第97話 欲に負けるな
ギルドに戻ると、ティアマトはリリディの付き添いで医療室に足を運ぶことにした
リュウグウ
『私も行く』
リリディ
『そういえばリュウグウさん、肩どうしたのです?』
リュウグウ
『脱臼だ』
なるほど、一応ハメることは出来たらしい
それはティアが無理やりやったらしいけども、誰に教わったと聞くとやはりシグレさんだ
納得するには十分すぎる
俺もそれなりに怪我をしていたが、ティアのケアで十分になったから大丈夫だ
それにしても足が重い、受付嬢は怠そうな俺の顔を見てニコニコしながら対応を始める
『お疲れ様です、ブラック・クズリは倒せましたよね?』
『頼みます』
俺はバッグから魔石を出して受付嬢に渡す
すると受付嬢は見ただけで直ぐに査定を終えて金を用意してくれた。
どうやらここの受付嬢は自身で査定が出来る能力があるんだな
『金貨12枚と銀貨8枚、それに銅貨4枚ですね』
今日の苦労を考えれば少ない気がする
多分ゾンネに遭遇しなければそんなことも思わなかっただろう
俺は受付嬢から報酬の入った袋を貰うが、何故か俺の顔が気になったようで話しかけてきたんだ
『疲れているようですから彼女さんとイチャイチャするのは今日は抑えてゆっくり寝るのもありですよ』
『彼女?』
『ええ彼女さんと』
受付嬢は俺の隣にいるティアを見る
当然ティアは顔を赤くして焦る、うむ…面白い
俺も恥ずかしくなるけども咳払いすると、受付嬢は大人の意地で悟ってくれた
まだですよ…
『アカツキパイセン!』
来た…ガーランドだ
どうやら仲間はいない、休みか?
受付カウンターの報酬袋を手に取り、その場から一度離れ、ロビー内の丸テーブル席にティアと共に座るとガーランドも対面に座った
『いやぁ、やっぱ倒したんですねブラック・クズリ』
『そうだが…今日お前らは休みか?』
『いえいえ!今日も森に言ったんですよ?』
森に言っていたのか…というか気づけば隣の丸テーブルにいる冒険者も知り合いだった
カマクラ冒険者チーム『テンプルトン』(Dランク)
レックス リーダー、片手剣士の男
カール 片手剣士
ミライ 双剣の女性
ベン 鉄鞭の男
勢ぞろいで疲れ果てた顔をしてこちらに手を振っていたので俺も振り返してからガーランドに顔を向けると、ティアが口を開く
『なんだか機嫌良いけどどうしたの?』
『ティアパイセン聞いてください!トロール1体撃破したんですよ』
アカツキ
『おお?よかったじゃないか』
俺は驚いてそう返事をした
ガーランドも満足げに腕を組んでいるのを見ると、相当嬉しかったのだろう
《よかったじゃねぇか》
テラ・トーヴァも褒めているから凄い事だ
『そうなんですよ!1体だけですがその後は無理しないで街に戻りつつ低レベルの魔物と戦いながら戻ったのでさほど疲れはないです』
その計画的さは流石に素晴らしい
彼らの詳細は一応教えておこう
カマクラ冒険者チーム『羅生門』(Dランク)
ガーランド・ヴィルムット 片手剣士
ミシェル・ロドリー 片手剣士
ノース・カミール 鉄鞭師
キャルミラ・ハーレン 魔法使い
こんな感じさ
彼はCランクまでもう少しで行けそうだと口にするが、今は魔物Dランクを相手に十分余裕をもって倒せるようになってからCランクの魔物との戦いを安定させるらしい
それでいいと思うぞ
アカツキ
『無理はするなよ?』
ガーランド
『わかってます。道中で隣のテンプルトンも助けたんですよ?パイセンが困っている冒険者がいれば助けれるのも強さだって教えてくれたんですから』
言ったっけ?まぁ良いけど…テンプルトンどうした?
