第96話 記憶を知りたい国王

ゾンネは距離をとると、ソードブレイカーを肩に担ぎながら俺達を凝視してきた

ティアマトは胸部を貫かれたがティアのケアによってある程度の回復が出来たようだ。

しかし。完全に治すことは不可能だ

それでもティアマトは貫かれた胸部をおさえながら歩いてやってくる



『ティアマト、怪我は』


『だいぶマシだ、だがやべぇのは怪我もそうだが敵の頭もやべぇ』


ティアのケアでも治しきれない、ゾンネの攻撃はティアマトの胸部を貫通したからな

動けるのが凄いよ


リリディ

『ぐ…』


頬を抑えるリリディやリュウグウ、そしてティアも来ると皆が一ヶ所に固まる


ゾンネ

『どうやら死んで甦ると強さがリセットされるのは本当か…』


アカツキ

『どういうことだ』


ゾンネ

『生前よりもまだ力が半分も出ぬ…。鉛を背負っているような感覚、力を取り戻すまで苦労するダろうな』


以前はそれなりに戦えたのに、今回は前よりもかなり手強く感じる


リリディ

『以前より強いですが…』


彼はそう告げると、ティアマトが突拍子もなく片手斧を全力で振り、真空斬を発動した

飛んでいく斬擊はゾンネによって斬られて弾けとんだ


ゾンネ

『まだ緊張感すら不十分…』


リュウグウ

『何がいいたいゲスタコめが』


ゾンネ

『確かに強い、いや君たちハ強くなった…。しかしだ』


するといきなり突っ込んできた

誰もがギョッと驚き、動き出す

リリディはスタッフを振りかぶる時間すらなく、ゾンネに懐に潜り込まれると顔の下部から無数に伸びる触手で彼の首に巻き付けて放り投げる


リュウグウ

『貴様!』


ゾンネ

『遅い!』


リュウグウとティアが飛び込むと俺は光速斬で突っ込んだ

二人の間を素早く掻い潜ったゾンネの前に俺は刀を精一杯振ってぶつけた


しかし寸前で武器を前にしてガードされ、俺はそのまま力強く弾かれて体が反る

奴の後方からはティアがラビットファイアーを放とうと赤い魔法陣を発生させ、リュウグウは果敢にも体術で応戦しようとしている


ゾンネ

『前は戦いの感覚が戻らなかったが』


奴は小さく囁き

後方からの攻撃を避けるために真上に跳んだ

10メートルほど頭上まで跳んだゾンネは見下ろしながら左手に持つ長い片手剣を肩に担ぎ、右手をこちらに向けて言い放つ


『今は大丈夫だ、コスモ・クラスタ』


奴の周りにはパールブルーの綺麗な色の魔法陣が多数展開され、そこから現れたのは大きな花弁だ


《避けろ!!!》


アカツキ

『避けろ!』


俺は叫ぶと同時にそれは起きた

花弁の中心から輝く魔力弾が空に舞い、降り注ぐ

地面に落ちた瞬間にそれは爆発していった



避けれても、爆風によって俺たちは吹き飛んだ

十分回避の時間はあると思ったが、違ったな


威力が半端ない


『ぐ……』


俺は上体を起こし、地面に着地したゾンネに視線を送る

ティアマト、リュウグウは爆発が近くで起きたためにダメージは大きい、リリディとティアはまだマシか


しかし、リリディの頭部からは血が流れている

それでも立つ彼はまだダメージが浅いと感じた

ティアはうずくまって苦しそうだが、ヨロヨロ立ち上がると俺の近くでサバイバルナイフをゾンネに向けて構える


ゾンネ

