第225話 4 パゴラ村
パゴラ村
そこやいつも山から下りてくる風が強く、無風の日はほとんどない
夏は風のおかげで多少は他の街よりも涼しいので村の人は猛暑日はあまり感じたことは無い
リゲル達は場所で村の入口まで辿り着く
男2人が立ち尽くして村を眺めるのをエーデルハイドは声をかけずにジッと待っていた
リゲル
『…十年以上も帰ってなかった』
クワイエット
『僕は別に思い出ないよ?あるとすれば孤児院のマチルダさんくらいかな』
リゲル
『確かにお前気に入ってたな』
クワイエット
『手紙置いて抜け出した身だけど。一度顔は見せとくよ』
リゲル
『そうか…』
2人は歩き出すと、エーデルハイドの4人も彼らについていく
村ということもあり、出歩く村人とすれ違うが数は少ない
人口が4千人を下回った村の為、仕方がない
だが若者もちゃんとおり、彼らは森で狩りをしたり川で魚を取ったりと街とは違う生活を楽しんでいる
若者は彼らとすれ違っても反応は見せないが、比較的大人である者はリゲルを見るとまるて幽霊でも見たかのように驚き、足を止めて道を開けている
これにはリゲル本人も困惑するが、あまり顔に出さないようにしている
リゲル
『俺の家はあと5分でつく』
アネット
『近いね…』
リゲル
『小さい村だぜ?街とくらべりゃマジで小さいんだよ』
クリスハート
『でもリゲルさん、お家は今誰も…』
リゲル
『だろうな…』
きっと廃墟と化しているだろう
そう考えながら彼は仲間と共に辿り着いた
だがそうではなかったのだ
今でも誰かが住んでいそうな小奇麗さな見た目にリゲルは驚いた
住んでた頃よりも綺麗だからだ
リゲル
『そんな馬鹿な…くっ!』
彼は誰かが勝手に住んでると思い込み、中に入ろうと歩き出す
だが彼を呼び止める声によってその足は止まる
『戻ってきたのか…』
リゲル
『…っ!?レバノ村長…』
レバノ村長
『その目…成長しても変わらん。今は冒険者として生きていたのも村まで話は来ているぞ』
リゲル
『こんな村に外の情報なんて…』
レバノ村長
『先週、聖騎士の黒豹が来てお前の事を話してくれたからな』
リゲル
(なんであの人が俺の村に…)
レバノ村長
『安心せい。お前の家は誰も住んでおらん…ワシが暇な時に手入れしているだけだ』
外で話しするのもなんだと言った村長はリゲルの家に皆を入れる
以前より家の中も綺麗であり、かなり手入れされているとリゲルはわかった
懐かしい家に心が穏やかになる彼はレバノ村長がいれたお茶を皆が飲み始める
レバノ村長
『色々聞いた…ライガーが死ぬ前の事をな』
リゲル
『そうかい、まぁそれがあの人の人生だ』
レバノ村長
『親子として、他とは違う接し方だとしても、ワシから見るとお主は恵まれていたようにも思える…お前はそうではないと思うかもしれんがな』
リゲル
『何が言いたい』
レバノ村長
『お前は父の愛を知れたんだ。不器用さはライガー譲り…そしてお前は今やランクAの冒険者であり、名もマグナ国にも知れ渡り始めている』
リゲル
『名声なんて興味ねぇよ、俺の名がなんて知られてんだ』
レバノ村長
(気にしてるじゃん…)
『…パニッシャーという名だけだ、名前はない』
リゲル
『んだよそれ、処刑人かよ』
レバノ村長
『にしてだ、何をしに戻った』
そこで彼は帰ってきた理由を告げると、レバノは微笑みながら席を立つ
『では行こう』そう告げると近くの墓地へと足を運んだのだ
クリジェスタとエーデルハイドはレバノ村長の案内でアウラの墓の前に来る
リゲルは切ない顔を浮かべ、墓の前に座る
それをクリスハートは横にしゃがみ込んだ
リゲルは左腕に持つ骨壺を墓の前に置くと、一息つく
久しぶりな村、空気、景色、場所
彼にとって思い出が詰まった村だ
