第109話 賢者録 4
シエラとの約束の日、リリディはアカツキ達に事情を説明するとチームで学園に向かうことにしたのだ
久しぶりな学び舎にティアはウキウキしていたが、アカツキやティアマトそしてリリディはそうでもなかった
よく怒られていた記憶が鮮明に思い出せるからだ
エーデルハイドとイディオット、そしてとある2人と共にグリンピア中央学園へと向かって全員が大通りを歩く
『勉強なんてしたことないなぁ』
誰もが口を開くリゲルに同じことを思っただろう
何故ついてくるのだ、と
彼もいるという事は、クワイエットもいるのは勿論の事
『それにしても学園に興味があるのか?』
アカツキがリゲルに問う
しかしリゲルは『見たことがない』と答えた
それ以上を聞くのが億劫になった一同はそれ以上を聞かず、学園に向かった
正門は大きく、入り口には警備兵が2人ほど不審者が入らぬように配置されているが、そのは彼らにとって問題ではなかった
警備兵
『おや?ゲンコツ長の御曹司』
ニヤニヤしながら口を開く警備兵の変な呼び名を耳にしたアカツキは『勘弁してください』と苦笑いを浮かべる
ティアが要件を警備兵に告げると、彼らは審査などせずに彼らに通ってもいいと許可を出した
元々、魔法実技講師参加者が視察に来た場合、通すように学長に言われていたのだ
ティア
『久しぶりだなぁここ』
アカツキ
『吐き気が…』
ティア
『大袈裟…』
《ちゃんと勉強しないからだ兄弟》
リリディ
『僕は腹痛が…』
リュウグウ
『殴って治そうかメガネ』
リリディは首を横に振る
エーデルハイドはその様子を見て微笑ましく笑い、リゲルは学園を見上げた
『学園か…』
囁くような言葉にアカツキは視線を向ける
リゲルやクワイエットは学園という施設を利用したことがないのだ
だからこそ興味があって彼らについてきた
小さな村に生まれたリゲルは近くに学園などない
孤独になってからは必死に強くなり、その成果あって聖騎士に推薦されたのだ
(懐かしい)
リリディはそう思いながらもギルハルドを横にし、学園の中に入る
広大な中庭、3階まで吹き抜けのエントランスに懐かしさを感じる一同
エーデルハイドもまた、ここのOBでもある
クリスハート
『懐かしい匂いですね』
シエラ
『思い出、蘇る』
リリディ
『そういえば新設された実技場は学園の裏側でしたか…』
リュウグウ
『らしいな、あそこに全体マップがある』
エントランスの奥に学園の全体図のイラストがあり、全員で近づいてみた
かなりの広さにリゲルとクワイエットは驚く
ティア
『急ピッチで工事したんだね、私たちが卒業してから直ぐにとりかかったみたい』
クリスハート
『1年で建設とは、凄い技術ですね』
ティアマト
『ケッ、突貫工事じゃなきゃいいがな』
アカツキ
『それにしても学園の裏側か、特殊な場所にある学園だよな』
グリンピア中央学園、中等部と高等部の各棟が敷地内に建てられており、裏側はグリンピアにある広大な森の一部が接触している
なので裏側は頑丈な防壁や鉄扉で閉鎖され、魔物の侵入を防ぐような構造をしていたのだが
森の一部を伐採し、新たに実技場を建設したのであった
1階の連絡通路から中等部の棟を眺めながら一同は廊下を歩いていると、前から知る顔が歩いてくる
『おや?』
グラン先生だ
午前の授業を終え、昼まで暇をつぶす予定だったと彼は皆に告げると、『場所まで案内する』と親切にも彼らを採用試験をする実技場へと案内したのだ
グラン先生
『君らが一斉にくるとはね。結構な数の見学者が来ると思うよ?隣街にもポスターは張ってからね』
リリディ
『僕の宣伝文句、凄い逃げ場ないんですが?』
グラン先生
『頑張りたまえ、ネムディ君』
寝ていることを名前に文字られた彼は苦笑いを浮かべる
それはアカツキやティアマトにも突き刺さる言葉でもあるだろう
2人も、ほとんどの授業を寝て叱られていたのだから
リュウグウ
『授業くらい起きとけ…』
リリディ
『無念です』
シエラやクリスハートはクスクスと笑う
