第237話 2 バクフ街

次の日、朝食は宿の中にある飲食店

そこでテラに聞いた話を仲間に聞かせたよ

かなり深刻な筈だが、テラとギルハルドは暢気だ。


ティアは『ゾンネはイグニスが悪魔の王で、何を企んでるか知ってるの?』と聞くとテラは答えた


《わからねぇがゾンネが全盛期の力が戻ってからイグニスの企みを知れば放置はしない、ゾンネはそういう奴さ》と何やら意味ありげな事を口にする


いまだ宿の外は大変そうだ

迂闊に外には出れない感じがするが、ティアは『引きこもるの嫌!』と駄々をこねる

可愛いから許そう


俺とティアは宿の売店に売っていたお土産用のお面を購入し、装着して仲間と共に街をあるく事にしたんだ


どんな仮面かって?

般若のお面だよ、夜にこれ被るときっとビビる

そして夏用の灰色の薄いローブを羽織って完璧だ

怪しすぎるだろ


『シャー』


売店前、ギルハルドが俺たちを威嚇してる

般若のお面が嫌いらしい…


こうして外に出ると、俺達は2件隣のタピオカ専門店に向かった

男の俺やリリディそしてティアマトが入れそうな店じゃないぞこれ

若い女性ばっかだよ


わざわざ隅のテーブルに座り、全員で杏仁タピオカを頼んだよ

杏仁ジュースにタピオカが沢山入った商品だけど、これが美味しかった


リリディはストローに詰まったタピオカを必死に吸って蒸せているのが面白い

何やってんだと言いながら飲んだら俺も気管に入りそうになって蒸せたよ


リュウグウ

『フラグ回収は優秀だな変態』


『ニャハハー』


ティア

『大丈夫?』


アカツキ

『大丈夫だ』


《人間は面白い飲み物を作るなぁ。》


アカツキ

『テラも飲みたいか?』


《復活したら考えとくよ》


こいつも神、どのくらい強いんだろうか

戦神らしいから最強なのかもしれん、いや違う

きっと奥さんの女神メイガスか


ギルハルドはリリディの膝に座り、撫でられながら心地よくしている

今日はいつもより姿を見せるなぁ


ふとリュウグウは思いつめた顔を見せる、それには俺だけじゃなく皆も気づく

何を考えているのかは薄々わかってはいるが…

たまにこういった表情を見せる時がある、その度に俺達はあまり触れないようにしていたが

これにリリディが触れてしまう


リリディ

『どうしたというんです』


飛び出す言葉にギョットしてしまった

でもリュウグウは動揺する様子は見せない

溜息を漏らすと彼女は椅子にもたれ掛かった


リュウグウ

『せめても辛い記憶だけを消したのだろうな、私には家族といた幼い記憶しかない…その後の展開などまったく思い出せなかった』


ティア

『悪くなる寸前から無いって事かな』


リュウグウ

『そうだと思う、しかし作り話を神種がするとは思えない…記憶を戻せという勇気も私にはない』


リリディ

『戻ったとしても、前と生き方は今は違う筈ですよ』


リュウグウ

『それはそうだが…』


リリディ

『貴方の気持ちになるのは難しい、僕らは馬鹿ですから…。でも今こうして別の人生を歩んでいることを大事にすればいいのでは?』


リュウグウは腕を組み、俯く

するとリリディの腕にいたギルハルドが飛び出し、リュウグウの胸に飛び込んでいく

彼女は驚きながら抱きかかえると僅かに笑みを浮かべながらギルハルドの頭を撫でる


『ミャンミャー』


リリディ

『気にするな、らしいです』


リュウグウ

『…努力しよう』


ティアマト

『俺達ぁ仲間だぜ?』


アカツキ

『そうだ。気にすることは無い』


リュウグウ

『その仮面をつけながら言われたくないな』


彼女は笑いながら言い放った

少しづつ、彼女はこの世界での生き方を見つけるだろう


《神の道楽だが、それをお前は良い方向に繋げればいい》


リュウグウ

『勝手な神だ、だが感謝できるように努力しよう』


窓から外の人たちの話し声が聞こえる

それだけじゃない、店内の若い女性客もとある場所に視線を向けていた

情報が共有される速度は凄いな…


店内の情報誌はひと際大きく、それは昨夜の出来事が書かれていたんだ


《ティアお嬢ちゃんがエド国に現れたのはきっと国内に知れ渡ってるっつぅ事だ。凄い称号なんだぜ?天使の力の一部だからな》


ティア

『私の元の神はいるの?』


《カブリエル、悪いがお前らが会うことは無い…この星には戦神の俺と死神デミトリ。あとは空から女神メイガスが見ている。その3人しか神は星に意識を向けていない。》


アカツキ

『神は何をしてるんだ』


《言い方は悪いがお前らは飼われている存在だ。神の道楽なんだ》


惨い話だが…別に気にしてはいない

悪い人生じゃないからだ

