第209話 リゲル君、学生に教える

今年の春、グリンピア中央学園高等部には新しく魔法科が新設される

その為の実技講師試験にてリリディが1番の功績を残したのだが


彼の扱う黒魔法は危険と試験員が判断し、2位追加のシエラがリリディの代わりを担う

そしてあらたに高等部には剣舞科という剣を扱う学科が新設されることが決まり、その臨時講師の話をクローディアがクリジェスタの二人に話したのだ


二月頭、冬の寒さが僅かになくなってきた頃に彼らはグリンピア中央学園に足を運ぶ

新しく建てられた訓練場は屋外になっており、奥に見える扉は学園裏の森へと続いている


魔法科の実技講師採用試験が行われた場所であるが、剣舞科もここで授業が行われる予定だ

だから壁際には人間の形をした的が10つ立てられている


視察で来たリゲルとクワイエットは訓練場の上で昼食を食べる生徒などお構い無しに的をジッと見つめ、唸り声を上げた


ブルム先生

『どうでしょう?』


リゲル

『訓練用の剣は軽鉄で良い、あとはメンテナンスしないと直ぐ悪くなるからそういった武器でメンテナンス頻度を気にする癖をつけるのは早いうちにやるべきだ』


クワイエット

『良い武器だと劣化遅いからね。』


リゲル

『んだな、慣れるとついつい感覚が開いちゃって劣化激しくなっていたとかお決まりパターンだからなぁ』


ブルム先生

『では軽鉄にしときます。盾とかは…』


リゲル

『いらねぇ、あれは慣れてからだから学園では剣一つ伸ばす方向じゃないと覚えが遅い』


ブルム

『了解しました。』


リゲル

『剣を持って走らせる事だけはしとけ、疲れを見せる剣士ほど死にやすい奴はいない、強く鳴るための基礎も大事だが死なないためにどうするかはもっと大事だ』


こうして今日の視察を終えた二人は遅い昼食となる

学食で食べたいメニューを食べてくれと言われ、二人は学生が少ない時間帯に学食に案内されると唐揚げ定食を選んだ


学生服でもなければ教員服でもない冒険者の格好が気になった学食にいた中等部の学生の一人が彼らに話しかけると、二人は直ぐに人気者になってしまう


『やっぱ冒険者か…』


『うわ!Aランクのカード初めて見た。グリンピアに3チームしかいないんだよね』


『てか隣近所の街にAはいないから凄いよね』


リゲル

(学生かぁ)


