第212話 気づいていく関係 3
1月が終わりかける時期
クリジェスタであるリゲルとクワイエットは冒険者としての活動日であるにも関わらず、今年グリンピア中央学園中等部を卒業する3人を連れてギルド内の地下訓練場に来ていた
カイン、ランダー、ミミリーの3人を訓練場の外周を軽く走らせ
そして剣士希望のカイルとランダーにはギルドに備品で置いてある木剣で構え方をリゲルが教える
ミミリーは魔法使い希望の為、クワイエットが魔法使いがどう立ち回れば前衛が嬉しいかを剣士なりに彼女に教えていた
リゲル
『体の正面全部向けて構えても力だ出ねぇし攻撃を受ける面積は広い、2人共右利きならば右肩を前に体を縦にしろ。』
カイン
『こ…こうですか』
リゲル
『違う、こうだ』
リゲルがカインとランダーの構えの姿勢を直しながら正しい形にする
剣の振り方、力の入れ方などをリゲルは加減無しでみっちりと叩きこむと1時間足らずでカインとランダーは腕が徐々に上がらなくなる
小休憩
カインとランダーはその場に座り込み、持参していた水筒の水を飲むと地面に大の字に寝転がる
リゲル
『疲れるだろ?だが慣れてくれば筋力も体力もつく…それは絶対に必要な事だ。魔物相手に疲れたら自分が死ぬことになるが…一番質が悪いのは自分のせいで仲間が死ぬことだ』
カイン
『それは…』
リゲル
『確かに冒険者って生き物は傍からみりゃ憧れやすいが、過酷な一面もあるってことを理解しないと見たくもないもん見ちまう…そうなりゃ結構辛いぞ』
ランダー
『誰かが死ぬ…か』
リゲル
『俺も1番隊だったが…その前はペーペーな10番隊からだ、そこで仲間が命を落としたりと見てきた。死んだら強くなることもできねぇ…終わりなんだよ』
死んだら終わり、彼は学生に強くそう言い放つ
少し重く考える学生だが、負の事実だけを伝えるだけでは彼は終わらない
リゲル
『でもな、誰かを守れる力を手に入れる事が出来るんだぞ』
ランダー
『強さ…ということですか』
リゲル
『俺達はそれを持ってる。』
彼の教えならば、と学生も希望を胸に秘める
傍らではクワイエットがミミリーに魔法使いという生き物がどういうものか、知る限りを頑張って教えていた
クワイエット
『手頃な魔法スキルを手に入れるってなると最低ランクだと風鳥の突風にディノスライムのアシッドショット、あとは冬が終わる前にアイスライムが持つアイスショットがある』
ミミリー
『エレメンタル系は最初はまだ早いですか…』
クワイエット
『森に出てからは半年は我慢するべきだね、遭遇しても攻撃を仕掛けない限りレッド・エレメンタル以外は攻撃してこないから無理せず避けないと』
ミミリー
『やっぱり魔法使いってエレメンタル系を倒してスキルドロップまでが長いんですか?聞いた話なんですけど』
クワイエット
『確かにそう聞くね。詳しい話は専門職に聞いたほうが良いよ?あとは自衛できる武器は持っておいて損ないよ?ティアちゃんはサバイバルナイフ持ってるしシエラちゃんだって投げナイフ持ってるんだ』
投げナイフ、それはクワイエットが彼女に教えて持たせた武器である
そうこうしていると小休憩していたカインとランダーはリゲルにとあるお願いをしたのだ
南の森に行ってみたい、と
グリンピアには広大な北の森と最低ランクばかりしかいない初心者がお世話になる森がある
リゲルは(あそこならまぁいいか)と思い、クワイエットと軽く相談すると彼らを連れていくことになった
カインは軽鉄の小柄な剣を持っていたため、リゲルはギルドから使い古した軽鉄製の短剣をランダーに持たせた
街を移動中、彼らは丁度良い人間を見かけた
シエラ
『あれ…?』
クワイエット
『シエラちゃん、今日お家で食材に使えるサーモン買ってあげるから手伝ってくれない?』
シエラ
『行く』
クワイエット
『まだ詳細言ってないんだけど…』
実は彼女はサーモンが好きだった
何故誘ったかというと、クワイエットが気に入っている女性という理由の他にもある
学生3人、それぞれに1人に見るべき監視人をつけたかったのだ
ミミリーにシエラ、それが出来るならば丁度良いとクワイエットは思った
歩きながら事情を説明し、シエラはそれを飲み込んだ
カイン
『スキル欲しいなぁ…』
ランダー
『気配感知はリリディさんがドロップしてくれたし…』
リゲル
(あいつも苦労したか…)
こうして南の森に行く
日差しが森の中まで差し込みやすい為、雪は殆どない