ミライ
『もぅグランドパンサー3頭に挟まれてどうしようかみんなで悩んでいる時に助けてもらってねぇ…』
ミライちゃんが苦笑いを浮かべ、説明してくれた
どうやら慣れない状況だったらしく、丁度良くガーランドのチームが通りかかったんだとさ
『レックス、稼げたか?』
俺は隣のテーブルに伏しているレックスに声をかけると、彼は頭を持ち上げ疲れた顔を見せながら答えた
レックス
『それなりには…』
カール
『金貨5枚ってとこですかね…グラパン倒していれば6枚は確実だったんすが』
ガーランド
『俺達は金貨は8枚いきましたよアカツキパイセン』
まだ冒険者として日の浅いテンプルトン
彼らは最近Dに上がったばかりなのでまだDランク魔物は不慣れ、安定していないのだ
ティア
『怪我しないように安定してDを倒せるようにしないとね、今回グラパン3頭は運が悪かったねミライちゃん』
ミライ
『本当ですよ…』
アカツキ
『それでガーランドはまだギルドにいたのか?』
ガーランド
『俺はチームに内緒でそこの軽食屋で1品奢ってもらっていたので残ってました、ちなみに竜田揚げ定食です』
《こいつまだ外道か…》
仲間を帰らせて自分だけ奢ってもらったかぁ…?なんという…まぁいいか
食べ終わってゆっくりしていたら俺達が来たんだとさ
んでコヴァ達が森の奥まで言った理由はリザードマン5体の討伐でCランク冒険者の付き添いで向かっていたんだとガーランドに聞く
暇だったからついていくってコヴァが言い出したんだとか
ガーランド
『そういえばマグナ国で面白い大会あるじゃないですか』
彼はそう話しながら近くの壁を指さした
俺とティアが顔を向けると、そこには面白い事が書いてある張り紙が貼ってあったのだ
マグナ国魔法使いの祭典、参加者求ム
しかも大会資格者はマグナ国での冒険者登録をしたものに限る、だってよ
ティアが興味を示し、椅子から立ち上がると張り紙をちゃんと見る為に歩いていくから俺もついていった
どうやら大会は魔法使い同士を戦わせるのではなく、魔物を倒す速さを求めているようだ
大会関係者があらかじめ捉えた魔物を試験場にて解き放ち、参加者が倒すって単純なルール
それを見るのは魔法騎士会という協会だ
ロッドスターいるんでない?
アカツキ
『ダメだな』
ティア
『ダメだね!』
ティアと同意見、しかし…
リリディ
『12月の2日ですか、ならば容易い』
気づけばすぐ後ろで不気味な笑みを浮かべ、眼鏡を光らせるリリディ
その隣でリュウグウが頭を抱えているけど、気持ちはわかる
ティアマトは何故かリリディを推しているのがわからん
ティアマト
『駄目だぞ。』
リリディ
『ぐぬぬぬ…』
今はその件に関して動くことは出来ない、そのことはリリディもわかっているようだ
ティアが呆れた顔で溜息を漏らす
追われている立場を忘れたかと彼に言うと『我慢しますか』と残念そうに口を開く
キャルミラ
『リリディさん、もいっかいステータス見せてもらっていい?』
ガーランド率いる羅生門の魔法使い職であるキャルミラがリリディに頼み込む
どうやらこいつのステータスが特殊過ぎて見るのが楽しいとか
『仕方ありませんねキャルミラさん』
なんだかリリディ、嬉しそう
………………
リリディ・ルーゼット
☆アビリティースキル
魔法強化【Le1】
打撃強化【Le4】
気配感知【Le3】
麻痺耐性【Le3】
スピード強化【Le2】
魔法耐久力強化【Le1】
☆技スキル
ドレインタッチ【Le3】
爆打 【Le2】
骨砕き 【Le1】
☆魔法スキル
風・突風 【Le2】