悪くない、リゲルはそう感じた

グリンピアに来てから彼らの生活は一変し、人並み以上に充実していたのだ

聖騎士の時とは違い、いつも違うことが起きる日常に飽きることはない


『切り札とかあるんですか?』


リゲル

『まぁあるけど魔力消費やばいんだよな、クワイエットはデットエンドか』


クワイエット

『Aランク以外のアンデットなら直撃で一撃いける時あるからね、アンデットじゃなくてもそれなりに頑丈な魔物にも有効かな』


『なんの魔物からドロップしたんですか?』


クワイエット

『デュラハンだよ』


『リゲルさんは1番強いスキルってなんですか?』


リゲル

『強いってなると、ノヴァツァエラか』


『どんなスキルなんです?』


リゲル

『見える範囲全てを吹き飛ばす』


学生は真顔になる


この後、普通に帰るのも勿体ないと思った二人は学生裏の森で軽く運動してから帰る事にした

北の森と繋がる森であるため、そこそこ魔物がいるがランクはE以下

それはそれで学科新設としては丁度良い事だ


二人は川の流れる音が聞こえたため、川を目指して歩きながら話す


『ティアちゃんの話きいた!』


『ガブリエールなって速攻で国内に知れ渡ったってな。色んな二つ名が飛び交ってて面白いわ』


『まぁ回復魔法師会もティアちゃんがいればグリンピアに支部建てる理由としては十分だし時間の問題だね』


『建てるらしいぞ?』


『はや!あはは!』


下流にて近くの岩場に腰をおろし、彼らは泳ぐ魚を見ながら体を休める

魔物は少なく、穏やかな森

あの地獄のような森とは違い、これが森なんだと彼らは再度実感する。


『眠くなるね』


『帰ってからな、予定ないだろ』


『久しぶりに沢山寝るかな』


リゲルも予定はない

だからといって街をあるいたりもあまりしたことはない

ギルド内でのんびり人間観察でもしようかと思っていた


そう思っていると、変わった者が彼らの前に現れた

まだ学生であろう体が出来ていない体格

男の子が二人と女の子が一人


『あ…』


彼らはリゲル達の前に現れると足を止めた


(学生か?高等部?)

リゲルは首を傾げ、少し挙動不審な様子を見て察した

学生だろうと、そして中等部の今年の卒業生だから今は授業がなく、私服なんじゃないかと予想する


『学生が来る森じゃなねぇぞ』


『いや、その…』


口を開く男の手には使い古した片手剣

少し小さいが、リゲルは(あれで良い)と考えた

まだ筋肉が仕上がらない体では普通の片手剣を使うよりは小さめの武器が非常に振りやすいからだ


クワイエット

『高等部前の今年の卒業生って感じだね』


『直ぐに帰りますので…』


リゲル

『帰る道中で魔物に囲まれちゃ後味悪い、仕方ねぇからこっそり送ってやるからもう来んな。森はお前らに都合良く動いちゃくれねぇ所だからな?』


『すいません、ありがとうございます』


女の子が律儀にお辞儀をすると、リゲルとクワイエットは立ち上がる。


3人を引き連れて森を歩く最中の会話は無い

だからといって二人は場を和ませようという気もない

それは前職である聖騎士の癖がついているからでもある

護衛対象とは無駄に話さないのだ


リゲル

『てかよ、ロリ女が魔法科の実技講師か…でも1番それが良いよな』


クワイエット

『適任だと思うよ、リリディ君の黒魔法はあまり認知もされてないし未知数だから教育現場じゃあれを見せられて授業とか難しいよ。戦い方も他の魔法使いの基本的な立ち回りじゃない…前衛的な立ち回りだから初心者にあれは無理さ』


リゲル

『確かに言えてるわ。それにあいつは考えて動いてねぇ、直感で行動してるから言葉にして教えるってのは無理がある』


彼らの会話に驚いた3人の学生はリゲル達に話しかけたのだ。

リリディさんのお知り合いですか?と

リゲルは微妙だと答えるが、クワイエットは友達だよとお互いに違う言葉を口にしてしまう


ここでようやく学生3人は以前にリリディにお世話になったことを話すと、リゲルは内心で(俺らと同じ出会いだろどうせ)と正解を導き出す


カイル、ミミリー、ランダーの3人のうち、ミミリーとランダーは魔法科を専攻することに決めたが、カイルは剣舞科が新設されると最近知ってからはそちらを専攻することにしたのだ


カイル

『ゴブリン1体だけですが倒したんです』


リゲル

『馬鹿か、たまたま単独だっただけだ。普通は近くに仲間がいて5体6体と囲まれることは珍しいない。それなりに弱い魔物は本能的に群れる』


カイル

『あ…はい』


リゲル

『無知で挑む奴は馬鹿だ、然るべき知識を持って森に入らないといかにゴブリンといえど痛い目みるからな?たしかにゴブリンは弱ぇけど』


カイル

『す、すいません』


ミミリー

『ごめんなさい』


(こいつら…)


頭を掻くリゲル

だが遊び半分ではないのだけは彼らを見て多少なり理解をしていた


だから彼は面倒臭そうに溜め息を漏らすと3人に言ったのだ

『勝手に森に行かないと誓うならばギルド地下の冒険者講習会をタダで受けさせてやる、毎週日曜日の昼過ぎに講師で俺がやってる』


暗い顔を浮かべた3人は直ぐに元気になった


クワイエット

(こりゃ僕も手伝った方がいいね。) 


