第98話 近づく刺客
次の日、ギルドは休みだから真っすぐ森に向かった
沼地がある方の森だが、朝から空は暗い
んで偶然にも森の浅い場所で侍ゾンビに出会ったのだ
魔物ランクCのアンデット、戦っていると流石のランクだと思える
『でやぁぁぁぁ!』
リュウグウが突っ込み、槍を連続で素早く突く
だが侍ゾンビはそれを全て刀で弾き、頭上から飛び込んでくるティアマトの攻撃を回避するためにリュウグウの槍を大きく弾き、バランスを崩すとその場から飛び退いてティアマトの攻撃を避ける
『カッター!』
着地を狙ったリリディの風魔法だ
緑色の魔方陣が2つ出現すると、中から円盤状の刃が侍ゾンビに飛ぶ
『アアッ!』
低い唸り声をあげる侍ゾンビは素早く2つのカッターを刀で斬り裂いた
それと同時に飛んできたのはティアのラビットファイアー
カッターは囮だったのだ
『!?』
たまらず真上に飛ぶ侍ゾンビ、間一髪避けたか…しかしだ
『そこは行き止まりだぜ!』
ティアマトが片手斧を振り下ろし、侍ゾンビの頭上に斬撃が現れると、それは堕ちていく
ギョッとしたように驚く侍ゾンビは刀でそれをガードするが、宙でそれを防ぎきるのは無理だった
『ガッ!』
ガードしたまま地面に叩きつけられ、多少の砂煙が舞う
トドメのチャンスだとわかり、俺達は走り出すと奴は素早く立ち上がり、身構えようとするが
『シャァァァァ!』
『アアアア!』
魔物ランクCのニャン太九郎、名前はギルハルドと言う
猫特有の俊敏な動きを見せ、飛び込んで爪を使って奴の刀を弾いたんだ
バランスを崩した侍ゾンビに俺は光速斬で加速し、刀を持つ右腕を吹き飛ばす
『賢者バスター!』
リリディが懐に潜り込み、木製スタッフを振り上げて侍ゾンビの顎をパコーンといい音を響かせてヒットさせた
仰け反る侍ゾンビはされるがままだ
『おらぁぁぁぁ!』
ティアマトは豪快だな
ふらつく侍ゾンビの頭を掴むとヘッドバットだ
殆ど骸骨姿で肉片などあまりないこいつの頭部は見事に砕かれ、侍ゾンビはそのまま背中からドスンと倒れる
ティアマトとリュウグウが武器を構えながら様子を伺っている
まだ魔石が出てこない限り死んだことにはならないからな
『死んだかな?』
ティアが手を伸ばし、ラビットファイアーをいつでも放てるようにしていると、侍ゾンビから魔石が出てきた
『よかったぁ…』
『侍ゾンビは意外と戦っていて勉強になりますね』
ティアがホッと胸を撫でおろし、リリディが眼鏡を触りながら周りを気にし、口を開く
『良い連携だった、ティアマトのギロチン便利だな』
『へっへ!いいだろ』
腕を組み、不気味に笑みを浮かべてくる…怖いぞ顔
周りを見てみると、ゴブリンが3体倒れてる
これは赤騎馬のブルドンだ、侍ゾンビと戦う前にブルドンの後ろ脚蹴りで3体は一気に蹴飛ばされたんだけども
あれを見てしまうと俺は食らいたくはないと思っちゃう
倒してすぎに侍ゾンビが現れた感じさ
俺はブルドンの背中にバッグに侍ゾンビの魔石を入れようと歩くと、仲間たちが話す
ティアマト
『ティアちゃん、気配はどうだい?』
ティア
『リリディ君もわかってると思うけど、後方から3体』
リリディ
『ギリギリ感じます、Eくらいですかね』
リュウグウ
『よし!ティア』
ティア
『そだね』
どうやら2人が対応するらしい
その気配はこっちに来ているとティアが話す
薄暗い空を見上げ、刀を鞘にしまうと俺の感知にも魔物の気配を感じ取れた
確かにティア達でも十分すぎる
《なかなかに良い感じだな》
『俺たちも持っているスキルを活かせる戦い方しないとだな』
《その調子だ》
『ヒヒーン!』
ブルドンは前足をドタバタしている
これは合図だ、空腹って意味
ティアマトが苦笑いしながらブルドンの背中のバッグから牧草団子を2つ取り出して食べさせて始めると、魔物が森の茂みから現れる
『ゴロロロ』
『ゴロッ?』
