらない冒険者チームがあると特別に抗議を行えるんだ、俺達は1年間ランクFから上がっていないのであるる。
しかしあと2回Eランクを達成すれば俺達は晴れてEランク冒険者である
『では質問ですティアマト君、君達の冒険者ランクでは依頼レベルはどのランク迄受注可能ですか』
頬杖をついていたティアマトが面倒臭そうな声で答える
『ソロだと同ランクのF、だがチームだと1つ上のEだ』
『よくできました、ご褒美に彼女になってもいいわよ?』
『・・・・』
口をへの字にするティアマト、どうやらクローディアさんは冗談半分だがあとの半分は考える勇気は俺に無い
その様子をリリディが眼鏡を触りながらも鼻で笑っていた
するとクローディアさんが俺に問題を出す
『ではアカツキ君』
俺は突然呼ばれてぎこちなく返事をする、既に頭は起きているから大丈夫だろう
ニコニコしながらこちらに歩み寄るクローディアさんは両手を僕の机の前に置く
明らかに俺の視線は彼女の胸にいきそうになるが何とか耐える、これは邪念だと何度も言い聞かせるとクローディアさんは耳元で口を開いた
『技・魔法スキルにアビリティースキルの保有最大数を言いなさい』
『全部5?』
『不正解』
クローディアさんは苦笑いしながら俺の頭を軽く小突き、黒板に歩いて戻る。
彼女は正解を言ってもらおうとリリディに当てるが彼もダメ
秀才染みた容姿なのに物覚えの悪さはぴか一だなこいつは、秀才詐欺リリディの異名は伊達じゃない
その問題はティアマトが当てるが技と魔法そしてアビリティースキルの全てが7つだ
技スキルと言うのは武器に対応した技の事であり、それは最大7つまで保有する事が出来ない、剣の技スキルなのに槍を持っても剣技は勿論使えない。
魔法スキルも同じくである
しかし魔法は大丈夫、体の魔力が足りれば何でも使える
アビリティースキルは身体能力上昇用スキルや耐性スキルが大半だと覚えてくれればいい
そして特定のスキルを持っていると称号を貰えるのだが狙ってなれるわけがない
魔法スキルに光属性が数個(忘れた!)、技スキルに剣技数個で聖騎士の称号が手に入るらしい
聖騎士以外にも竜騎士とかヴァイキングとか称号が色々あるんだけども称号を持つことはこの街の冒険者でも本当に少ない、いるとそりゃ街でも有名になれるんだよね…田舎だし
都会に行けばここより多いって聞く。
んで称号を会得すると更にステータスに称号スキルというのが追加されるんだけどもそれは俺もよくわかってない
そんな講義をダラダラと聞いていると最後にクローディアさんは俺に最後の問題として当ててくる
黒板の横にある椅子に座る彼女は足を組んで俺に言い放つ
『ではスキルの入手方法と注意点を述べなさい』
『魔物討伐時、1%の確率で魔物の体から発光したスキル付き魔石がドロップしますが1分以内に魔石を握って体に吸収しないと効果が消えます』
魔物を倒すとその魔物の特徴に近いスキルが1%の確率で体からニョキッと出てくるんだ
1分以内に触って体に吸収しないと魔石の光は消えてしまう、俺達は1年間ひたすら弱い魔物を数をこなして討伐してきたが手に入ったスキルは俺達のステータスウィンドウを見ればわかりやすいさ
・・・・・・・・・
アカツキ・ライオット
☆アビリティースキル
スピード強化【Le1】
☆技スキル
☆魔法スキル
称号
・・・・・・・・・・
リリディ・ルーゼット
☆アビリティースキル
☆技スキル
☆魔法スキル
風・突風【Le1】
称号
・・・・・・・・・・・
ティアマト・ウロボリス
☆アビリティースキル
☆技スキル
連続斬り【Le1】
魔法スキル
称号
・・・・・・・・・・・
見てわかる通りだと思うが1年間魔物相手にヨダレ垂らして戦っても3つのスキルしか手に入ってないんだよ!運悪過ぎじゃないか!と俺は特に思う
俺の武器は刀と珍しい、親父がお爺ちゃんから貰ったのを俺にくれたんだ。
リリディは魔法使いの称号を夢見ているので頑丈な木製スタッフを持ってる
魔物が現れると何故かそれを振り回すのは魔法使いを目指す男には見えないのは気のせいか?
