第215話 ぶらっくめがね 1
リリディはイディオットの活動休日の日
暇すぎてギルハルドと、北の森に来たのだ
朝早くから彼らは森を歩き、そして海抜の低い森の中に辿り着く
そこで彼は思わぬ者と遭遇していた
場所はアカツキがゼペットと遭遇した崖の下の川辺付近
彼は黒いコートを纏い、フードを被って身を隠す怪しげな4人の集団に囲まれている
スタッフを肩に担ぎ、視線だけで心当たりがある4人を見ながら川の流れる音だけが彼の耳に入る
(以前にもありましたね。魔法騎士会…)
ロットスターの差し金、まだ懲りてないのかと思うと溜息が漏れる
しかしいつかは戦う運命にあると彼は強く願う
やってはいけないことをしてしまった罪を償わせる為に
『何も話さないんですか?』
『・・・・』
(魔法騎士会には派閥がある、僕に敵意があるとすればロットスター派の者…か)
リリディは威嚇をするギルハルドを半ば抑えつつ、囲んだまま動きを見せない彼らに向けて再び口を開く
『ロットスターさんの差し金でしたら、とりあえず相手しますが…』
彼はそう告げると、最近可能になった能力を発揮した
それは唱えずとも魔法スキルを発動するという能力
念じるだけで彼の周りには4つの黒い魔法陣が展開され、そこから黒く太い鎖が姿を現して蛇のようにうねりだす
鎖の先端は小さな刃がついており、以前にも増して鎖の形は変わっていた
『こちらも加減はしませんよ。パートナーも加減は出来ませんので気づいたら首が飛んでいたなんて珍しくありませんから』
彼を囲む4人のうち、3人が僅かに狼狽える
すると平気そうな1人が彼に声をかけたのだ
『我らはあの派閥ではない』
『でしたら何の用です?』
『資格があるかどうか拝見させて頂きたく馳せ参じました。それでは!』
口を開いた男だけがリリディに駆け出す
リリディはギルハルドを待機させ。その男に鎖全てを伸ばす
まるで生き物のようにうねりながら伸びていく鎖は黒いコートの男に迫ると、男は全てをギリギリで避けながらリリディの目の前まで迫る
(反応が早い!)
瞬時に鎖を消し、担いだスタッフを使うために体を回転させて振りぬく
同時に襲い掛かった黒いコートの男は隠していた鉄鞭を薙ぎ払うように振り、彼らの武器はぶつかり合う
重低音が響き渡り、力は拮抗する
男は驚くがリリディの顔色は変わらず真剣だ
この時、リリディは囁くようにして技スキルを口にしていた
ドレインタッチという体力吸収系の技スキルだ
その技を唱えてから対象に触れると、その者の体力を僅かに奪うとるスキル
効果時間は数秒と短いが、リリディは武器がタイミングよくぶつかる時に発動するように見計らったのである
黒いコートの男から赤い発光が現れると、その者は体で僅かに驚愕を浮かべる
離れた時には既に体力が僅かに奪われた後であり、目の前にいたリリディは男の足元にシュツルムを放って爆発を引き起こし、砂煙を舞い上がらせた
『くっ!』
黒いコートの男は目くらましだろうと予想し、その場から更に飛び退く
その予想は的中しており、避けなければかなり危なかった
砂煙から脱した瞬間、無数の黒い弾が時間差で爆発を起こして辺り一面を一気に吹き飛ばしたのだ
これには黒いコートの男達は巻き添えになり、吹き飛んでいく
(殺す気か…)
戦っている黒いコートの男はそう驚き、感じながらも受け身を取る
だが休む暇はない
今彼が相手しているのは幻界の森の生還者であり、魔法騎士の全盛期と言われた時にいたハイムヴェルトの孫だからだ
『っ!?』
嫌な予感を背後に感じた黒いコートの男はその場を飛び退きながら振り返る
同時に先ほどいた場所にリリディが全力でスタッフを振り下ろし、それが地面に触れると爆発が起きた
爆打、という打撃に爆発を付与したスキルだ
『速い…』
リリディは囁き、緑色の魔法陣で強風を引き起こすと辺りを舞う砂煙を舞い上がらせる
あまりの激戦に迂闊に近付けない3人の黒いコートの者は遠くで傍観しているしかない
そして戦う1人がリリディの様子を見て期待を膨らませてしまう
『変わったように強くなられた…』
『そうですか?それにしても妙ですね‥魔法を使わないとは』
『魔法は大事な時に使うもの。まだそれは起きてない』
『なるほど…。遠くにいてよろしいんですか?こっちは都合が良いんですけど』
『近づけばどうなる?』
『撲殺』
スタッフを前に出し、リリディは言う
そして彼は堂々と前に歩き出す
男はそれを見て思う。
(まんまあの人と同じじゃないか)と
ならば試すのみ、男はようやく魔法を使う判断を取る
左手を前に出し、黄色い魔法陣を展開すると『サンダーアロー』と唱えて撃ち放つ
雷魔法は投擲速度が速く、避けるのは困難
しかもスキルを手に入れるのがかなり苦労するために魔法スキルの中でもレア扱いとなっている
だがリリディは自身に当たる寸前でグェンガーで黒い煙と化して別の場所で瞬時に実体化する
男が驚きながらも何度も魔法を放ってもリリディはグェンガーで避け、実体化すると同時に男に迫る
(本当にあの魔法スキルはとんでもないな…、いやしかし本人もか)
グェンガーは関係ない
本当に驚くべきは避ける反応速度が高すぎる事だ
高速で撃ち放たれた雷の屋を認識してから避ける行為は難しい
ましてやそれを連続して行えること事態が可笑しいのだ
『貴方は近距離用の魔法をお持ちのようですね』
『ほう?』
リリディは足を止める
男まであと10メートルという距離
リリディ
(まだ色々隠してますね。遠くからポンポン撃ちたいですが…)
だが声で誰なのかを彼は察する
以前に聞いたことがあり、自分に接触してきた者
リリディはこれ以上は別に戦っても意味はないのではないのだろうかと思い、彼らに背を向けた
『僕は帰ります』
『…戦わないのか?』
『魔物と戦うために来ただけなので。僕は貴方に興味ありません』
『夏に行われる魔法祭に興味はないか?』
『…』
リリディは気になる言葉を聞いてしまい、振り返ると男はクスッと笑う
それが気に入れないのか、リリディは少し不貞腐れると、男はフードを取る
ロンドベル
『久しぶりです。他の者もハイムヴェルトさんの派閥ですので』
リリディ
『息子のアルベルトもいるのでしょう?』
彼が告げると、奥からアルベルトがフードを脱いで歩み寄る
何故会いに来たのかとリリディが問うと、ロンドベルが説明し始めたのだ
『魔法祭、出てみませんか?優勝者は五傑にして魔法騎士会の魔法騎士長ロッドスターと戦えます』
『参加資格は?』
『それが問題です。組織委員会が名声から選んだもののみ…ですがその中で貴方を推薦しようとしている人がいるのです』
『誰でしょう?』
『魔法騎士会の会長、カサンドラ様です』
これにはリリディも驚く
80を超える女性であり、二つ名は魔女カランドラ
国では魔法に関しての知識が随一と言われ、魔法という点だけならば国内でもトップレベルと名高い高貴な人だ
その正体は貴族であり、魔法騎士会はカサンドラの家系がマグナ国誕生から作り上げた組織である
何故魔法騎士会のトップが?とリリディは疑るが、ロンドベルは続けて話す
『出る意思があれば、推薦すると伝えるように言われております』
『あの人もこちら側ならばなぜロットスターを野放しに?あれは人殺しに近い行いをしたんですよ?』
『知っております。ですが事情は直接彼女に聞くべきです…あの人は貴方がそう言うと思って言伝を頼まれてます』
『言伝?』
『ハイムヴェルトとの約束だ。と伝えれば良いと』
(どういうことだ…)
『その答えは夏の魔法祭、そこで聞けるでしょう…私達も貴方が来て黒魔法というスキル、そしてあの人は強かったことを証明してほしいと望みます。私とて今生きているのはあの方のおかげですので』
