第115話 花駆除大作戦2
地下に向かう少し錆びれたドア、俺はドアを開けると直ぐに地下に続く階段だ
天井の照明の役割をする魔石が階段を照らしている
階段下に水だ、水面が見えてるけども、結構漏れているらしいな
《俺は嫌だな、冬の水だぜ?》
今は冬だな…俺だっていやだ
『お前は入らないだろうが』
ティアマトはそう言いながら階段を降りていき、水面の前で足を止める
俺も彼を追いかけ、共にしゃがんでみた
そうしていても答えは出ないのはわかってるんだがな
アカツキ
『魔物の気配がないぞ』
ティアマト
『だよな、いねぇっつぅわけでもないだろ…確か花種は気配がめっちゃ小さい筈だ』
《そうだ。しかも寝ている時は一切の気を発しない》
面倒過ぎるだろ
とはいってもランクFの魔物。怖がる必要はない
油断だけしなければな
『行くぞ』
俺は深呼吸し、水に入っていく
冷たすぎて変な声が出る、腰まで深いとはな
アカツキ
『ティアマト、早く来い』
ティアマト
『女みたいな声出しやがってよ、出させる側だろ?』
アカツキ
『お前も変態か?』
ティアマト
『健全な男だ』
そう言いながらティアマトは水に入ってくる
『ひゃお!』
お前も変な声出したじゃねぇか!
長い廊下だ、天井の灯りが生きているだけ助かる
水面が揺らぎ、静かなのがちょっと怖い
廊下の左右にドアが点々とあり、閉まっているけども部屋の中もきっと水没しているんだろうな
アカツキ
『ドアを開けて調べたいが…』
ティアマト
『ぶち壊すか』
俺はそれはちょっと、と言おうとした瞬間にこいつ勝手にドアを殴って壊したよ
唖然とする俺を無視し、廊下の光で室内が見える
予想通り、部屋も腰付近まで水没だ
ティアマト
『イビルハープは水中にはいねけ魔物の筈だ。ここにゃいねぇ』
アカツキ
『そうかいそうかい、ドア壊しただろ』
ティアマト
『止めなかったろ』
アカツキ
『行ってから壊すまでマッハだったぞ?』
ティアマトは苦笑いを浮かべ、頭を掻いた
一先ず奥から行こうという事で奥に進み、扉の無い先の広い空間に出た
広い部屋だな…4本の鉄の柱で支えられている貯水タンクが奥に2つあり、デカい
その下腹部に亀裂があり、水が漏れて水面に落ちている
『うわっ!』
何かにつまずいた、しかし転倒したくないので耐えた
水没してるから足場がわからんぞ…
アカツキ
『気配はないぞ?』
《イビルハープは音に敏感だ。近くに天敵がいなければ寝ながら成長する》
ならば起こすか、とティアマトが口にする
こいつが先陣を切って何かするときに良い事はない気がする
辺りを見回し、壁などを見ているけども特に可笑しな形跡はない
『というかティアマト』
『どうした?』
『なんで貯水タンクがあんな避け方する?』
『それはお馬鹿な俺達でもわかるだろうよ、ビンゴだって意味さ』
『もしここだけじゃなかったら?』
『それは俺も思ったぜぇ?地下水脈だっけか?そっからイビルハープの種が流れてきたならば別の施設に流れていても可笑しくはねぇ…種は1つとは限らん』
そうだよな…正解は1つと限らない
となるとだ、すべて自力で調べなきゃいけないのか
《熊五郎、叫んで起こせ》
テラ・トーヴァが冗談っぽく言い放つ
俺は失笑しながらティアマトに顔を向けると、彼はマジだった
『アカツキはティアを食べれなかったチキン野郎だ!』
凄い部屋中にそれが響き、俺の心にも響いた
彼のいう言葉に否定はできない、事実だ
しかし弁明だけはしたい、俺は今何をしに来たのか忘れるほどに言い訳を考え、肩を落としながら答えた
『ティアが途中で寝ちゃったんだよ…』
そこで俺は不気味な音が聞こえた
カサカサという嫌な音だ。ゴキブリかと思ってあたりを見回したが何もない
ティアマトも聞こえていたらしく、険しい顔を浮かべて片手斧を構えだす
気のせいにできないほどハッキリ聞こえたな…
アカツキ
『気配が…』
ティアマトの返事はない
気配感知に魔物の気だ、さっきまでいなかったのにいきなり現れた
しかも貯水タンクの中。きっとあの中は水で満タンではない。中の上部は空洞になっている筈だ
《さぁさぁお出ましだ!ゴロゴロいるぞぉぉぉぉ?》
俺とティアマトは貯水タンクの切れ目に目を向けると、おぞましい光景が映し出された
水が漏れていない裂け目から木の根のようなものが出てくると、ニョキっと何かが中から出てきた
紫色のチューリップみたいな魔物、あれがランクFのイビルハープである
しかも1輪、いや1体だけじゃない
凄い数のイビルハープが出てきたぞ?しかも数体気配が多い
根っこを足代わりにそれは貯水タンクにひっつくいており、花がユラユラ揺れている
こいつらだけならいいんだけども、問題は他の魔物だ
赤いチューリップかと思いきや、花ではなく4つに裂けた梨型の頭、紫色の水玉模様がある
イビルハープより二回り大きい花だ
ティアマト
『ケッ!ランクDのバイオレットか!』
面倒だ、あれは毒素を口から吹き出す花種の魔物だ
頭部は花には見えないが、他はイビルハープと変わらない
花種なのに俊敏であり、肉食
どうやらここで静かに育ち、ランクを上げて進化したようだな
ミネラル豊富な水を食料にして贅沢な花だな
『ゲゲゲー!』
パカッと大口を開けて舌を出すバイオレット、気持ち悪いな
明らかな敵意を感じる。
自分達の楽園に侵入され、怒っているみたいだな
ティアマト
『コンパでもしてたのかもな!』
アカツキ
『どこに連れて帰るんだよ!』
『ゲゲー!』
バイオレットが叫ぶと、イビルハープと共に一斉に襲い掛かってきた
その姿も恐ろしい、飛び込んでくると思いきや、水面に移動してアメンボみたいにスイスイ近づいてくるんだ
正直ゾクッとした
イビルハープの攻撃は沢山ある根、それはとても固い
行動時間は短いが僅かな時間だけこのように素早く動くことが可能だ
バイオレットはそれとは違い、水辺ならずっと動いていられる
アカツキ
『刀界!』
俺は鞘に刀を押し込み、金属音を響かせると衝撃波に交じる斬撃を正面に発生させた
奴らは避けることが出来ず、容易く花を散らして水中に沈んでいく
でもバイオレットは違った。
水中に潜って攻撃を避けたんだ
ティアマトと背中合わせで水面を見回し、どこから襲ってくるかを見定めている
僅かに水面に見えるバイオレットの頭部の赤い色が辺りを泳いでる。潜れるのは調べてなかったぞ
ティアマト
『かなりの数だ!まだタンクから出てくるぞ!』
なんて数だよ…くそっ!
イビルハープだけならいいが、ランクDのバイオレットがぱっと見で10以上はいたぞ
『ゲゲー!』
そうこうしているうちにバイオレットが水中が姿を現し、4つに裂けた口を大きく開いて飛び込んでくる
ティアマトがそれを斬り裂き、水中から忍び寄る他のバイオレットに片手斧を振り下ろす
彼を見ている暇はない、俺にも水中から姿を現すバイオレットがどんどん襲い掛かってくる
斬っては避け、斬っては避けての連続だ
《この2種類の魔物の毒素は同じだ!根から分泌される菌が街に流れる水路を通って遠くまで届くいてたって証拠だ!当たっただろ?》
アカツキ
『バイオレットは聞いてない!』
俺は愚痴を言いながら水中に見える赤い影に刀を突き刺し、バイオレットを倒す
すると水中から根が槍のように俺に向かってくる
顔を狙われている、急所がわかるのかこいつら…
『くっ!おら!』
顔を逸らして避けると、水面に浮かぶバイオレットの頭部を斬り飛ばす
イビルハープの第2陣が水面を泳いでやってくる、不気味過ぎるだろその泳ぎ方!
『おらおら!もっとこいや!』
ティアマトは水面を叩いて挑発し、水中から姿を現すバイオレットを斬り裂き、そしてイビルハープの根の突きを片手斧でガードしてから茎を掴んで引き千切る
水中に見える赤い影が俺とティアマトの周りをぐるぐる旋回しているのが見えた
数は多く、それだけに意識を向けていると水面から襲ってくるイビルハープの大群に油断してしまいそうになるよ
しかも囲まれたか…ならば
『アカツキ!も一回!』
『全方向だ!しゃがめティアマト』
俺は持っていた刀を鞘に素早く納めた
ティアマトはしゃがむというより、潜った
『刀界!』
全方位だと威力は格段に落ちる、しかしこいつら程度ならば致命傷に変わりはない!
俺の体全体から衝撃波と交じる無数の小さな斬撃が放出されると、水面に浮かぶイビルハープやバイオレットは斬り刻まれて沈んでいった
ポコポコと水面から泡が俺の横で出てる
ティアマトがまだ潜っているから頭を叩いて知らせると、彼は水しぶきを上げながら勢いよく起き上がる
『うっし!タンクからの魔物も殆ど出てこなくなったぜ!』
『ティアマト後ろ!』
『うわっと!』
バイオレットは堅い根の先を伸ばし、彼の胸部を貫こうとした
間一髪でティアマトはその堅い根を掴み、引き千切ると片手斧を振り、真空斬と叫ぶ
斬撃が直線状にいる魔物を斬り裂き、壁に傷跡を残して消えていくのを見て俺は足場が不安定な水没した場所で震えながらひたすらイビルハープとバイオレットを倒した
体の数か所に根がかすり、血が出てしまったが
ティアマトが最後の1体であろうバイオレットの茎を掴んで持ち上げると、水面に強く叩きつけた
速度をつけて水面にぶつけると水は堅くなる、表面張力のせいでもあるな
バイオレットは叩きつけられると四散し、プカプカと体の小さな部位が浮く
頭は沈んだみたいだな…
『終わったか…』
俺は刀を降ろし、静かになった広い地下施設内で溜息を漏らす
ティアマトは楽しかったのだろうが、彼も多勢に無勢状態で疲れたらしく、肩で息をしていた
《全部気配が消えたぜ。一先ずはオッケー!》
『だがこれから同じことが起きないとは言えないぞテラ』
《まぁそうだろうよ…この数だ、沢山の種が地下水脈から流れ込んできたんだろうな!》
ティアマト
『根本的な解決にならねぇってことだな』
《よくわかったな!それは多分人間側のせいだろうよ》
俺達は首を傾げた
聞こうとしたけど、ティアマトと同時にくしゃみしてしまった
一先ずここから出ないとな、今ここにいる意味はない
それを告げ、俺は1階に戻るとドアの前に先程の作業員が待っていてくれたのだ
『大丈夫ですか?』
心配そうにしながら彼らは1階に暖炉のある部屋に俺達を案内してくれた
暖炉の火はついている、その前に椅子を置いて冷めた体を暖めていると、作業員二人は思い詰めた顔を浮かべながら意味ありげな事を口にしたんだ
作業員A
『地下はどうでしたか?』
ティアマト
『毒素パーティーだったぜ』
途端に別の作業員の顔が真っ青になる
どうした?とティアマトが聞いても彼は『いえ、何でもありません』と答えた
それなら良い
俺は震える体を暖めながら思い詰めた顔を浮かべた作業員から壁に目を向けると、施設の宣伝ポスターがあることに気づく
ウェイザーの天水施設、ミネラル豊富なマグナ国一番の水を管理する仕事をしてみませんか!パート募集だってよ
しかも北区、南区、東区に西区まである
一つの企業が経営しているみたいだな
作業員B
『あの…』
アカツキ
『どうしました?』
作業員B
『ちょっと…その』
ティアマト
『あぁん?』
何やら様子が可笑しいな
別の作業員もなんだか目が泳いでるし
どうしたのかと今度こそ聞くと、俺は彼らの話す言葉に驚愕を覚えた。
根本的な解決方法があったみたいだ
俺はティアマトと共に作業員から聞いたことを知らせる為、回復魔法師会の臨時施設に急ぐ事にした
作業員の一人を連れてだ
………
ティア
『あれ?!なんでいるの!?』
彼女はアカツキ達が出発してから数十分後、患者にキュアをかけて治している最中に予想外な人間の来訪に驚いていた
『まぁ暇だったんだよ』
『そうだよね、森で弱い魔物倒すよりこっちの方が面白そう
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