『普通なら貴公らは即死、何故そうならなかったか…アカツキといったなお主』


『そうだ、何が言いたい』


『そのスキルでそこまで強くなったのだ。スピード強化と動体視力強化の水準は高くしてる筈、マァそれでも我には勝てぬ』


くそ…こちらのダメージは大きい

ティアマトがなんとか立ちあがると、片手斧をゾンネに向けて口を開いた


『てめぇ、本当に元人間かよ』


『さぁな、生前は心があった…気がする。しかしそれすらも本当だったのかわからぬ』


アカツキ

『どういう事だ?お前は暴君だったのだろう?』


ゾンネ

『夢をみていたかのような感覚だ、うろ覚え…、他の小国の偽りの王族を根絶やしになるまで滅ぼしつくし、今のような国だけが残るまで戦争を続け、その時代の人間の屍という土を踏みながら本来生き残るべき国が今残っている、我は開闢スキルに願いを言い、そして代償として命を奪われた…だがそうだったという言葉の記憶のみ…ハッキリしない』


リュウグウ

『なん…の、夢を』


彼女はうつ伏せで倒れたまま弱々しく質問をすると、ゾンネはうつむき、答えた


『…思い出せぬ、とても大事な事だったはず…私の最後の心がその叶えた夢に詰まっていた』


ティア

『夢?』


ゾンネ 

『生前をはっきり思い出せぬからな、だが魔物として生まれた我の心には人間としての心は残っていないやもしれぬ』


リリディ

『生前も悪魔のような人なのにですか』


ゾンネ

『違う!』


奴は右手をリリディに向ける

すると何かにぶつかったかのようにリリディは吹き飛んでいき、気に背中をぶつけてから地面に倒れた


アカツキ

『リリディ!』


ティア

『リリディ君!』


ゾンネ

『何も知らぬ愚民共が…』


奴の顔は怒りに満ちていた

こいつだって昔を思い出せていないのにな

だが歴史ではこいつは最悪な国王として語り継がれているのは事実


本当に暴君だったからだ

敵は女子供でも焼き殺したと聞いている


《兄弟…》


『なんだ』


《こいつは他の二人と違って相当な覚悟を持ち、相当な修羅場を自身の力で乗り換えた本物の化け物さ、当時の俺はこいつが本当の王の姿だと思った、だから開闢スキルレベル5での願いを叶えるのは酷だった》


『何を言ってる!こいつはなんなんだ!?』


《俺は口にする資格はないんだよ兄弟…確かに俺と出会った人間は闇に染まる。だがそれは力に溺れた目先の欲によってそうなった、しかしこいつは自ら闇に染まる事を口にして覚悟を決めた兄弟だった…。それを覚えている奴は今もマグナ国の王都コスタリカにいる筈だ》


ゾンネ

『スキルと話しているかアカツキ?そのスキルをよこせ!本当の我をよこせ!』


奴は俺の飛び込んでくる

速い、一気に距離を詰めてくるゾンネはソードブレイカーに魔力を流してなんらかの技を発動しようとした


避けなければと思い、動き出そうとした瞬間に後方から黒弾が俺の顔のすぐ横を通過する


ゾンネ

『!?』


ゾンネはたまらず片手剣を前に出してガードに徹した

黒弾は爆発すると、俺は爆風で身を屈めた


『ぬぅぅぅ!』


奴は地面を滑るようにして数メートル吹き飛ぶ

これはシュツルムだ、リリディの黒魔法

ガードしたとしてもダメージは十分入る威力なのに…ゾンネは舌打ちをし、俺達を睨みつけるだけ


効いてないのか!?


