第213話 気づいていく関係 4 アカツキ視点
俺は休みの日にティアが泊まりに来ると、ウハウハだった
部屋をいつもより綺麗に掃除したりしているのを朝から観察していたシャルロットが昼頃になっていきなり『アカ兄ィ、勝負の日…』とか言って僅かに開けていたドアを閉めて去っていったのは記憶に残る
こうして夕方には夜食で出すジュースが無いという事でティアと共に買い物をするために街の中心街へと足を運ぶ
手を繋いで歩くとそれだけで俺は何故か強くなれた気分となる
どうだお前ら、俺の彼女だぞ…とか心の片隅で叫んでいるとかは仲間にも言えない
頭上を鳥人族のババトさんが飛んでいるけど、何かを運んでいる
首にぶら下げているのは封書が入ったカバンに見えるが…今日は郵便物が多いのかな
『ババトさん頑張ってるね』
『そうだな』
良い匂い、外でも男の俺は鼻が利く
そんな理性を抑えながらも俺達は楽しく街中を歩き、商店街まで来るとお目当ての物を買って帰ることにしたんだ
でも凄い気になる人を見つけてしまった
『あれ?アカツキ君あれ』
『ん…あら』
リゲルだ
何やらかなりソワソワしくしながら辺りをキョロキョロして歩いている
怪しい、凄い怪しい…あいつがなんであんな行動を取っているのかわからない
そう感じているのは俺達だけじゃない、あいつの近くを通り過ぎた冒険者がすれ違いざまに二度見しているくらい行動が可笑しいんだ
危ない事をする男じゃないんだけどな…
『にっしし!』
《おいおい兄弟、お前の女は良からぬ事を考えてるぞ》
『まさかティアさん?ねぇティアさん?』
『探偵ごっこ開始』
何故こうなった
変に逆鱗に触れなければいいんだけどな
相手が相手だし少し怖い
俺達は遠目からリゲルを観察して歩くが
商店街で何かを探しているようだ
行き交うを綺麗に避けながら彼は奥に歩いていくと、とある建物の前に止まる
これには俺とティアが真顔になる
服屋だ、しかもあいつが好きそうな服が置いて無さそうな…
ティア
『普通の服屋…』
《そういやリゲルとかクワイエットって私服あるのか?》
ティア
『見た事ないからなんか新鮮、寝間着かな』
アカツキ
『そういうの買う場面見られたくないのかな』
《案外そうかもな、部屋着となるとリゲルなら考えかねない》
それならばあまり気にすることは無い
俺はそう考えたのだが外から見える店内のマネキンが来ている服を彼が見ているのを見て俺は首を傾げた
なんでお前はレディースを見ているんだ?
そっちのほうが着やすいというのだろうか
《こりゃ…性癖か!?》
『テラちゃん、それは本人の前で言ったらボコボコにされるよ』
《おー怖い怖い》
『…リゲルにしては見られたくないって理由もわかる気がする、凄い周りをキョロキョロしてるんだからな』
《あいつの気が動揺してる、今の状態ならば近づいても見られない限りバレないぞ》
『行こうアカツキ君、リゲル君入っていった』
『入っていったけど…』
『頑張ったらご褒美あげる』
俺は光の速さで気持ちを切り替えた
『行こうティア、今日は良い日になる』
『…』
《見ているだけで恥ずかしいぜ》
恐る恐る店内に入る
結構広いため、俺たちはあまり近づかないように距離を保つ
客は数人いるけど、なんか心配だ
『服見漁ってるな』
『凄い怪しく見漁ってるね。どんな服着るんだろ』
《俺も想像出来ないな》
『俺もだ』
しかもただの服屋じゃない、冒険者が防具のなかに着込む事ができる生地が薄目の服も売っているんだ
もしかしたらそれを買いに来たのかもと思ったが