そして魔物も低ランクであり、徒党を組んで襲いかかることがあまりないからこそ彼らが来た森は学生たちには丁度良い
クワイエット
『気を散らさず、気配感知だけに頼らず自分の目は耳で周りの情報を常に更新し続けてね』
カイン
『わかりました』
リゲル
『魔物の本は読み漁ったか?』
ミミリー
『熟読しました』
リゲル
『なら良し』
シエラ
(懐かしい森だなぁ…)
彼女は数年前を懐かしんでいると、気配に魔物を捉える
自然と身構えてしまうが、リゲルとクワイエットはまるで気づいていないかのような素振りを見せる
それの意味を理解したシエラは、直ちに平常に戻った
クワイエット
『周りを視線だけで調べながら進んで。今開けた場所だけど草の無い場所に何かの足跡、なんだと思う?』
ミミリー
『ゴブリンです』
クワイエット
『そうだね、この足跡から数を予想すればいい…いつぐらいの足跡なのか、数は多いかで自分たちが挑めるかどうか判断しなきゃいけない』
カイン
『これは…2体?』
ランダー
『少なくとも多くて3体…かな』
リゲル
『そういう予想で良い、この足跡が多ければ大勢だ…それプラスで今できたばかりの足跡ならば多勢に無勢、一先ず離れるって判断を取れる』
ミミリー
『なるほど、今は足跡だけど魔物の痕跡で数をおおよそ把握して自分たちに見合うかって考えたりもするんですね』
リゲル
『そうだ。まぁ殆ど残さないけどもあるならばちゃんと調べるべきだ』
ランダー
『気配が後ろから…』
感知レベルが低いと知るまでに時間がかかる
魔物相手にやはり慣れていない学生は体を強張らせながら後方に体を向けるとクワイエットは『前だけ見ちゃダメ、ちゃんと周りにも意識向けないと不意打ちとかあるから冷静に保って』と最もな事を口にする
後方から現れたのは半分凍りかけのスライム、アイスライムだ
これは珍しいなとリゲル、クワイエット、シエラは何故か関心を浮かべる
数は1体、ならばどう動くか知る為に3人は学生を残して僅かに下がる
『コチコチ』
可愛い鳴き声のアイスライムだが
最低ランクで唯一氷属性を持つ魔物
攻撃は体当たりとアイスショット、それは氷の弾を高速で飛ばす氷系魔法スキルだ
学生3人は魔物の本を見飽きるまで見ていたために目の前にいる魔物がどんな攻撃をするか、どう動くかをちゃんと把握していた
『コチコチ!』
クワイエット
『くるよ』
アイスライムは体の正面に小さな青い魔法陣を展開すると、そこから氷の弾を3つ放つ
カイン、ランダー、ミミリーは大袈裟に横に跳んで避けたが、その後に剣士志望であるカインとランダーが駆け出した
リゲル
(よし、それでいい)
シエラ
『あってる』
アイスライムは魔法を使うと、数秒動かなくなる
それは魔法を放った反動で体が動かないのだろうと言われているが、実際最低ランクの魔物が魔法を放つと大きなスキル生まれてしまう
それを学生らは知っていた、魔物の特徴を調べ、それを知識という武器にしたからだ
リゲル
『仕留めろ!』
カイン
『なぁぁぁぁ!』
ランダー
『うわぁぁぁぁ!』
変わった叫び声をあげて飛び掛かるのをリゲルは少し笑いそうになるが、堪える
アイスライムは動けるようになった時には既に避けれない間合いまでカイルとランダーが迫っており、右手に握る武器を振り下ろしていた
まずカインの剣がアイスライムの頭部を斬り裂き、ランダーが素早く側面を駆け抜けながら斬り裂く
振り向いた時に足元を滑らせて転んだことはリゲルは見なかったことにしたが、合格を上げるには十分な出来である
『コチ…コッチ』
アイスライムは溶けたかのように地面に浸透していくと、魔石を残して消えていく
それで倒せたをわかった学生ら3人はこれまた大袈裟に喜んだ
あまり経験した事が無いであろう魔物討伐、同行者付きでも嬉しい事に変わりはない
微笑ましい光景にシエラは笑みを浮かべるが、アイスライムが残した魔石が光っていることに気づくと引き攣った笑みへと変わる
シエラ
『あの…魔石…光ってる』
クワイエット
『あっはっはっは!イディオットと違って運が良いんだねぇ』
カイン
『ひひひひ光ってる!』
ミミリー
『え…これって』
クワイエットが近づいて魔石を拾いあげると、それをミミリーに投げ渡した
スキルはアイスショット、レベルが低いと1発しか撃てないが
それでも魔法使いを目指す者にとっては嬉しいスキルでしかない
リゲル
『先ずは魔法使い志望が一歩前進だ、吸収しとけ』
ミミリー
『はいっ!はいっ!』