リリディ

『アカツキさんの覚悟がまだ足りなくてもこっちはもう準備出来てるんですよ、ねぇティアマトさん』


ティアマト

『ギロチン!』


ゾンネ

『死に損ないめ!』


ゾンネの真上から斬擊が堕ちてくる

それをソードブレイカーで弾き飛ばし、懐に潜り込むティアマトの片手斧を素早く武器を盾にして受け止めた


『なぁタコ王さんよぉ!記憶混濁で言ってる事が馬鹿の俺にゃ整理は難しいから簡潔にしようぜ』


『小物が口にするか!』


『うるせぇ!気難しい話して詩人ぶるより手足動かせや!』


『まだ言うか!愚民!』


ゾンネは声を荒げ、ティアマトとの鍔迫り合いを武器を弾いて制した


アカツキ

『うぉぉぉぉ!』


『貴様も来るか!アカツキ!』


ゾンネがティアマトを弾き返すと、俺は光速斬で突っ込み、刀を振って奴のソードブレイカーとぶつかった

後方にいたティアがショックを放ち、俺はタイミングよく体を横に振って雷弾の軌道から避ける


『愚策』


ゾンネはそう告げると、、右手を開いて伸ばして雷弾を手の平で弾いた

状態異常は効かないってことか


『その程度か、世界最高峰のスキルをもってしても子供の使う魔法しかないのか』


ティアマト

『うるせぇ!真空斬!』


リリディ

『突風!』


ティアマトが放つ真空斬がリリディの突風にとって加速を増した

それに追従するかのようにリュウグウが走り出す


『無駄なあがき』


ゾンネはその場でソードブレイカーを縦に振り、真空斬と突風をまるごと斬り裂いた

リュウグウが飛び込んで顔を蹴ろうとしたが、それは右腕で受け止められてしまう


『どけ女!』


『ぬっ!』


リュウグウは吹き飛び、体を回転させて着地を取る


『居合突!』


俺は真横から刀を突き、真空の突きの斬撃を放つ

ゾンネは俺の技を剣で受け止めた


ティアマトとリリディが奴の背後から飛び込み、ゾンネは全ての攻撃を避け、そして受け止めて弾き返す


アカツキ

『うおぉぉぉぉぉぉ!』


俺もそれに加勢する

しかしゾンネは俺達3人の攻撃を受けることなく、リリディのドレインタッチを見切り、スタッフを避けながら彼に回し蹴りで吹き飛ばし、そのままティアマトの振り下ろす片手斧を剣で受け止めると弾きながら回転し、俺の刀の突きをなんと右手の親指と人差し指で摘まむようにして受け止めた


『なっ!?!?』


ありえない!指2本で俺の刀を止めるのかよ!

予想外な光景に驚愕を浮かべていると、ゾンネは不気味な笑みを浮かべた


『驚くか?元から動体視力強化スキルは5だったからな!』


ゾンネはそう言いながら刀の先を摘まんだまま横に振って俺のバランスを崩すと、左手に持つ剣で俺を斬ろうとする

この状態からだと避けれないと焦りを覚えた瞬間、俺の前に魔力で構成されたシールドが展開された


『避けてアカツキ君!』


ティアのシールドだ

彼女の助けが無ければ本当に危なかった

ゾンネは俺の前に展開されたシールドを叩き割るが、その時には既に俺は飛び退いていた。


ゾンネ

『くっ!シールド持ちの回復魔法使いか』


ティア、ありがとう

俺は彼女に心の中で感謝を告げながら後ろに飛び退く

飛び込むティアマトの連続斬りを剣で受け止めてから俺達から距離を取ると、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた


リュウグウはその間、ティアにケアで回復してもらっているが怪我をしているらしいな

肩か…


俺は2人の前で守るように立ち、ティアマトとリリディが俺の傍に寄った


《よくやるよ兄弟、相手は今の歴史上でもあまり見ない武闘派の国王だぜ》


アカツキ

『それはもう味わってる、というかお前の力なしでも強すぎるぞ…』


《消えても最初からこいつは強かった…だからマグナ国は10か国以上もあった多小国時代で生き残ったんだ》


そう考えるとこいつは今のマグナ国の土台を作った奴といってもいいかもしれない

俺の事を目を細めて見ているゾンネはチラチラと別な方向を見始める

何を企んでいるのかと思っていると、リリディがギルハルドが今にも飛び出しそうになっているので止めている


リリディ

『ギルハルド、お前にはまだ早い』


『シャァァァァ!』


ティアマト

『流石に不味い時は手伝ってもらわねぇと』


リュウグウ

『もともと不味かっただろうか馬鹿どもが』


否定は出来ない

こんな強い刺客がいるとはな・・・

予想はしていたが、いざ戦うと本当に俺達はとんでもないことに巻き込まれたと実感できる

誰もがゾンネから目を離さないように緊迫した雰囲気を出しているが、本当にどうすればいいかと俺は悩んだ


倒せるのか?