『ゴロォ』
コロールですか…
『ティア!私は2体貰う』
『なら私は1体だね』
彼女らは軽い会話をすると、直ぐに走り出す
その様子をリリディはスタッフを担いで眺めながら肩を俺に軽くぶつけてきた
『貴方のガールフレンドも接近戦が出来て便利性がありますね』
『ガールフレンドじゃないぞ』
『まだ、ね』
おちょくっている
リリディはニヤニヤしながら懐から干し肉を2つ取り出し、ギルハルドに与えた
ミャーとか可愛い鳴き声を上げて美味しそうに食べる姿を見ていると、俺も食べたくなる
でも食べるなら普通の肉が良いな
『せいっ!』
『コっ!!』
コロールのボロボロの鉄鞭を避けたティアは側面から頭部をサバイバルナイフで突き刺した
あの程度の魔物じゃ物足りないだろうけども、それでもやっぱ接近戦もできるから頼もしい
普段、前衛となるとティアマトになるけどね
コロールの魔石も回収し、小雨が降ってくると俺達は雨宿りするために木の近くに集まる
南の空が光っているけど…雷だ
ティア
『ねぇ、どう見ても夜凄いのきそう』
アカツキ
『結構倒したし、開闢も使ったからそろそろ戻りながら魔物を倒そう』
開闢は何に使ったか?
ティアのスピード強化を2から3にしたよ
丁度エアウルフ2頭と出くわした時に決めたんだ
誰もが自衛できるスキルは欲しいってね
ティアは動体視力強化が2
スピード強化も2だったから3にしとけばCランクの魔物の攻撃ならばギルハルドみたいな意味わからん速度の攻撃じゃなきゃ避けれるようになるはずだ
リュウグウ
『良い槍だ』
リリディ
『しっくりきます?』
リュウグウ
『調子が良い、多分握りやすいからだろうな』
リリディ
『最近よく笑うので女性らしさが出てますねリュウグウさん』
その言葉にリュウグウさんが戸惑いながら顔を赤くし、リリディの肩を殴る
『いったぁ…』
『お前も変態の予備軍らしいな』
『なんですかそれは』
『…』
アカツキ
『俺を見るな』
こうして更に先を歩いていると、凄い見た事ある人が倒れた木に座って困っていた
『あ、アカツキさん』
『グリ……ジェスタードさん?』
布袋を被り、貴族のような服を来ためちゃめちゃ強い人
やっぱ両手に握ってるのは糸操り人形だけど、たしか人形に名前あったよな…なんだっけ
ティア
『どうしたんです?』
ジェスタード
『道に迷って』
誰もが呆れた顔だ
方向音痴過ぎないか?
リリディなんて逆に疑ってるぞ?
ティアマト
『マジっすか?』
ジェスタード
『マジっデス』
アカツキ
『一緒にどうですか?』
ジェスタードさんは大袈裟に喜んだ
彼の軽快なスキップを先頭に歩くという少々気が散る光景を見ながらだ
小雨も少し強くなってきたか
風も出てきたな…
リュウグウ
『本当に元五傑なのか…』
ジェスタード
『それはタブー、今度口にしたらおっぱい揉みますよ?』
リュウグウは顔を固まらせた
俺、ティアマト、リリディはジェスタードさんの言葉のせいで視線をリュウグウに向けてしまった、これがいけない
リリディ
『揉む量…まだわかりませんね』
その言葉はもっといけない
彼はリュウグウに顔面を殴られた
転がって吹き飛んでいるけども、意外とリュウグウも力あるんだな
『ミャー』
ギルハルドは主人が殴られたのに平然としてる
予想以上に賢いのかもしれん
ティアマト
『お前はティアちゃんいるからいいだろ』
アカツキ
『なんのことかわからない』
ティアマト
『お?そうかぁ』
ニヤニヤするな…
比較的に歩きやすい道を歩いていると、ピカッと眩しく空が光る
雷だ
『やっ!』
ティアは苦手らしく、俺に抱きついてくる
なんだか今は雷が好きかもしれない、好きだ
『変態が』
リュウグウが軽蔑した目で見てくる
もう慣れたよ…
雷がなれば雨は強くなるのは必須、だからといって帰るなど出来ない
スキルを手に容れないとダメだからな
