馬鹿は剣より強い

第95話 マグナ国初代国王ゾンネ・マグナート・リュ・エンデバー

『でやぁぁぁぁぁぁ！』

リュウグウが飛び込みながら素早い槍の突きを3度おこなった

ブラック・クズリは自慢の動体視力で彼女の攻撃を避けるが3発目が顔側面をかする

奴は怯み、僅かに目を閉じる

俺はその隙に倒れ込みながら刀を前に突きだし、居合突を発生させた

突きの斬撃がブラック・クズリに飛ぶと、それは腹部を貫いて血を流す

『グギャンッ！』

苦痛を浮かべ、悲鳴を上げるブラック・クズリ

奴は跳躍してリリディの放つカッターを避けながら距離を取った

普通のブラック・クズリならば今のは貫通していても可笑しくはない

さっきの技をまた繰り出されなければ大丈夫そうだ

あれに反応できるのは俺だけのようだな

『シャァァァァァ！』

ギルハルドは強敵と見るや、キュウソネコカミを発動して突っ込んだ

しかし相手は猛獣、動体視力は人間の比じゃない

1度目の突っ込みで奴の上部を通過しながら背中を斬り裂き、地面を転がって勢いを止めると直ぐに再び突っ込んだ

その攻撃はブラック・クズリの前足で叩き落とされ、地面に落ちた

『ニャッ！』

地面に叩きつけたギルハルドの首に噛みつこうとブラック・クズリが大口を開けた瞬間

ティアのショックが奴の顔面に命中し、僅かに痺れた

蓄積はされている、驚いている暇はない

俺は動こうとした時、先に動いていたのはリリディだった

既に彼はブラック・クズリの目の前まで迫り、木製スタッフを振りかぶっていた

『賢者バスター！』

バコーンッ！いい音が鳴り響いた

するとブラック・クズリは僅かに宙に浮き、リュウグウが槍に魔力を込め『シャベリン』と叫んだ

これは彼女の投擲技であり、槍に魔力を込めて相手に投げつける

貫通性能を付与した投擲と言えばわかりやすいだろう

通過した場所を魔力が僅かに残り、線となっている

その攻撃はブラック・クズリの胸部に深く突き刺さり、その隙にギルハルドが飛び上がりながら奴の体を切り裂いて舞った

『グギャァァァ！』

ティアマト

『お別れだ！ギロチン！』

ティアマトは片手斧を振り下ろし、ブラック・クズリの頭上に斬撃を発生させると、それを落とした

見事にブラック・クズリの体を斬り裂き、地面に叩きつけると、奴は血を流しながらヨロヨロと立ち上がる

まだ動けるか

流石だな…

ティア

『ショック！』

彼女は手を伸ばし、黄色い魔法陣を発生させると雷弾を放ち、ブラック・クズリに当てて今度は麻痺した

蓄積していたことあるが、奴の体力の消費もあっての麻痺だろう

《呼んで？》

なぜ可愛くいった？

まぁいい

俺は刀を鞘に強く納め、金属音を響かせながら叫んだ

『開闢！』

鞘から瘴気が正面に吹き出すと、その中から不気味な仮面をつけた黒騎士が熱された刀でブラック・クズリに襲い掛かり、その体を斬り裂いて業火で燃やす

炎の中のブラック・クズリは暴れることなく、その場に倒れている

リュウグウのシャベリンが急所にあたっていたのだろうな…だから暴れたりしなかった

『あ…』

リュウグウの槍も、燃えている…

ティアが焦った顔で槍を抜こうと炎の中に手を突っ込もうとするリュウグウを引き留める

『リュウグウちゃん！ダメ！傷物になる！』

『その意味絶対違うぞティア！あとでアカツキに聞け！そして私の槍…』

