第211話 気づいていく関係 2
リゲル、クワイエット、クリスハート、シエラの四人は真っ暗な森の中へと足を踏み入れた
明かりはシエラの光の球体で視界を確保し、クワイエットを先頭に堂々と隠れる素振りも見せずに歩く
時たま、まだ冬毛のエアウルフや毛皮を体に巻いたゴブリンやハイゴブリンが姿を現すが
『邪魔』
先頭のクワイエットは普通に歩いて間合いを縮めていき、襲いかかってきた瞬間に斬り倒す
リゲル
『アンデットもそろそろ増える頃合いだ。だが気にしてる暇はねぇ』
クワイエット
『とりあえず下流いこっか』
四人は川の下流に向かい、痕跡を探す
目的の場所にて辺りをくまなく調べるが、帰ってこない冒険者チームに関連する物は何もない
クリスハート
『あちらは照明弾無しですか』
リゲル
『森から何も観測されてねぇからな』
クワイエット
『でも信号送るならばこの時間帯が最適だね、ニンジャスレイヤーがそれを理解してればだけど』
探しに行く対象は熟練者
彼らの願いは偶然にも伝わった
海抜の低い森とは別の山岳地帯へ向かう奥、大きな木々が見える森の近くで照明弾が上がったのだ
それも2つだ
夜の森ではそれは何よりも目立ち、4人はそれを目視することが出来た
青と赤の照明弾、同時に上がったことにクリスハートとシエラは驚いた
青は全員生存での救助要請、赤は怪我人か死亡者ありの救助要請
何故2つが上がったのか?と疑問を浮かべた
しかしその意味をクワイエットとリゲルは知っていた
クワイエット
『熟練者だったね、なるほど』
シエラ
『あれ何、クワイエット君』
クワイエット
『特殊な打ち方だよ、同時だと意味は違う…普通の冒険者の本には載ってない…調査団とかの本にしか書いてない…きっとニンジャスレイヤーはわかる人がくると信じて2つ撃った』
リゲル
『意味はこうだ。全員無事だが魔物に邪魔されて動けない…強ぇ奴がいるって事だ。ニンジャスレイヤーはランクCの冒険者チーム、しかも結構手練れた4人組の双剣部隊さ、あいつらが手こずるって事は…わかるな』
女性2人は直ぐに悟る
生半可な魔物じゃないのがいるという事に気づいたのだ
シエラ
『…ここから歩いて1時間以上、それも早歩きのペース』
クワイエット
『僕、撃つよ』
リゲル
『頼むわ…。ロリ女…目標の救出対象前に必ず面倒な魔物が現れるからお前は出来るだけ目的地に着くまでは節約だ。俺とルシエラで道は空ける』
シエラ
『了解』
クリスハート
『わかりました』
そうしてクワイエットは白い照明弾を空に撃ち放つ
彼らに届いたであろうそれは『救助する』という意味をこの時は持っている
会話も少なく歩いていると、ふとクワイエットが先頭で口を開いた
クワイエット
『てかさ、幻界の森で驚いたことがあるんだ…シエラちゃんはバハムートって炎魔法特化型の魔法使いを目指してるんだけど、その中でも龍炎だけが鬼門だったんだ、テラが以前言っていたのは龍炎は魔物Aランクのノヴァトラークが持っているっていってたし』
リゲル
『そういやロリもスキルちゃっかり回収してたな…花の姿の龍が持ってたぞ』
シエラ
『驚いた…なんで持ってたんだろう』
クワイエット
『答えは僕らじゃわからないね、あの森にいる魔物の殆どがとんでもないスキルばっかだったね』
クリスハート
『もう行きたくないですよ』
クワイエット
『言えてる…あとカタカタ前から聞こえるからアンデットかな…今丁度気配感知に触れた』
リゲル
『まだ寒い季節見てぇなもんだし夜はアンデットの数は多い、左右にもいるぞ』
クワイエット
『前だけでいい、左右は気にせず今は少し走って距離を取ろう』
囲まれて面倒になると今は疲れるだけ、そう感じたクワイエットは皆に指示を出して軽く走らせる
すると道の向こうから5体のアンデット種が姿を現す
ゾンビナイト3体、そして珍しいパペットゾンビだ
パペットゾンビは既にパペット種ではなく、アンデットと化しており
その姿は赤く汚れた人形の姿をしていた
『アアアア』
『ニィィィィ』
クワイエット