何を思い出しているのか、それは彼の背中を見守るエーデルハイドやクワイエットも理解していた
リゲル
『母さん、親父連れて帰ってきた』
いつものツンツンしている彼はそこにはいない
彼は立ち上がり、クワイエットがリゲルの実家から持ってきたスコップを借りる
どう掘ろうかとリゲルは考えると、クリスハートが心置きなくそれをする事となった
クワイエットは骨が繋がったばかりであり、力を入れることはあまりできない
リゲルも多少の罪悪感を感じながらも彼女に掘ってもらうと、1メートル程で棺が見えた
彼はそこに骨壺を置き、直ぐに埋めてもらったのだ
リゲル
『悪ぃ、あんがとな』
クリスハート
『いいんです』
レバノ村長
『それにしても、ヴィンメイ…か』
リゲル
『2人分の仇討てた、これ以上は望まねぇよ』
レバノ村長
『ふむ、そして良い仲間とも出会えたのだなお前は…良い女性も見つけていたことはロイヤルフラッシュ聖騎士長に聞いている』
全員がリゲルとクリスハートに視線を向けた
そうとしか思えないからだ
リゲルは驚愕を浮かべ、クリスハートは慌ただしく顔を赤くする
『違う!』
『違いますっ』
レバノ村長
『なるほど、まだ愛のパラメーターがその程度か』
アネット
『パラ…メーター…』
ルーミア
『このお爺さん…わかっている』
墓の前、リゲルは淡々と今までの話を独り言のように口にする
それはただの独り言ではなく、母に聞かせる今までの話だ
30分ほど話したリゲルは溜息を漏らすと、立ち上がって最後に言い放つ
『俺は大丈夫だ。自分のしたい事見つけるさ…母さんと父さんとそこで見てりゃいい』
いつも見せない彼の静かな顔に皆は声をかけることは出来ない
こうして墓を後にし、クワイエットが行きたい孤児院にレバノ村長の案内で向かう
2階建ての建物、庭は広く、外では幼い事が走り回る様子が誰の目にも見えている
クワイエットはその中にいる1人の女性を見つけると、ニコニコし始める
『あら…』
その女性が彼らに気づくと、アッと驚いた顔をを浮かべて口元を手で抑えた
クワイエットは『お久しぶりっ!』と手を振る
マチルダ
『クワイエット君!?』
クワイエット
『10年振りだね、マチルダさん』
マチルダ・レイティーン33歳
孤児院の応接室、テーブルを囲むようにエーデルハイドとクリジェスタは座ると、マチルダは紅茶を皆に出して席に座る
マチルダ
『話はレバノ村長から聞いてます、まさかリゲル君と共にたった2人でランクAの冒険者んなるなんて…』
クワイエット
『凄いでしょ!彼女もいるんだよ』
彼はシエラに顔を向けるが、彼女は『違う、まだ!』と慌てて答える
まだ?という返答にルーミアは疑問を顔に浮かべ、アネットと顔を合わせたが、そこは黙っておく事にした2人だ
マチルダ
『片思いのようね』
クワイエット
『えへへ、孤児院はどう?』
マチルダ
『何事も起きずに平凡ね、ただ教育するための教材を近くの街で購入しようと思ってるけど』
幼いまま親を失くしたり、捨てられた子がここには来る
マチルダは慈善団体として孤児院を立ち上げたが、国からの補助金が少ないために教育という環境を上手く整えれていないと話す
合計15人の子供、そしてマチルダ以外には子供を教育する若い女性が2人
生活する分には丁度良い補助金が国から支給されるが、それ以上はない
それに頭を抱えているのを悟ったクワイエットはまたしてもニコニコしながら懐にしまっていたある者を取り出し、テーブルに置く
置かれた布袋からはジャランと金属音が響き、クワイエット以外はその布袋を凝視してしまう
クワイエット
『聖騎士いるときに決めてたんだ。リゲルはリゲルにしたいことをしてるけども、僕はこれが今一番思い浮かぶしたい事だ』
