第99話 ロイヤルフラッシュ聖騎士長
マグナ国の王都コスタリカ、その中でもひと際大きな城がある
城内の応接室にて1人の王族がテーブルに座り、5人の戦人をテーブルの奥に立たせ、集結させていた
広い室内の中、聖騎士協会の聖騎士長ロイヤルフラッシュや魔法騎士協会の魔法騎士長ロットスターが気難しそうな顔を浮かべ、テーブルの先にいる男を見つめていた
『ロイヤル、最近自由行動が目立つと聞く』
その者はマグナ国、王子ゼファー
ゼファー・マグナート・・リュ・エンデバー国王である
彼の背後には水色のラインの入った銀色の鎧の騎士が5名、腕を組んで立っていた
『申し訳ありません』
ロイヤルフラッシュ聖騎士は静かにそう告げ、頭を下げるとゼファーは溜息を漏らし、全員を椅子に座るように指示すると、全員が座る
今いる5名は現在のマグナ国英雄五傑
黒豹騎士ロイヤルフラッシュ
鬼のワルド
桃源魔法ロットスター
閻魔騎士ブリーナク
風花水月ミランダ
上記の5名だ
鬼のワルドは鬼の仮面をかぶり、忍者の様な格好をした者
閻魔騎士ブリーナクは鎧の正面に閻魔の様な模様を描いた鎧を着た身長2メートルはあろう大男、大きな大剣を背負っている
風花水月ミランダはヒガンバナの模様をしたヘアピンをまんべんにつけた白い髪の女性、その手には鉄鞭が握られていた
重たい空気に壁際に待機している城内騎士も息を飲む
どうみても国王の機嫌が悪いからだ
歳は27とまだ若い、しかし彼の父である先代の国王エルデヴァルト今は難病で王室で寝たきりとなっていた
『黒龍ゼペットの行方はどうなった?フルフレアと同行して調査したのではないのか?』
ゼファーの視線の先にはロイヤルフラッシュ聖騎士
ロットスターは挙動不審な様子見せながら額から汗を流す
(ロットスターめ、顔に出すな馬鹿が)
ロイヤルフラッシュ聖騎士は心でそう愚痴った
直ぐに顔に出るタイプ、ゼファーにバレないかとヒヤヒヤしていたが、ロイヤルフラッシュ聖騎士はそれを顔に出さなかった
『死体がないとなると瀕死のままどこかへ行ったかと、グリンピアの広大な森を探索しましたがまだ見つけておりません』
『それで?あの男に襲撃されたと?』
『あれ以上は無理と判断しました、撤退を余儀なくされ』
『もうよい』
呆れた顔をする王子ゼファーにロイヤルフラッシュ聖騎士は心の中で舌打ちをした
しかし機嫌の悪さの矛先が自分に来なくてホッとしたのも事実だ
ゼファー王子は漆黒騎士の謎の襲撃が頻繁に起き、ガンテア共和国との停戦中を溶けずに苛立っていたのだ
まだガンテアにあるエルベルト山、通称『龍山』を奪うために再三準備していたのだ
それを1人の騎士にいいように混乱させられていることに機嫌が悪かった
『世界騎士イグニスってやつですかい?』
口を開いたのは閻魔騎士ブリーナク、全員の視線が彼に向けられると、彼は背中の大剣を抜き、肩に担ぎながら怠そうに話し始める
『そんなに強いんですか?こっちも以前の五傑の話は小耳に挟むぐらいでしか聞いてませんけども…全員でかかれば流石に倒せるでしょう?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士は溜息を漏らす
その様子をゼファーは気づいてから視線をブリーナクに戻し、静かに答えた
『起立』
王がそう口にするだけで、五傑は直ぐに立った
ロイヤルフラッシュ聖騎士以外の4人が何故立たせた?と言わんばかりに国王を見つめると、王は呆れた顔のまま彼らに話す
『お前らが沢山いようと、イグニス1人とっては子供でしかない…私は当時まだ王権はなかったが』
『そんな強かったん・・・ですか?』
ミランダがよそよそしく口を開くと、ゼファーは答える
『ロイヤルフラッシュ聖騎士よ、お前が一番知っているだろう?いって見よ?』
(なんで俺に言わせる…まぁこいつは直接的にあまり見ていないから俺に言わせるのだろうな、確信がないのだろう…)
王族を好いていなかった
当たり前だ、彼の故郷を滅ぼす指示を出したのはゼファー王子の父だからだ
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『当時の五傑は凄まじく強かった、そして自由だった』
ミランダ
『あの…どういう事でしょうか?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『王の指示を聞かなかった』
それには誰もが驚く
ゼファーでさえもだ
ワルド
『それの意味は?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『あまりにも強すぎる集団、気分屋な彼らの力がどうしても必要だったためにエルデヴェルト国王は我慢したのだ、その価値があるからだ』
ブリーナク
『王族の指示は気分だと?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『そうだ、嫌なら動かない奴らだった…人の命がかかればようやく重い腰を上げるような連中、意味のない戦争を好まなかったからな』