『パペゾンは跳びかかり注意、駆けるよ!止まってたら周りの魔物に囲まれる』
自然と指示を出す者が彼となる
それに異議を唱える者はいない、リゲルでさえ彼をトップに今は一任しているのだ
元聖騎士1番隊の副隊長であった時のクワイエットは技術で戦闘を補うリゲルと違い、腕力と判断力にたけている
ゆっくりと歩いてくる魔物の中でパペットゾンビ2体は同時に飛び掛かり、大きな口を開いてくる
攻撃方法は噛みつくだけだが、噛む力は意外と強く肉を好んで食べるパペット種の変異型アンデット
クワイエット
『邪魔だよ』
デスペル特殊個体ベオウルフから拝借したツヴァイハンターという新しい武器を素早く振り、彼はパペットゾンビ2体を同時に両断する
力なく地面に倒れる2体には目もくれずにクワイエットが前を出ると、続くリゲルとクリスハートが残りのゾンビナイトを軽くあしらって完全に道を開けていく
クリスハート
『全員無事です』
シエラ
『問題なし』
クワイエット
『オッケー、ある程度後ろに引き離した魔物と距離取ったら歩きながら休むよ。止まることは無い。普通の魔物の警戒はシエラちゃんとクリスハートさん。リゲルは早く冬眠から冷めたカマキリ種がいたら面倒だから木の上とか意識』
リゲル
『おうよ』
クワイエット
『100メートル先で歩きながら水分補給』
的確に指示を出していくクワイエット
こうして前を塞ぐ魔物だけを転々と倒しつつ、魔石には目もくれずに進むこと40分が経過した
そこでクワイエットはシエラが少し疲れていることに気づき、3分だけ足を止めて周りに警戒をすることにしたんだ
何故止まったのはを知るリゲルはそれに関して口にすることなく、知らない振りを決め込んで辺りを見回す
だがシエラは自身のせいだとなんとなく感じると、罪悪感を感じ始めた
クワイエット
『そろそろ頃合いだからここで休んでおかないとね、ある程度体力回復して遭難者の近くに行きたいし』
リゲル
『まぁそうだな。歩き続けるっつぅのも何かと疲れるからな』
クワイエット
『シエラちゃんは龍炎ぶっぱなす準備お願いね、初弾はそれで』
シエラ
『うん、わかった』
クワイエット
『別にシエラちゃんが疲れてたからとかじゃないよ?誰が同行してもやっぱり大事な時間の前は足を止めて体は休めないとさ』
リゲル
『そういうこった、ロリ女じゃなくてメガネだったら何回休憩いれてたことか』
リゲルはあどけなく笑う
それに少し救われたシエラの表情が明るみを戻すと、クワイエットは再び白い照明弾を空に撃ち放つ
かなり近い筈、それで売った理由には意味はある
魔物がいて迂闊に出歩けないならば、魔物をおびき寄せる
クワイエットはそれを狙って撃ったのだ
同時にクリスハートとシエラに緊張が走る
どんな魔物が遭難者の行く手を遮っているのか、まだ気配には魔物の気は無い
確かに幻界の森の生還者である4人にとってこの森にいる魔物は比べるまでもないかもしれない
だがそんな彼らでも決して油断はしない
どんな魔物でも人を傷つける力があるからだ
クリスハート
『ここは静かですね、生き物の鳴き声もしない』
リゲル
『それが答えさ…あんま離れるなよ』
クリスハート
『離れませんよ』
クワイエット
『仲いいなぁ』
リゲル
『違うっつの』
クリスハート
『違いますっ』
シエラ
『くふふ』
クワイエット
『面白っ、…なんか唸り声が聞こえるねぇ…シエラちゃん耳良いから集中すれば聞こえるんじゃない?』
シエラ
『?』
彼女はエルフとのハーフ
多少人間とは耳の上部が僅かに伸びているが、彼に言われて耳を澄ませば確かに聞こえる
(クワイエット君、凄い)
静かに地面を歩く足音
それは獣特有の獲物を狩る時の忍び足
微かに聞こえる唸り声は徐々に小さくなり、やがで彼女の耳にも聞こえなくなる
シエラはその意味をしり、杖を構えた
気配感知が働いていないのに、何故彼女が構えたのか
それは経験から学んだ答えを導き出せたからだ
狩る者が獲物をしとめる際、確かに静かに歩み寄るが息遣いは視界に餌を捉えれば限りなく無に等しいくらいに静かになる