ティアマトは片手斧、攻撃専門だが唯一攻撃スキルを持っているのでトドメはいつも彼が担当だが低いランクの魔物は技や魔法スキル持ちはほぼいないから俺達にとって彼の技は貴重である
スキルの横の枠はレベルだが最大5まで上がる、まぁ上がれば質も上がる以外説明はいらないだろうな
『本当に貴方達沢山討伐してるのに運が無いわねぇ』
椅子に座っているクローディアさんの言う通り、それ以外考えられない
流石に1人1つずつは攻撃出来るスキルが欲しいなと俺達はいつも思っている
1人だけしか技を持ってないしさ、リリディの突風は魔法だけども対象のバランスを崩す効果がある
彼のも使えるのだけども俺はアビリティースキルのスピード強化のみ、これはエアウルフという狼を倒した時に偶然手に入れたドロップスキルだ
リリディの突風は鳥だったけども名前を忘れたよ、ティアマトの連続斬りはゾンビナイトだったな、あと1つその魔物はスキルを持っている筈だが
『まぁ急いでるわけじゃねぇけどな』
ティアマトがクローディアさんに話す
彼女は軽く微笑むと椅子から立ち上がり、背伸びをする
体の美しいボディーラインが凄い、リリディが誰よりも真剣な眼差しで眼鏡を外してその体を見ていた
『まぁそうね、貴方達まだ若いし・・・スキル所持限界は各スキルで7つずつ、魔物によって保有しているスキルも違うのも忘れちゃ駄目よ?』
『『『はい』』』
1時間の講義が終わる、2階の吹き抜けから1階ロビーを見下ろすと中央に設置された沢山の丸テーブルの椅子に座って寛ぐ冒険者が多く見受けられる。
今残っている冒険者は今日は森に出かける感じではないようだな、休暇だろう
時刻は既に昼過ぎで俺達もお腹が空いている、飯でも食べてからまた3人で近くの森に行くかとティアマトがやる気満々で俺達に話す
森はここから近い、南に歩いて30分の距離に魔物が潜む森があるのだけれども3人共ここから家も近い、10分ほど歩けば直ぐに街の住宅街に入れるしさ
2階の吹き抜けの手すりから1階を眺めているとクローディアさんは俺達の頭を順番に軽くポンと叩いてから奥の廊下に歩いていく
『他の冒険者より遅れてるからって急いで怪我したら駄目よ、いつでも誰でもチャンスはあります』
背中を向けて言い放つと彼女は廊下の先のドアを開いて中に入って行ってしまう
俺達もここにいても仕方がないので2階のテラスに向かう
そこで屋台を広げるトンプソン爺さんが俺達を見つけると直ぐに屋台の中から話しかけた
『クローディアちゃんのエロエロな抗議楽しかったかい?』
表現が汚い、そして鼻息が荒い、しかしあながち間違いではない
良からぬことを今確実に考えてそうだがその変態に似合わずに老人にしてはしっかりした体をしている
昔何をしていたか聞いても『内緒!』と可愛くいうだけだ
俺達は顔を見合わせると苦笑いを見せるが肝心のトンプソン爺さんは俺達の反応を見てから彼の奢りで昆布お握りを1つずつくれた。
この屋台はおにぎり専門店という変わった品を置いているけども1つ銅貨2枚と案外お手軽なのだ
グリンピアの冒険者ギルドから特別に許可を貰ってここで屋台を出しているらしいが普通はそんな大それたこと不可能だ、まぁ周りに飯を食える店が無いから対応措置として屋台経営を許可したのかもしれない
あるのは1階にバーがあるだけ、たらふく食える料理は出ないからな
食べ終えると俺達はトンプソン爺さんにお礼を言ってから森に向かう事にした
『怪我すんなよイディオットのピヨピヨ達ぃ』
手を振るトンプソンさんに俺達は答えた
『行ってきます』
こうして1階ロビーの先にある受付カウンターの横の掲示板の張り紙を見回す
ティアマトが目ぼしい依頼を見つけ、彼が2枚手にすると3人で話し合ってからそれに決定して受付カウンターにいる可愛い受付嬢アンナさんに依頼書を出す
『遅い時間にご苦労様です、どちらもゴブリン3体の討伐とディノスライム2体の討伐でよろしいですね?』