二人は学生をグリンピア中央学園近くの通りまで送ると、そのまま真っ直ぐギルドへと戻る

ここでリゲルはのちに何が起きるか知る由もない


起きたのは日曜にの昼前

リゲルとクワイエットはいつも土と日は冒険者稼業を休んでいる為、リゲルに至っては日曜の冒険者講習を講師としてギルド運営委員会に依頼されて行うことが出来ている

しかし今日はひと際、客層が違ったのだ


2階吹き抜け奥の丸テーブル席でいつものようにリゲルとクワイエットは寛いでいる

エーデルハイドは森に冒険者としての活動、イディオットは日曜なので休み


リゲル

『なぁクワイエット…俺の目は可笑しいのか?なんでガキがこんなにいる?』


クワイエット

『わかんないねぇ…』


ロビー内には30人近くの若い男女がいたのだ

比率としては圧倒的に男の子が多いが、それでも今日は異常過ぎた

その中にいつぞやの3人も交じっている


(嫌な予感してきたぞ)


リゲルはロビーに降りる事に勇気が必要だろうと悟る

そしてロビー内で寛ぐ冒険者達は不思議そうな目で若い男女を見てソワソワしていた

日曜日は殆どの冒険者が休みにしているため、あまり混んでしまうことは無い

だが20代に達してない者が30人近くいるという光景にリゲルでさえ驚く


受付嬢アンナも受付から面白い光景を見ると、奥にいるクローディアさんに視線を向けて指示を仰ぎ始める

ようやくギルドのボスであり、ギルド長のクローディアが机から離れて受付まで行くと、近くの若い男に何かを話し始めた


リゲルとクワイエットは2階の吹き抜けから僅かに顔を覗かせ、その様子を見る


『伝え方間違ったか』


『だね、話が学園内で広がっちゃった感じだねぇ』


『はぁ…今更追っ払えねぇな…』


リゲルは下に降りると、クローディアさんに事情を説明

そこで彼女は言葉のすれ違いを察して腹を抱えて笑いだした


『まぁ今日は特別に私が許可してあげるわ。貴方達が学園で動くことになったから街役所から助成金入るし』


『まさかこうなるとは…』


カイル

『あ、リゲルさん』


ミミリー

『リゲルさんだ、リリディさんはいないんですか?』


リゲル

『お前らか、あいつのチームは今日休みだからいねぇよ』


ミミリー

『残念…』


と、という事でリゲルはクワイエットと共に学生ら約30名を引き連れて地下訓練場に足を運んだ

彼らの殆どがグリンピア中央学園中等部を今年卒業し、高等部で新しく新設される剣舞科を専攻する予定の子達だ

中には今年は中等部3年生、もしくは高等部の魔法科に入る予定という剣舞科とは遠い位置に属している者もいる


訓練場中央に集まる学生、そして興味本位で壁の上にある客席に座って様子を伺う冒険者がちらほら

その中にはバーグ率いる夢旅団やイディオットとそれなりに交流がある冒険者チームがいる


リゲル

(この数か…)


自前の武器を持ってきている者は数人しかおらず、あとは裸同然で来ている者が殆ど

となるとリゲルは今回は方向を変える事にした


『下は固めた土だが、疲れたり具合が悪くなったら座れ』


とりあえずはそう告げ、鞘から剣を抜いて肩に担いだ

それだけで学生は少し心躍らせ始める


『ハッキリ言うが知識をめんどくさがる奴は死ぬ、ちょっとした予想外が起きたら直ぐに死ぬ、自分だけじゃなくて最悪の場合チーム全員が死ぬ。魔物は本能的に襲い掛かってくるが生きるために全力で襲い掛かってくる奴もいる、それを意識できねぇと死ぬ』