リゲル
『周りに自慢し過ぎると駄目だからな?次は連れて行かねぇぞ?』
ミミリー
『家宝にします!』
リゲル
(大袈裟だな…だが初々しいか)
クワイエット
『その間、2人は周りの警戒…』
『『はい』』
嬉しい誤算後、今いるあたりをグルグル回るように歩いて魔物を探す
ゴブリン1体、ゴブリン1体、格闘猿1体と単体で姿を現したため、学生ら3人は体を強張らせながらも講師として同行していた3人の助言を聞きながら倒すことが出来た
残念ながらスキルは落ちなかったが、それでも学生らの顔色は良い
小休憩を取ることになるとクワイエットは『完全には休めないけど足を止めて周りを警戒しながら僅かでも休んでね』と言って学生ら3人をある程度休ませた
その時、クワイエットは彼らに森での今後を話す
クワイエット
『これは大事な話だよ、剣士は最初は技スキルに憧れるけど急いだら駄目。ある程度活動に慣れたらアンデット狙いでここの夜の森が良い…北の森だとアンデットはゴロゴロでるから君らには無理だけどこの森ならば数は単騎ばかり。そこでゾンビナイトは連続斬りの斬撃系スキル持ちだから辛抱強く通いながらゲットする。それまでは自身の剣術だけで頑張るんだよ』
カイン
『わかりました』
リゲル
『北の森の夜は冒険者になって1年未満はマジで避けとけ…それで痛い目食う初心者はゴロゴロいるってギルドの冒険者は口々に言う』
ランダー
『欲張らないようにします』
シエラ
『それが一番良い。帰ったら剣舞科志望の子らにも教えれば危ない目に合う子もきっと少なくなる』
カイン
『そうします…あれ、気配!』
小休憩中、現れたのは赤猪だった
小ぶりな赤い猪、ブイブイいいながら体を休める彼らに向かって茂みから颯爽と現れて走ってくるが
ランダーは腰に装着していた投げナイフを手に取ると『お願い!』と神頼みをしながらナイフを投げた
それは見事に走ってくる赤猪の頭部に刺さると、魔物は滑りながら倒れていく
投げナイフはリゲルがおまけてランダーに上げた1本であり、投げ方も1時間ほどカインも交えて教えていたのだ
活かされた瞬間であり、これにはランダーが大きく喜ぶ
リゲル
『意味あるだろ?投げナイフ』
ランダー
『はい!』
リゲル
『だが持ちすぎるな?多くて3本だが俺は2本をお勧めする』
魔石は光ってはいないが、それでも十分な収穫になる
講師がいる事に徐々に慣れていった学生3人は単騎の魔物だけを狙い、数が多い時は茂みに隠れてやり過ごすという良い作戦を展開していく
良い判断だ、とクワイエットは彼らを褒め称えながら今日の森での活動の終わりを告げる
満足そうな顔を浮かべる学生達にクワイエットもほっこりしていたが、直ぐにシエラに向かって口を開く
『シエラちゃん、帰りながらミミリーに魔法使いの立ち回り方を軽くで良いから教えてあげて』
『わかった!』
ギルドにて
倒した魔物の魔石をクワイエットが換金すると、学生3人にそれを差し出した
最低ランクであるFだが、金貨1枚に達成していたことにカイン質は驚いた
気を利かせたクワイエットがそれを銀貨にしていたので3人は平等に分ける事ができる
クワイエット
『1人銀貨3枚、2枚は授業料でもらうね』
カイン
『ありがとうございました』
リゲル
『保護者無しで森はマジであぶねぇからな?俺達が暇なら同行してやれるが暇な時間はあまり作れねぇ、日曜のギルド講習で今は我慢しときな』
『『『はい!』』』
大満足した3人が帰ると、リゲルは『野暮用があるからお先に』と言って街に繰り出す
その様子をクワイエットとシエラは不思議そうに見る
『リゲルが1人で街…』
『何かある…はっ!?まさか!』
『何さシエラちゃん…何も思い出したのぉ?』
『…これは面白い、きっと』
シエラはクワイエットの耳元でそれを話す
するとクワイエットは不気味な笑みを浮かべ、不気味に笑う
(あははぁ…リゲルゥ…君ってホント…不器用だなぁ…)
シエラ
『顔っ!顔っ!』
クワイエット
『ああごめんごめん!でも面白いねぇ』
シエラ
『うん、思う』
クワイエット
『まぁそれはリゲル次第か、サーモン買いに行って今日はシエラちゃん家でご飯とかどう?』
シエラ
『ご飯唐突っ!…でも』
少し彼女はモジモジした後に小さく頷くとクワイエットは大袈裟に喜んだ
それを見るだけでシエラは少し嬉しい気持ちが芽生えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます