第210話 気づいていく関係 1

エーデルハイドはグリンピアの北にある広大な森で街に戻りつつ森で魔物と対峙していた

時刻は15時、歩きやすい道を遮るはランクDのグランドパンサーが3頭

筋肉質な犬種であり、体毛はない

灰色の姿をし、それは唸り声を上げながら4人に牙を剥き出しにしている


1頭がそのまま威嚇をしていると、他の2頭は静かに彼女達の横に歩いて逃げぬように囲む

だが4人は冷静であり、クリスハートは一息つくと左右にいるアネットとルーミアに小さく頷いた


『待ちましょう』


グランドパンサーは動き回る

常套手段としては襲い掛かるまで無暗に追いかけまわさないほうが良い

しかし、4人の実力ならばそれをゴリ押して飛び掛かるだけでも勝ちを掴み取れる

それを知っていてもなおクリスハートは基本に忠実に言って確実な勝利を掴む事にした


『グルァ!』


背後を見張るシエラ、彼女が見ていたグランドパンサーがまず飛び掛かる

彼女は目を細め『ファイアテンポ』と囁くと一瞬にしてその体が炎を化す


『っ!?』


グランドパンサーが目を見開いて驚く

その炎は飛び掛かるグランドパンサーの横をすれ違うように通過し、シエラは実体と化す

魔法を放つチャンスはあったが、彼女はしなかった


仲間に当たるからだ

でも攻撃するのは自分じゃなくてもいい


ルーミア

『1頭目』


グランドパンサーの着地と同時にルーミアが首を掻っ捌き、一撃で仕留める

すると彼女の横から別のグランドパンサーが口を大きく開いて一直線に襲い掛かった

ルーミアは横目でそれを見るだけ、自分が攻撃しなくてもいいからだ


『ファイアアロー』


実体化していたシエラがルーミアに襲い掛かろうとしていたグランドパンサーに火の矢を放ち、それは胸部を貫通する

滑り込むように倒れるグランドパンサーをルーミアがトドメと言わんばかりに首に双剣を差す

その時にはアネットとクリスハートが残るグランドパンサー1体を丁度倒し終えていた


アネット

『意外といい感じの魔物パターンだね』


シエラ

『冒険者の壁って感じ』


クリスハート

『確かにグランドパンサー3頭は壁ですね。いい復習になりました』


ルーミア

『魔石光らないねぇ、まぁ幻界の森みたいに簡単に光らないよね』


アネット

『光って欲しいなぁ』


ルーミア

『だよねぇ』


2人が仲良く話している最中、クリスハートが3つの魔石を回収する

幻界の森から帰還後、4人は自分達がどのくらい強くなったかと実感した

戦いやすく、動きやすい

以前にも増して頭が働き、冷静だと


クリスハートは『帰りましょう』と言ってから皆と共に歩き出す

気配感知が有効な森の為、ある程度の余裕を持って歩けることで彼女達は他愛のない会話をし始める


アネット

『シエラどうだった?クワイエット君』


シエラ

『凄い大変だった、入って挨拶の終わりにお母さんにシエラさんを貰う予定ですって軽く言った』


ルーミア

『あっはははは!』


アネット

『すごいねクワイエット君…』


シエラ

『何故かそれを不思議に思わないお母さん、クワイエット君を気に入ってしまったし妹や弟も同じ』


クリスハート

『頑張ってください』


シエラ

『大変』


クリスハート

『でも最近シエラちゃん楽しそう』


シエラ

『きっと見間違いっ、そう』


アネット

(顔赤いなぁ)


ルーミア

(顔に書いてあるってこういう事か)