彼女はその場に座り込んだ

業火で燃える自分の槍、そして俺を睨んでくるけども…

『わかった…新しいの買うから』

『言ったな？刃先は残るからそれはいいが・・・』

確かに刃先は残る、しかしなんの鉱石で出来た槍なのかわからない

俺は火が消えてからブラック・クズリの体から出てきた発光する魔石を掴み、スキルを吸収する

ちゃんと光速斬だったから嬉しい

そして今でもテラ・トーヴァは消えずに燃え盛る刀を肩に担いでこちらを見ているのだが

何かを話そうとはしていないようだ

ティアがおもむろに奴に手を振ると、テラ・トーヴァは鼻で笑い、手を振ってから瘴気となって消えていった

リリディ

『ギルハルド、流石だ』

『ミャー』

ティアマト

『怪我凄いぞ？血…』

爪がむき出しの前足で叩かれたからな

ギルハルドの体の側面からは血が滲んでいる

ティア

『私回復する、怪我してる人並んでね』

ちゃんと並んだ

俺の番の時、リュウグウは焼け残った自分の武器の一部である刃先を手の取り、話しかけてきたのだ

リュウグウ

『新しい人生の始まり、その時に気づけばこの武器を私は持っていた』

リリディ

『なんだか興味深い話の入り方ですが、そこはツッコまないでおきますね』

リュウグウ

『助かる』

アカツキ

『だけども槍の棒？の部分か…帰ったら鍛冶屋に行かないとな』

ティア

『そうだね、それにしてもブラック・クズリを倒せるようになったのは凄いと思わない？』

『ミャー』

ティア

『ギルハルドちゃんもそう思ってる！』

『ヒヒーン！』

ティアマト

『馬もな』

戦闘中、何もしてないブルドン

流石にブラック・クズリ相手には立ち向かうのはやめたらしい

その場にみんなが座り込み、一息ついた

小休憩って感じかな…

《いい味だ、助かるぜ兄弟》

『明日も頼むぞ』

《あぁわかってるさ、ティア嬢ちゃんが手を振ったのは笑ってしまったがな》

『ティア、手を振ったのは笑ってしまったってさ』

『なら次も振るね』

《勘弁してくれ》

『勘弁だとさ』

俺は通訳かよ

ティアマト

『だけどよぉ、倒したな…』

リリディ

『今更ですかティアマトさん、僕らはミノタウロス相手に勝ったんですよ？いかにブラック・クズリといってもBの魔物ではないんです』

ティアマト

『まぁそうだな、だがやばい速度だった』

リリディ

『あれは流石に…』

ティア

『焦ったね。アカツキ君ありがとうね』

アカツキ

『え？』

ティア

『守ってくれたでしょ？』

俺は思い出すと何故か照れてしまう

リュウグウの視線を感じ、咳払いして切り替えるけどな

アカツキ

『みんな、ここらに敵はいないから少し休もう』

リュウグウ

『それがいい』

リリディ

『だいぶリュウグウさんもチームですね』

リリディがそう言うと『知らん』と彼女は言う

まだ認めてくれないか…ほとんどチームなんだがな

ティア

『ん？ギルハルドちゃん？』

ティアはギルハルドが森の奥をじっと見ているのに疑問を持つ

あまりにも凝視しているからこちらも不安になりそうになる

ギルハルドは魔物だが感覚は動物と同じくらい高い

何か感じたのだろうか

アカツキ

『ティア、気配は？』

ティア

『ないよ』

リリディ

『…ここを抜けませんか？』

アカツキ