ゼファー
『父も苦労しただろう』
ロイヤルフラッシュ聖騎士は軽く頭を下げ、口を閉じる
ゼファー
『まぁそれほどまでに強い、その中でも世界騎士という異名を轟かせたイグニスだけは当時の五傑の中でも別格だったと聞いている』
ロットスター
『それが今、コスタリカ周辺で悪さしてるってことですか?』
ゼファー
『そうだ、だがそいつの対処は後だ…まずは王族がすることがある…父の知る宝の場所を見つけるのだ』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『…』
ロイヤルフラッシュ聖騎士は黙った
ゼファーはそれには目もくれずに腕を組んで話し出す
『貴様らは知らなくてもいい、しかし…世界を納める為に必要な力がこの世界にはある。それは奪宝龍ゼペットが持っていたのだが。どこにいったか誰か見当はつくか?』
ワルド
『魔石に何か秘めていると?』
『聞くことは許さぬぞ?』
ゼファーの低い声、ワルドはギョッとしながら視線を逸らした
『何としてでも探せ、空を飛ぶ負傷した黒龍…きっとゼペットだ。そう遠くまで逃げてはいまい』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『ゼファー王子の予想はどうですか?』
『グリンピアの森の最深部、幻界と呼ばれる森だろうと睨んでいる』
それには誰もが息を飲みこんだ
アカツキが黒龍ゼペットと遭遇した海抜の低い森、そのさらに奥の最深部は非常に深い森だ
別名が幻界と呼ばれた森だが、広大過ぎるその森をまだマグナ国は把握しきれていないのだ
その森の中から生存した捜索隊は殆ど戻っていない、ロイヤルフラッシュ聖騎士を含めた精鋭騎士のみだ
その中に、リゲルとクワイエット、そしてルドラもいた
誰もが思う、『行きたくない』と
ロットスター
『あの…ゼファー王子?』
『おどおどし過ぎだロットスター、どうした?』
ロットスター
『入ったら二度と戻ってこれない森ですよね?』
ゼファーは視線をロットスターからロイヤルフラッシュ聖騎士に移すと、彼は口を開く
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『あの森は未知数だ、大勢で行くだけ混乱を招くと思って少数精鋭で向かったよ…10人でな』
ロットスター
『ほんとか?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『ここで嘘をつく必要があるか?まぁいい…我らでも3キロ先しか進めなかった。それ以上は被害が起きると思い、撤退した。ランクBの強さを誇る魔物がうようよだぞ…おとぎ話でしかない魔物がな』
ミランダ
『うわぁ。私は行きたくないな…』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『道化傀儡グリモワルド・グレゴールが幻界の森の最深部まで行ったことがとハイムヴェルトが話していたのを覚えている』
ブリーナク
『おいおい、とんでもねぇな…』
ロットスター
『当たり前だろ…化け物みたいな強さだぞ』
ゼファー王子
『知ってるのか?』
ロットスター
『あっ・・・いえ、ハイムヴェルト副団長から聞いてましたので』
首を傾げ、ゼファー王子はそれ以上は聞かなかった
ロイヤルフラッシュ聖騎士は内心ロットスターの頭を叩きたかった
(馬鹿スターめが!グリモワルドがエドにいるとバレたら芋づる式に追及されるだろうが!)
ゼファー王子はまだ未熟だが、勘だけは鋭い
何故知っている?から根掘り葉掘り聞かれては不味いのだ、最終的にロイヤルフラッシュ聖騎士の行動がバレるからだ
ゼファー
『まぁコスタリカの警備は固める、ミランダとワルドは初代国王の遺体の捜索、ブリーナクはガンテア共和国との国境線の警備、ロットスターとロイヤルフラッシュは城内で待機だ』
全員が返事をすると、ゼファー王子は席から立ち上がる、手を叩く
すると彼の後方のドアからメイドや執事が贅沢なご馳走を運んでテーブルに並べ始める
これにはロイヤルフラッシュ聖騎士以外が驚く
ゼファー
『指示は明日決行、今日は城内で休んで明日に動け』
全員が返事をし、ゼファー王子は側近騎士を引き連れて部屋を出る
すると五傑はホッと胸を撫でおろし、目の前の食事を眺めながら口を開く
鬼のワルド
『遺体か、闇ギルドが闇市で売るために遺体を煎じたという事も』
ミランダ
『気持ち悪い…』
ロットスター
『しかし、戦争はまだできそうにないらしいな』
ブリーナク
『エドはどうすんだい?結構うちらの国嫌われてるだろ?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士
『あそこは攻めない限り戦争はせぬ、後方の心配はせずともいいが・・・』
彼はそこまで答えると、一度口を閉じる
ちょっとした間にロットスターが首を傾げると、ロイヤルフラッシュ聖騎士は皿の乗ったステーキを掴み、丸のみしてから再び話した
