第129話 鬼退治編 1

俺達はある程度リハビリをするための魔物討伐も済ませ、夕方にはギルドに戻れた

エーデルハイドさん達と共にここまで来たが、変わらずリゲルとクワイエットは俺達の遥か後ろからついてきていた


肝心の聖騎士2人は似合わない安い冒険者の防具が気になるが、丸テーブルの席にてサイダーというジュースを美味しそうに飲んでいた

隣の丸テーブル席を囲むはエーデルハイド、チラチラと2人を見ているけども気になるのも無理はない



力のランクが下がった時代だと言われても今でも聖騎士は様々な協会の中では一番強い

その1番隊という精鋭の中の人間2人

俺は2階吹き抜けの上からロビーの様子を見降ろしていると、リリディが口を開いた


『まさかクワイエットさんが副隊長とは』


リュウグウ

『ダークホース過ぎるぞ、あいつらの付き合いを見てればリゲルが圧倒的に強いと勘違いしそうになるが』


ティア

『でも戦ってる姿をよく考えるとリゲルって人と同等の力は確実にあったよね』


アカツキ

『それ以上を見えてなかったのか…運悪く俺達は見れなかったわけか』


《俺もビビったぞ!なんでリゲルじゃなくてあいつ!?》


ティアマト

『おま、驚き過ぎだろ』


《いやしかし仕方ないだろ熊五郎。》


ティアマト

『お前、熊五郎ってまたいったな?』


《リゲルは聖騎士としか言ってなかった、階級的な事は一切口にしてなかったしあいつは1番隊の隊長ルドラの次に偉い奴だと予想してたが、クワイエットかよ!》


ティアマト

『無視か』


リリディがブフッと笑うと、ティアマトがゲンコツした

始まった、睨み合い


ティア

『も~!そっちのリハビリはいいからぁ』


リュウグウ

『まぁしかし1つだけ確認したいことがあるアカツキ』


アカツキ

『何がだ』


リュウグウ

『単純な強さならばこいつら2人は聖騎士協会1番隊の隊長ルドラに継ぐ強さだと認識しても良い情報だろう』


アカツキ

『俺はそう思う。実力は確かだ』


リゲルには決闘でボコボコにされたからな、肉体的じゃなくてだが

聖騎士で武に生きる者は3名…か


待て?クワイエットさんが言っていたな

1番隊のジキットとバッハくらいだよマシな聖騎士、そう聞いている

同じ小隊の者か。いつか出会うだろうな


『ニャー』


ギルハルドは床でゴロゴロ転がっているが、戦いの場から離れるとまんま猫だ

今日は帰りにゴブリンを倒したこいつは発光した魔石1個をドロップしたから光を体に吸収していたけども、見た目はそんな変わってないな


《あと少し…か》


どういう意味だ?とテラ・トーヴァに声をかけようとしたが

その前に1階の受付嬢が職員と慌ただしく話しているのが目に見えてそちらに意識を奪われた

クローディアさんも姿を現し、険しい顔を浮かべている


こういうときは何かあった時さ

しかし、規模が違った…

グリンピアでこんなこと起きるはずもない事が起きたことをクローディアさんはその場にいる冒険者に聞こえるように声を大にして言ったのだ


『聞きなさい!10年に1度あるかないかのレベルで北の森に危険な魔物が現れたわ。』


冒険者

『ブラッククズリとかか?』


『鬼ヒヨケ2体よ』


誰もが思考が停止しているのがわかる

普通こんなことありえない

だからこそ1階にいる冒険者全てが驚愕を浮かべ、歩いていた冒険者でさえ足を止めてしまう

この場にはゼルディム達もおり、彼らでも驚愕を浮かべていた

ありえなさ過ぎる事だからな


魔物ランクBが2体、どんな都会でもそんなこと起きない

また虫、もしかしたら番(ツガイ)か?またか?