『それは聞きました…。ちなみにお爺さんや貴方を襲った魔物はどんな魔物でしょうか』
『2足歩行の黒い猛牛、禍々しく赤黒く光る曲がった角、目が赤く染まり、全身の体毛は黒い
両手の爪は鋭く、1メートルも伸びる魔物、口は肉食獣よりも牙が鋭く、口の中は歯で埋め尽くされた魔物以上の魔物…あれを思い出すだけで生き残った部下は体調を崩す』
『魔物の名は…』
『調べ上げましたがこれだと思う記録はありません。黒い牛の化け物となると色々と神話で現れた名がありますが…』
『…ゾディアック』
『え?』
『お爺さんは1度だけ僕に言ったことがあります…初めて取り逃がしてしまった魔物がいた。それが悔やまれる、と』
『…』
『ゾディアック、悪魔の王子であり人を永年拷問して暮らす化け物だという記述はお爺さんが見ていた地獄の景色という本で書いております。魔法祭は出ますので推薦状をお待ちしております』
『出てくれるのですね』
『どうせ会長カサンドラさんは私に託す気なのでしょう。そのつもりはありませんが、僕はロットスターに借りを勝手に返すだけですから期待しないでください。2つも同時に出来るほど僕は頭が良くありません』
『ニャハーン!』
そう告げると、リリディはヒドゥンハルドと共にその場を去っていく
こうして街に近い森まで来ると、近場で魔物を魔法を使わずスタッフのみで倒す訓練に勤しんだ
『ゴブブ!』
ハイゴブリン2体
1体をギルハルドに任せ、リリディは迫りくるハイゴブリンの棍棒をスタッフで弾き飛ばすと回転しながら跳躍し、勢いを利用して頭の側面を思いっきり叩いた
『バフッ』
ハイゴブリンはグルグル回転しながら吹き飛び、木にぶつかって地面に倒れていく
彼はまだ直ぐに構えるが、ハイゴブリンの体から魔石が出てくると構えを解いた
『一撃ですか』
『ニャハハーン』
『そっちは発光魔石ですか。あげますよ』
『ミャンミャーン!』
1時間かけて周りの魔物を手当たり次第に倒していくと、そこで彼に思わぬイベントに遭遇してしまう
『誰かっ!』
(ん?女性の声)
森の中に響き渡る声を聞いて彼は自然と歩き出す
確かこっちからだったかな?という緊張感の無い足取りでだ
リリディとギルハルドは開けた森の中で女性冒険者チームがモコモコの冬毛のエアウルフ8頭に囲まれているのに直面した
3人全て女性であり、リリディは彼女らをギルド内で見たことがある
話し合ったことは無く、彼女らは去年の夏頃から誕生した若手のチームだ
魔法使い1人、剣士1人そして双剣が1人だ
話では憧れはエーデルハイドという事で冒険者になったという話をリリディは他の冒険者から聞いたことを思い出した
『ガルルルル』
『ちょっとこれ不味いって…』
『可愛いのに8頭は…』
『もう魔力がない…ごめん』
口々にそう焦りを現す
これは助けたほうが良いと思ったリリディは無策にも彼女達を囲んだエアウルフに近づいた
あまりにも堂々な歩きっぷりに女性たちは目を見開いたまま、固まる
エアウルフですらリリディの歩きっぷりに狼狽えてしまう
リリディ
『大丈夫です?女性方』
『あ…あの』
『あれ?黒魔法リリディさんだ』
『グリンピア最強の撲殺兵器リリディさんだ』
リリディ
『最後の二つ名はちょっと納得できませんね』
『ガルルル』
『あの、助けてくれませんか』
リリディ
『あ、はい…』
リリディは倒さず、シュツルムで狼たちを吹き飛ばして退かせる
女性達は安堵し、その場に座り込む
絶望的な状況であるからこそ人は異常なほどに精神を削られるのだ
それが回避されたと知れば、疲労は一気に押し寄せる
『助かりました…ありがとうございます』
『生きてる』
リリディ