生き方は自由だ、神は自由を俺達に与えたとなると別に思いつめる事もない


好きに生きれるならば文句はない

あるのはゾンネとイグニスだけだがな


ティア

『タピオカ美味しい』


騒ぎの元凶が幸せそうにタピオカ飲んでる

そういうとこも…好きだぞ


ティアマト

『明日じゃねぇと城はいけねぇか』


リリディ

『今日は森にでもどうです?街でひっそりするよりかはこの状態で森に身を隠すってのも魔物相手にしながらならば都合が良いのでは?』


リュウグウ

『今だけ利口な男になったか!?』


ティア

『リリディ君、どうしたの』


ティアマトが高笑いしている

確かに森に身を隠した方が良い

と、いうことで俺達は南にある森に向かったんだ


ここの森には普段通りゴブリンやオーク、格闘猿なども現れるが各地方にしかいない魔物もいる

今俺達が相手しているゴブリンがそうだ、ただのゴブリンじゃない

肉体は筋肉質で両手に片手剣、身長は成人男性と変わらない


バトルゴブリンなる戦闘、ランクはD

普段はDランクのキングゴブリンの側近みたいにここでは現れるらしいが

奴の足元に転がるのがキングゴブリンだ


ティアマトが殴って一撃で倒してしまったんだよな


『ゴブブブァ!』


『ゴブァ!』


2体のバトルゴブリンは非常に怒っている

まぁ守る王が足元に転がってりゃ怒るだろうよ


アカツキ

『スキルはなんだ?』


ティア

『連続斬り』


リリディ

『ではティアマトさんのレベルが限界に出来ますね』


《コスパ良い技スキルのレベル上げるのは賛成だ》


アカツキ

『良し、1体は貰う』


俺はそう言いながら鞘に刀を押し込み、開闢を使った
















バトルゴブリンとの戦いも終わり、ティアマトは上機嫌だ

彼の連続斬りはレベル5の最大

レベル最大になると魔力消費量も僅かに下がる為、結構お得だ


今日の稼ぎはティアマトとリリディに換金してもらうためにギルドに行ってもらう話を決めながら魔物をどんどん倒していく

敵が弱くても、油断せずに倒していくとエド国の冒険者に出会う

こういう時は軽く挨拶をしてすれ違うのがどの国もやる


そして稼ぎ場に2組がいるのは問題になる


アカツキ

『下がります、すいません』


冒険者

『すまないな』


こういうやりとりは珍しくはない

リーダーであろう男は懐から銀貨5枚を取り出して俺に渡してきた

せめてもの謝礼、というわけだ


ティアマト

『一旦下がろうぜ。戻りながらな』


リュウグウ

『そうしよう』


その場から立ち去るようにして来た道を戻る


今日は森に冒険者は多いようだ

歩いていると近くで魔物と戦う冒険者をよく見かける

もともといたならば俺達は近くで魔物を探すことは出来ない


ティア

『まぁ浅い場所だし仕方ないよ』


《周りに魔物より冒険者がウヨウヨだ、流石都会だな》


アカツキ

『そうだな』


いい加減、仮面を外したい


歩いていると、リリディがティアにとんでもない事を突然言い出す


リリディ

『ティアさんと戦ってみたいですね』


ティア

『変な事言ってないで前見てリリディ君』


彼女は笑いながら告げると、リリディの近くの茂みからコロールが飛び出す

だが彼は視線を向けず、代わりにギルハルドがコロールを引き裂いて倒したのだ

ニッコリしているリリディ、しかし倒したのはお前じゃない


リュウグウ

『決まったと言いたいのかメガネ』


リリディ

『はい』


『ミャンミャー』


コロールの魔石が光ってるけど、それはギルハルドが前足で触れて吸収する

ここで案内役をしてくれたトッカータさんらに出会ったんだ

直ぐに帰らなかったのは観光も兼ねて今日までバクフ街に滞在するためらしい


イビルイ

『街はティアちゃんで話が持ち切りだね、だから凄い仮面してるんだ…』


ティア

『ちょっと納得いかない仮面ですけど…』


トッカータ

『だろうね、でもやっぱり外さないほうが良いよ』


クルミナ

『そうよ?でも変に引き込むとかは絶対ないと思うけどねぇ…マグナ国の回復魔法師会なんだし』


協会に加入しているからこそティアは人権を守られる

他国の協会に面倒ごとを持ちだせばそれこそ問題に発展するかもしれないから迂闊に近付けないとクルミナさんは話ながら俺達と共に森を歩く


ローズマリー

『この国にも回復魔法師会はいるんだけど、その協会が注意喚起してるわ』


ティア

『エド国の協会がですか?』


トッカータ

『絶対に刺激してはならない、他国との関係に亀裂を生む原因となる危険性が高い為、重い罰を課す事も辞さないって今日の朝型の朝刊を総合情報協会の人が回復魔法師会が急遽作ったビラをバラまいてたわ』