クリスハートさんは驚きながら席から立ち上がる

彼女らでもそのくらい凄い事だと感じているのだろう

でも2人だけは違うようだ


リゲル

『おー?面白そうだね、クワイエットどうする』


クワイエット

『倒せば美味しいご馳走沢山食べれるから倒しに行こっか』


2人は席を立ちあがり、クワイエットは背伸びをする

その場の冒険者が平気な顔をする2人に顔を向け、こう思っただろう


なんでそんな楽しそうなの?って


ゼルディム

『正気か、こいつら…』


彼は受付に颯爽と向かう聖騎士2人の落ち着きようを見て動揺した

クローディアさんはそんな2人を腕を組んで受付の奥で待ち構えている

俺は仲間を連れ、1階に降りてリゲル達の後を追うと、彼らはクローディアさんに話しかけたんだ


リゲル

『俺達で倒してくるさ、良い訓練になる』


クローディア

『訓練?貴方達が強いのはわかるわ、でも2人で行って勝てると思うの?』


クワイエット

『楽勝じゃないよ?死ぬかもしれない。…でもどっちが死ぬかって戦いが出来る状況で参加しないのは死ぬよりもつまらないよ』


その言葉にクローディアさんが呆れた顔を浮かべた

『つくづく昔の聖騎士思想ね』と口を開く

聖騎士であるからこその思想だろうか、俺には十分に理解はできん


《正気じゃねぇな、勝つか負けるかの度胸試しが好きなのか?確かにこいつら2人ならやり方次第じゃ勝てるだろうが》


ティア

『B相手に予定が狂えば一瞬でやられちゃう』


その通りだ

気づけば俺達の後ろにエーデルハイドの4人が椅子から立ち上がり、真剣な顔つきを浮かべたままこちらに歩いてきていた

それに意識を奪われていると、受付で話が進められ始めた


リゲル

『報酬は?』


クローディア

『1体で金貨30枚』


クワイエット

『なら60枚だね』


集団で倒しに行く緊急事態を2人でこなすことを決めた彼らは振り返り、俺達に顔を向けた

ニヤニヤしながら俺を見てる、そして首を僅かに傾げてだ


リゲル

『仕方ねぇ、お前らにゃ少し経験してもらわないと俺達も困るからな』


クワイエット

『1体譲るのリゲル?』


リゲル

『今はこの方がいい、今後を考えるとな』


クワイエットさんはウンウンと頷き、腰に手をあてる

どうやらついてきてもいいという事らしく、俺達は鬼ヒヨケにリベンジするチャンスが来た

ついてこい、とリゲルが口にし、俺達を通過した彼らの後ろをついていくことにした

でもまたリゲル達は通せんぼされる。エーデルハイドの女性陣である


流石のリゲルも溜息を漏らし、先頭のクリスハートさんの顔をまじまじと見つめ始めたんだ

すると彼女は僅かに顔を逸らした


リゲル

『どうしたクリ坊』


クリスハート

『くくくっクリ坊!?』


とんでもねぇ奴だ

グリンピアで一番美人で強い彼女をそう呼ぶか?

シエラさんもその呼び方に目が点になってる

動揺したクリスハートさんに笑みを浮かべたリゲルが彼女の肩をポンと叩き、言った


『見学ならいいぜ?』


『私も戦います』


『いいや駄目だ、わちゃくちゃされたらかなわん』


『どうしてもダメですか?私達もできます』


彼女は本気だ。腰の剣を握ってリゲルを見ている

するとリゲルは数歩後ろに下がり、腕を組んだままとんでもない事を彼女に告げた


『サシだ。お前と俺…クリ坊が勝ったら1体譲るが負けたら見学、まぁアカツキ達の保護者としてついて来』


リゲルが最後まで言い切る前にそれは起きた

クリスハートさんは姿勢を低くしながら腰から剣を抜いたんだ

よーいドンはない。クリスハートさんのそれが合図になる


その剣はリゲルの首を刎ね飛ばす気で全力で振られた。流石に速い

意表を突いた一撃。俺がリゲルなら驚いている隙に首が飛んでるかもしれない

しかし、相手はリゲルだった


奴は何故か右腕で彼女の剣を受け止めようとしたんだ

剣じゃなく、盾でもなく腕だ…冬用の安い長袖の防具では彼女の剣を防げずに斬り飛ばされる

だがそうならなかった


首を狙うクリスハートさんの剣を腕で受けると金属音が響き渡ったんだ

彼の腕は斬り飛ばせれなかった。止まったんだ

しかも左腕で彼女の首を掴んでいた

クリスハートさんは驚愕を浮かべながら剣を受け止めたリゲルの右腕を見つめていた


リゲル

『右腕には聖騎士御用達のミスリル手甲をつけてるんだ。んで俺ならお前の綺麗な首を折ることもできる。俺の勝ちだ』


クリスハート

『そん…な』


剣をおろし、驚く彼女

リゲルは口元に笑みを浮かべながら彼女の首を離し、入り口に歩きながら彼女に向けて言ったんだ


『わりいな痣つけちまったな、アカツキ達と1体倒しといていいぞ…』


言われてみるとそうだな、クリスハートさんの首には痣がついている

当分残りそうだ

彼女は自身の首を触りながら肩を落とすと、入り口を出ようとするリゲル達を追うようにして仲間を引き連れ、口を開いた


『行きましょう』


ティア

『クリスハートさんが負けちゃうとこ初めて見た』


リリディ

『流石に聖騎士ですね。対人戦となれば冒険者より格段に上手いという事でしょうね』


《しかもあの野郎、クリ坊ちゃんが剣を触ってるのを確認してからワザと腕組んだろ》


リュウグウ

『誘導したんだわ。裏をかいた攻撃をさせるよりも単純に速い攻撃をしてくるように』


アカツキ

『ギャンブルだな』


ティアマト

『慣れてるんだろうよ。ほらお前ら行くぞ…』


こうして俺達はギルドを出た

リゲルは『鬼ヒヨケは馬は好物だから心配なら置いていけ』というので不安になったティアは近くを警備していた知り合いの警備兵に馬の面倒をお願いし、チップで銀貨2枚渡していた


『気を付けるんだよティアちゃん』


『はい。ブルドンちゃんをお願いします』


そうした会話中、ブルドンは落ち着きがない

自分を置いていくとわかっているからかもしれん

ティアはブルドンの首をさするように撫でながら『帰ってくるから待っててね』と言うと一瞬で大人しくなる


凄いなぁ


リゲル

『行くぞお前ら。』


急かされて俺達は追いかける

エーデルハイドのみんなと共に先頭を歩くリゲルとクワイエットさんについていくと、シエラさんがリリディに話しかけていた


『メガネ』


『あの…僕はリリディですよシエラさん』


『リリディ君のステータス、気になる』


その言葉、リリディは大好きだ

無駄に胸を張る彼は歩きながらステータス画面を開き、それをシエラさんに見えるように向けた

最初は無表情で見ていた彼女だったが、数秒で画面に顔が張り付くぐらい近づいて凄い声を出す


『へっ!?ほわっ!』


《こいつこんな声出すのか》


俺も驚きだ

いつも寝ぼけた感じの表情をしていたシエラさんが、今起きた

そんな目開くのかと思いながらも彼女の反応を見ているとアネットさんも興味を示したらしく、エーデルハイドの皆さまで彼のステータスをマジマジと見始めたんだ


アネット

『何これ!?知らない魔法スキルばっか!?』


ルーミア

『いやそれよりも魔法使いなのに前衛的過ぎるでしょ!多少の自衛能力超えてるよ!?』


クリスハート

『魔法使いとは何でしょう?』


ルーミア

『クリスハートちゃん?』


哲学でも始める気かな

リリディは面白い反応に満足し、颯爽と歩く

俺のステータスは秘密だから他の仲間のステータスを見せたんだけども

かなり高めらしくてBも倒せても可笑しくはないとクリスハートさんが告げた



森に歩く最中、彼女らには顔が蛸頭の魔物について気を付けるように話したんだ

遭遇したら倒すよりも逃げるべきだというと、素直にクリスハートさんが頷いた

最初の説明では返り討ちをする気でいた、しかしだ


クローディアさんや俺の父さんそしてシグレさんの3人の攻撃を瞬時に避けたことを言うと、クリスハートさんは逃げることを約束したんだ

まぁそうだよな、あの3人はこの街じゃ凄い戦闘人間だし


アカツキ

『クリスハートさんはBランク目指してるんですよね?』


クリスハート

『はい。ある程度の討伐後にB昇格試験が出来る街に行かないと駄目なんです』


それは初耳だ

驚いていると彼女は苦笑いをしながら口を開く


『ギルド運営委員会の役員がいる街じゃないと駄目ですけど、ここにはいますね』


『ああなるほど…クローディアさんか』


どこぞも街に行かなくてもいいのか、助かる


ティアマト

『鬼ヒヨケか…てかティアちゃんにちっと頼ることになるかもなぁ』


ティア

『魔法強化あるからちょっとは援護できるかもね』


リュウグウ

『メガネのシュツルムはもの凄いが、爆風でこっちまで飛ばされそうになるから連発は難しいな』


リリディ

『確かにそうですね。かといってチェーンデストラクションで拘束できるかと言われるとちょっと自信がありません。アンコクもペインもレベルはまだ低いのでB相手には付け焼刃かもしれません』


ティア

『でも時と場合によって魔法は使い分けてるでしょ?』


リリディ

『勿論です。どう倒しますかね』


アカツキ

『あれは素早いし力があるが体は今の俺達なら十分通用できる。俺が隙を作る…あの速度に対応できるのは俺とリュウグウだ』


リュウグウ

『任せろ。バランスを崩したら熊とメガネに任せるがティアはタイミングを見計らってラビットファイアーを頼むわ』


ティア

『任せて』


クリスハート

『鬼ヒヨケは火に弱いですからね』


リゲル

『火で攻撃すると狙われるだろうから気をつけなお嬢ちゃん』


ティア

『へっ?』


クワイエット

『あれってダメージ一番与えてくる者をしつこく狙うんだ。だから彼女の前に誰か置いといたほういいよ』


そんな脳があるのか

初めて聞いた、というか聞かせてくれてありがたい


夕方、もうすぐ真っ暗になる頃に森の入口に辿り着く

するとそこで俺の父さんがいたんだ。

それに部下が10人と多い、全員俺は知っているさ


今日は森の入口の警備だったらしく、警戒解除まで帰れないらしい

リゲルとクワイエットさんはすんなり通れたが、俺達は行く手を遮られる


父さんの顔が険しい

何を言われるかわかってる、親ならばそうなるだろうと俺は思った

なんせ俺の前に立ちはだかっているから予想は出来る


『行くのかアカツキ』


『父さん。言うと思ったけどもさ』


『当たり前だろう…。お前らを全滅させた魔物だぞ?』


心配している

父さんは鬼ヒヨケにやられそうになっている時にシグレさんと助けに来たから助かったんだ

リゲルとクワイエットさんは奥で足を止めてこっちを見ている

早くいかないと急かされる、というかそうなってる気がする


『父さん、大丈夫だよ…やり返してくる』


『そうか』


すると道を開け、『危なくなったら発煙弾を空に打ち上げろ』と告げた

最悪な場合はそうするよ父さん。でも…


ティア

『ゲイルさん大丈夫です、アカツキ君は強くなりましたから』


『ティアちゃんがそういうならそうなのだろうな、だがなアカツキ』


『ん?』


『親はしつこく心配する生き物だ。お前が100歳になっても、子は子のままだ…』


言いたいことはわかるさ

俺は仲間と共に森の中に足を踏み入れる

後ろを振り向くと、父さんが部下10名と共に俺達を見送っていた


ティアマト

『アカツキ、燃えるなぁ』


彼は首を回し、興奮していた

俺は静かに心臓が早く動いていることに気づき、それを何を意味しているか気づく

そして口を開いたんだ


『リベンジだ、倒すぞ』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る