『今回は運が悪いですね。浅い森で8頭となるとエアウルフも食料に困っていたのでしょうし…見たところ発光弾を持っていないようですね?』
『帰ったら買います。』
『ミャンミャー』
会話の最中、ギルハルドが急に女性陣に近づき、膝でゴロゴロし始める
彼女らは可愛い可愛いと連呼しながら撫で始めるが、リリディは内心は羨ましかった
そんなこんなで彼女達と接点を作れたリリディ
この女性チームはまだ冒険者としては1年未満であり、Fランクのチーム『ハーピィ』だ
刀身が細めの片手剣を持つはレイナ
双剣を使い、腰に投げナイフを2本装備しているのはキアラ
魔法使いで武器は細剣と珍しい組み合わせのカグラ
細剣とは他の剣とは違い、突きに特化した武器だ
ガードするより攻撃を受け流すことをしなければ折れる危険性がある上級者用とも言われている
だが攻撃速度は槍と互角という特徴を持つ
となると護衛用武器としては十分機能する
リリディ
『1人入れてはどうです?3人だと結構辛いと思いますが…』
レイナ
『やっぱりそうですかね』
リリディ
『僕らでも最初は3人でしたが、男でもかなり辛かったですよ?5人になってからは凄い順調ですし』
カグラ
『リリディさん、握手してください』
無言で握手するリリディ
何故そんなことを口にしたのだろうと疑問を顔に浮かべるが、彼は嬉しかったから気にしない事にした
ギルハルドが女性達とじゃれ合う最中、『戻りながら話しましょう、送りますよ』と言ってギルハルドを女性から引き剥がす
帰るには早い時間帯であったため、少し彼女達は稼ぎたい気持ちがあったが
先ほどの事を考えると疲労もあるので仕方なく帰る事にした
リリディを先頭に、その後ろをギルハルドが4足歩行で歩く
ハーピィは彼らの後ろを歩きながら口を開く
レイナ
『募集したら来ますかね?』
リリディ
『標的を絞り過ぎなければ来ますよ。ですがやはり一生ものだとすればそれなりに貴方達のこだわりを優先すべきでしょうね、相性合わないのは嫌でしょう?』
カグラ
『確かに…。でも私も魔法使いのスキル取らないと威厳が…』
リリディ
『ステータス見せてもらっても?』
という事で彼は見せてもらう事に
カグラは恥ずかしそうにしているが、彼は気にしない
・・・・・・
カグラ・ヨサコイ
☆アビリティースキル
スピード強化【Le1】
気配感知 【Le1】
☆魔法スキル
氷 アイス・ショット【Le1】
・・・・・
カグラ
『先週ようやく魔法スキルを手に入れて…』
レイラ
『私は技スキル1つもまだですね…』
キアラ
『私はスピード強化がレベル1名だけで…』
肩を落とす彼女ら
しかしリリディは明日もイディオットが休みであり、暇なのでとある提案をしたのだ
『明日の夕刻にはアンデット狙いで夜の森に行くのですが来ますか?私のパートナーのギルハルドが魔物を倒せば人が倒すよりドロップ率はかなり高いんですが…彼が分けてくれるなら上げますよ』
3人の必死な視線がギルハルドに注がれる
それに気づく猫、『ミャン』と器用に手でマルを描いていた
どう見ても了承であると捉えた女性らはリリディの提案を強く飲んだ
こうしてギルドに戻ると、リリディは丸テーブル席で珍しく寛ぐ仲間と出会う
リュウグウ
『どうしたメガネ、ナンパか?』
リリディ
『聞き捨てなりませんねぇ…僕が出来るとでも』
リュウグウ
『…すまなかった』
リリディ
『逆に謝罪されると切ないですってっ』
3人の新人冒険者は目を輝かせてリュウグウを見ている
どうやら彼女も憧れの対象のようだ
しかし無理もないだろう
グリンピアでランクAチームに所属する女性は6人
彼女達はグリンピアや街近辺の女性冒険者からは男が想像しているよりも評価が高い
エーデルハイドの4人衆
イディオットの2人
高嶺の花という存在である
レイナ・キサラ・ガグラはリュウグウに強く握手を求めた