リュウグウ

『凄いな…』


イビルイ

『しかもそれは城の本部から各協会に伝えられ、厳重警戒態勢を敷くように言われているとか聞いたからバクフ街の警備兵も今日は多いわよ?森を出ればきっとウジャウジャ』


ティア

『ある意味治安が一番いい街になりましたね』


ローズマリー

『確かにそうね』


マグナ国の協会はマグナ国総合騎士会以外は王族の直轄組織ではなく独立された帰還

だがエド国は違う、ほぼ全てが直轄組織であり、それ以外は独立機関として独立している


リュウグウ

『まぁ民間企業みたいなもんか』


リリディ

『リュウグウさんの世界語です?』


リュウグウ

『まぁそうだ。独立機関も民間企業も同じだがこちらでは機関というより企業って言葉が多い』


トッカータ

『まぁ仮面でバレたとしても変な事は起きない。冒険者なんて城の本部を怒らせたくないからビビる筈だしね』


でもなるべくバレないようにしよう

それはクルミナさんも話したけど、『バレると凄いみんな緊張しちゃうから仕方ないけど我慢してねティアちゃん』と言ったんだ


元気に返事をするティアは可愛いな


ミヤビ冒険者チーム、エアフォルドと共に森を出ると俺達は街の様子に少し驚く

警備兵が3人1組で街の中を警戒しているからだ

彼らだけじゃなくエド国の侍騎士会の侍騎士も道の隅で辺りを監視しているのだから街はいつもと違う様子であることに気づく


《まぁ当然の結果だ、人間国宝って知ってっか?権力よりも価値があるっつぅことは馬鹿な人間も感じているってことさ》


ティア

『私は普通に暮らしたいんだけどなぁ』


イビルイ

『あはは、大変だねぇティアちゃん』


そうこうしていると、侍騎士5人が俺達に近づいてくる

下手に怪しい素振りは見せないようにとトッカータさんに言われて堂々としているけど

侍騎士が俺達の前に辿り着くと、やはり仮面を被っている俺とティアを見て首を傾げた


侍騎士A

『見ない格好の冒険者だな…。すまぬが冒険者カードを持っているか』


リュウグウ

『職務質問とやらか』


取り出すのが早いリュウグウは素早く侍騎士に冒険者カードを見せる

俺達はそれに続き、懐からカードを出そうとすると侍騎士が少し驚きながら仲間内で話し始めた


侍騎士A

『マグナ国冒険者…作成元はグリンピア』


侍騎士C

『心臓飛び出しそうだ…。このまま続けますか』


侍騎士A

『一応見るしかあるまい』


勝手に侍騎士がソワソワし始める

こうして俺達は冒険者カードを見せていくが、トッカータさんらがミヤビの冒険者だと知ると俺達に意識を向け始めた

最後にティアが2つのカードを出した瞬間に侍騎士の顔色は重くなる


マグナ国、回復魔法師会のカード

そして冒険者カードの2枚


それを手に取る侍騎士の手が僅かに震えているのがわかる


彼は直ぐにカードをティアに返すと『ご協力感謝です。追剥の犯人がこの街に逃げてきたという情報もあったので顔を隠していた2人を見て一応聴取をと思ったまででした』と告げた