先程レディースを見ていたのは防具と相性が良いからかもしれないと俺は予想した
挙動不審なリゲルに気付いた女性店員は彼に気づくと首を傾げてから近寄っていく
話しかけられたリゲルは驚いていたが、なにやらたどたどしい雰囲気で何かを話してる
ここからしゃ聞こえないのが残念でならない
『何を話してるんだろ…』
『ティア、なんだと思う?』
『まだわからないなぁ』
《…ほう》
『ん?テラ?』
《なんでもねぇ、バレるなよ》
すると女性店員は笑顔になり、リゲルに色々な服を紹介し始めたのだ。この時の店員の顔といったらウキウキそのものさ
少しリゲルの顔にも余裕が生まれ始めると、奴は辺りを見回してきたから急いで物陰に隠れる
どうやら商品を選んでからお目当てを見つけたらしく、彼はカウンターで会計を済ませるとそそくさと店を出ていく
ティアは急いで対応した女性店員に近づくと堂々と何を話したのかを聞き出そうとする
本当に本格的に探偵っぽい
『レセナさん、リゲル君は何買ったんですか?』
『あらティアちゃん、それは私でも言えないわねぇ…大事な買い物らしいわよ』
《大事な…》
『大事な買い物ですか』
『そうそう、あれがリゲルさんねぇ。ツンツンした人って聞いてるけど可愛い一面あるのね』
可愛いのか?店員は疲れているのだろうか
俺にはそう見えない
急いで外に出てから彼を追う
ようやくリゲルを見つけたが、両手で紙袋に入った服を大事そうに抱えて歩いている
ソワソワしながらだ
歩きながらちょくちょく紙袋の中身を見て困惑した様子を見せているけどさ、自分用で買ったとは思えなくなってきたぞ
『アカツキ君、これって…』
『どうしたティア』
『多分だけど、あれってク『誰かっ、店で冒険者が暴れてるんだ助けてくれ』…っ!』
その声に俺は視線を向けた
この通りにある飲食店から姿を表した人は困り果てた顔をしている
冒険者が酒に寄って迷惑かけるとはたまにあるが、被害が大きくなるケースは少ない
だってシグレさんにボコボコにされるからな
あまり心配してないが、一応行くしかないと思ってティアに声をかけようとしたらリゲルは溜め息を漏らしてから飲食店に入っていったよ
だから俺達も急いでかけつけたよ
リゲルだけで十分に対応はできるため、俺達は中に入ると近くのテーブルに座って無理に客を装う
客はある程度はいるが、みんな奥のテーブルを見ている
そこにはやはり冒険者達だが、知らない顔だ
数は8人、二つのテーブルを使って飲み食いしていたようだが酒は飲んでないようだ
シラフで問題起こすとは馬鹿かな?
リゲルは紙袋を抱いたまま、奥のテーブルで騒ぎを起こしていた冒険者の前にいる
何が起きたのか今はまだわからない…
ここは見ておくか
リゲル
『おい、黙って飯食っとけや』
『あんだてめぇ?文句あんのかぁ』
冒険者なのにリゲルを知らない事に驚いた
となると答えは一つだ
奴等はイーグルアイという面倒な組織の冒険者だ
※(冒険者資格を何かの理由で取得不可の個人が冒険者として活動するために存在する支援機関、運営は貴族)
変な不良ばかり、ゴロツキ冒険者、貴族が個人の更正目的で立ち上げた施設だとは聞いてる
ならば彼を知らないのも無理はない
普通のギルドでリゲルを知らないなんてあり得ないからな
冒険者がしかめっ面を浮かべて立ち上がるが、リゲルは紙袋を左腕で抱え込み、右手をフリーにする
きた、戦闘体勢に入る準備か……
リゲル
『お前らイーグルアイか、次問題起こしたら解体って話知ってっか?』
『な…何がだよ』
リゲル
『お前らの馬鹿リーダー格が起こした馬鹿馬鹿しい騒ぎのせいでだよ、学べよゴロツキ』