対するリュウグウは一瞬戸惑うが、彼女達の目を見て察すると苦笑いを浮かべて軽い握手をする
喜ぶ3人を見て、『なるほどな』と呟くリュウグウ
それを見てリリディが彼女に提案したのだ
『明日彼女達のスキル調達のお手伝いをするんですがご協力どうでしょう?夕刻からのアンデット狙いですよ』
『予定は無いから大丈夫だ。牛乳プリンを奢れメガネ』
『はいはいわかりました』
リュウグウが来るとわかると彼女達は喜ぶ
ようやく3人は受付で倒した魔物の魔石の換金が済むと、リリディはリュウグウにとある相談を持ち掛けた
それは全員で丸テーブル席に座って話し合われた
リリディ
『彼女達はもう一人仲間を欲してます、適度な仲間を集うに当たってリュウグウさんならどんな条件が良いと思いますか?』
リュウグウ
『女性で良いのは間違いない。今いきなり男なんか来たら面倒だぞ』
リリディ
『確かに、その辺はどうです?』
アンナ
『女性が良いですね』
リュウグウ
『結局3人の望む形で募るのがベストだが…。私としては槍を扱う女は良いと思う』
カグラ
『それ3人で槍が良いって話を以前しました』
リュウグウ
『女は魔物の攻撃をガードなんて考える生き物じゃないからな…それよりならば攻撃速度を優先すれば槍が良い。だから私は槍にしたんだ』
キサラ
『槍のスキルはどのように?』
リュウグウ
『そこは3人が育てろ。夜の南の森にゾンビランスが単体で出てくる、北の森はあまり出てこないからな?南の夜でゾンビランスを沢山倒して三連突スキルを手に入れろ、夏は角バッタの鬼突だ。その2つは魔物の数が多いからさほど苦労しない』
ガグラ
『流石グリンピア一番の槍』
リュウグウ
『…』
リリディ
(少し照れてますね…でも可愛い後輩だと思えば協力的になってくれるでしょうし)
リュウグウは3人の可愛い後輩と共に仲間の募集書を受付から貰うと、記載欄の書き方に悪戦苦闘を見せ始める
気長に待つこと1時間、リゲルとクワイエットが森から帰ってくる
クワイエットが引きずるのは将軍猪の頭部、その牙と角は鋭く、ロビー内で寛いでいた冒険者達は立ち上がってしまうほど驚く
『マジかよ…』
『頭部とか…あれくそ重いんだぞ』
『いやクワイエットは実際馬鹿力だぞ?ティアマトと同レベルらしいし』
『あれめちゃ高価なんだってな…Aランクになるとやる事違うな』
リリディ
『森で会わなかったですね…』
アンナ
『あぁリゲルさん格好いい』
カグラ
『リゲルさん格好いいなぁ』
キアラ
『彼氏にしたい男ナンバーワンだよねぇ』
リュウグウ
『あれが…』
リリディ
『あの人が…』
2人、驚く
どうやら女性冒険者からは恰好な人気があるようだ
あのツンツンした感じが良い、という男が理解に苦しむ理由が一番だとか
リュウグウ
(ヤンキー好きな世界か…)
受付嬢アンナさんは受付で将軍猪の大きな頭を引きずるクワイエットを見て顔を引きつらせる
だがあれだけで今の相場では金貨30枚は超え、頭部の毛皮は防寒耐性が高い
流石元聖騎士1番隊、流石あの森の生還者だとリュウグウとリリディは思う
『ニャーン』
以前としてギルハルドはテーブルの上でリリディに毛繕いされている
カグラ
『書き終わりました』
仲間募集のチラシが出来上がり、彼女達はそれを受付に持っていく
こうしてリリディは彼女達と別れ、家に帰る
リース・リスタルト →リリディ母 主婦
クリス・リスタルト →リリディ父 漁師
リズ・リスタルト →リリディ妹 学生
夕方、家に帰るとソファーで足にギブスを巻いて息子に手を振る父の姿がいた
母親のリース、そしてリリディの妹のリズが心配そうに父の近くにいたのだ
リリディ
『父さん、どうしたんです?』
クリス
『いやぁ…網の補習を職場でしている時に変に足を取られて転んでなぁ。当分休息だよ』
リース