侍騎士B

『怪しんだことは確かですが、貴方がたに迷惑をかけるつもりはありません…何かあれば直ぐに近くにいる警備兵もしくは侍騎士に相談してください。護衛もつけれますので』


なんて待遇だ…


ティア

『大丈夫です。顔出すとあれなんで暫くこの仮面つけときます』


侍騎士A

『助かります。』


追剥か

少しだけ事情を聞くと、夜になると現れる追剥を警備兵が追いかけたのだが見失ったとの事

目撃者からの情報で慌ただしくこの街に入っていく男を見たという話らしいが、顔は見ていないってさ

3人組らしいが、何者だろうか


被害総額は金貨が約50枚、被害者はお金を持ってそうなお高い服を着る一般人

冒険者は狙われないところからして普通のどこにでもいる犯罪者だと侍騎士は告げた


侍騎士A

『追剥の件とティア様の件でこの街はかなり神経質になっております。何卒ご理解を』


ティア

『はい!大人しくします』


こうして俺達は解放されるとトッカータさんらと別れ、宿に戻る

明日になれば城に一直線、王都の宿は金貨1枚はかかるので節約でバクフ街にしてるんだ

なんでも高いから俺達の冒険者資金がゴリゴリ減らされるのを懸念してティアが計画してくれたんだ


宿の風呂は露天風呂、女性2人は夜食まで1時間もあるからとギルハルドをリリディから奪って早速向かう

俺達野郎3人も露天風呂でゆっくりするか…てか入るだけで銅貨3枚とられるのは釈然としないが、立派な風呂だからここはしょうがないかもしれない


広い脱衣場で服を脱いで中に入ると、広くて驚く

他のお客さんもいるから騒ぐことは出来ないが、物静かだ

体の汗を洗い流してから湯船に浸かり、空を見上げる


今日はまん丸いお月様で空は綺麗だ


ティアマト

『風呂は良いなぁ』


その声に他の客も少し驚く

なんて人間離れした筋肉なんだこいつは、みたいに見てるからな

まぁ俺も人だと思ってない、もう熊でいいんじゃないかなぁ


リリディ

『僕は出来るだけ魔力温存で最下層に行きたいのでティアマトさんに多少前半は無理させたいと思ってます。アカツキさんはどう思いますか?』


アカツキ

『みんな前衛張れるのは強い。交代しながらが良いが…最初はティアマトだな』


ティアマト

『任せとけ!敵こぼすかもしれねぇから1人頼むわ』


アカツキ

『なら俺だな、ティアの魔力も抑えたい…』


ティアマト

『そこは夜食で話し合おうぜ?きっとあいつらも考えてる』


《作戦は大事だ。50階層となるとマジで行くだけでも辛いぞ》


アカツキ

『また地獄みたいなところにいくのか』


《いや、幻界より全然マシだ。ただ自給自足が運でしかないだけで魔物の強さは今のお前らなら全然俺は心配してねぇ》


リリディ

『中々に嬉しい言葉ですね』


《まぁそういうこった。てか最下層のジャバウォックのスキルさえ手に入れればメガネ…お前の世界は変わる》


ギール・クルーガーか

魔法称号の最強といわれる頑丈さが売り、聖なるガブリエール

そして攻撃特化の黒魔法ギール・クルーガー

双璧と言われるそれらはうちのチームにいるとなると凄い


《熊五郎のスキルもそうだがな》


ティアマト

『お前また熊五郎言ったな?』


アカツキ

『確か人間恐慌アクマと同じと言ってたな』


《そうだ。近距離戦じゃ敵なし…面白いスキルだ》


ティアマト

『また無視か』


リリディ

『ところでリゲルさんらはどうです』


《まだエルベルト山じゃねぇ。どうやら悪魔と対峙したらしい》


悪魔だと?

テラに詳しく聞いたことろ、リゲルの故郷であるパゴラ村の近くの山に悪魔が現れ、エーデルハイドが対応したらしい


等活席のオイハギ

だがエーデルハイドに敗れた

悪食の席の悪魔をまずは1体倒したとなると、少しホッとする


《席の者がいなくなりゃ悪魔は下火になる、大変だろうがそっちも頼むわ…俺が蘇ったらお前ら全員に神からの願いを叶えてやる。代償無しでな》


イディオット、クリジェスタ、エーデルハイドの3チーム

それらに彼は報酬を渡すと告げたのだ

まぁやりたくなくてもやるしかない

放っておけば不味いし


俺は開闢使ってスキルレベル上げれば強くなれるとは言われてるけど

何になれるかはテラは内緒としか言わない


そして風呂から上がると、俺達は部屋で時間を潰して全員で夜食だ

仲間達と地下大迷宮での作戦会議をしたが、交代で前衛を変える事は女性陣も納得してくれたから話はすんなり進む


んで今は時刻7時

俺は仮面をつけてティアと共にバニラアイスというデザートを食べに行くことになったんだ

歩いて10分ほどの距離にある店だが、これまた可愛い雰囲気のお店だ

だがカップルが多く、俺は胸を張って堂々と入ることが出来る


どうだお前ら、俺の彼女は可愛いだろうと言いたいが

入ってきた俺達に視線を向けるカップルは怪しい顔を浮かべるんだよ


《仮面だな》


そういえばそうだった

食べる時は仮面を少しずらして食べるのが大変だったけど、美味しかったぞ

次はバクフ街にある暗器店、どうやら彼女はそういった店が大好きなようであり調査済みだとか

薄暗い裏通りにも警備兵が3人1組で歩いているが、俺達を見るとギョッとした顔を浮かべて視線を逸らす


きっと俺達の事はわかっているのだろう


ティア

『もう情報共有してるんだね』


アカツキ

『そうだな』


彼女と手を繋ぎ、暗器店の前に来た

周りは灯りは無く、店の入口の横にある照明魔石の灯りが僅かにあるだけだ

本当に怪しい店過ぎる


彼女と共に中に入ると、店内は狭い

広さは8畳ほど、壁際にショーケースがあり、その中に様々は奇妙な武器や道具が売られている

壁にもクナイやら仕込み杖という細剣が飾られている


奥には窓口、中年のやせ細った男性がニヤニヤしながら俺達を見ている


ティア

『クサビカタビラも売ってるんだ』


アカツキ

『凄い服だな…網上の服か』


鎧形式の防具の一種、斬撃に対して高い耐久力を誇る防具の内側に斬る服だ

ティアがニコニコしながら教えてくれたよ


店員

『詳しいねぇ…普通の女の子じゃ知らない装備だよ』


ティア

『こういう店は好きで毎週寄るんです』


寄ってたのか!?グリンピアのあの薄気味悪い店に!?