『お願いします』
俺はそう答えると冒険者の認証を行うために白い冒険者カードに僅かに魔力を流して光らせる
本人認証のやり方だ、本人以外は光らないのだ
俺とリリディそしてティアマトが同時にそれを見せると本人確認は終わり、受付嬢が依頼書2枚に受注済みの大きな判子をドンッと力強く押して俺達に渡す
『遅くなったら駄目ですよ~デコボココンビさん達』
『わかってますよ、美しい受付嬢アンナさん』
『リリディ君はいつもお世辞が上手いわねぇ』
受付嬢のアンナさん、笑顔だけども凄い棒読みだ
リリディの言葉を無で聞いている様だが正解である
俺は依頼書を懐にしまってから外に出ると3人で軽くだべりながらも森に出かける事にした
季節は春であり、風が心地よい、冒険なんか中断して近くの原っぱで横になって寝ても良いと思う位だよ
『そろそろスキルの1つくらい欲しいよなぁ』
共に歩くティアマトが片手斧を右手首を使ってクルクル回しながら空を見上げて話す
かなり俺達は運が悪いともいえよう、1年でスキルが3つしかドロップしていないからだ、普通ならばもっと手に入れている筈だよと他の冒険者達にも苦笑いで言われ、何故か飲み物を奢られる
1年もチームを組んでまともな攻撃スキルが無いのは致命的、それは副ギルド長クローディアさんも話していたし心配もしてくれている
一番力があるティアマトに初めての攻撃スキルを渡したけども彼で正解だったかもしれない
そのスキルを持つ対象の身体能力で威力も変わるからだ、筋肉質の彼ならば俺達よりもきっと良い筈である
『俺も攻撃スキル欲しいよ』
『アカツキさんはアビリティースキル1つだけという悲しみを背負ってますから次の攻撃スキルがあれば優先した方がいいでしょう、僕は魔法使いたる大きな一歩の風魔法がありますからね!』
胸を張って歩くリリディ、しかし突風にダメージは無い
魔法スキルがドロップしたらそれは彼の独り占めになるから安全圏内に彼はいる
『俺もそれでいいぜぇ?』
『ありがとうリリディ、ティアマト』
『まだ1年目だし俺達ぁまだ19だぜ?』
ちなみに冒険者解禁は18歳からだ、規則ではだがな
村とかだと俺達より若い者が生活の為、森で魔物相手に狩りをしたりとかは珍しくない
『確かにまだ1年だ、出だしは悪くてもずっとそうだと決まった訳じゃないさ』
俺はプラス思考に考えるとリリディもそれに便乗してくれた
『その通りですね、世界が僕を知るまでがちょっと長引くだけです』
『リリディおめぇ・・・もしや子供の頃の夢だった賢者狙いかよ』
『夢は大きく高く、がモットーですからね』
フフンと笑みを浮かべて眼鏡を触るリリディは楽しそうだ
誰にだって夢はあるからな、俺もティアマトにもな
30分後には森の中に入る事が出来た、草は膝まで生い茂る道に入るけどもそれよりも面倒な獣道を通るつもりはない
できるだけ開けた場所にて魔物の発見が遅れないように辺りを見回して慎重に進む
木々には鳥が枝に掴まって何やら鳥同士で会話している様だが何を話しているかはわかる筈もない
たまに兎が前を通り過ぎるが普通の小動物もこの森には沢山棲んでいる
鳥もいれば兎もいるし鹿だって狐もいるのが森だ
勿論魔物だって存在する
『ギャギャ!』
不細工な声を出して奥の道から顔を出したのは2体の緑色の肌をしたゴブリンだ、身長は小さく、その右手には錆び付いた短剣を持って走ってきた
Fランクの魔物の為、俺達でも討伐は難しくない対象だが油断すれば怪我をするだろう
『あと1体連れてこいや』
ティアマトが襲いかかるゴブリンに愚痴を漏らす
しかし倒しやすい数が来てくれて都合が良い
『ティアマト!1体頼む!リリディ行くぞ!』
『おうよ!』
『わかってますよ!』
1体はティアマトに任せ、俺はリリディと残りの1体に走り出す