いや、イメージが浮かばん

どうすればいい


ゾンネ

『チッ…生きてた時間の長さだけ長話してしまう癖は抜けぬ…、次は必ずそのスキルを奪う。それまで他の刺客にやられないようにしておけ?まぁあ奴らは怠慢な性格上だと返り討ちにされたりするかもな、それはそれで面白い』


奴はそう告げると、握っていた右拳の人差し指と中指を伸ばし、自身のおでこの側面につけると、そのまま手首だけを動かし、伸ばした指を下げた

不敵な笑みを浮かべたゾンネはそのまま森の奥に俺たちに体を向けたまま、なんども跳躍して消えていく


助かったと感じると全員が一斉に地面に倒れるように座り込んだ


ティアマト

『悪いティアちゃん、リュウグウの次頼む…』


ティア

『ティアマト君、耐久力強化あるのにね・・・』


ティアマト

『あいつにはまだ駄目だったぜ』


リリディ

『助かりましたね…開闢スキルでのレベルを失ってもあれだけの強さとは』


アカツキ

『最初から強かったんだ。だが力を取り戻すことが可能らしい、本当なら今以上に不味いぞ』


ティア

『でもなんだか気になるね、暴君なのに生前の記憶が上手く思い出せないくせになんとなく覚えてるっての』


アカツキ

『夢のような感覚っていってたが、なんとなく意味は伝わる…だがなんの夢を叶えたのかわからない・・開闢ならわかるよな?』


《わかる、だがこいつの願いがなんだったかは俺からは言えない》


『何で言えないんだよ』


《いえばお前らが死ぬ可能性があるからだ》


その時の意味を俺達は知らなかった


そしてゾンネが退散した理由、それは冒険者達だ

俺達の後方から3チームほどの冒険者たちが現れたのである

その中にコヴァがいた、彼は強い…だからこそゾンネは逃げたのかもしれない

キリサキのリーダーであるコヴァ、彼は俺たちに気づくと首を傾げながら無言で近寄ってくる

他の冒険者たちも俺たちに様子にちょっとびっくりしているようだ


コヴァ

『…何を倒した?』


アカツキ

『いえ、倒してません…ですが助かりました』


コヴァは俺の返事に難しそうな顔つきを見せたが、直ぐに何かを悟って鼻で笑った


『利口な敵か、俺にビビッたか』


『コヴァさん、トロールあと2体も倒さないと違約金ですよ?早く森を探索しないと』


『わぁってる…行くぞお前ら』


コヴァは仲間に話しかけられ、森の奥に行こうと歩き出した

対して会話はしていない、気を使ってくれたのかどうかはわからんがな


ティア

『大丈夫?アカツキ君』


彼女が心配そうに俺に近づいてくるけども顔が近い、いい匂い…


アカツキ

『大丈夫だよティア、それにシールドなければ危なかった』


ティア

『エッヘン!』


満足そうにしているのがいいな


リュウグウ

『一先ず戻ろう、凄いお腹が減った』


それを口にした瞬間、ティアマトの腹が鳴る

誰もがキョトンとした顔を浮かべると、苦笑いとなった


ティアマト

『今は考えるのやめようぜ、なぁアカツキ』


『それがいい、まだあいつの話は難しすぎるからな…みんな帰って美味しい飯でも食べよう。リリディ…帰りの魔物掃討にギルハルドを頼めるか?』


リリディ

『それがいいでしょうね』


俺達は道中の魔物をギルハルドに任せて帰ることにした




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