『ギャギャ!』
リリディ
『ほう、ゴブリン11体とは大家族ですね』
正面からノコノコ現れるとは…
この魔物に知能はあまりないからなぁ
『全員まとめてあの世で暮らすがいい』
槍を構えながら言い放つリュウグウが怖い
ティアが苦笑いしてるぞ
俺は誰よりも先に動いた
『光速斬』
仲間の間を素早く駆け抜け、錆びた短剣を振り回りながら向かってくる先頭のゴブリンの体を斬り裂いた
断末魔、それを聞いているほど暇じゃない
飛び込んできたゴブリンを避け、別のゴブリンの短剣を弾き飛ばしてから胸部に刀を突き刺す
『ギャフ!』
呆気ない
殆ど一撃で彼らは死んでしまう
ゴブリンがもう少し知性的ならば、逃げていただろうに
『はっ!』
リュウグウの槍のリーチは長い
ゴブリンの短剣などどう足掻いても届かないからな
『せい!』
ティアはゴブリンの短剣を弾き、バランスを崩している隙に回し蹴りで吹き飛ばす。
リリディはスタッフを振り回して周りのゴブリンを一蹴し、残りの者をティアマトとギルハルドが片付ける
その様子をブルドンとジェスタードが眺めている
ジェスタード
『個々の力も僅かに上がりましたね』
『ヒヒンッ!』
あっという間にゴブリンは全滅だ
しかし、魔石は光らず…だ
リリディ
『そういえばジェスタードさんは魔物と化した人間をご存じですか?』
魔石回収をしていると、リリディがジェスタードさんに質問をしていた。
全員が足を止め、視線をジェスタードさんに向けた
この人ならば、答えを持っているかもしれない
そう思うには十分な人だ
『何故聞くのデス?』
『先日出会ったからです。貴方が知らない筈がない』
『ほう、出会って倒したと?』
『いえ……』
俺は少し黙ると、彼は腕を組んだ
『吾が輩が知ってるのは1人だけデス、鬼槍(キソウ)ムゲン』
『どんな奴でしたか』
『逃げ足が早いオモチャ』
酷い表現だ
その言い方だと倒す前に逃げられた感じか
そしてマグナ国初代国王の事を口にすると、『やはり』とジェスタードさんは呟く
ジェスタード
『スキルを持つものが死ぬと魔物になるのか…』
《俺は知らないぜ?そんな呪い》
ジェスタード
『共通点はなんデス?』
《多分だが、3人は命を対価に願いを叶えた。そいつらが魔物になった》
アカツキ
『おいまて!俺もなるのか!?』
俺の慌てように仲間は少し困惑だ
するとテラ・トーヴァはクスクス笑ってから答える
《悪ぃ、人間に宿ったのは今まで沢山いるが、その中で命を代償にした奴は3人だ、ゾンネはあと二人いると言ったな?》
ジェスタード
『命を代償にしたものがそうなったと捉えるべきデスね』
アカツキ
『なら普通の願いは?』
《いたぜ?金持ち!とかいった奴は普通に暮らしてた》
それを言えやバカスキル野郎
3人の人間にとかいったじゃないか前…
少し安心すると疲れた
だけどもまだ森だ
ふと気配を感じ、森の奥に顔を向けるとハイゴブリンが1体にゴブリン4体がこちらを黙視し、走ってくる
『行きますよギルハルド』
『ミャッ!』
どうやらリリディとギルハルドが対応する
ジェスタードさんは背伸びをして緊張感のない様子を見せながらも魔物と戦うリリディとギルハルドを見た
『打撃はかなり良くなってマスね』
確かにな
リリディが木製スタッフをフルスイングで振り、ハイゴブリンを一撃で吹き飛ばす光景は見てるこちらとしては爽快そうだ
『あ、雨』
ティアが真上を見上げる
ポツポツと降ってきていた
リュウグウ
『また今日は濡れたまま帰るか』
アカツキ
『仕方ない』
リュウグウ
『次は私が戦うぞ』
任せるよ
リリディは魔法を使わずに物理だけでギルハルドと連携して魔物の集団を倒すと、光る魔石を見つけた
気配感知だ
だがそれはギルハルドに彼は使うようだ
魔物はスキルの吸収で身体能力が僅かに上がるからギルハルドも強くしないといけない
『くっ…』