『そうだな、嫌な予感がする』

俺はそう告げて、立ち上がった瞬間にそれは起きた

俺の前にいたティアマトが何かに胸部を貫かれ、吹き飛んだ

『ティアマト！』

俺は叫びなが刀を抜き、突きの斬擊が飛んできた森の方向に仲間と視線を向けて構えた

ティアが直ぐにティアマトのもとに走っていく様子を横目で確認し、身構えていると足音と共に茂みの奥からそいつは現れた

『１人戦力外、デスガ貴殿方もそうなります』

蛸頭のあいつだ

リリディが手を伸ばし、近づいてくるゼペットの手下にシュツルムを放つ

その黒弾は奴に当たる前にソードブレイカーでで両断され、後方で爆発した　　

『今回は４人、邪魔者はイマセンね』

アカツキ

『お前…』

『冒険者ですからノコノコ森に来ると思ってました。普通来ます？警戒すべき筈なのに危機管理がなってない』

リュウグウ

『蛸野郎め』

『あらあら、武器がない女性がイマシタかぁ…なら３人ですね』

一定の距離で止まる蛸頭の者

既に勝ち誇った顔がやけに頭にくる

ティアマト

『ぐっ…』

ティア

『動かないで！』

ティアはティアマトにケアで傷を回復している

蛸頭は『頑丈な熊めが』と愚痴を吐くと、リリディが口元に笑みを浮かべながら奴に話しかけた

『熊だとわかっているなら技の選択肢を間違った貴方もその程度では？』

『我を愚弄スルか？誰だと思っている…この偉大な我を』

アカツキ　

『マグナ国初代国王、ゾンネ・マグナート・・リュ・エンデバーだなお前』

ゾンネ

『そこまで答えがデタか小僧共、ならば教える事など何も残っておらぬな？』

リリディ

『過去のおぞましい栄光しかない魔物になったとは、その後のマグナ国王が聞けば泣きますよ』

ゾンネ

『黙れ小僧め…。』

アカツキ

『黙らせたいなら倒してみろ。お前はスキルを手に入れてどうするつもりだ？』

ゾンネ

『ゼペットに渡すつもりはない。我がスキルを取り戻し、思い出すのだ』

リュウグウ

『思い出す？』

ゾンネ

『女、貴様からはあ奴と同じ銀河の気を感じる。星渡り人であったか…。』

奴？誰の事をいっている？

それにリュウグウの事を星渡りと言ったが、どういうことだ

リュウグウ

『星渡り…』

アカツキ

『リュウグウ…何を話してる？』

リリディ

『訳がわかりませんね』

ゾンネ

『貴様らは知らなくて良い、アカツキよ…他の二人にやられる前に我が全てを奪おうぞ』

アカツキ

『悪いけど死ぬわけにはいかない』

ゾンネ

『やってみよ、海の深さ、深海の色を知らぬ未熟者めが』

奴は一息つくと、真っ直ぐこちらに走ってきた

走ったと言うよりも一直線に飛んできたと言った方がいいかもな

星渡り、その意味はわからない

だがリュウグウは知っているような口ぶりをゾンネはした

『光速斬』

俺は小声で呟き、素早くゾンネの懐に潜り込む

以前より速くなった俺に僅かに驚きを顔に浮かべているが、隙はない

渾身の力で刀をなぎ払うように刀を振ると、ゾンネは直ぐに武器で刀を受け止めた

『少し成長しましたネ』

こっちは両手で刀を握ってるんだぞ？

なのにこいつは片手だ…

リリディの木製スタッフの振り下ろしを空いている手で受け止め、腹部を蹴って吹き飛ばすと、俺の頭上から飛び込んできたリュウグウが前方宙返りしながらカカト落としを繰り出す