彼は気迫を乗せて告げる

それによって先ほどの心躍らせるような空気は一変し、静寂と化すとリゲルだけの声がこの空間に響き渡る


『俺は剣士だが魔法使い希望にも必要な知識を今日は教える。それらを全部お前らの頭に叩き込んでからが稽古だ。』


バーグ

『おぉ頑張ってら』


プラオ

『基礎知識は持ってないと話にならないからな、現に新人はそういった理由で命を落とす奴は多い』



『先ずは森に向かう時に必要な道具だ。発光玉と遭難玉に光粉、そして干し肉は1人1枚…これが必要だ』


学生

『何故ですか?』


『発光玉は地面に強く投げると爆発して大きな光を放つ、それは魔物の目を一時的に奪う。使う用途は予期せぬ強い魔物と遭遇した時だけだ。森に行けば予想とは違う魔物が現れる…Fランのゴブリン探してDランのグランドパンサーやソードマンティスが現れましたぁなんてしょっちゅうだ。自分と見合わない魔物だと感じたら発光玉で視界を奪って逃げろ。倒そうと思うな』


リゲルは肩に担いだ剣を降ろし、わからないから手首を使って回しながら続けて話す


『遭難玉は地面に投げると爆発して僅かに発光を帯びた狼煙が数十秒間だけ空に伸びる。怪我をした者がいる、や帰り道がわからないから救援求むって意味だ、覚えておけ。光粉はちっと値は張るが暗い場所で撒きゃあ数分は僅かに光りを放つからある程度視界を確保できる。干し肉は遭難して戻れなくなった用の飯だ。遭難した場合は日中でも夜でも無駄に大声出すな、魔物がくるし夜ならばアンデットがウヨウヨくる。お前じゃ数で物を言わせるアンデットには太刀打ちできねぇぞ?夜の森は慣れるまで入るな』


徐々に学生たちの顔が真剣になったと知るリゲルはどう難しくないように説明しようと悩む

こんな大勢は初めてだからだ、数人程度に指南するといった任務は父であるルドラから聖騎士としてこなしてきたことがある


『あとは魔物の本みて魔物の特徴は絶対熟知しろ。ゴブリンはお前らでも倒せるがあいつら徒党組んでる場合がある。見つけたからといって意気揚々と駆け込むな。先ずは目標対象が周りに何体いるか把握してからだ。』



リゲルは数分間、知識について話し続ける


『片手剣は最初は小柄な物から選べ、お前らはまだ未熟だ…重くて2キロは超えないが俺は1.4キロ以下で選ぶことをお勧めする。理由は思いと直ぐに触れなくなるからだ…腕が疲れるぞ?聖騎士じゃ両手に2キロの思い片手剣持ってランニングとか毎日やるからな?見え張って見た目で選ぶと実戦で早く疲れる危険があるから最初は大人しく軽さを意識しろ、あとはメンテナンス大事だ…自分らの命を守る武器や防具が不備があれば劣化が早くなる。だから鍛冶屋には冒険者も月に一度は絶対にお世話になる』


その後も話し続け、彼は30分も話した

知識となると細かく言葉を砕けばそのくらい時間を要するのだ、だがまだ足りない

今話したのは基本中の基本でしかない


『今の話が詰まった冒険者の基本書はこのギルドが受付横で物販してる。著名人は昔の五傑だったクローディアさんって人だから安心して買うと良い。銀貨1枚するが帰る際に買えば銅貨1枚にしてやる。差額は俺が払う』


とんでもない言葉に学生よりも客席の冒険者がどよめく

30人となると普通ならば銀貨30枚、金貨では3枚というかなりの額だ

父ルドラが残した遺産と自身が溜めこんた大金の使い方に困っていたリゲルは変わった形で出費をする事となる


『メインの話は終わりだ、魔法使い希望は高等部で魔法科を専攻してから色々と立ち回りや魔法使いとしての基礎知識を学べ。』


学生

『リゲルさんって冒険者の前は聖騎士だったと聞いたんですが』


リゲル

『聖騎士1番隊だったが今は引退した』


それだけで歓声が上がる

何故か照れ臭くなる彼だが、1番隊とは一般的に戦いのエリート中のエリートと言われているのだ

聖騎士の入団試験を通過するだけでも僅かしか残らず、ましてや1番隊になるには過酷な訓練や経験、そして根性が無いとなることは出来ない


リゲル

『ちなみに俺の後ろで干し肉を食ってる奴はクワイエット、あいつも聖騎士やめたが1番隊の副隊長だぞ』


凄い歓喜が湧き、クワイエットは引き攣った笑みを浮かべたままリゲルに視線を向ける


リゲル

(ざまぁだぜ…逃がさねぇからな?)