シエラは目標を変えてもらおうと獲物を探す

でも格好の獲物は1人しかいなかった


シエラ

『クリスハートちゃんだって、リゲル君と最近どうなの』


アネットとルーミアの視線は光の速さでクリスハートに向く

心の中でクリスハートは(しまった)と感じ、苦笑いを浮かべる


アネット

『リゲル君が隊長崩した時にしっかりお見舞いしたり看病したりとまぁまぁ』


クリスハート

『ふ…深い理由はありません』


アネット

『手を握ったり抱き着かれたり…アーンしてあげたりとか深い理由ないのぉ?』


今度はクリスハートが顔を僅かに赤くする

だが無回答、ザ・無言を貫いて歩き出す

これだとただ茶化しただけだなとつまらない思いをしていたルーミアはふと閃いた


『リゲル君がさ、他の女性と仲良く話したりお出かけとかされたらどう?』


その問いに対し、クリスハートは言葉にしない

考え込んだ顔をしたまま首を傾げたのだ


ルーミア

(決定的が足りない…か)


アネット

(傍から見ればカップルにしか見えない接し方なんだけどなぁ)


お互いにそういった経験をする暇もなく、時間もない

リゲルは聖騎士での任務を、そしてクリスハートに限っては政略結婚が嫌で恋愛なんて家を守るための行事だという普通の暮らしをする人間とは違う不快感を持っている

でも彼女がリゲルに感じている何かは、それとは違う

そしてリゲルに関しても、そういう感情がどういったものなのかわからない


アネットはそれをなんとなく察し、(晩成型か)と答えを出す

お互いにあるのは枠を超えた信頼、それがあるならばあとは時間なのだろう


アネット

『リゲル君とクワイエット君は23歳…私達は1つ下。』


ルーミア

『どうしたの?』


アネット

『んでシエラちゃんはいつも適当な歳をいうけども実際は25歳』


シエラ

『なんで知ってるん!?』


アネット

『内緒で家にいってお母さんに聞いたよ』


シエラ

(探偵、怖い)


ルーミア

『でもさぁ私達って冒険冒険だったから恋愛とは遠い存在だったもんねぇ』


アネット

『だよねぇ…気づけば22か』


クリスハート

『どういう男性が良いんですか?』


アネット

『え?まぁ人によって色々こだわりはあると思うけど』


彼女は唸り声を上げると、アッと閃いた顔を浮かべて堪える


アネット

『自分の為に命を賭けてくれる人って愛おしいよね、そういう人がいればきっと私も嬉しいんだろうなぁ』











日暮れと同時に4人はギルドに戻る

ロビーには数人程度の冒険者しかおらず、イディオットではティアマトが隣接している軽食屋カウンター席でカツ丼を食べているのが彼女達の目に止まる


ティアマト

『あ…うっす』


((((熊…いやティアマト君か))))


全員の考えが奇跡的に一致した


クリスハートは受付にて依頼達成と魔石換金をし終わると、丸テーブル席に座る仲間のもとに向かう

既にルーミアが全員分のバナナジュースを注文しており、クリスハートは戻ると同時にそれは運ばれてきた


いつもよりも静かな日曜日の夕方

それは殆どの冒険者が日曜という日を休みにしているからだ

微かに聞こえる金属音がぶつかり合う音、彼女達は地下訓練場からだと気づく


クリスハート

『今日もお疲れ様です』


シエラ

『だね、疲れた』


アネットは軽く何かをつまもうと考え、焼きおにぎりを注文しようとする

ふとみんなは頼むのだろうかと思い、クリスハートに視線を向けて彼女だが


(ん?)


軽く辺りを見回している

その意味はアネットにはわからない


お互い目が合うと、クリスハートは微笑みながら首を傾げた


『どうしました?』


『いや…私軽く食べようかなって、みんなは?』


アネットだけであった


今日の取り分をクリスハートが分けてみんなに分配すると、あとは自由行動だ

そして彼女達は明日そして明後日と休みだ

最近になって2連休を取るように心がけているのだ

本当は土日と取る予定だったが、今週は各自の事情もあってずらしただけである


受付嬢アンナさんが暇そうな顔をしてエーデルハイドに近づくと、隣の丸テーブル席に座り、彼女達に口を開く


アンナ

『今日は面白かったんですよリゲルさん』


クリスハート

『何かやらかしたんですか?』


アンナ

『反応早いですね。学生集めて冒険者講習の講師したんですけど人気でしたよ?子供にも結構印象高いなんて良いですねぇ』


そこでアンナは4人にどこからどのようにそうなったかを詳しく話す

一通り話し終えると、受付嬢アンナは『今2人は下で稽古してますよ?』と告げて受付に戻る



アネットとルーミアはそれを変に捉えた


アネット

『シエラちゃん様子見に行ったら?何してるんだろうね』


シエラ

『少し見に行く』


クリスハート

『私もついていきます』


ルーミア

(ちょろいわぁ…)