『そこまであれに固執してなにがある…それ以上の何かがあるというのか』
その後、ロイヤルフラッシュは早めにその場から退室し、とある部屋に戻った
そこは彼が場内で住まう客室であり、ベットに横になっていたのはもう1人の黒豹人族の女性
『マリア、起きているか』
『ロイヤル…どうしたの?気難しい顔して』
イグニスに滅ぼされた黒豹人族の集落の生き残りであり、ロイヤルフラッシュの妻だった
彼女だけは生きていたのだ
ベットに横になっていたマリアは上体を起こすと、ロイヤルフラッシュは横の椅子にゆっくり座り、口を開く
『まだ仇をとれそうにない』
『まだ考えるの?もうあの時の事は終わったのよ?』
『まだだ、まだ俺は奴から奪ってない』
ロイヤルフラッシュは思い出した
業火で燃える自身の故郷の中でイグニスと戦い、致命傷を負った時の記憶が
『待て…悪魔が…』
血を流し、うつ伏せのロイヤルフラッシュは背中を向けて歩き去るイグニスを呼び止めようとした
しかし、イグニスは聞く耳を持たなかった
『…お前の大事な者も奪ってやる!お前の全てを集めて奪ってやる!』
睨みながらイグニスに放った言葉
そんな記憶が、彼にはあった
生き残ったのが当時の妻だったマリアだけだったのが不幸中の幸いだろう
当時、彼女も全てを奪われてイグニスを恨んだ
しかし
マリア
『何も変わらないのよ、恨みを晴らしても大事なものは戻らない…、あなたまで同じ心になって何が残るの?』
『奴は全てを奪った、俺の目の前で父を殺した』
『……もし奪う側のままで行くのならば、覚悟はしてるの?』
『同じ心になる覚悟がある』
『違うわ、私を1人にすると思ったことがないの?』
ロイヤルフラッシュは戸惑った
どんな理由からそれが出てきたのだ、と
わかってないと感じたマリアは彼に背を向けるように横になると、小さく答えた
『彼方は勝てないわ、私が一番わかってる』
『……勝つ為に、必要なものを手に入れる』
マリアはそれ以上、何も言わなかった
(何故お前はあの出来事を恨まぬ?お前の家族も…あいつに)
ロイヤルフラッシュはわからなかった
奪われたならは、同じ苦しみを与えないと気が済まなかった
今も彼は部下にイグニスの情報集めに国中を走らせている
どこの生まれか、親は誰なのかを知るために
奪うために
その為にアカツキのスキルを欲した
(許せマリア、あやつの大事なものを奪えずとも…あやつを殺せば全てが終わる)
ロイヤルフラッシュは溜め息を漏らし、立ち上がると部屋を出た
すると廊下の奥からロットスターが歩いてくる
直ぐに自分に用事があるのだろうとわかったロイヤルフラッシュは腰に手を当てて待っていると、ロットスターは欠伸をしてから近くに巡回の騎士がいないことを確認してから口を開いた
『どうする、スキルはゼファー王子にバレたら不味すぎる』
『お前の挙動不審次第だ、やめろ』
『わかってる…あとだが…』
『そうだな、厄介過ぎる…まさかグリモワルドがいるのは予定外過ぎる』
『しかもアクマさんの居場所も知ってそうな感じだぜ?今度けしかけたら呼ぶぞって』
『チッ!面倒な…』
『なぁフラッシュ、アクマさんってどんな人』
ロットスターの言葉にロイヤルフラッシュ聖騎士長は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた
それだけで口にしたくはない何かを悟ったロットスターは両手を前に出して聞かない意思を見せる
『まぁスキルがあれば俺もグリモワルドに勝てるだろうから何としてでも俺は欲しいね』
『ロットスターよ、スキルを十分に使ったとしてもあいつに勝つのは至難だぞ』
『そうかいそうかい』
勿論のことだが、ロットスターは開闢スキルの事をロイヤルフラッシュ聖騎士長に聞いている
何故ロイヤルフラッシュ聖騎士長は知っているか
自身の故郷が夜襲される前日、イグニスに聞いたからだ
殆ど離さないイグニスがその時初めて他の五傑に口を開いた、それがロイヤルフラッシュ聖騎士長だった
(なぜ俺に教えた…イグニス)
ギリギリと歯を食いしばると、牙を剥きだす
ロットスターは昔を思い出して怒っているのだろうと思い、彼が落ち着くのを待つ
その間、城内を巡回する騎士が2人の前を通過すると驚いた顔をしたまま去っていく
『悪いなロットスター、まぁグリンピアには近付けぬ…となるとエドに駐在させている聖騎士の精鋭を待機させている。あ奴らを動かせる』
『おっと、俺はパスだぜ?殉職したくないからな』
『お前には期待していない』
ロットスターはその言葉に驚愕を浮かべる
しかし、ロイヤルフラッシュ聖騎士長は彼の肩を軽く叩いてからすれ違いざまに口を開いた
『誰が行っても、あれに勝てるのはマグナ国にはおらん…ここにはな』
廊下を歩いていくロイヤルフラッシュ聖騎士長の背中を、ロットスターは眺めた
『まぁ俺はこのポジションのままでいいしな』
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