店員

『嬉しいねえ。何かお求めかな?』


ティア

『鉄鎌!サバイバルナイフ飽きちゃった』


とんでもない理由で知らない武器の名を彼女は口にする

すると店員は不気味な笑みを浮かべ、窓口の横にあるドアを開けて出てくる

武器のあるショーケース、その下の棚から出したのは細長い棒状の武器、先端には鎌がついており

握りやすい丁度良い太さだ


店員

『うちは半端な素材など置かない、だから高い…これはミスリルよりも軽く、そして強度を誇るガイア鉱石から作られた鉄鎌、金貨40枚と高いですが…一生ものになることは確か』


ティア

『買います』


即答凄い…金持ちだか

途端に店員は嬉しそうな顔を浮かべ、『命を上手く帰る女性は好きですよ』と言いながら棚からとある物を取り出した


手裏剣が3つ、彼は『即答した事に嬉しくてねぇ…これは差し上げます』とティアに渡した

凄い買い物をした彼女は嬉しそうに鉄鎌を布でくるみ、俺と共に店を出た


超機嫌が良い

両手で彼女は抱きかかえているから手が繋げないのは鉄鎌に嫉妬してしまう

薄暗い裏通りを歩いていると、少しムラムラしてくる

手を繋げないならくっつこうと思って肩を近づけて振れると彼女もくっついてくる

いい気分だ


でも何故だろう、こういう時に邪魔が入る

奥から歩いてくる3人組、警備兵だろうと思ったが違うようだ

鉄の仮面をしているが…少し様子が可笑しい


何故か見られている気がするし敵意を感じる


《気をつけな、狙われてる》


俺とティアに届く神の言葉

すれ違う瞬間、その3人組は急に襲い掛かってきた


遅い、遅すぎる

無意識に刀に手が伸び、俺は男の腕を斬り裂いた


『がぁぁ!』


腕を抑えて後ろに下がる男

他の2人は驚きて僅かに身を退くが、ティアは間髪入れずに片方の男にドロップキックを顔面にお見舞いして吹き飛ばすと、男は壁にぶつかってその場に倒れた

俺は懐から信号弾を取り出し、地面に叩きつけるとそれは爆発して空に舞い上がる、上空で2度目の爆発を起こすと赤い光を灯しながらゆっくりと降下していく


逃げ出そうとする怪我した者、それにもう1人

俺は背中を向けた男に高速斬で一気に詰め寄り、太腿を斬り裂いて転倒させる


『追剥!ダメ!』


可愛く言っても姿は似合わない

腕を抑えて逃げようとした男の服を掴むと、一本背負いで地面に叩きつけたんだ

本当に女性なのか疑問が生まれるが、こうみえて俺の彼女です


『うぅ…』


『いってぇ…逃げねぇと』


アカツキ

『無理だ、お前ら追剥だな』


『くそ…カップルじゃねぇのか』


ティア

『てか警戒態勢の街なのに大人しくできなかった時点で駄目だよ』


《本当の馬鹿だなコイツら。裏通りだから大丈夫だろうって確信の無い理由で懲りずに追剥するとはな》


アカツキ

『逃げようとしたらまた斬る、大人しくしろ』


これで一件落着か

道の奥から松明の灯りが沢山近づいてくる

全部警備兵、そして侍騎士の人たちだ

凄い数にちょっと驚く…30人くらいいるだろ


後ろからも同じ数が来て挟み撃ちに近い


警備兵

『何があっ…こいつら』


侍騎士

『例の追剥だぞ…しかも』


彼らは何故か俺達に顔を向ける

なんだかかなり動揺しているようだ


侍騎士

『立て馬鹿者どもが!お前ら重罪だぞ!最悪死罪にもなる事を忘れるな』


『くっ!離せ!ただの追剥だろ!』


男達3人は確保されても逃げようと頑張る、しかしこの数の人間相手にそれは無謀だ


警備兵