アネットとルーミアはニヤニヤしながら地下闘技場に向かう2人の背中を眺める

今日ほど心地よい日はないだろう


ルーミア

『2人一緒に浮かせるならやっぱシエラちゃん指定だよね』


アネット

『安定だねぇ』



そしてシエラとクリスハートは地下訓練場に行き、言葉を失う

先ほどロビーまで聞こえた金属音がぶつかりあう音の正体がハッキリわかったのだ

クワイエットとリゲルが本気で剣での勝負をしており、あまりの破壊力に大きな音を立て、僅かに火花が飛んでいた


武器を振った瞬間が見えず、気づいた時には互いの武器が交じり合う

どちらも本気だと2人は気づき、ただ見ていることしか出来なかった

僅かにぶつかり合うタイミングがずれれば、遅れたほうが地面を滑るようにして吹き飛ぶ

殆どがリゲルが弾かれる始末だが、その後にクワイエットが上手く誘い込まれて関節技を決められそうになって脱出したりと見ているだけで色々と彼女らには勉強になる


クワイエット

『あ』


リゲル

『ん?あぁもうそんな時間かよ』


彼らはシエラとクリスハートに気づくと、手を止めてその場に座り込んだ

邪魔してしまっただろうかとクリスハートは一瞬思ったが、その考えは直ぐに吹き飛ばしてシエラと共に2人に近づいていく


酷く汗をかいており、それほど長い時間打ち合っていた事でもある

シエラは驚きながらもどのくらい稽古していたのか聞くと、そこまで永くは無かった


クワイエット

『30分くらいかな?』


クリスハート

『凄い音が聞こえましたよ』


リゲル

『本気で打ち合ってたからな、流石に疲れた』


クワイエット

『今日は銭湯だね』


リゲル

『そうだな』


クリスハート

『今日は大変だったそうですね』


リゲル

『聞いたか…まぁ予想外な講師したよ。』


クワイエット

『早くお風呂入りたい』


リゲル

『ったく…』


2人はその場を後にするため、クリスハートとシエラを連れてロビーに戻る

銭湯といっても実はギルド内に夜勤用の職員が使用する安易風呂があり、彼らはそのことを言っていた

いざロビーに行くと、既にアネットとルーミアの姿はない


先に帰ったのだろうとクリスハートが思い、彼らの邪魔をしないようにシエラを連れて帰ろうとしたのだが、そこでロビーに残る冒険者が気にかかる会話をしたのが4人の耳に入る


『あれ?今日ニンジャスレイヤーって森行ったよな?』


『まだ戻ってこねぇのか?』


『確かにいたんだよなぁ…』


リゲル

『…確かにいたよなぁ』


クワイエット

『こういうの僕嫌いなんだけど…』


2人は一度湯船を諦めた

森に行って様子を見てくると彼女ら2人に告げてギルドを出ようとすると、シエラは『ついていく』と答えた

それに呼応するかのようにクリスハートも付き添う事となる


クリスハート

『森にはまだ僅かに雪が残ってます』


リゲル

『知ってる。一応冒険者らの勘違いであることを祈るか』


冒険者

『確かに何枚か依頼書持って受付で依頼してたんだ』


アンナ

『ニンジャスレイヤーさんは受付しましたね、まだご帰還されてないかと』


リゲル

『一応職員に伝えとけ、俺ら見てくる』


アンナ

『伝えときます。何かあれば照明弾の色で知らせることも可能ですが連絡魔石にしますか』


クワイエット

『じゃあ連絡魔石で』


クワイエットは受付嬢から連絡魔石を受け取り、直ぐに準備を済ませると4人は森に向かってギルドを出ていった

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