こうして目的地に辿り着くと、全員は口を開けて驚いたのだ
大きな楕円形の実技場、壁は3メートルの高く、その上に3列の客席が設置されていたのだ。客席の家には屋根、残念ながら下の実技場には屋根は届いていない
客席を守る強化ガラスが実技場を囲むように点々と設置されている
彼らの下の壁には大きな扉があり、そこから本来実技場に入るのだが、楕円形の会場の前後に階段があり、そこからでも下に降りることは可能だ
(奥の扉…)
リリディは階段を皆と降りながら遠くの頑丈そうな扉を見つめた
その扉の奥は森であり、開けば左右に扉が移動して開く
グラン先生の説明を聞きながら一行は実技場におりると、その広さを目の当たりにした
リリディ
『凄い広いですね。』
グラン
『将来的に大きく作ったほうが何でもここで可能になると思ってね。思い切ってグリンピアの教員会はここに力を入れたんだ』
自慢げに語るグラン先生
しかしこの施設をつくるとなると巨額な金が動いたのだろうとティアは引き攣った笑みを浮かべた
シエラ
『地面は土…』
グラン先生
『ちゃんと定期的に固めているけども、ある程度のメンテナンスじゃないと人工的過ぎた堅い地面になるからあまり固めなくてもいいと話が出てる』
アネット
『自然な地面の演出ですか』
グラン先生は笑顔で頷く
リリディはギルハルドと共に辺りを歩きながら周りを眺めた
ここならば、と彼は安堵を浮かべる
小さく設計された建物だった場合、彼の魔法は危ないからだ
その心配はないと知るリリディは黒魔法も使えるとわかり、ホッとしたのだ
(おや?)
客席に学生がいることに気づく
数的に40名、1クラス分だとわかったリリディは昼食前の施設内見学中の学生だろうとわかった
その中にいる女性教師、リリディはアイーダ先生だと直ぐに気づいた
アイーダ先生
『来年から魔法科を専攻する学生の授業がここで行われるわ、みんなの中で誰かいる?』
『俺!』
『私もこの学科にしようか考えてました』
そんな声がリリディの耳に僅かに聞こえてきた
2人の声だけじゃない、他に数人が反応を見せている
シエラは中央付近で客席にいる学生を見ているリリディに気づき、リュウグウと共に歩いて近寄る
リュウグウ
『グラン先生が面白い事を言っているぞ』
リリディ
『え?』
彼は階段付近にいるアカツキ達に目を向けると、そこには冒険者ギルドの職員がいた
アカツキ達が何か話していることに気づいたリリディは彼らの元に戻ると、ギルド職員は笑顔でリリディに会釈をした
『お久しぶりです』
(あっ)
どぶさらいのバイトの時のギルド職員であると彼は思い出した
元冒険者であり、ここの魔法科の臨時講師として冒険者ギルド運営委員会から抜擢されたのだと彼は説明をする
魔法科の教師を募るのは難しい
教員免許を持ち、なおかつ魔法使いとして経験を持つ者を第一に探しても全くいないのである
現れるまではロキというギルド職員が来年度を請け負う事にクローディアさんとグリンピアの教員会の者が話し合い、決定した
ロキ
『出来ればドラゴンさんを無理やり教員免許を取ってもらって推薦したいんですがね、勿論免許取得の費用は教員会が出すことになってますが』
リリディ
『あの人、頭いいですからね』
シエラ
『秀才だったって、バーグさん言ってた』
アカツキ
『凄いんだな』
ティア
『知らなかったの?超頭いい人だよ?』
(やっぱり凄い人ですね)
リリディはどう思いながらも、ロキというギルド職員からとあることを聞いた
奥の扉、開けて見ますか?と
とんでもない言葉に誰もが驚く
ティアマトは逆に嬉しそうだ
きっと魔物が飛び出すと思っているのだろう
『平気なんですか?扉の先は森ですよ』
アカツキが言うとロキは『何かあればお願いします』と笑みを浮かべ、階段近くにある壁の鉄板の鍵穴に近づく
彼は懐から特殊な形状のカギを取り出すと、その鍵穴に刺して回した
鍵ごと引き、鉄板が開くとそこには赤いボタンと緑のボタン
ロキは直ぐに2つを押すと奥の扉が大きな音と共に左右に開き、森が見えてきたのだ
『凄い仕掛けだな』
リゲルはそう言いながらも100メートル先で開いた扉に向かって歩く
客席にいた学生も開いたことにより、扉の先に見える森を見ていた
扉の幅は10メートル、その分のスペースが今は開いている
一同はその開いた扉の前に歩き、森を眺めた
ティア
『魔物の気配なし』
クリスハート
『気配感知高いの凄いですね』
ティア
『えへへ』
《俺を忘れんな?いないぞ》
リュウグウ
『遅いぞ』
リリディは森の奥を眺めた
普通の森、きっとこの先に行けば冒険者が魔物と戦う代わり映えの無い森であると彼は感じた
近づくと誰もが気づく、扉の先にまた扉がある
空間が50メートルほどある、ロキの話ではこの場所に魔物を一度閉じ込める為にあるという
ロキ
『赤は実技場の扉、緑は森に隣接する隔離場の開閉です』
アカツキ
『万全ですね』
リリディ
『これなら数を絞って実技場に魔物をひきれることが出来ますね』
ロキ
『その通りです。試験はもうすぐですからイディオットもエーデルハイドさんも参加する者の為に一先ずは森への討伐はお休みしたほうがいいと私は提案します。予期せぬ怪我をして受けれないのは口惜しいでしょう?』
アカツキはリリディに顔を向ける
しかし彼は即座に『その必要はない』と答えた
ティアマト
『まぁお前はあんま無理すんな、俺が2人分戦うからよ』
リリディ
『おや?さぼる気はないですが?』
リゲル
『まぁ暇だし見に来てやるよ』
クワイエット
『確かに暇だもんね、というか興味あるよね…反応』
(反応?)
クワイエットはリリディに向けて告げたことに疑問を浮かべた
反応という意味が理解できずにいた
《おい、魔物が来るぞ?》
テラ・トーヴァが言うと、全員が一斉に森に向かって素早く身構えた
ロキとグラン先生は首を傾げている
しかし、その意味は直ぐに彼らにも理解できた
『ギャギャ』
リリディ
『ゴブリンって凄いですね』
『ニャハハン』
ゴブリン1体だけ
誰もが首を傾げると、ゴブリンは果敢にもアカツキ達に向かって走ってきたのだ
それには全員が困惑だ、どう足掻いても勝ち目はないからだ
でもそれがゴブリンであり、捉えた生き物に襲い掛かる習性がある
『天誅』
リリディがそう告げると、隔離場を抜けてきたゴブリンをギルハルドが一瞬で斬り飛ばした
リゲル
『化け物猫だなマジで』
クリスハート
『本当に速い…』
アネット
『私、全然見えなかったわ…』
アカツキ
(俺ギリギリ見えた!)
アカツキは心の中で僅かに自身を持った
ギルハルドは魔石を持ってリリディに渡すと、その一部始終を見ていた客席の学生が興奮を口にしていた
『なんだあの猫、一瞬で倒したぜ?』
『あの猫欲しい!先生』
アイーダ
『あの猫は…あれ?アカツキ君たち!?』
リリディ
『バレましたね』
こうしてロキは扉を閉め、一同はその場を出ることになった
視察は出来た、あとはここにいる必要はない
連絡通路から中等部の中庭を眺めながら彼らは入り口に向かう
リリディは中庭で寛ぐ中等部に視線を向け、懐かしがった
(嫌な思い出もありますが、楽しかったですね)
『あれ?可笑しな魔法使いの人!』
リリディは聞き覚えのある声にまさかと顔を向けた
それは紛れもなく、カインにミミリーそしてランダーであった
アカツキ
『知り合いかリリディ?』
リリディ
『ちょっと…ですよ』
アカツキが首を傾げていると、その3人が連絡通路で足を止めるリリディ達に歩み寄った
カイン
『何してるんですか?』
リリディ
『なんも』
ミミリー
『先日はありがとうございます』
そんな感謝の言葉を聞いたアカツキは、何があったのかリリディに聞こうとしたが
さて?と誤魔化す
無駄に勘の鋭い学生3人は、自分たちが勝手に森に行ったことがバレると悟り『ご飯を奢ってくれた』と適当な事をいって誤魔化す
しかし、全員がそれに騙された
リュウグウ
『お前、どこかで頭をぶつけたか?』
リリディ
『どういう意味ですぅ!?』
カイン
『シエラさんだ!』
カインはシエラに気づくと、興奮をあらわにした
彼だけじゃなく、ミミリーやランバーもだ
それほど彼女は人気があり、有名という事でもある
リリディはそれが羨ましかった
しかし、それを変えるのは自分自身だとわかっている
グラン先生
『やんちゃ3人衆め、誰に似たんだか』
グランが告げると、3人は逃げるようにしてその場から去る
(彼らもグラン先生が苦手のようですね)
リリディはそう思いながらも皆と共に学園を出た
エーデルハイドは今日は休みのため、その場解散
リゲルとクワイエットは気になる飯屋があるからとそそくさとその場から立ちある
グラン先生に別れを告げたイディオットは開闢スキルが勿体くなるので、せめて浅い森で魔物と戦う事に決めて向かうことにした
辿り着いた時には15時、連れてきた赤騎馬ブルドンの背中にはギルハルドが呑気に寝そべり、寝ている
リリディ
『まったく、マイペースな猫ですよ』
アカツキ
『あれから生態わかったか?』
リリディ
『昨日嵐の中に森に行って気づいたんですが…』
アカツキ
『やっぱ行ったのか』
リリディ
『ええ。ギルハルドは風の抵抗を殆ど受けてませんでした』
アカツキは驚いた
彼だけじゃなく、ティアマトやリュウグウそしてティアもである
(本当に未知すぎる猫ですよ)
リリディ自身、まだわかっていない
適度に現れた魔物と戦い、アカツキはパペットナイトに開闢を使い
連続斬りスキルをティアマトに渡す
それによって彼は機嫌が良い
リリディ
『多い気配ですね』
リリディは帰り道の道中、そう告げた
現れたのはグランドパンサーが5頭と多めの数であった
リュウグウ
『いい数だ、私が全部やってもいいぞ』
ティア
『1人は危ないよ…私も戦う』
リリディの近くで女性2人がそう話している時、リリディは違う事を考えていた
(大賢者ですか)
途端に彼は動いた
リリディも持つグェンガーという黒魔法にはレベルがない、それと同時にとある特殊な性質がある
唱えなくても発動できるのだ
彼は瞬時に黒い煙と化すと一瞬でグランドパンサーの群れの背後にスタッフを振り下ろそうとする姿で現れた
それにはアカツキ達も驚愕を浮かべ、動きを止めてしまう
リリディ
『1頭目』
声で振り返るグランドパンサーの顔面にスタッフを当てて吹き飛ばすと、飛び込んでくるグランドパンサーを吹き飛ばし、彼は再びグェンガーで移動して別のグランドパンサーの正面に現れるとそのままスタッフのフルスイングで吹き飛ばした
消えたり現れたりすぐ人間に魔物は驚き、残りの1頭が背を向けて逃げようとするが
リリディが逃がす気はなかった
素早く右手を伸ばし、円盤状の緑色の刃2つを逃走するグランドパンサーに向けて飛ばすと、その体を斬り裂いて倒した
(よし、いける)
彼は一息つき、周りで倒れるグランドパンサーを見下ろした
《やるじゃねぇかメガネ》
『これくらいできなければ、先へはいけません』
《そうだな》
アカツキ
『リリディ、お前人間か…』
リリディ
『それはみんなそうなるんじゃないですか?』
《そうならねぇと生き残れねぇからな、ティアお嬢ちゃんだって人間やめる道に片足突っ込んでるからな?》
ティア
『え?私!?』
アカツキ
『あははは』
ティア
『何笑ってんのアカツキ君』
リリディはティアに追いかけまわされるアカツキを見て笑った
そこでティアマトはリリディの肩を叩き、とある事を口にしたのだ
『もうすぐだ。宣伝にゃ丁度いいだろ?お前のしたい事のな』
リリディはその言葉を聞いてからメガネを触り、答えた
『先ずは僕から叶える為のチャンスを活用させてもらいます』
彼は誓った
マスターウィザードこそが魔法職最強ではないという証明をするために
お爺さんが掲げた夢を引き継ぐために公にこの称号を知らしめるためにだ
堂々と行こう、彼はそう覚悟し来る日を密かに待ち望んだ
その日、何が起きるかも知らずに
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