ここで彼は質問タイムを始めた

ちょこちょこと手を上げる学生の問いを答え続けると、今回の勉強会とは少し路線の外れた質問が飛び交う


学生

『リリディさんが講師になれなかったのはなんでですか?』


リゲル

『あいつは魔法使いの基本とは違って前衛的過ぎるステータスだ。だから森でも後衛じゃなく前衛で先陣切って魔物に突っ込んでいく頭可笑しい野郎だ。あれみたいになるには魔法使いとしての立ち位置をしっかりと時間をかけて学んで経験継いでいかないと無理だ。ましてや黒魔法ってのは今じゃあいつの専売特許、それを講師として学生に教えるのは俺があいつの立場でも難しい、そもそもあいつは直感で動くから言葉で説明するのは苦手っぽいかもな』


学生

『やっぱ強いんですよね』


リゲル

『ミノタウロスを単騎で倒す魔法使いなんてマグナ国探してもほぼいないぞ?コスタリカには数人いるけど…まぁそれが答えだ』


学生

『シエラさんもお強いんですか?』


リゲル

『強いぞ、あいつは基本的な立ち回りを必ず遂行するから仲間からの信頼も厚い。だからチームが強いし今じゃ国内冒険者でも10%以下のAランクだ。あれ…今は6%だったか、まぁそれくらい結果を残しているから安心しろ。火に関しては誰よりも詳しい』


カイル

『お勧めの片手剣ってなんですか?』


リゲル

『ミスリルが交じった軽鉄製の軽いショートソード、まぁ片手剣だが軽鉄だけだと錆が早いからミスリルが多少交じればそれが緩和される。資金が増えればミスリル純度の高い武器が安定する。どんどん慣れてくればそれ以上が必要になるがな』


学生

『ティアさんって今日いないんですか?』


リゲル

『彼氏とニャンニャンしてるんじゃないか?有名なのか』


学生

『マグナ国随一の聖魔法使いって噂になってますので…』


(カブリエールか、リリディの最終称号と双璧を成すって言ってたしな)


鉄壁のカブリエール、攻撃特化のギール・クルーガー

特徴としてはこのように左右されているが、カブリエールも魔法威力は高い

ホーリーというカブリエール専用特殊魔法があるからだ

だがまだ彼はその魔法の恐ろしさを知らない


リゲル

『まぁ今年中に魔法使いの最高峰がマスターウィザードじゃねぇっつぅのと戦闘手段が違うってのが一気に変わるだろうが…そうだとしても魔法使い志望は基本的な立ち回りはちゃんとしとけよ?』


ランダー

『グリンピアの剣士で一番強いのは誰ですか』


俺だ、とリゲルは自信を持って答えた

胸が高まる学生を見て良い気分になっていたリゲルだが、客席から自分を見る視線を感じて顔を向ける


イディオットが何故かいた

休みの筈なのに何故かいた

その中でもひと際、アカツキだけは目を細めてリゲルを見ていた


(まだ俺が一番だぞ)


