第183話 幻界編 23

歩くこと三時間

赤い球体の後を追ってここまで来たが、魔物との遭遇が一度もないから驚きだ

木々に映える様々な食虫植物に食べられそうにはなったが、それはまだ序の口かもしれない


『ここって…』


ティアが口を開く

色鮮やかな木々が視界に広がり、頭上には鱗粉を撒き散らすチョウチョのイルズィオがチラホラと飛んでいるのが厄介極まりない


『上に気をつけなさい』


クローディアさんは囁くように告げ、鉄鞭を構えたまま前を歩く

鳥の姿は見えないのに鳥の鳴き声が聞こえるが、反響して聞こえてくるから鳴き声を探ろうとすると頭が可笑しくなりそうだよ


ティア

『アカツキ君、エーデルハイドさん大丈夫かな』


アカツキ

『大丈夫だよ。全員生存って念術飛ばした主さんが言ってたし』


ティア

『そうだったね。』


アメリー

『ここどこですか』


ゲイル

『幻界の森だぞ』


父さん…彼女はそれを聞きたいわけじゃない気がする

ほら、凄い微妙そうな顔してるしきっとそうだ

そうしたやり取りをしていると、赤い球体が消えてしまう


同時に起きる音の消失

これはアンノウンの襲来を意味している

俺達は仲間と共に背中合わせとなり、5匹を倒す

父さんとクローディアさんは聖騎士と共に戦っていたが、あちらは手慣れた感じになってきている


ふと地面に落ちている魔石の中に2つほど発光しているのがある

アンノウンはスキル発動強化スキルという貴重なスキルであり、魔法使いならば喉から手が出るほど欲しがる代物だ


バッハ

『1つアメリーに譲ってほしい』


アカツキ

『では1つずつで』


バッハ

『感謝する、少年よ』


2つともイディオットが倒したアンノウンからの発光魔石

譲り合いは必要な場だ、変に欲を出していたら仲間割れにもなりそうだしさ


アカツキ

『これどうする』


ティア

『リリディ君でいいんじゃない?』


リリディ

『ティアさんでいいですよ』


ティア

『気にしないでいいよっ、その分みんなを助けてね』


どうやらリリディはティアの笑顔に負けたようだ

そして彼のアビリティスキルは7つと満杯状態


☆アビリティースキル

魔法強化【Le4】

打撃強化【Le5】MAX

気配感知【Le5】MAX

動体視力強化【Le4】

麻痺耐性【Le3】

スピード強化【Le4】

攻撃魔法耐久力強化【Le2】


彼はスピード強化はいらない、と言うが

ティアマトがそれを静止させる

確かに速度を上げるスキルは貴重だし俺もティアマトに賛成だ

だけどティアは反対する素振りは一切見せない、リュウグウもだ


リリディ

『グェンガーがありますから大丈夫ですよティアマトさん』


ティアマト

『お?なるほどな!』


リリディの持つ黒魔法スキルのグェンガーは一瞬で体を黒い煙と化し、任意で指定した場所に瞬間移動する移動スキルだ

魔力消費も案外少ないから速度はこれで補う、とリリディが言うとティアマトも納得だ


☆アビリティースキル

魔法強化【Le4】

打撃強化【Le5】MAX

気配感知【Le5】MAX

動体視力強化【Le4】

麻痺耐性【Le3】

スキル発動速度強化【Le1】New

攻撃魔法耐久力強化【Le2】



リリディ

『賢者に一歩近づいた』


ジキット

『変な事言うから変なの来ましたよ!』


地を這う肉食の魚ガンディル、そして鬼の顔をしたオーガントという魔物の群れが一気に押し寄せてきたのだ

流石に俺達は血相を変え、我先にと森の奥に逃げていく

あんな数と戦ってられない


戦えたとしても体力の無駄遣いに等しいと言わざるを得ない

川を見つけ、俺達は無我夢中で渡り切ると魔物たちは川が苦手なようであり追っては来ない


『共食いでもしてろ馬鹿め』


リュウグウは息を切らしながら向こう岸でこちらを見ている魔物たちに口を開く

川があってよかったな…


アカツキ

『すいません、ここで1分ほど息を整えませんか』


バッハ

『うむ、息を整えてから進もうか』


ゲイル

『それが良い。鬼と戦う事にもなるかもしれんからな』


クローディア

『最高ね。鬼のスキルは神秘的だと歴史書で記載されていたわね』


ジキット

『300年も正式な遭遇記録ない幻の魔物ですよ?本当にいるんですかね』


アメリー

『ジキットさん、この森に幻って言われる魔物沢山出てきてるじゃないですか…』


ジキット

『ああなるほど』


軽い返事のジキット

だが気持ちはわかるよ

幻級が出過ぎなんだよ本当に


今茂みから急に飛び出してきたあれもだ!


『グマァァァァァ!』


ギャングマだ

推定ランクB

2メートル、やせ細った熊だが両腕の爪は長く鋭い

完全なる不意打ちでそいつが飛び出してきたのだ


『っ!?』


俺達は地面に腰を下ろしており、立ち上がろうとするときにはギャングマは両手の爪を伸ばして引き裂こうとしている

狙いは俺であり、爪を振り落とそうと口からよだれを流しながら奴と視線が合う


ギリギリ間に合うかと焦りを覚えていたが

それを良しとしない男がいた


『おおおおおお!』


俺の父さんだ

両腕に魔力を流し込み、ギャングマの爪を受け止めたのだ

普通ならば腕が容易く両断される鋭さを誇る攻撃だが、腕に魔力を流して硬質化させて敵の攻撃を防ぐスキルだと直ぐにわかる


鍔迫り合いが一瞬だけ発生し、その隙にクローディアさんとバッハが両脇から挟み撃ち

だがしかし、ギャングマはバッハの剣とクローディアさんの鉄鞭が自身に当たる寸前で残像を残して後方に飛び退く


『グマグマッ!グマママ!』


アメリー

『ほら幻!ジキットさん!』


ジキット

『くそっ!本当にこの森どうなってやがる!』


『グマァァァァァ!』


ユラユラと不気味に揺れるギャングマは一気に顔を怒りで染め上げ、俺達に突っ込んでくる

ティアマトは我先にと躍り出ると片手斧を振り下ろし、それはギャングマの爪で受け止められた


熊同士の攻撃、見た目の質量はティアマトに分があるが

人間代表の熊はギャングマ相手に拮抗を見せつけた

流石に俺は驚いて足を止めてしまうよ、本当に俺の仲間は人間かってな…


『数秒行動不能に!』


リリディが叫ぶと、彼の両肩から2つずつ黒い魔法陣が現れた

あれはチェーンデストラクションという黒魔法スキルであり、魔法陣の中から黒い鎖を伸ばして相手を拘束する魔法だ


普通にあれを使ってもギャングマはきっと避けるだろう

ならば隙を作ればいい


『おらぁぁぁぁぁ!』


『グマァ!?』


ティアマトは大きく叫び、額から太い血管が浮き出る

相当力を入れているに違いない


彼は鍔迫り合いを制し、僅かにバランスを崩したギャングマの腕を掴むと勢いよく一本背負い

地面に強く叩きつけられたギャングマはあまりの衝撃にバウンドするが、ティアマトはそこで終わらなかった


『ディザスターハンド!』


見事な連携攻撃と言える

地面に叩きつけられてバウンドしてギャングマの地面にティアマトの影が伸びると、そこから大きな悪魔のような手が伸びて奴を掴んだのだ


『グマママママ!?』


『もういっちょ!』


ティアマトは叫び、ギャングマを更に地面に投げつけた

今度はバウンドせずに地面に叩きつけられたギャングマだが

その瞬間にリリディが黒い鎖を4つ伸ばして奴を拘束する


『今ですアカツキさん!』


そういうことか

気づくのが遅れていた、やっぱり俺は馬鹿だなぁと思い、僅かに笑みを浮かべた

拘束するだけではギャングマは死なない


トドメが必要だ

俺が求められているという事はあれを使うしかないって事さ


バッハ

『早く倒せ!他にも魔物がいる!』


こんな時に新手か…

ホロウという悲鳴を上げた人間の様な顔をした大きめのフクロウが9羽も現れたよ

それは彼らに任せよう、俺はギャングマに集中しなくては


息を整え、刀を鞘に強く押し込めて俺は開闢と叫ぶ

金属音が響くと同時に黒い瘴気が鞘から吹き出し、鬼の仮面をした武将姿のテラ・トーヴァが熱を帯びた刀を握り締めて現れる


『奴はお前らを見てる!行きたくば奥に進め!』


テラ・トーヴァはそう告げると、ギャングマを鎖ごと刀で真っ二つに斬り裂いた

それによってリリディの魔法は解除され、彼は振り向きざまに木製スタッフを振り被ってホロウを1羽叩き落とす


『ホォォォォ!』


『ホォォォ!』


『わっ!』


ティアが一瞬危なかった

このホロウという魔物だが、口から強い酸を吐き出すのだ

それに触れればどうなるか想像ぐらいは俺でも出来る

彼女はそれに触れそうになって驚いていたのだ


『ティア!』


彼女の背後にいたホロウを斬り飛ばすと他のホロウは観念したかのように飛び去る

倒せないとわかるや逃げてくれるのは有難い


相手はランクB、巨体ではないからこそ即座に対応できた連携で倒すことが出来たが

俺達はここに来て急激に成長していると実感させられたよ

ここに来て正解だったとは口が裂けても言えないが、もし生き残れたらゾンネやイグニスにもある程度対抗できる力になるに違いない


『リリディ君の魔法スキル、凄いわね』


『どうしてですか』


『拘束した相手の魔力を吸収してたわよね』


『だから魔力消費があまりないんですねこのスキル』


クローディアさんはわかったらしい

肝心のリリディはまったく気づいてなかったのには驚きだけどな


光る魔石がギャングマから現れると、俺達はなんのスキルなのか父さんと近づいて確認しようと手を伸ばす