自分達は今見られているという事なのだ
気配感知などに触れない魔物である、シエラは瞬時にそれを感じた
他の3人も死線を潜り抜けた猛者、シエラの様子を見て直ぐに武器を構える
クリスハート
『クワイエットさん…少し私は落ち着きません』
クワイエット
『気配感知意味なし、でも何かいるよ…殺気すら感じないけどクリスハートさんの感じる違和感は正解さ、リゲルも感じるだろう』
リゲル
『確かにソワソワするぜ。ここまで気配を消せる魔物って珍しいな』
途端にそれは光の速さで姿を現した
彼らが警戒している方向に見える深い茂みの向こうから飛び出す巨大
瞬時にリゲルとクリスハートがしゃがみ込むが、シエラは反応が遅れてしまう
それをクワイエットが素早く抱き寄せて真横に跳んで避けた
一撃で獲物を狩り損ねた魔物は急に怒りを顔に浮かべながら静かに彼らに体を向ける
全長10メートル、綺麗な青い毛並みの大きな狼
背中から尾まで伸びる白い毛は周りの青い体毛より僅かに長く、そして頭部は2つの角が生えている
両前足の爪は鋭く、その見た目は絶対狩人であることを証明していた
『グルルルル』
クリスハート
『冬を滑る瞬狼…ガルフィオン』
リゲル
『相手に不足はねぇな!ランクBだ!カウンター狙いで行くぞ!』
クワイエット
『シエラちゃん!』
彼女は戦いの火蓋を切った
右手に持つ小さな杖をガルフィオンに向けると、無数の赤い魔法陣を出現させた
それは幻界の森で入手したニードル・アクションという特殊な爆発を引き起こす火魔法スキル
8つの魔法陣から赤い棘が飛び出すとガルフィオンに襲い掛かる
『ガル!』
高速で撃ち放たれた無数の赤い棘の弾丸、ガルフィオンは真横に大きく跳んで避ける
1発が鱗で覆われた尻尾に食い込むが、それが爆発しても傷は僅かしかつかない
縦横無尽に彼らの周りを駆け出す狼
4人は近づくだけ体力のまだだろうと瞬時に悟ると、攻撃が来るのを待つ
獣ならば飛び込んできた瞬間のカウンターでダメージを与え続けるのが定石だが
今相手しているガルフィオンは一味違った
リゲル
『まっ!?』
狼は飛び退き、森の中の闇に紛れながらも口から特殊な弾を放つ
ブレスショットという白い色をした魔力弾の雨
それはリュウグウの世界にあるショットガンという武器の様に散弾に近い攻撃だ
弾は何がに触れると小規模な白い爆発を引き起こす
火属性のスキルではなく、それは世にも珍しい聖属性スキルだった
『ちっ』
クワイエットは舌打ちをし、仲間と共に跳んで避けた
至る所にブレスショットの白弾が地面に命中し、小規模な爆発を起こすと僅かな雪を舞い上がさせて視界を遮る
『グルルルル』
近い、誰もが唸り声でそれを悟ると雪が舞う彼らの側面からガルフィオンが襲い掛かる
狙いはリゲル、しかし狙った相手が悪い
彼は近くにいたクリスハートの肩を押して遠ざけながらもガルフィオンの側面を斬り裂きながら避けた
だが深手ではない、予想以上に皮膚が堅かったのだ
(もう少し強めに振れば良かったか)
後悔の念を覚えながらも舞い上がる雪の中に消えていくガルフィオン
辺りを駆け回る数かな音だけを頼りに、4人は目を細めて待ち構える
シエラ
(ブレスショット…)
クリスハート
(レガシィと似た感じの…)
リゲル
『ニンジャスレイヤーには手に余るな…』
クワイエット
『弱点は雷、残念だけどみんな持ってない…ルーミアさんいないしねぇ』
クリスハート
『どうします…っ!』
また舞い上がる雪の外から飛び掛かるガルフィオン
次なる狙いはクリスハートであったが、突きだす前足の側面を僅かに斬り裂いて彼女は間一髪で避けることが出来た
『ガルルァ!』
次なる攻撃は直ぐに来た、クワイエットだったが彼は攻撃せずに避けると『次シエラちゃん来る!1人ずつ力を見定めてるんだよ!』と叫ぶ
それは直ぐに起きた
ブレスショットが4人の周りに撃たれると更に雪は舞い上がり、視界は最悪となる
次は自分、シエラはそう強く念じながらも目ではなく自分の耳を頼りに聞き澄ます
(っ!)
