第208話 日常編 3
クリジェスタとエーデルハイドは薄暗い森の中に入ると、ジャンケンに負けたリゲルが照明魔石を持つことになった
終始不貞腐れた顔をする彼を見て皆がクスクスと笑う
クリスハート
『たまには良いじゃないですか』
リゲル
『しゃあねぇな、まぁ今日は体が怠いし丁度良い』
クワイエット
『朝からずっと怠そうだったしね、まだ疲れ取れてなかったかもね』
リゲル
『かもな』
それならば丁度良いとクリスハートやアネットは頷く
太陽が沈んだ森はアンデット種が現れ始めるため、森からカタカタと骨が鳴る音が彼らの耳に入る
ルーミア
『無駄な戦闘は避けたいね』
アネット
『うん』
リゲルは照明魔石を一度隠してその場をやり過ごそうとしゃがんだ
足音は近くまで来たが、それは直ぐに遠くに去っていくとリゲルは照明魔石を再び取り出した
クリスハート
『?』
彼女は首を傾げた
何やらリゲルが遠くを見るような視線に違和感を感じたのだ
クワイエット
『ゴブリンの集団かぁ、雪が少ししかないし洞窟から出てきたのかな』
シエラ
『だと思う』
リゲル
『下流から探すか』
こうして彼らは森を歩く
魔物から隠れ、目的地である川の下流に辿り着くと茂みから皆が辺りを見回した
クワイエット
『いるね』
川の向こうから松明を手にゾロゾロやってきたのはゴブリンやハイゴブリン、中にはキングゴブリンもいる大家族だ
数は16体と予想より少ない
アネット
『どうする?』
クリスハート
『なるべく近づいてから一気に行きましょう、リゲルさんもそれで…』
(あれ?)
ボーっとしている
彼にしては非常に珍しいなと思いながらも驚いていると、リゲルはアッとしたような顔を浮かべてから『任せる』と告げた
できるだけ引き寄せてから飛び出す
基本的な常套手段だがそれが1番良い
『ギャギャ』
彼らが隠れている茂みまでゴブリンの集団が近づくと、ルーミアとアネットがまず飛び出した
いきなりの奇襲にゴブリン達が驚いている隙に二人は先頭のゴブリン数体を倒してから近くのハイゴブリンに襲いかかり始めた
クリスハート
『行きましょう!』
クリスハート、リゲル、クワイエット、シエラは共に飛び出す
『ファイアーボール!』
赤い魔法陣から放たれた大きな火球はゴブリンを吹き飛ばし、近くの対象も燃やす
なるべく彼女に魔物が近づかないように他の3人は一定の距離を保って戦うが、クリスハートはリゲルの様子が可笑しい事にようやく気づいた
いつもよりまったく動きに切れがない
手を抜いている?いや弱い魔物でもそんなことしない人だと彼女は知っている
目が虚ろであり、剣を振ったあとに体勢を立て直すのが遅い
彼女よりもだ
(あっ)
リゲルが交戦している最中、彼の側面からキングゴブリンが持っていた槍を彼に投げた
どうみても気づいていない、普通ならば投げる前に彼なら気づいた筈なのに
『リゲルさん!』
『おえ?』
彼女は彼の腕を掴むと全力で引き寄せて槍から守った
これには後方支援中のシエラも驚いていた
クワイエット
『リゲル、君さ…』
リゲル
『んだよ…助かった』
クリスハート
『クワイエットさん、周りお願いします』
クワイエット
『任せて。シエラちゃん頼むよん』
クリスハートはリゲルの様子が完全に可笑しいと気づく
目をよくみると僅かに充血しており、おでこを触ると直ぐに熱があると悟る
『完全に熱じゃないですか…』
『あ?そんな筈は』
『今になって疲れが限界きたんでしょうね。帰ってきてからちゃんと休みました?』
『少し休めば大丈夫だろ』
『どこから帰ってきたかわかってるんですか』
クリスハートは背後から襲いかかるゴブリンを振り向きながら剣で斬り倒すとリゲルを連れて後ろに下がり出す
その頃には過半数のゴブリンは倒され
残るはキングゴブリン率いる数体のゴブリンだけだった。