風・カッター 【Le2】
黒・ペイン 【Le1】
黒・シュツルム【Le3】
黒・チェーンデストラクション【Le2】
称号
リトル・クルーガー【黒】
☆称号スキル
毒耐性【Le1】
動体視力強化【Le1】
・・・・・・・・・・
リリディの持つ魔方耐久力強化は名前の通り魔法攻撃に対する防御力を上げるスキルだ
ティアマトの耐久力強化は魔法以外の物理的な攻撃と技スキル
キャルミラ
『面白い…、黒魔法持ちは生涯見られないだろうなぁ』
リリディ
『やはり珍しいのですね』
キャルミラ
『闇ならたまに見ますが、やっぱ黒魔法って今まで聞いたことないし、リリディさんの話が本当なら貴方のお爺さんは凄いの見付けたことになりますね』
リリディ
『凄い人でしたよ』
彼は満足そうにキャルミラに答えた
そうしていると、受付カウンターからギルド職員が顔を出す
メガホンという便利な道具を使い、ロビー内の冒険者に通達することがあるようだ
『明日は速くて昼過ぎには台風が来ますので今日の22時にはカマクラ冒険者ギルドは明後日の昼頃まで休館となります』
その知らせに冒険者達は残念そうにしながら飲み物を飲んでいる
稼ぐために森に行かなければならないのに、行けないしね
ティアマト
『丁度良いな』
アカツキ
『明日は休もう、怪我もある』
ティア
『そうしよ、多分時期的に最後の台風だね』
ティアマト
『メガネ野郎止めないとまた天鮫狩りに行っちまうぞ』
『ニャー?』
ティアマトがリリディを茶化すと、ギルハルドは首を傾げた
リリディ
『流石にあの蛸王さんに遭遇したくないので行きたくないですよ…。』
それは良かった
こうして一度俺たちはテンプルトンと羅生門の冒険者チームよりも先にギルドを出た
飯よりも先に鍛冶屋だ、リュウグウの槍が壊れ……いや燃えたんだ
そして防具の修復もある
ゾンネとの戦いてティアマトと俺のレザーアーマーはかなり痛んでいて直さないと意味を成さない感じだ
俺達二人の防具の修復代が金貨2枚に銀貨4枚
他の連中の防具点検、細かい手入れなども合わせると合計銀貨4枚を僅かに越えた
リュウグウの槍の心配は予想外にも高くはならなかった
槍の刃があるため、幹の部分、棒の部分の購入と取り付けだけ
金貨15枚で軽くて丈夫なやつにしたさ
以前のよりも握りやすいと彼女は満足そうだが
ティアには『チームの資金だしチームだね!』と言われ、リュウグウは否定しなかった
リリディはそれを見てメガネを光らせた
駆け込みで防具の修復などもしたから宿に戻った時には21時
誰もが疲れた顔をしながら一度部屋に戻り、風呂に入って浴衣に着替えてから遅めの夜食となる
他の宿泊客がいない静かな宴会場にて誰も口を開こうとしない
《疲れてんだろ、運がいいぜ…ったく》
『あのまま戦ってたら負けてたか』
《だな…ゾンネは半分魔物の体になって慣れてない感じだが次は更に強いかもな》
『とんでもないな…、だが記憶混濁なのかわからないが度々矛盾した言葉を口にしてたぞ?』
《記憶が曖昧なのに記憶があるとかだろ?あれはゾンネが言っていたように夢を見ている感じでしか生前の記憶が無いって捉えればいいさ、だが実際は半分魔物…新しい人生だ》
『どんな奴だった?言わないだろうが聞いておく』
《…最悪な人間さ、俺はあいつに開闢スキルとして共にいたのを後悔したいと思ったぜ》
テラ・トーヴァの声の覇気がない
何故だ…
だが、やはり暴君か
ゾンネは開闢スキルのレベルを5にし、願いをテラ・トーヴァに伝えたのだろう
叶えてもらった代償に命を奪われ、長年かけて意味がえった時に肉体の半分が魔物と化した