マチルダ
『クワイエット君…これって』
彼は布袋の口紐をほどき、逆さまにして中身を出した
現れたのは大量の金貨、これには誰もが驚愕を浮かべてしまう
シエラ
『お金っ!』
アネット
『ふぁ!?』
ルーミア
『貯蓄マンの何割!?これ何割!?』
クワイエット
『金貨500枚ある。子供たちの教育に必要な教材は余裕持って近くの街から帰るでしょ?』
マチルダ
『買える…けど、この大金…』
クワイエット
『お礼だよ、僕の世話は大変だったでしょマチルダさん?その分も入ってるから少しは楽してほしいかなってさ』
マチルダ
『…こんな』
彼女はクワイエットの手を握り、深く感謝を述べた
クワイエットは3歳の頃にここに連れてこられた、そして孤児の中で一番手を焼く存在として数年君臨していた
泣き虫王、お漏らし王、大食い王の三冠を手にした孤児院始まって以来の存在だったのだ
それがいきなりここを飛び出し、そして大きくなって恩返しに来たことにマチルダは自分達のしている事が絶対に間違いではないと知る
クワイエット
『Aランクだから稼ぎは良いけど良い魔物が出てこないんだよねぇ、時たま手紙を書くようにするよ』
マチルダ
『そうしてくれるとありがたいわ…』
クワイエット
『そういえばビルナちゃんは?』
マチルダ
『彼女はここで働いているわ、一緒にね』
クワイエット
『そうなんだ!それは良かった』
マチルダ
『懐かしいわね、振られて泣いていた貴方が』
クワイエット
『あはは…忘れてた…』
シエラ
『む…』
アネット
『なになに?シエラちゃん?嫉妬でござるかぁ?』
シエラ
『その語尾っ!』
リゲルとクワイエットは一先ずはしたいことが出来、ホッと胸を撫でおろす
マチルダもレバノ村長から色々話を聞いており、そこまで深く話し込むことなくその場を後にしようと建物の外に出ると若い女性と出くわす
青い髪型でショートカット、背は小さくて可愛らしい女性はクワイエットやリゲルと歳は近い
その女性はクワイエットに視線を向けると、マチルダのように顔に驚愕を浮かべた
ビルナ
『クワイエット君…?』
クワイエット
『お久しぶり、ビルナちゃん』
唐突な出会いに彼女は興奮し、クワイエットの手を握る
これにはシエラがムッとしているが、ルーミアがニヤニヤしながらそれを面白うそうに眺めた
ビルナ
『まさかリゲル君と2人だけでAランクの冒険者だなんて凄いです』
クワイエット
『えへへ、マグナ国じゃ2人組でA以上は僕らだけらしいね』
ビルナ
『今日はどのような要件で?』
クワイエット
『マチルダさんに聞けばわかるよ、たまに手紙書くからマチルダさんと読んでね』
ビルナ
『顔を見せただけでしたか…』
少し切なそうな顔を見せる彼女は決してクワイエットの手を離さない
それに限界が来たのか、中途半端な関係を持つシエラがついに前に躍り出た
シエラ
『クワイエット君、女性に触り過ぎ…』
クワイエット
『おっとぉ!?』
リゲル
『ルシエラ、面白いな…』
クリスハート
『もう…リゲルさん』
リゲル
『偽善ぶるなよ、さらけ出せ…お前も面白いと思ってるだろ』
クリスハートは無言を貫いた
それが答えだ、とリゲルは悟る
彼らはパゴラ村で1日を過ごして明日にはエルベルト山に一番近い街に真っすぐ向かう予定だ
本当は村に1つしかない宿を借りる予定だったが、リゲルの家が無事ということもありそこで皆が寝泊まりすることとなる
母親の部屋にエーデルハイド、リゲルとクワイエットはリゲルの部屋
家に辿り着くと小さなリビングのソファーや椅子に皆が座って寛いだ
ルーミア
『ギルドはない村だね。魔物はどうしてるの?』
レバノ村長
『村には魔物専用の狩人が30名いる、この近くまで魔物がくれば彼らが対処するが問題はない』