アネットとルーミアがそれを倒さんと駆け出した
後ろの方ではシエラとクワイエットに周りの警戒を任せ、クリスハートがリゲルを地面に座らせて休ませようとした
『俺、熱か?』
『熱です。』
『でも問題はねぇだろ』
『さっき誰に助けてもらったんですか』
『ぬ…』
『無理したら駄目です。彼女達が倒したら真っ直ぐ帰りましょ?』
クワイエット
『リゲルが体調崩すって久しぶりだね。』
リゲル
『熱か…そうか』
クリスハート
『帰りましょ、ね?』
彼女の呼び掛けにリゲルは無言で頷く
案外素直だと安心したクリスハートは魔石回収をアネットとルーミアに任せ、自身はリゲルに肩を貸して歩くことにした
先程よりも酷く、リゲルはフラついていた
照明はシエラの光の球で視界を確保し、皆はリゲルを守るようにして街に戻るために森を進む
アネット
『リゲル君がこのタイミングで体調不良とは』
ルーミア
『クリスハートには悪いけど、リゲル君は人間だったね』
リゲル
『好きに言っとけ、てかなんでこのタイミングなんだっつぅの…くそ』
クリスハート
『ほら、足元気をつけて』
シエラ
(普通にお母さんみたい)
クワイエット
(お母さんかな?)
リゲルは虚ろな目をしたまま、クリスハートの肩を借りて必死の思いでギルドに戻ると直ぐに建物内にある治療室に運ばれた
付き添っていたクリスハートは医者からは『溜め込んだ疲労が限界越えたんだろう、数日は休ませないと心臓に大きな負担をかけて死ぬ危険性がある』と言われると、入院することになったリゲルに『三日は絶対に安静にしないと訓練サボります』と強く言い放った
小さな個室、白いベッドに乗せられたリゲルはまるで捨てられた子犬のような目で頷くと、彼女はホッと胸を撫で下ろす
『そんな言わなくたって』
明らかに拗ねている
クリスハートは彼には悪いけども少し嬉しい一面を見れたかも知れないと感じた
『過労死するかもって言われたんですよ?』
『それなら休むしかないか』
リゲルは頭を抑え、唸り声を上げる
普通に具合が悪かったのだろうと思ったクリスハートは休ませたい一心で部屋を出ようとすると、リゲルは口を開いた
『明日来るのか?』
『…』
こないと拗ねるかも
彼女はそう感じると、クスリと笑う
『様子見に来ますよ』
『そうか』
(あ、少し機嫌戻った)
素直じゃないが単純
まるで子供のようだと思いながら彼女は部屋を出る
廊下にはクワイエットとシエラが待っており、クリスハートが事情を説明すると二人はホッと胸を撫で下ろす
『このタイミングで体調崩すんだ』
『リゲル君、具合悪そうだった?』
『多分大丈夫です。明日また様子を見に来ますので』
『体調崩したリゲルは面白いよ』
クワイエットの言葉にクリスハートは首を傾げた
だがそれは次の日になると意味がわかった
リゲルが体調を崩してから次の日、クリスハートは仲間と共に昼過ぎに彼に会いにいくと、昨日とは違って顔が赤かった
『いってぇ』
『大丈夫ですからね』
彼女は微笑みながら彼の手を握り、落ち着かせようと声をかけた
相当具合が悪いのだろう。
そこにいたのはいつも見るリゲルではなく、体調の悪さにグッタリしている一人の人間だった
『咳は?』
『ない』
『具合が悪いだけ?』
『うん』
(うん…)
『…薬は飲みました?』
『うん』
(うん…)
彼女は机の上に乗ってる物に視線を向けた
卵粥が入ったお椀があったのだが、手をつけていない
葉が入っており、明らかに栄養を考えてつけられたものだ
『食べないんですか?』
彼女は卵粥に顔を向けて話すと、リゲルは布団に潜った
『また食欲がない』と当たり前な事を聞いたクリスハートは溜め息を漏らしながらも毛布をひっぺがして食べさせようと卵粥をスプーンで掬うとリゲルの口元に運んだ
『食べてください』
『し…食欲ないんだよ』
『体調悪いんですから当たり前です。食べないと治りが遅いんです』
『でも…葉っぱ…』
(嫌いなんだ…)
だが彼女が『食べないと様子見にいきませんからね』と強めに言うと、リゲルは渋々ながら食べ始めたのだ
そこで彼女はふと思う
なんでここまでしてるんだろうと
だが最終的には(まぁいっか)で彼女は済ませた
二人だけしかいない空間かのように思えたが
ドアを僅かに開けて様子を伺う二人はそれを見て楽しそうにしていたのだ
クワイエットとシエラ
廊下にはアネットとルーミアがいたが、覗きは二人だけ
バレないように静かにドアを閉め、シエラは不思議そうな顔を浮かべる
シエラ
『クリスハートちゃん、お母さんみたい』
クワイエット
『リゲルがたじたじなのは面白いや』
アネット
『母性愛レベル5ありそうだしねぇクリスハートちゃん』
ルーミア
『あんなん普通じゃないでしょ、ただでさえ男との距離遠目ガールなのに』
アネット
『なんでリゲル君なのか、これは議題ね』
シエラ
『あーんしてた、あーんしてた』
クワイエット
『特別な信頼があるんじゃないかなぁ』
ルーミア
『どんなん?』
クワイエット
『僕だってリゲルは色んな面で信頼してるよ、戦いで背中を預ける事においてもね。でもクリスハートさんの場合って異性の中でリゲルが1番自分のために苦労してくれる人って無意識に理解してるから与えたり与えられたりって関係が自然にできるんじゃないかな。リゲルって彼女の事になると少し張り切るじゃん?』
『『『確かに』』』
クワイエット
『見てて面白いよホント。』
どこから始まったのだろうと彼は考えた
しかし、秒で諦める
2日後、リゲルは体調が戻るとギルド地下訓練施設にてクワイエットとエーデルハイドで基礎訓練をすることとなった
クワイエット
『ルーミアさんは槍と同じで長期戦になると武器が重たくなると思うから姿勢低くなりすぎないように双剣持ったまま走り込みとかいいかもね』
ルーミア
『わかる!確かに双剣は軽いんだけど疲れると重いんだよねぇ』
クワイエット
『他の武器と違って片手で持つからね、長期戦にならないように仲間と立ち回ってみるってのもありだよ』
シエラ
『あたし、あたし』
クワイエット
『魔法はわかんないけど剣士としては前衛の支援とか敵と距離が開いた時に休ませないようにブッパしてもらえたりすると嬉しいよ、それはシエラちゃん出来てるし大丈夫じゃないかな?前衛が魔法撃つ軌道になるべくいないように立ち回ってるのは戦っているの見てわかるからさ』
アネット
『流石だねぇ』
リゲル
『まぁロリ女が出過ぎても今はファイアテンポで一気に逃げれるから守りながらッて意識は多少薄めても問題ねぇ』
シエラ
『私年上!年上!』
そのやりとりにみんなが笑う
こうして一通りの訓練をした後は小休憩、その時にリゲルは少し考え込んでいるような顔つきでクリスハートに近づく
『どうしましたか』
『いや…その』
『本当に体調良くなりました?』
『うん、まぁ苦労かけたよ…その、あれだ』
(…なるほど)
彼女は彼が何を言いたいのか、なんとなく理解した
わかっているから言わなくても別に問題ないと思っていたが、不意にリゲルは溜息を漏らすと頭を掻きながら視線を逸らし、言い放つ
『ありがとな』
わかっていても、口に出してもらえると感じ方は違う
彼女はそれを人生で一番体験したかもしれない
恥ずかしがるリゲルに笑みを浮かべたクリスハートは口元に手を添えて僅かに笑うと、彼に言ったのだ
『また入院したらお見舞いしますよ』
そして時刻は18時
訓練を終えたエーデルハイドは冒険者が少なくなったロビー内の丸テーブル席でのんびりする
隣の席にはリゲルとクワイエット、彼らは戦闘旅団と意外と仲が良くなり、リゲルはバーグと仲良さげに会話をする
『若いって良いなぁ。Aか…俺もまだまだいけそうだ』
『奥さんに勝てればBランクはいけるんじゃないですかね』
『あぁー!無理だなー!』
それにはプラオやフルデが笑う
今日も帰りはおつかいだと笑いながら話すローゼン
平和な会話をするギルドには時たま面倒ごとが起きる、それは今日だ
ギルドに入ってくる冒険者に視線を送るという行為は殆どの者はしない
しかし、この時だけは偶然にもロビー内で残る冒険者達がギルドに入ってくる者に視線を向けたのだ
『っ!?』
入ってきたのは3人組の冒険者
コスタリカである意味有名なチームであり、誰もその者と接点を持ちたがらない事でも有名だ
リーダーは伯爵級の爵位を持つ20代半ばの男、グラン・ゲヘーナ・トゥルーパ伯爵
従えている仲間は雇った部下ではなく、それなりに名が売れているコスタリカの剣士と魔法使い
誰もが知っている顔に驚き、視線を逸らす
こんな時間に何をしに来たか、遠征がてら先ほどグリンピアについたばかりで今日はギルド内の視察だけなのだろうという考えを冒険者達は頭の中で思い浮かべる
『意外と小奇麗なギルドではないか』
見た目は好青年であり、問題などないようにも思える
しかし貴族という生き物は他の者と生き方が違う者も多数いるのだ
クリスハートに執拗に迫ったあの貴族と同じ人間は他にもいるという事である
リゲル
『マネーグランか』
クリスハート
『ご存じでしたか』
リゲル
『Bランク冒険者、見合う力は多分あるけど…あいつよりほかの2人が強ぇ』
クワイエット
『自力でBになった人らだもんね』
バーグ
『知ってるぞ…鬼のザンパと風切りのレインスター』
シエラ
『詳しい…』
バーグ
『気に入った冒険者は金を積んで仲間に入れる。まぁ悪い事じゃないけども断ると面倒なのが面倒なんだってな』
リゲル
『時代遅れの村八分で居場所失くしたり女に限っては気に入れれると股開くまで地獄の様な嫌がらせするって言われてる、まぁその証拠も隠蔽されるから捕まらないんだけどな』
クワイエット
『捕まらないというか色んな協会の上層部と顔が繋がってるから揉み消されるって感じに近いんじゃない?』
アネット
『うわー』
ふとリゲルはクワイエットが話をしている時、クリスハートに『顔をさげとけ』と告げる
何故私が、といった思いで彼女は顔を隠すようにしてその場をしのぐこととなる
辺りを身漁りながら受付に向かう3人、チーム名はバスターネイル
こんな田舎街に来た理由はわからない、しかし来るからにはそれなりの理由があったのだ
受付に向かったバスターネイルは受付嬢アンナに声をかける
その会話をリゲルは遠い場所からでも聞き耳を立て、神経を集中させた
『いらっしゃいませ、今日はどうしましたか』
『聖姫クリスハートという女性がここを拠点としていると聞いたが』
聞き耳を立てていたのはリゲルだけじゃなかった
ロビー内にいた冒険者はあえて視線だけで彼女を見た
そういえば彼女の二つ名は聖姫クリスハートだったなと今更思い出す
月さえも恥じらう美しさという話はリゲルも耳に入っていたため、また面食い貴族かと思うと一気に疲れが押し寄せて体調が悪くなりそうになる
アンナはどう答えていいかわからなく、少し戸惑う様子を見せた
するとザンパという剣士が『あの方ではないでしょうか』とクリスハートを見つけてしまう
アネット、ルーミア、シエラは同時に深い溜息を漏らす
言い寄られるときはいつもクリスハートだ、それを久しぶりに体験したからだ
それが嫌で遠征を止めて拠点であるグリンピアにいるのだ
(なんで私が…)
頭を抱える彼女はどうしたらいいのだろうと悩んでいると、アッと閃いた
ニコニコしながら椅子に座ったまま軽く浮かせて移動させ、リゲルの横に行く
『おい…』
『すいません、合わせてください』
『しゃあねぇ…前の貴族よりマシかも知んねぇけどな』
『え?』
『みんなの聞いた評価は時には偽りって事もあるからな』
(?)
そうこうしていると3人が彼らの前に辿り着く
以前としてクワイエットは呑気に『バナナジュース美味しいね』と他人の振り
しかし彼の顔を見た鬼のザンパは驚愕を浮かべて僅かに後退りしてしまう
アネットやルーミアはそれを見ると、首を傾げた
グラン
『どうしたザンパ』
ザンパ
『聖騎士1番隊副隊長クワイエット殿ではありませんか!?』
クリスハート
(あ、なんとか切り抜けそう…)
シエラ
(いけそう?)
クワイエット
『やぁザンパ、あれから調子はどうだい?てか僕は聖騎士辞めたから普通の冒険者だよ』
ザンパ
『そんな馬鹿な…あなたほどの人が辞めては他が務まるのですか…』
クワイエット
『そこはわかんないね、んで用事はなんだい?リゲルもいるよ』
ザンパ
『っ!?』
そこでエーデルハイドは知ったのだ、彼らの関係を
リゲル
『よぉザンパ…俺がいった訓練続けてるか?』
ザンパ
『う…リゲル殿…』
グラン
『リゲル君か…』
ザンパ
『私に武を教えた師でありますがグラン殿にとってもリゲル殿は剣舞の師であるのでは』
グラン
『久方ぶりだ…まさかこんなところにいるとは』
リゲル
『久しぶりっすね。B昇格おめでとうございます』
グラン
『ありがとう…ということは』
グランはリゲルの隣にいるクリスハートに気づくと、唸り声を僅かに上げる
彼はそこで気づいたのだろう、この遠征が無駄足であったことに
グラン
(フルフレア公爵の目に止まっている2人、いかに俺でも彼らが関係しているとなると流石に無理か…)
貴族である彼はクリスハートの事は調べ上げている
異性に対して絶対的な距離を置いている事に関してもだ
そんな彼女はリゲルに肩が触れても可笑しくない距離で近く、それは無暗に踏み入る領域ではないと悟る
グラン
『冒険者ランクはどこまで行ったんだい?』
リゲル
『クワイエットとクリジェスタってチームしてAっす』
ザンパ
『流石にルドラ様の後継者ですね…今更ですがご冥福をお祈りいたします』
リゲル
『気にするな…てか俺とルドラさんの関係もきっと噂で聞いてたりすんだろ』
ザンパ
『実の父であったと、最近聞きましたが驚きました。失礼でなければルドラ様がどんな最後だったかを教えていただければ』
リゲル
『なんだかんだ父親したよ、最後は俺を守って死んだ』
ザンパはどういう反応をしていいかわからず、申し訳なさそうにすると僅かに後ろに下がる
グランは『邪魔をした…君の仲間に触れる気は無い。後々俺の家系がどうなるか怖いからね』と笑みを浮かべてその場を後にしたのだ
グランは一礼をし、彼らから背を向けて歩き出すとザンパとレインスターは深く頭を下げて入口に向かう
扉を開けると、グランは再び視線をリゲル達に向けて最後に言ったのだ
『私の噂話は信じるかどうかは君次第さ。貴族が冒険者をやるのを良く思わない者もいるからね…』
3人はギルドを出れる
ロビーには大半の冒険者達の溜息がタイミングよく合わさる
何事も起きなくて良かったという意味だ
クリスハート
『どういうことですか?』
リゲル
『あいつは普通の貴族だ。だが若いうちに伯爵の地位を持って冒険者まで出来るのを変に妬んで変な話をでっちあげる輩もいるんだ』
クワイエット
『若良くて自分より地位が高いってのは貴族にとって変なプライド働いちゃうからね』
シエラ
『可哀そう』
リゲル
『だが気にしない器あるってことだ。まだマシな貴族で良かったな』
クリスハート
『お二人には助かりました』
バーグ
『なんでもやってんだなお前ら…』
リゲル
『まぁな』
一難去った、しかし一難という言葉には続きがある
一難去ってまた一難という言葉はその通り起こるのだ