数十センチまで手を伸ばせばスキル情報が脳裏に流れてくるのだが、俺は数メートル近づいただけでスキルの詳細が頭に流れ込み、驚愕を浮かべた


『父さん…これ』


『…ティアマト君来なさい』


『へ!?俺ですかい!?』


『私も素手の男だが、これはこれからを生きる君に良いと思う』


バッハ

『殴る系のスキルか…技はなんと?』


ゲイル

『マグナム』


アメリー

『それって!?!?』


ジキット

『知ってるのかアメリー』


アメリー

『元英雄五傑のアクマさんが十八番にしていた技ですよ確か!』


バッハ

『戦闘狂の技とはな…』


驚いた…

アクマという五傑はまだであったことは無いが、その者と同じスキルか

それにはティアマトも不気味な笑みを浮かべると、何も言わずに魔石を掴んだ

これさえあれば彼の戦い方も格段と変わる筈だ


俺達は強くならなくちゃだめだ、生きる為に

それは森を生還してからも続く


その為に必要だと父さんは思ったのだろう


『良い技だ…。五傑になるには必要なスキルだな』


彼はそう告げると、発光した魔石のスキルを吸収し始めた

その間バッハは『あの化け物集団とやり合う気か?』と笑みを浮かべる

するとティアマトは答えたんだ


『やり合うんじゃねぇ、超えるんだよ…だから強ぇ奴はいるんだ』


☆技スキル

連続斬り 【Le3】

真空斬  【Le2】

大地噴出断【Le1】

鬼無双  【Le3】

マグナム 【Le1】New



アカツキ

『まだ何かいる…』


クローディア

『勘が鋭くなったわね、気をつけてみんな!』


俺達に緊張が走る

何がいるのか


周りの茂みからはカサカサと音がなっており、数は多い

これは逃げるしかないかもしれないなと父さんが囁くと、今まで存在感を消していたギルハルドが突然鳴き始めた


『ニャンニャハーン!』


いつも聞いている鳴き声と違う

これにはリリディも驚きを顔に浮かべる

ギルハルドは俺達の前に出てくると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら仁王立ちし始めたんだ


『おい馬鹿猫、こんな状況で何をしている』


リュウグウが切羽詰まった様子で口を開くが、茂みから現れた魔物たちを見て俺達は言葉を失う


『ニャハーン?』


『ニャハハン?』


『ニャーンニャ?』


アカツキ

『これ敵なら逃げきれないよ父さん』


ゲイル

『ヒドゥンハルトが…3…いや5…』


クローディア

『目はついてるの?後ろにも4匹』


バッハ

『あ…あり得ぬ…猫種の幻が9匹…』


ティア

『あわわわわ…これ敵なら…』


ティアマト

『終わりだぜ…強さは俺達が一番知ってるからわかる』


ジキット

『ここで終わりですか』


茂みから現れたのはヒドゥンハルトが14匹だ

どう足掻いても、逆立ちしても勝てっこないし逃げ切れるはずもない

それはギルハルドと共にしていた俺達が一番わかるよ


絶望的だ

馬鹿な俺でも安易な計算は出来る

Bランクの中でも明らかに上位レベルの猫が14匹

誰が勝てると思うのだ?誰もいない


アメリーだけが諦めを顔に浮かべ、へたり込む

俺もそうなりたいが、少し様子が可笑しい事に気づく


ギルハルドがヒドゥンハルト達と何やら会話をしているのだ

ニャンニャニャンニャと何を口にしているのかわからない


ティア

『翻訳係さん』


リリディ

『休める場所を教えろってギルハルドが説得してます』


バッハ

『お前何を言ってる?』


リュウグウ

『これが普通の反応だろうな…』


普通は猫語なんてわからないからな

ギルハルドの話し合いに全てを賭けるしかない

だが雲行きは少し怪しい…


周りにいるヒドゥンハルトが体の中から長剣やら手裏剣やら様々な武器を取り出したのだ

この魔物の毛の中は収納スキル完備であり、質量保存の法則を軽く無視している

彼らは俺達に向かって武器を構えてきたのだ


交渉決裂、というわけか

ギルハルドだけが呑気に地面に横になっているのが気になるが、それに気づいたティアが小さく囁く


『希望はあるね』


なんの希望があるというのか

そうこうしているうちに俺の目の前に突如として1匹のヒドゥンハルトが迫り、反応する前に俺は小さな体から繰り出されるドロップキックで顔面を蹴られて吹き飛ばされた


(ぶはっ!見え…ない)


これにどう勝てと?

どこに希望があるんだティア


『ニャハハー!』


1匹だけ右目に傷を負っているヒドゥンハルトが鳴くと、他のヒドゥンハルトが一斉に仲間に襲い掛かる

やるしかないようだ


生きる為に

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