ゴブリンは錆びた短剣を振り上げるが俺は刀を斬り上げてゴブリンの短剣を弾き飛ばした、宙を舞う錆びた短剣をゴブリンはバランスを崩しながら視線を向けるがその隙にリリディがゴブリンに向けて木製スタッフをフルスイングしながら叫んだ
『賢者バスター!』
これは技スキルではない、彼が勝手につけた技名だが、ただ木製スタッフをフルスイングして対象にぶつけるだけ、技なのか疑問だよ
『ギャッピ!!』
ゴブリンの顔面にそれが深く食い込むと後方に吹き飛んでいき、木に背中をぶつけてからその場に倒れると動かなくなる
体は強くない魔物だし一撃で死んだのだろう
『おらぁ!』
『ピ!』
ティアマトは片手斧を振り下ろしてゴブリンを両断、彼も一撃である
倒したゴブリンの体から魔石が出てくるが光ってはいない
どうやらスキル獲得は出来ないようだが俺達は揃って溜め息を漏らす
『ったくよぉ、ゴブリンも腐るほど倒してんのにゴブリン程度のスキルすら出ねぇのかよ』
『ゴブリンのスキルは基本的な気配関知、欲しいもんですがね』
ティアマトとリリディが肩を落としながらも話す
気配関知は近くの魔物の気配を探るためには重要なスキルであり、敵の奇襲対策にもなる
『まぁ上に登る為の必須スキルは欲しいよな』
『そうだぜ』
『そうですよ』
今のスキル数では無謀だ、だからランク昇格条件に達成しない程度に依頼をこなしている
俺はゴブリンの体から出てきた小石サイズの魔石を腰の小さな革鞄に入れるとみんなと共に森の奥に進む
風が暖かくて眠くなりそうだ、雲の流れは早いが空は風が強いのだろう
『おらぁ!』
ゴブリンが1体、川辺で水を飲んでいたのでティアマトが近付いてから斧で斬りつけて倒す、しかし背後から音も立てずに近付いたというのにティアマトが歩み寄ると急に振り向かれたのには驚いた、気配でバレたのだろう
『おおおおお!』
『??』
ティアマトが興奮しているようだが俺とリリディは茂みから顔をだして川辺にいるティアマトに走って近付く
なんとゴブリンの体から発光した魔石が出てきたのだ、3人で魔石に手を伸ばすとそのスキルは気配関知であった
『どうするよこれ!』
『どうしますかアカツキ』
二人は俺に顔を向けて意見を聞こうとしている
ゴブリンの気配関知は貴重だ、早く決断しないとスキル効果が消えてしまう
『リリディ、頼む』
『君がいいなら嬉しいですがティアマトさんはどうなんです?』
『俺は技スキルあるから問題ないぜぇ?連絡係頼むぜリリディ』
ティアマトは笑いながらリリディの肩を軽く叩く
『やれやれ』
リリディは眼鏡を触ると発光する魔石を左手で握りしめた
彼の左手から体に向かって白い光が流れ込んでいく様子が伺えるがこの光景に慣れてない俺達は少し興奮してしまう
『ありがとう』
リリディはそう告げると光が消えた魔石を俺に渡した
一先ずは大事なスキルを1つリリディが手に入れたが出来れば全員が欲しいな
『今日は良い日だな』
『当たり前ぇだ、スキルだぜスキル!』
『悪運の僕らも今日は報われましたね』
今日を自己満足で終わらせるには丁度良い
数分間の休憩を挟んでから再び森の中に入るとリリディの気配関知が魔物を捉えたらしく、正面から来ると告げるとその魔物は直ぐに姿を現す
『プギィー!』
赤猪という小柄な赤い猪魔物が1体、森の茂みの向こうから走ってきた
可愛い鳴き声だが体当たりされればそれなりに痛い
『貰いぃ!』
大きくはない赤猪は突っ込んで来た所でタイミングよくティアマトに斬られて動かなくなる、マジマジと見つめても出てくるのは光らない魔石
回収してからはディノスライムという緑色の半透明で肉食獣の頭骨を内部に取り入れ、核を守るスライムを探し回ると予想以上に早く見つけることが出来た
サイズは30センチぐらいが平均的であり、核を破壊すれば死ぬ
その核を小さい肉食獣の頭骨の中に隠して守っているがこのディノスライム
こいつは草食であり、薬草類を体の体液で溶かして食べるのだ、骨は拾っているんだとさ