グラン達がギルドに向かっているのを外にいた冒険者が見てしまい、何も起きないわけがないと勘違いして警備兵に連絡してしまった者がいたのだ
だから今、リゲルにとって面倒なものがギルドに姿を現した
その者の登場で先ほどよりもギルドの空気は凍てつく
シグレ
『あれぇ?良い匂いがすると思ってきたんだけどなぁ…』
ティアの兄であり、警備兵のシグレである
喧嘩の強さは負け知らず、唯一勝てないのはアカツキの父であるゲイルさんという戦闘狂の男だ
冒険者達は目を見開き、どよめき始めた
シグレの軽い足取りは自然とリゲル達の元に向かっており、クワイエットは苦笑いを浮かべたまま頑張って他人のフリをしようとバナナジュースを飲んで顔を隠す
だがもう遅い
シグレ
『君が何かと手を出せば僕が生き生き出来るんだけど?』
リゲル
『残念だな、聖騎士は警備兵と違って交渉術も出来るんだ』
シグレ
『初耳なんだけどなぁ?それにしても残念だ…本当に良い匂いがしたんだけど』
アネット
(こわ…)
ルーミア
(寿命縮みそう…)
何も起きないなら警備兵は動かない
何も起きないからシグレは動けない
緊張した雰囲気の中、その重みを感じてしまったクリスハートは顔を強張らせたまま無意識にリゲルに僅かに近づいてしまう
それが間違いだった
シグレはそれを見て不気味に微笑む
誘う糸口があるじゃないか、と
シグレ
『まぁ何か起きたとしても僕がこの場で制裁加えるのは可哀そうだよね、彼女の前で格好悪い事になっちゃうし』
リゲル
『あっ?』
彼はしかめっ面で立ち上がった
クワイエットは思った、もう駄目だ…と
アネットとルーミアは思った、本当に警備兵なのか…と
シエラは思う、リゲル君ってなんで今対抗意識もったの?と
遠くから見ているクローディアは願った
良いぞ、やれ…と
何故か誰も止めない
それは単純な理由が2つある
どちらも化け物レベルで強い事
そしてどっちが強いのか知りたいという冒険者の興味が勝っている事だ
グリンピア最強の矛とグリンピア最強の矛
2つはいらない、真実は1つしかないのだ
リゲルは立ち上がると、シグレの目の前で鋭く睨みを利かせる
それをクリスハートは慌てて止めるが、声は届かない
まだ1月を半分しか経過していない時期
それなのにシグレは半袖であり、腕は尋常じゃないほどに血管が浮き出て戦闘態勢に入っていた
リゲル
『彼女じゃねぇよ』
シグレ
『でも妹が色々教えてくれたんだよねぇ…彼女を特別扱いしてるんだし意中の人ではないのかな?まぁ君は見た感じヒヨッてるだけかもしんないけどさ』
リゲル
『今日は口が良く動くじゃねぇか…あ?』
シグレ
『本当に君面白いよ…大人しくしてるのが勿体ないと思わないかい?』
リゲル
『警備兵の言うセリフじゃねぇぞ』
そこで神が争いを止めた
皆が知りたいという真実は簡単には見ることが出来ない
ギルドにアカツキの父であり、グリンピアの警備兵長であるゲイルが入ってくるとシグレを見つけて連れて帰ってしまったのだ
これには受付奥にいたクローディアでさえ舌打ちをして悔しがる
一触即発を回避したリゲルは疲れた顔をしたまま、椅子に座る
リゲル
『…人間かあれ』
クワイエット
『本当にあの人怖いよね…僕でもあんま戦いたくない』
リゲル
『まぁ俺が勝つけどな…多分』
クリスハート
『そんな事言わないでくださいっ!お互い大怪我したらどうするんですか』
リゲル
『…まぁ無傷で勝てる相手じゃねぇ、見えねぇ点が多すぎらぁ』
彼は真剣な眼差しで言い放った
2月、リゲルとクワイエットはグリンピア中央学園に招かれる事となる
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