『てめぇ…それでこっちが大人しくすると思ってんのか』
『解体がなんだ、こっちは普通に飲み食いしてただけだぜ?』
店員
『リゲル様、この人ら女性店員を隣に置けとどこかの店と勘違いしていて』
リゲル
『大人の店じゃねぇぞ馬鹿が』
『んだとぉ?いい気になりやがって!』
冒険者達が一斉に立ち上がる
リゲルは武器は腰につけているが、使う気配がない
本当に一触即発、他の客もどよめき始めてきたぞ
リゲル
『前にたった一人相手にボコボコにされた癖に懲りねぇ馬鹿だな』
『くっ…』
リゲル
『大人しく飲むか、俺にボコられるか選べ。店にこれ以上迷惑かけるな』
それが癪に触ったのか、冒険者の額に青筋が浮かぶ
さぁ始まります、肉弾戦ショーが
冒険者がリゲルに襲いかかる
一人、また一人とイーグルアイ冒険者が宙を舞い、地面に倒れていく
左腕が使えない男相手に何もできない冒険者らは数でなんとか出来ると思ったのだろう
俺でも相手したくないのにこいつらイーグルアイときたら…
《本当の馬鹿だなぁ》
テラでもこの始末だ
冒険者らの攻撃はリゲルに当たりはしない
背後から殴ろうと襲い掛かっても振り向きざまに避けられ、クロスカウンターで顔面にお見舞いされて吹き飛び、次なるゴロツキは大振りなパンチを繰り出す前にリゲルが首に手刀を当てて地面に沈む
周りの客は大勢を倒していくリゲルを見て凄い驚いているようだ
残り2人となった時、ふと見知った人が飲食店に駆け込こんでいく
横目で姿を見れたけど、あれはルーミアさんとクリスハートさんだ、結構血相変えていた
『このガキぁ…』
『これ不味くないっすかね』
リゲル
『自分から始めたんだから倒れるまで続けろや、一応俺も冒険者ギルド運営委員会の中のもんだからお前らの事は報告してやるよ』
『ぐぬぬう!』
ルーミア
『ちょちょちょリゲル君っ!?』
クリスハート
『リゲルさん!』
思いもよらない人の登場でリゲルは驚いて動きを止めてしまった
2人はリゲルとイーグルアイの間に割って入ると、『警備兵は呼びました。もう喧嘩はやめてください』とクリスハートさんが強く言い放つ
リゲルは直ぐに大人しくなるが、やっぱりクリスハートさんには弱いようだ
先ほどまでの刺々しい雰囲気が急になくなるくらいだからな
だがしかし、それはリゲルだけだった
胸が冷めやらない残るイーグルアイ2人はこの場に割って入ってきた2人に突如として牙を向けてしまったんだよ
何故止めらないんか、きっと逆上し過ぎて理性を失っていたのだろうと俺は思う
そしてそいつらは矛先を向ける相手を再び間違えた
『邪魔だ女!』
クリスハート
『きゃっ』
リゲル
『あっ』
クリスハートさんはゴロツキに強く押されてしまい、後方のテーブルと倒しながら自身も転倒してしまう
テーブルの上の料理や飲み物は床に散乱し、そして彼女は痛そうにしながら上体を起こすとリゲルが素早く近寄っていく
ここでもう一人のゴロツキがリゲルが余所見をしたと思い、手に持っていた中身の入った瓶を彼の頭に叩きつけた
それはいとも容易く割れてしまい、中身がぶちまけられるとリゲルの頭部にかかり、そして彼が大事そうに持つ紙袋にもかなりかかってしまった
どう考えても、手の込んだ自殺行為にしか見えない
絶対に止めないと不味いと思った俺は傍観を止め、急いで店内に入っていく
リゲル
『てめぇルシエラに何しやがる!』
彼は激おこだった
目にも止まらぬ速さでストレートパンチ、それはゴロツキの顔面を捉えて吹き飛ばす
あまりの威力にゴロツキは壁にめり込む