武器が無くても体術はそれなりにできる事実に驚きたいが、そんな暇はない

『愚作』

ゾンネは囁くと、俺の刀を弾き返してから回し蹴りでリュウグウのカカト落としを防いだ

『なっ！？』

『無闇に浮くな』

驚くリュウグウに声をかけたゾンネはリュウグウの足を蹴って空中でバランスを崩すと、彼女の足首を掴んでティアに投げてぶつけた

『きゃっ！』

『ぐっ！』

『魔法のタイミングなどワカッテますよ』

ゾンネはそう告げ、俺に顔を向けた

つまらなそうな表情をしている、何故だ

《兄弟、こいつは強いぞ！》

『どれだけだ！？』

《戦う王族だ！他の口達な王とは違うぞ！死にたく無きゃ死ぬ気でいけ！》

ゾンネ

『会話中ですか、しかし…』

『！？』

突っ込んできた

素早い剣さばき、見える

全てを刀で受け止めるが、重すぎる！なんども弾かれそうになり、手が痺れる

『ぐっ！くそ！』

『どうしました？マグナ国を作った初代国王なのですカラ、強くて当たり前ですよ…今と違い、あの時代は戦争だけが平和を生む方法でしたからね』

『戦争で平和だと？』

俺はゾンネの突きだしてきた片手剣を間一髪で顔を動かして避けると、刀を振り上げた

奴は宙返りして後方に飛んで避けると、戦闘復帰したリリディの放つチェーンデストラクションの２つの鎖を片手剣を振って破壊した

リリディ

『この状況では…』

アカツキ

『不味い』

ゾンネ

『でしょうね、生きてきた時代の違い…だから我は強い』

リリディ

『戦争がいいことだとは思えませんがね』

アカツキ

『俺もだ、暴君だったお前には良い時代だろうな』

ゾンネ

『……良い時代であった、筈だ』

奴はそこまで話すと、突如見えない剣筋で俺とリリディの間を斬擊が飛んだ

見えなかった…、この俺でもだ

『がっ…』

『リュウグウちゃん！』

後ろに視線を向けると、こちらに向かっていたリュウグウが胸部を斬られて膝をついた

飛ぶ斬擊、真空斬だ

真空斬にしては早すぎるがレベルが高いのだろう

ゾンネ

『勝つために兵や騎士、家臣から国民も犠牲にした…』

アカツキ

『本当にお前は王なのか…』

ゾンネ

『王デある…。暴君だからこそ戦争は終わった…終わらせたのだぞ』

リリディ

『……なにを都合の良い事を』

ゾンネ

『綺麗事の中でしか動けぬ愚民にはわかるまい、貴公らは我にとやかくいう資格すらない』

アカツキ

『何故だ』

ゾンネ

『結果を出さぬ奴の戯言など寝耳に水、我の時代には世界は小国だらけであった…』

リュウグウ

『ぐ…小国だらけだと？』

ゾンネ

『そうだ、しかも血で汚れる覚悟すらない王族が無駄に多くてな…、それを今の国の数にしたのが我だ』

アカツキ

『なに！？…っ！』

途端に奴は俺に迫る

しかし、身構えても刀は容易く弾かれ、俺は胸ぐらを捕まれると地面に叩きつけれた

『がっ！』

リリディ

『賢者バスター！』

『やはり駄目だ』

ゾンネはスタッフを振られる前に顔面を殴ってリリディを吹き飛ばした

カウンターが速すぎる

俺は立ち上がろうとすると、奴は俺の胸部を足で抑えて剣を首に突き立ててきた

少しでも動いたら刺される　

そんな気がして息すらまともに据えない

ゾンネ

『開闢スキルに出会うことがなければ我はきっと慕われた小国の王として歴史に名を刻んだだろう。同志と共に消えてな』

リリディ

『う…』

アカツキ

『リリディ…』

リリディは顔面を抑えて立ち上がる

しかしヨロヨロしている、脳震盪だろう

ゾンネ

『あのスキルがあったから我が犠牲になった、覚悟はあった……最初は小国としても回りにいた者も良い顔をしてくれた。だがこれを守るのが王と思わぬか？』

『貴方はどうしたの！マグナ国の歴史上最悪な王として言われてるのよ』

ティアはティアマトの怪我の治療をしながら口を開く

ゾンネは彼女の言葉に溜め息を漏らし、答えた

ゾンネ

『女、教えてやる…。戦争など何度もする国は無能だ…一撃で終わらせれば良い、長々とするものではない…各国は領土拡大に勤しみ、戦争しかしていなかった。我は開闢を手に入れてからは自身を鍛え、前線で自ら敵をなぎ払い、村を焼き、皆殺しにした』

アカツキ

『悪魔め！』

ゾンネ

『女、子供の断末魔が炎の中なら聞こえたのは今でも覚えてるぞ？他国の街の川に毒を巻いた時には面白かったゾ！』

ティア

『ひどい、人間じゃない…』

リュウグウ

『私の知る中で一番の外道めが』

ティアマト

『ケッ…お前…人間かよ…』

ティアマトは懸命に立ち上がり、口を開く

するとゾンネはクスクスと笑いながら、俺の胸部に伸せていた足で顔を踏みつけて言い放った

『毎日うなされた、未来の為に…今死ねと願いながら』