『とんでもない夢だったのだろうな』
《あぁ、最悪さ》
テラ・トーヴァの声に哀愁が漂っている事に気づき、俺はそれに関して何故なのか聞こうとすると、リリディが話しかけてくる
『明日はギルドがお休みなのは勿体無い感じがしますが』
『やはり森に行くか』
ふと即座に答えてしまった
それにはティアも驚いている
だけども当たり前なことだ
リュウグウがそれを言ってくれたよ
『台風だからと呑気に休んでいる時ではない、ゼペットの手下にやられたら死ぬんだからな。多少の賭けは必要かもしれない…。』
その通りさ
台風だからなんだ?それよりも危ない奴が俺を狙ってるんだ
ゾンネが来るかもしれないが、だからと言って森に行くのを躊躇うわけにはいかない
俺達が強くなるのが先か、あいつが現れるのが先か
ティアマト
『なら明日は直で森だな』
『ニャーン』
リリディ
『天鮫を探したいですね』
黒魔法シュツルムのスキルレベルか
彼のその魔法は切り札として本当に頼もしい
あとは魔法強化さえ出来れば当分は大丈夫のはず
ティア
『今狙われてるもんね…頑張らないと死んじゃうって感覚がまだ私達足りなかったのかも』
アカツキ
『だろうな、ゾンネはヤバい…度々殺意を飛ばされると体が力む』
リリディ
『戦う王族とは…いやはや昔は本当に乱世だったようで』
リュウグウ
『…暴君か』
彼女は呟くようにして口にすると、食事が運ばれてきた
今日のメニューは海鮮丼にしたよ
サーモンにマグロ、ウニが少しにイクラさ
今日はとことん資金を使ったが、また稼ぐ
みんなお腹が空いていたから会話する暇もなくガツガツ食べている
そんな時、テラ・トーヴァがおもむろに言った
《兄弟…大切な誰かの為に命を捨てれるか?》
『ん?』
《いや、なんでもねぇさ…俺は先に休むぜ》
『お…おい』
返事はない
眠ったようだな
夜食を食べてからは直ぐに部屋に戻った
明日は9時にここを出る予定だ
昼過ぎには雨風が強まるって言うんだからヤバくなったら撤退だ
まだゾンネがいるかも知れない
布団に横になり、窓を見た
真っ暗、夜景の明かりは無く、雨がちらつく
目が慣れると僅かに窓の向こうが見える
『俺は称号を会得しないと』
《そう焦んな、おれに出会った時から道は決まってる》
『起きたのかお前。言い方が怖いぞ』
《はっはっは!まぁ気にすんな》
『言い回し何とかないのか…というかお前のスキルを手に入れた人間は3人なのか?』
《ああ3人さ、みんな俺に振り回されたなぁ…俺のせいじゃないぜ?勝手にそうなった奴が悪い》
『俺もなるのか』
《人には欲がある、俺がいれば世界最強だって夢じゃない…そこで間違った感情を芽生えさせれば人として終わりだぜ兄弟。人より秀でた能力を得た奴は勝手に心も強くなったと勘違いする…。だから道を踏み外す》
『何もデカい事が出来る資格を持ってもそれに対する幸福は普通に暮らしてる人生に感じる幸せと大差ないと俺は思ってるけど』
《それでいいんだ兄弟、勘違いだけはするな?んで俺は寝る…あと最後に言うけどもゾンネが魔物としての気配を出し始めが小動物レベルの気だ。全然わからん》
『気が殆ど感じないって厄介だな』
俺は上体を起こした
体を動かす感覚が戻ってきたゾンネに魔物としての気が強まったせいなのかもしれない、とテラ・トーヴァは予想している
《おやすみ》
おい…
俺はまだ眠くないなぁと思いながら窓を眺めていると、いつの間にか寝てしまっていた
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