リゲル

『今日は終わりだが…おらお前らっ!あそこにマグナ国で今話題沸騰中のカブリエール女がいるぞ!囲え!』


ティア

『っ!?』


学生はリゲルの策にまんまとハマった

指を指した先には客席にいるイディオットのティア、彼女を出汁にしてリゲルがクワイエットと共にその場を去っていった


ロビーに戻り、飲食店のカウンター席にてマスターにオレンジジュースを頼み、それが直ぐにくるとクワイエットと軽い乾杯をして飲み始めた


『ニャハーン』


リゲル

『お?』


ギルハルドがリゲルの隣の席に人間みたいに座って鳴いた

いつも間にいたんだろうかと思いながらもリゲルは『相棒はいいのか?』と告げる


『ニャハハン』


クワイエット

『良いってさ』


リゲル

『悔しいがなんとなくわかってきたぞ』


こうして暫くして、学生たちは地下訓練場から姿を現すと受付横の冒険者の基本書は学生たちが買い漁っていった、銅貨1枚で

受付嬢のアンナがリゲルに近づくと、『毎度です』と後ろから口を開く


リゲル

『いくらだ』


アンナ

『29名なので銀貨29枚、ですがリゲルさんには毎度講習をしてもらっていますので金貨2枚で大丈夫だとギルド職員が』


リゲル

『ほらよ』


彼は懐から金貨2枚を受付嬢アンナに渡す

彼女はニコニコしながら受付に帰っていくと、クワイエットがオレンジジュースを一気に飲み干してから話し始めた


『でも剣舞科と魔法科は必要だよね、学生生活終わってゼロ知識で冒険者を手探りでやるってのは可笑しいじゃん?今までが自殺行為な道をみんな歩んでたんだね』


『ある程度はギルドが講習会を不定期にしたりして補っていたが、それじゃ間に合わねぇし重要さをなんて初心者にはわかんねぇさ。学生のうちにってのは全然ありだぜ』


『グリンピアの学生ぐらいなら意識改革できそうじゃん?』


『楽勝だろ、てか魔法科はシエラだし問題ない…あいつだって何度も死ぬ思いを俺らと見てきただろ』


リゲルはクワイエットと思い出した、ヴィンメイや魔物軍団討伐や幻界の森での死闘を

誰よりも説得力のある言葉を口に出せると彼は信頼している


『あ!名前で呼んだ!』


『うるせぇ、てかデートは行ったのか』


『なんだかんだ行ってくれた、この前は家にお邪魔したよ』


リゲル、むせる

そんなの聞いてないと彼は強く思いながらもクワイエットに背中を軽く叩かれ落ち着く


『驚いたでしょ』


『ビビルわ』



今日は案外暇しない1日だったな、と彼らは早めに頭に刻んだ

こういう日もあるから暇しないとリゲルはご機嫌なクワイエットを見ながら思う

そんな彼らの背後には先ほど出汁にされたイディオット、それに気づいたリゲルは一度顔を合わせるが直ぐに視線を逸らす


ティアマト

『餌にして逃げたな?』


リゲル

『何人食えた?』


リリディ

『ブフッ!』


リリディがまた笑いを堪え切れずに拭いてしまい、ティアマトに頭を叩かれる


ティア

『驚いたけど、学生相手にもするんだね』


リゲル

『まぁな…てかお前ら今日は休みだろ?』


ティア

『バッタリ会ったからご飯食べる事になったんだけど、その前にここに顔出したら…ね』


クワイエット

『なるほど』


アカツキ

『来週は講習するのか?』


リゲル

『普通の冒険者は学生終わってからになるだろうな。お前らはエド国どうなんだよ』


アカツキ

『行くのは決まってるけども、地下迷宮となると何を用意すればいいのかさっぱりでな』


《そりゃエド国行けばわかる》


アカツキ

『いけば?』


《信じろ…エド国のムサシに入りたいと言えばそれなりに用意できるだろうよ。エド国で一番有名な地下の大迷宮なんだから必要な道具くらい詳しい筈さ》


誰もがそれには納得を浮かべた


クワイエット

『さて…僕はシエラちゃん来るまで待ってるかな』


リゲル

『物好きめ』


リュウグウ

『お前も大概だろ』


リゲル

『あぁんいったか槍女』


リュウグウ

『お?やる気か?そのケツに槍でも刺してやろうか』


リゲル

(こいつ猟奇的だな…まぁだが)


それでいい、彼はリュウグウにそう思った

悲観していても何も始まらないのは彼も知っているからだ

だからこそ彼は今日は退く事にしたのだ


『わぁったよ、負けたよ負け…勘弁してくれ』






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