斬撃よりも打撃が有効だからリリディのスタッフで叩きつけてディノスライムの内部の頭骨を砕き、核を破壊した
2体同時に出てくれたからこれで依頼は全て完了、勿論魔石は発光していなかったよ
『今日は追加報酬狙わずに帰りたいですね』
スタッフを肩に担いて口を開くリリディはどうみても魔法使いらしさはない
『俺はどっちでも良いがアカツキはどうだ?』
判断は俺、リーダーだからな
追加報酬とは依頼以外で討伐した魔物のことだ、魔石を持っていけば追加報酬が貰えるが今日はいらないな
『スキルが手に入ったしここで満足して帰ろうか』
『おう』
『わかりました』
皆、微笑んで返事をした。
日が暮れそうだ、今帰れば丁度良くギルドに辿り着ける筈だ
俺達は森を出るため、横にならんで歩き始める
『明日は予定通り休みでいいか?』
『いいぜぇ?おふくろの買い物の付き添いあるしよ』
『僕は研究ですね』
『『なんの?』だぁ?』
俺とティアマトは同時に口を開くとリリディはフッと鼻で笑い
木製スタッフを上に掲げて答えた
『どの角度で殴れば魔物は痛がるか…ですよ』
彼は何を目指しているか分からない
俺達は俺達が住む街グリンピア一番の冒険者になる、それが夢だ
今の状態じゃ少しも届きそうもないけどな
『止まってください』
リリディが真剣な面持ちで小さな声で言い放つ
気配関知が発動したと直ぐにわかるが彼の額からは汗が流れている
右側に視線を向ける彼は静かにしゃがみこむと俺達も同じくしゃがみこむ
何がいるかは分からない、しかしリリディがその魔物と出会うのは得策じゃないと口に出さなくても彼の行動で十分に伝わった
息を潜め、近くの茂みに体を隠すと奥からパキパキと小枝を踏んで歩く足音が俺達の耳にも届いた
その正体が現れるとそれは俺達が隠れる茂みの前をゆっくりと歩いて通過していく
誰も声を出せない、圧倒的な力がヒシヒシと体に伝わる
将軍猪、魔物ランクBの凶悪な猪だがデカイ
まるで熊のようだが全長は見た感じ3m程か…こわっ!
体毛は焦げ茶色であり、頭部側面には2本の角が顔の斜め上に向けて伸びているが、これは突進の時に顔を僅かに下げて突進する性質上、角が先端となるような形状になっている、体当たりされれば串刺しってわけだがこれで年間で数人無くなる事もあるそうだ
そして格上の魔物でも果敢に突進する森の暴れん坊だ、俺達ではまだ倒せない
『やっべぇな』
小声でティアマトが言う
あんなのに狙われたら逃げ切れる自信はない、速度も中々にある
『やり過ごすしかない』
『僕も賛成ですよ、あんな魔物倒せるのはこの街にはほぼいませんからね』
『いつか俺達も戦ってみてぇな』
『今は駄目だぞティアマト』
『わぁってるさ、にしてもここまで強い魔物がこんな浅めの森の中にいるなんて驚きだぜ、帰ったらクローディアさんに報告だな』
遠くに去っていくと俺はホッと胸を撫で下ろし、立ち上がる
早々とここを立ち去らないと駄目みたいだ、大きな物音を立てないように忍び足でその場から離れようとした、しかし悪運はここにも舞い降りていた
ティアマトの頭上からタンポポの綿が降りてくると彼はそれを鼻で吸ってしまい、大胆なくしゃみをしたんだよ
『クッッッシュン』
『『!?!?』』
デカい、デカすぎるぞティアマト
森の中に彼のクシャミが気高く響き渡り、それは遠くの山にこだまとなって飛んでいく
俺とリリディは目を開いて驚いた顔をティアマトに向けるが、肝心のティアマトは苦笑いを浮かべ、鼻をすすってから言い放つ
『あ…わり…』
『…ティアマト』
『ティアマトさん』
『ブギュルァァァァァァ!!!』
『走れぇ!!!!』
将軍猪が遠くから鬼の様な形相を浮かべ
木々を薙ぎ倒しながら俺達に襲いかかる
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