それでも冷めやらぬ怒りを浮かべたリゲルは残る1人に鬼の様な形相で歩み寄ると、ゴロツキはその気迫に怖気づいてしまったのか、体を強張らせた
ルーミア
『クリスハートちゃん、大丈夫!?』
クリスハート
『私は大丈夫ですが…』
彼女は立ち上がりながらも直ぐにリゲルを止めようとする
あの状態のリゲルを止めるなんて、俺に出来るのだろうか
否、無理である
でもそうしなくても、俺が走る横を素早く駆け込んでいく者がいた
その人に賭けるしかないようだ
リゲルは最後の1人に飛び掛かり、奴の顔をぶん殴ろうとした
しかし、それはこの場に来た者によって止められた
リゲルの右ストレートはゴロツキに命中する前に、その者が彼の前に立ちはだかると右手で受け止めたんだ
その勢い、止めるにはあまりにも強すぎたために受け止めても数センチ足元が後ろに下がる
『もう君の出番はないよ』
リゲル
『あぁ!』
シグレさんだ
あの人ならばきっと止めれる
逆上したリゲルでも思いとどまる筈
一瞬にしてその場が静まり返り、ゴロツキは助かったと思って地面に尻もちをつく
シグレ
『こういう形で君とやり合いたくないんだけどさ?ちょっとやり過ぎたかもよ』
リゲル
『なら次はてめぇか?』
シグレ
『本当に不器用なんだね』
クリスハート
『リゲルさん!もう止めてください!』
リゲル
『…』
怒りを浮かべた彼の顔は徐々に静まっていく
辺り一面を見渡し、気絶しているゴロツキ冒険者を見ると突きだした拳を降ろした
客もこれにはホッと胸を撫でおろす
ルーミア
『怒り過ぎだよリゲル君、クリスハートちゃん怪我してないから、ね?』
クリスハート
『怒り過ぎです。もう大丈夫ですから…』
リゲル
『…』
シグレ
『今はこの場は引き取るからさ、あとで事情を聞きに行くよ』
途端に他の警備兵が押し寄せる
そこには何故か父さんもいたんだ
今日は休みで家にいたんだけど…
『帰りが少し遅いと思って街に来たんだが、なるほどな』
父さんは俺を見て苦笑いを浮かべる
そういえば買い物の途中だった
クリスハート
『リゲルさん、荷物に飲み物が‥』
リゲル
『あ…そんな』
怒り過ぎて気づかなかったのだろう
その時の彼はいつも見せない顔をしたんだ
とても悲しそうな、子供の様な感じだな
クリスハートさんはそれを見て大事な物なんだろうと察し、中身が無事か確かめようと言うのだが
リゲルは何故か中身を見せようとせずに背を向けて中身を見ていた
また悲しそうな顔しているから中身もやられていたのだろう
リゲル
『いや…その』
クリスハート
『どうしたんですか?』
リゲル
『大丈夫だ、問題ない』
彼はそう告げると、トボトボ歩いて店を出ていってしまったんだ
あまりにも変わった様子に皆がそれを眺めるしかない
ティアは何か察したらしく、クリスハートさんに駆け寄ると『行ってあげてください、あの人無駄に落ち込んでる』と言って彼女に追わせようとする
よくわからないまま、クリスハートさんはルーミアさんと共に彼を追いかけようとするが
ルーミアさんは空気を読んだのか『先に言ってて』と彼女だけを行かせる
俺は凄い気になるが、父さんが『早く帰りなさい、この場は片づける』というので俺はティアと共に家に帰る事にしたんだ
帰り道、ティアに何を勘付いたのか聞いてみると遠回しな答えを言ったんだ
『明日は誰かの誕生日なんだよ』
《ああなるほど》
誰の誕生部だろう…ん?
あれ!?まさか!?リゲルお前っ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます