第214話 気づいていく関係 5
リゲルは中心街の裏通りを弱弱しく歩く
薄暗い道を彼は進むと、ふと彼の視界にゴミ箱が見えた
(…クリーニングすれば汚れも落ちるだろうが)
彼は迷う
汚れた紙袋ごと捨てようかと
だが新品ではないという概念に彼は迷う
それならば新しく買うか?いやその考えは薄かった
『今日に限って面倒な事が起きるってなんでだろうな』
溜息を漏らし、どうしようかと悩んでいると、そこでクリスハートが彼を見つけた
『リゲルさん…』
『お前どうして』
『だって…そんな顔していたら』
彼女はそう言いながら近寄ると、紙袋の中を見ようとする
でもリゲルはさせまいと遠ざける
見せようとしない様子にクリスハートは彼の頬をつねっている隙に奪うと中身を見る
『おまっ!』
『あれ?』
女性用の春服
しかも意外と高い商品であり、しっかりした生地の物だ
薄緑色をした模様に白熊のワンポイントがついている
だがそれには先ほどの飲み物の汚れがべっとりとついていたのだ
クリスハート
(欲しかったやつだ…)
お値段、金貨1枚に銀貨2枚
相当な額であり、クリスハートも買おうか迷うほどの商品だ
何故彼がこれを買ったのか首を傾げて考えると、思い当たる節はある
以前に訓練をした際、彼女が休憩中に話した会話の中にそれはあった
『リゲルさんは普段着ないんですか?』
『ほぼない、これが普段着だ』
『えぇ…』
『私生活なんて俺はわからん、お前は普段着とか着るのか』
『当たり前じゃないですか…最近服屋さんで売ってる丈夫な生地の服をいつ買おうか迷ってる最中です』
『防具の内側に斬れるタイプか』
『それもできますが、勿体ないので普段着ですね。白熊の可愛い絵が描いてある服が凄い可愛いんですよ。高いので少し後回しですが』
『…それは欲しいのか』
『そりゃ欲しいですよ?』
『そうか』
そういえばそんな話をしていたなと彼女は思い出すと同時に(まさか…)とあり得ない事を浮かべた
今、リゲルは弱弱しい様子の内側に僅かな言い難そうな何かを秘めていることに気づく
天変地異が起きてもそんな事するような人じゃない筈、と思っているとリゲルは囁くように口を開いたのだ
『誕生部近ぇし、まぁ訓練頑張ってるから褒美必要だと思って』
(…凄い素直じゃない)
2月の始まり、それはクリスハートの誕生日が来る
素直じゃない性格であるため、彼女は彼の本心が逆に理解しやすかった
考えれば考えるほどにリゲルに関しての印象が徐々に変わっていく
『貰いますよ』
彼女は微笑みながら、紙袋に服を入れた
『いや…でも新品じゃない…』
『そうじゃなくても嬉しいです。でも怒り過ぎたらダメです、私は怪我してません』
『む…あれはその』
『感情の出し方が不器用過ぎませんか?』
『知らん。』
『でも、それが男の人なんでしょうね』
きっとそうだろう
クリスハートは理解する事にした
少し不貞腐れるリゲルに『ありがとうございます。大事にします』と告げると
彼は彼女から顔を隠した
それを見るのは無粋だろうと悟るクリスハートは『帰りますよ?よくシグレさんと喧嘩になりませんでしたね?』と言いながら彼の手を引き、その場を共に歩き出す
『あぁ?喧嘩しても俺は勝つってわかってるからだよ』
『あぁはいはいわかりました。でも怒ってくれたのは嬉しかったですよ』
『そ…そうか』
急に大人しくなるリゲル
本心で彼女は言ったが、こういえば多少大人しくなることも十分理解している
でも彼の心が穏やかとなり、いつにも増して機嫌が良くなったのだ
表通りに向かうと、そこでリゲルはクリスハートを送る事にした
彼女はリュウグウと同じ建物のアパートを最近借りたため、中心街からは近い
建物の前では普段着でうろつくリュウグウと目が合い、彼女は驚いた顔を浮かべたまま建物の中に猛ダッシュで逃げる
見られて恥ずかしかったのだろう
リゲルとクリスハートは無言、何も見なかったことにした
『今日はゆっくり休んでくださいね』
『わかってるよ、明日は森か』
『そうですよ。リゲルさんは確か学園ですよね?』
『高等部になる学生らに剣舞科と魔法科の説明会があるんだよ、面倒臭いがな』
今年3月に中等部を卒業する生徒をグリンピア中央学園の体育館に集めての新設される科目の説明会が明日あるのだ
シエラ、リゲル、クワイエットがそれを担うがギルド職員も同行することとなっている
『頑張ってくださいね。』
彼女は微笑むと、リゲルに一礼してから建物の中に入る
(良い方向になんとかなったか…人生わからないな)
リゲルはそう感じながらも、ホッとする
今日、彼らは少し前に進んだようだった
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