縦横無尽に駆け回る僅かな足音の中でもひと際強く、大地を蹴りだす音を捉えた彼女の目が見開く
『ファイアテンポ』
その体は一瞬で炎と化し、襲い掛かるガルフィオンを包み込んだ
『ギャオ!?』
流石の魔物もこれには驚くが、素早く飛び込んだためにダメージは少ない
だが違うダメージは深刻であった
『判断最高』
『ガルッ!?』
雪が舞い上がる中、ガルフィオンの側面には既にクワイエットがいた
それは魔物が視界に捉えていた時には既に剣が振り落とされており、避ける暇もなくガルフィオンは深く側面を斬り裂かれた
視界が悪くとも、シエラのファイアテンポによって一瞬辺りが異常に炎で照らされたことによってどこに敵がいるのかクワイエットは見抜いたのだ
息を潜めて近付けるのは敵の専売特許ではない、元聖騎士の1番隊であればやれないことは無い
側面を斬られて狼狽えるガルフィオンに迫るはクリスハート
彼女は声を出さず、冷徹な表情を浮かべたまま静かに狼の顔面を斬り裂いた
この時、魔物は思ったであろう
視界を奪った筈が、追い詰める側が追い詰められていると
魔物としての生存本能は自身より格上だと悟ると、その場を離れる事を選ぶ
だが判断が遅い
クワイエットたちは1度きりの判断で全てを賭ける気でいたからだ
戦闘せは短期戦を挑むのが人間の理想、長期戦は魔物相手じゃ不利でしかない
人間らしく、最初のチャンスで決めることは話し合わなくても4人は勘で感じ取った
『グルゥ!?』
リゲル
『龍斬!』
龍の爪に似た3つの斬撃がガルフィオンに襲い掛かる
獣としての意地か、ガルフィオンは4つの足で大地を踏む閉めて後方に飛び退く
彼の技を避けきる事叶わず、自慢の2つの角が触れると龍斬によって砕かれた
舞い上がる雪の中から脱出したガルフィオンは相手が悪かったと本能で悟り、今は逃げる事を選ぶ
しかしこの時に奴は1人を忘れていた
ファイアテンポで炎と化していたシエラがどこで実体化したこと、それを考える暇などなかった
森に視線を向けようとすると、奴の視界には行く手を遮り、なおかつ赤い魔法陣を向ける彼女の姿があった
目の前に広がるは祖龍と呼ばれる動体が長い龍の形をした真っ赤に燃える炎
ガルフィオンは自身が逃げれぬことをこの瞬間で知る
強い魔物程頭が良い、ましてやそれが狼となると
シエラは気づいていた、相手が格上と知れば強い狼ならば逃げる筈だと
彼女はファイアテンポで仲間から離れて舞い上がる雪の外に移動していたのだ
きっとくる、逃げる為に姿を現すと信じていた
『終わり』
血だらけのガルフィオンは龍炎の直撃を受けると体中を炎で包み込まれてその場で暴れ、のたうち回る
普通の火とは違い、上位互換である炎はちょっとやそっとじゃ過ぎに消えることは無い
そして龍炎とは非常に特殊であり、ガルフィオンにまとわりつく炎は龍の姿で奴に巻き付き更に苦しめる
『おら!』
リゲルが全力で剣を振り、舞う雪を全て吹き飛ばす
彼らの視界には龍炎に苦しめられるガルフィオンの姿
Bとなると一撃で倒すことは困難だが、クワイエットの攻撃が深手であったためにシエラの魔法でも十分なトドメとなり得る
炎の龍に巻き付かれ、地面で転がるガルフィオンは数秒後に力尽き、同時に龍炎も消えていく
以前として4人は動かない大きな狼相手に武器を身構えて急な攻撃に備えるが、魔石が顔を出すと構えは解かれた
しかも魔石は光っていたことに4人は驚く
リゲル
『やるじゃねぇかロリ女、待ち構えていたとぁ最高だな』
シエラ
『なんとなく、逃げると思った』
クワイエット
『正しい判断だよ、賢いと逃げるからね』
クリスハート
『流石ですシエラちゃん』
褒められて気分を良くするシエラ
リゲルはシエラを褒める2人の様子を見ながら魔石を掴んでスキルを見ると、それをシエラに投げ渡した
リゲル
『こりゃお前だ…バハムート目指すんなら確か必要だろ?』