リゲル
『まぁ強い魔物なんてほぼ出ねぇからな…ブラック・クズリがでりゃ一大事レベルだ』
レバノ村長
『その通りじゃな。夜食はどうする?ワシの家でどうじゃ?』
リゲル
『いいのかよ村長』
レバノ村長
『気にするでない、今日は家内と一緒に良い物を作ってやるぞ』
リゲル
『タダで食うわけにはいかねぇ、報酬は出す』
レバノ村長
『大人な契約をしてくるじゃないか、受け取る気は無いが…お前の成長も兼ねて受け取らざるを得ないじゃろうて』
リゲル
『黙って受け取れ』
彼は笑って答えた
エーデルハイドの4人はいつもよりも顔色が良い2人を見てるだけで楽しいと思い始める
彼らが住んだ村、育った村
今の彼らはここで生まれたんだと思うと、来て良かったなと心で強く思った
だがしかし、時として人の人生には災難が訪れる
夕暮れ時、レバノ村長は家に案内する道中に山から赤の信号弾が放たれた
各地域では色の意味は違う
ここパゴラ村での赤の意味は彼らが思うよりも深刻だった
レバノ村長
『馬鹿な…この村でそんな…』
リゲル
『村長、どうした…あれはなんだ』
レバノ村長
『村に危機、全員避難せよ…だ』
近くを歩く村人は赤い信号弾にどよめき、焦りを顔に浮かべて慌ただしくなる
静かな村が一変し、緊張感は走り始めたのだ
何が起きたのかはまだ誰もわからない、リゲルは皆と顔を合わせると村長を置いて山に向かう為の村の入口へと走る
そこで村人が5名、血相を変えた状態で話し込んでいたのだ
リゲルはすぐさま彼らに話しかけ、何が起きたのかを聞き始める
リゲル
『おいどうした!何が起きた!』
村人A
『それが…っ!リゲルじゃないか!?』
リゲル
『今は後だ!教えろ』
村人B
『倒しきれない魔物の数だ…、とは言っても30体ほどだが親玉が…』
クワイエット
『遊牧系の魔物かな』
色んな森を転々と移動して生活する魔物
それはどんな種類の魔物でも一定数存在している
パゴラ村から一番近い山にそれが現れたのだ。
特徴としては数が比較的多く、リーダー格が存在している事
そして知能が他の魔物よりも高い
村人A
『遊牧系で間違いない、森に調査に入った仲間が戻ってこない…多分もう』
村人C
『逃げれずに信号弾だけ撃ったか…』
村人B
『俺達は先に山から下りてきたが、グランドパンサーがウヨウヨだ…リーダー格はわかんねぇ。ランクDの魔物があんないたらどうしようもねぇ』
困り果てる村人、リゲルは自分の右腕のギブスを見て舌打ちをする
クワイエットは運動はまだできず、戦える状態ではない
となると彼らは頼む相手が1組しかいないと悟る
そこでリゲルは後方で慌ただしく家族を引き連れて避難を始める村人たちを見ると、クリスハート達に向かって初めて懇願したのだ
リゲル
『頼む…俺の村を助けてくれ』
その弱弱しい声にエーデルハイドは目を見開き、驚く
このような男がこうまでして気を小さくして人に頼み込むのか、と
いつもはツンツンと尖った言葉を軽く口にしているのに今じゃその欠片も感じさせない
クワイエット
『お願いみんな、僕の大事な村なんだ』
彼女達の心には何かが熱く燃え始める
アネット、ルーミア、シエラは口元に笑みを浮かべて静かに山に向けて歩き出すと、クリスハートはリゲルの前で立ち止まり、彼の肩を軽く触って口を開く
『大丈夫、大丈夫ですから貴方は避難誘導の手伝いをしていてください』
エーデルハイドは山に向けて歩き出した
人に何かを頼むような人間からの貴重な依頼を遂行するために、ランクAとしての力を見せる為に
大事な仲間の村を守るために
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