『暫くはリリディの稼ぎね』
リリディ
『まぁ結構ため込んでるし大丈夫だと思いますが…』
クリス
『助かるよ。そういやお前が朝出ていったら入れ違いで面白い人らが家に来たぞ?』
リリディは首を傾げた
母と妹は夜食の準備に台所に向かい、リリディはソファーに座ると妹が用意したバナナジュースを半分飲んでテーブルに置く
クリス
『魔法騎士会』
リリディ
『!?』
クリス
『まぁ驚くだろうな、俺は最初追っ払おうとしたさ…オヤジを殺したような組織だったからな。だが話を聞くに来たのは俺の親父を慕っていた者の派閥ってわけさ』
リリディ
『ロンドベルとアルベルト』
クリス
『知っているらしいな、色々聞いたよ』
リリディ
『カサンドラ会長の話もですか?』
クリス
『お互い同じ情報を知っているらしいな。確かにロットスターは許せん…だが会長は面白い事を考えているようだ。お前に託すために我慢しているように思える、会長の話は親父から俺も色々聞いてるよ、悪に屈しぬ強い意志を持つ女性だってな』
リリディ
『今までロットスターを野放しにしたのは…』
クリス
『多分だが、一番ロットスターを懲らしめる方法はお前が出来るからだと踏んでいるとか?親父の話じゃ意外と策士な人っても聞いてる。どうせお前は魔法祭に出るんだろ?』
リリディ
『出ますね』
クリス
『勝て。魔法騎士会は実力社会だ、お前が優勝してロットスターの挑戦権を得てあいつに勝てばあいつは公衆の面前で魔法騎士長の資格を剥奪される。』
リリディ
『じゃあそれまで強くなればいいですね。その前にお爺さんが残した最後のスキルを取りにエド国に行きますが帰りはかなり遅くなります』
クリス
『そうか。お土産頼むぞ…武士道シャツを家族分買ってこい』
リリディは真剣な顔を浮かべた父が急に笑顔でお土産の話をすると、大きく笑った
ホンノウジ地下大迷宮の地下50階層、ランクA上位のジャバウォック
彼はそれがどんな生き物なのか、まだ知らない
闇の覇者、闇の王、影の支配者
彼の知らない恐怖がエド国に地下大迷宮にある
暫くして、夜食になると料理はリリディが好きなサーモン中心の料理が並ぶ
彼の父が漁師だからこそ夜食で魚介類が出る事は多いのだ
リズ
『馬鹿お兄ちゃん、魔法科の講師なんで落ちたんだっけ?』
リリディ
『魔法が危険だから』
リズ
『馬鹿だからじゃないのか…』
リリディ
『叩きますよ?』
リース
『こらこら…。まぁ残念だけどあれは仕方なかったわね…』
クリス
『一番目立ったんだがな…でもあの後ギルド職員がわざわざ俺達に事情を説明しに来たくらいだしなぁ』
リース
『あれから凄いのよ?近辺魔法使いの情報を乗せた雑誌あったから買っちゃったけどリリディあんた期待度Sになってるのよ』
リリディ
『Sかぁ』
リズ
『夢かもよ』
リース
『こらこら、まぁうちは冒険者ってなると魔法使いよね』
クリス
『俺もそうだったんだけどなぁ』
リズ
『お父さん、確か雷魔法?』
クリス
『そうだぞ?結構あの時代の冒険者は根性論だったから魔法なかったら拳で勝負って感じで案外やれること多い同職が多かったけど、やっぱりいくら強くなっても俺の親父は凄かったよ…、はっはっは!』
元冒険者ランクBだったクリス
それだけでもグリンピアでは凄いと言える傑物だったがハイムヴェルトがグリンピア健在時では全ての屈強な魔法使いが彼だけに打ち消されていたのだ
クリスはアカツキの父であるゲイルと同じで妻と出会ってから危ない橋を渡ることを辞め、こうして漁師として働いている
リリディ
『サーモン美味しい』
リズ
『お父さん、死んでも漁師でいいよ』
クリス
『死んだら魚取れないだろ…』
全く、その通りだった
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