シエラ
『…ブレスショット』
クワイエット
『とりあえず警戒解除って事で…』
ブレスショットの入手、それによってシエラの欲しいスキルは残るフレアのみとなる
幻界の森で会得したかったことを公開するが、時期にその為の苦難がくると彼女は信じた
クワイエット
『おおおおおおおおおおおおい!狼倒したよぉぉぉぉぉぉ!』
あり得ない行動を取るクワイエットに3人は哀れみの目で彼を見つめた
普通叫ばないだろう、誰もがそう同時に思ったに違いない
だがそれは近くの魔物がいないからという理由と、近くに遭難者がいるという確証があったからこそ今ならば平気と判断したクワイエットの大胆な判断ともいえる
1分も立たずにその結果は訪れる
森の奥から慌ただしく姿を現す冒険者4人はシエラが発動していた照明用の光球を頼りにこちらに走ってきたのだ
そのうちの1人は仲間に肩を借りて歩いている
『助かった!クリジェスタとエーデルハイドさんら半分の救援とは助かる…』
『あのデカい狼に追いかけられて近くの小さな横穴に隠れたんだ』
『足いてぇ…』
『1人太腿を爪で裂かれて自力では歩けない』
リゲル
『回復薬は?』
『一応使って包帯を巻いてある、だが消毒液は無かったから滅菌作用のある草で傷口を塞ぐので精一杯だった』
クワイエット
『流石熟練者、十分だよ…僕らが先頭を歩くからゆっくりと歩いて街の戻ろうか』
彼はそう告げると連絡魔石にてギルドに連絡をする
『遭難者4名ニンジャスレイヤー保護、1人はガルフィオンの爪で右太腿を怪我を負うが応急処置済み、着き次第は治療の準備を、なお魔物は救助隊で討伐済み』と話す
そんな彼の様子をシエラはボーッと見ている
リゲルはそれを見ても何も言わず、クリスハートと共に4人の護衛をしながら森を出る為に歩き出した
歩いている最中、シエラは先頭を歩くクワイエットの背中をずっと見ている
リゲルとクワイエットはそれを目を逸らしながら僅かに笑みを浮かべた
『救助があんたらで助かったよ…』
クリスハート
『初めてガルフィオンを見ましたが、双剣だと手の余る魔物ですね』
『俺達のトリッキーな動きは自信あったが、流石に狼にそれ以上されると逃げるしかねぇな』
リゲル
『今回は相手が悪過ぎだ。』
『マジで助かったよ』
そうした会話を交える余裕が遭難者にはある事にクワイエットは先頭で微笑んだ
以前としてシエラの視線は彼に向けられており、明らかにいつもと眼差しが違う
クリスハートがリゲルに近づくと、彼の耳元で話し始める
『あれはきっとあれです』
『言うな、周りに茶化されると嫌だろ』
『まぁそうですね…』
『クワイエットは聖騎士の1番隊で副隊長してたんだぞ?その一面を見てちょっと印象が変わったんだろうよ、まぁ前から嫌々ながらも内心であいつのことそれなりに認めていただろうからデートしてただろ?今日のがトドメなんじゃね?』
『なるほど、確かにクワイエットさんいると安心できますね』
『俺だって出来るんだぞ』
『わかってますわかってます、そんな不貞腐れないでください』
クリスハートは笑いながらリゲルの頭を撫でる
道中、アンデット系の魔物は点々と姿を現したがそれらは先頭のクワイエットがバッタバッタとなぎ倒し、街まで遭難者を護衛することが出来た
ニンジャスレイヤーは待機していたギルド職員によって直ぐに治療室へと運ばれ、クワイエットたちは数名しかいないロビー内の丸テーブル席に腰を下ろす
そこで4人は隣接している軽食屋でオレンジジュースを注文し、軽い乾杯をする
クワイエット
『何事もなくて良かったね、都合の良い終わり方だったよ』
リゲル
『死人いたら気分悪ぃしな』
シエラ
『確かに』
クワイエット
『救助隊としての報酬は金貨10枚、明日にギルドに行けば支払われるから覚えておいてね』
クリスハート
『それにしても流れるように終わりましたね』