雨が少し強くなると、リュウグウが苦い顔をした
いったん雨宿りだな…
『一度雨宿りしよう』
直ぐに仲間が気の近くに寄る
風が少しあるが問題はない
ただ魔物との遭遇率が限りなく下がるけど
ティア
『周りの気配はないよ』
アカツキ
『困ったな…戦えないと居座る意味もない』
ティアマト
『天鮫ならいるんじゃねぇか?』
リリディ
『あれは台風でしかいません。これは単なる悪天候って感じです』
アカツキ
『それは残念だ。』
リュウグウ
『雨の時に現れる魔物などはどうなんだ?』
リリディ
『エレメンタル・アクアなら、あとここならベロヌェルカやリザードマンももしかしたら変わらず動いていそうですがね』
ティア
『沼地はここから遠いし、無理そうだね』
アカツキ
『そうだな』
溜め息を漏らしながら雨を眺めた
どの冒険者でも雨天は流石に森にはいかない、理由は今の俺達の状態になるからだ
魔物が出てこない
普通の森だと尚更さ
ジェスタード
『早く強くなりたいと急ぐ気持ちはわかりマスが、帰る判断も必要デスよ?』
アカツキ
『でも…』
ジェスタード
『雨じゃ魔物もお手上げなんです。一応雨天でも現れる魔物はいても、今の恩人達には荷が重い』
強く魔物か
確かに魔物が現れないと意味はないしな
ティアマト
『当初は雨降りでも魔物探しだったが、帰ろうぜ』
それが一番だな
俺は即座に判断したよ
アカツキ
『帰ろう、今なら16時には宿に戻れる』
ティア
『明日は休みだしね』
彼女は嬉しそう
まぁ1日自由ってのは誰でもそうだろうな
一番帰りたかったのはジェスタードさんだ、帰ると決まると凄い嬉しそうにしてる
少し複雑だ…
ゾンネに出くわさないかヒヤヒヤしたけど、今は襲ってくる筈がない
てか襲ってこれる筈がない
ジェスタードさんがいるんだからな
道ではなく、雨を避けるために森の中を歩きながら街に戻っていると木に雨宿りしていたゴブリン達と目が合う
3体だが襲ってくる様子はない
来ないなら無視だ、とジェスタードさんが言うので無視だ
風も強くなって来ている
急いで森を抜け、赤騎馬ブルドンを宿の隣の馬小屋に預けてから宿に戻り、俺達は各部屋で浴衣に着替えてからロビー内の休憩所で窓を眺める
何故かジェスタードさんもいる、なんでだろう
『まるで台風だな』
窓際の椅子で寛ぐリュウグウが告げた
風が強いと迂闊に動けない、無理して森にいなくて正解だったな
《おい兄弟、不吉なチラシがあるぞ?》
『不吉?』
《フロント横の情報スペース》
はて?
フロント横にちょっとした情報スペースがあり、壁にはチラシが貼られている
なんのことかと見にいくと、俺は目を疑った
ここから北にある街で槍を持った人型の魔物が夜に冒険者を襲撃したと
四人は死亡、警備が騒ぎを聞き付けて向かうと犯人は逃げていったと…
しかも2人が無残にも食い散らかされ、現場は地獄絵図と化していたらしい
街の裏通りでの出来事、これはもしや…
『槍と人型の魔物で濃厚ですね』
リリディが後ろからギルハルドと共にいた
彼はこの魔物をあいつと思っているのか…
『どうやらまだ君を特定してないようデスね』
『ジェスタードさん、こいつはやっぱり…』
『アカツキ殿、ムゲンでしょうな』
とうとう来るか
ゼペットの手下の1人、ムゲン
皆の顔を真剣になる
ティアマト
『どんくれぇ強ぇのか楽しみだ』
アカツキ
『戦う事にはなるだろうな』
ティア
『そだね、頑張らないと』
アカツキ
『ゾンネとどっちが強いのかわからないし、どんな攻撃をするかもわからない』
リュウグウ
『最初は回避に専念しないと駄目だぞ、槍は色んな攻撃が出来るんだ』
リーチも長い、攻撃速度も速いからな
もし出会ったら…その時は死ぬ気で挑むしかない
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