リゲル
『まぁ安心だ。このままいい気分で次の学生剣舞講習もできそうだ』
シエラ
『今日の訓練?』
リゲル
『そうだぞ』
シエラ
『クワイエット君は何かする?』
リゲル
『俺は訓練場での講師だ。今はクワイエットの出番は無いが春から高等部が始まって剣舞科に生徒が入ればこいつも動く』
クリスハート
『役割分担ある感じなんですね』
リゲル
『俺は学園内での講師、んでクワイエットは月に1度やる課外活動での生徒隊の引率者だ』
学園内での剣舞科を専攻した生徒の講師は基本的にリゲルが学園内にある新設された訓練場にて行う
そして月に一度だけ行われる課外授業にてそれはリゲルからクワイエットに託されるのだ
4月から始まるが、彼らはそれまでに行くところがある
エルベルト山
他国との国境の境にある大きな山、そこは龍が住むと言われ
そして幻界の森に主に行けばわかると言われた地である
リゲル
『まぁその前に行くところがあるからな…長旅になる』
クワイエット
『帝龍かぁ…どんなだろう』
シエラ
『行けばわかる』
クワイエット
『そうだよね、それにしてもお風呂入りたいね』
リゲル
『んだな。今日は解散にすっか…流石に汗が冷えるとまだ風邪ひきそうだ』
クリスハート
『ちゃんとお湯につかってくださいね』
リゲル
『そうする』
こうしてリゲルとクワイエットはギルド内の風呂場を借りる事となる
シエラとクリスハートはギルドを出ると、近くを歩く警備兵に挨拶をして通りを歩く
グリンピアの治安はかなり良く、それは女性が1人で歩いたとしても事件がそうそう起きることは無い
そう言われる根幹が警備兵をしているかだなのだが、街の人々はそれが誰なのかを知っている
だから大きな事件はここでは起きない、起きれば犯人はほぼ地獄を見る事となるからだ
平和な街並みを眺めながら、クリスハートはシエラと共に会話をする
『クワイエットさん、頼もしいですね』
『うん、格好良かった』
『いつもは能天気な性格を見せますが、真剣な時は変わりますね』
『うん、いつもはあんなの見えない』
『見直すには丁度良い日でしたね』
『だと思う。でもクワイエット君って言葉ではアピールするけど行動で押してこないからわからない』
『行動?』
『押し倒してこない』
クリスハートは苦笑いを浮かべた
押してほしい系、シエラであったと彼女は理解した瞬間でもある
そこでシエラはクリスハートに問う
『クリスハートちゃん、リゲル君にどう迫られたい』
完全なガールズトーク
慣れぬ内容に戸惑い、そしてその対象が自分であることに狼狽えた
どんな男性が理想的なのか、彼女は恋愛というイベントに関しては嫌な思い出しかない
だからこそ彼女にとって未知なる領域でしかない
しかし今は違う
この時、クリスハートは考えてしまった
どういう異性が良いのかと
あるとすれば1つ、自分を大事にしてくれる人
それしか彼女は思い浮かばないが十分な理由でもある
(そんな人…)
いるだろうか
クリスハートはそこで考えてはいけない事を考えてしまう
ふいに1人の男性が頭をよぎると、何故か恥ずかしくなってしまう
シエラは横目でそれを見て微かに笑うと『私は違う道、帰る』といって走って帰っていった
ただ1人残されたクリスハートは頭から湯気がでそうなくらい顔を赤くしたまま、街の中で足を止めていた
(確かに…)
あの人は自分の為に何故か命を賭けた
なぜそこまでしてくれたのか、彼女にはわからないだろう
彼を変えた言葉をかけた事すら、彼女は知らない
彼の父親がどう彼に人生を教えたのか
知る由もない
今日、彼女は少し彼を見る意識が変わり始める
気づかぬいつもしていた行動がどういったものだったのかを思い出しながら
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