『何をしたかわかってるのか!?他国の貴重人物を襲ったのだぞ!?国は絶対に逆らうなとの指示を出しているにも関わらず貴様らは…』


侍騎士

『追剥としての罪よりも重い事は覚悟しておけ、悪いがお前らが日の光を見る事だけはもうない』


『そ…そんな馬鹿な』


『嫌だ!嫌だぁ!』


侍騎士

『もう遅い!』


泣き叫ぶ男3人、後悔するくらいなら追剥やめて普通に生活すればいいのに

連行されていく様子を眺めていると、日中出会った侍騎士3人がいたんだ

彼らは俺達に近づくと『お怪我は!?』と焦りを顔に出す


ティア

『大丈夫ですよ!なんもありません』


侍騎士A

『まさかあの馬鹿どもが貴方様を狙うとは…』


侍騎士B

『申し訳ないのですが、事情を聞きたいので近くの警備兵詰所までご同行できませんか』


ティア

『はい、わかりました』


侍騎士A

『かたじけない。ご協力痛み入ります…ささ行きましょう』


侍騎士B

『警備兵さん方、詰所まで護衛お頼みしたい!』


警備兵

『わかった。現場検証はどうする?』


侍騎士C

『我らは特定重要人物の監視だけの任務、悪いが犯罪はそちらに任せたい』


警備兵

『了解した』


ティア…凄い待遇だ

警備兵10名に侍騎士のお偉い人1人の護衛付きでティアと共に警備兵の詰所に向かうんだ

大通りを歩くときはかなりの見世物だ、みんな何事かと思いながら俺達を見てる

しかも俺が想像するよりもティアの待遇は凄かった


道の前から歩いてくるバクフ街の貴族が騎士10人を引き連れて歩いてきたんだ

あれはこの街を統治している貴族、トヨトミ・ウグイ・バクフという侯爵だ


貴族のランクをおさらいしよう

大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵だ

その中でもかなり高い階級に位置する貴族なんだ

俺達を護衛する警備兵、先頭を歩く侍騎士のお偉いさん

そして貴族が近づくとお互い歩みを止める


普通ならば貴族に道を譲らないと面倒な事が起きる

しかしこの時、警備兵は侍騎士はどかなかった

揉め事を起こさぬならこっちが良ければ済むこと、しかしそうしない理由はエド国の伝統がある


偉い方は譲らなくてもいい


トヨトミ

『む?警備兵…どうしたのじゃ?』


警備兵A

『すみませんトヨトミ殿、今はどうか避けていただければ…』


トヨトミ

『む…そなたら守るその2人…そこまで重要人物かと言われると。まさか』


侍騎士

『トヨトミ殿、理由はこの場では言えませんが察して頂けると幸いです…申し訳ない』


《悪い貴族ではないらしいな》


ティア

『私は避けてもいいのに…可哀そう』


警備兵B

『偉い者が道を優先して歩く事は国の決まりなのです、ご理解ください』


ティア

『そっか…』



トヨトミ

『なるほど…、非情にめんこい女の子だと聞いていたが。ムサシ様に睨まれるわけにいかぬ。気にするな…拙者がどこう』


侯爵がどいた

これには流石に俺も驚く

近くにいた人も驚愕を浮かべるくらいだ、稀な光景だろうな

通り過ぎる間際、ティアは『トヨトミさん、すいません』と告げる

すると彼は気さくに笑みを浮かべて手を振ったんだ


『良いぞ心優しきおなごよ、いつか屋敷に招待しとう思う』


良い貴族で良かった

マグナ国は癖のある貴族が多いけども、エド国はそうそういないとトッカータさんも豪語してたしな

良い国だ、住んでも不自由なく暮らせそうだ


今日は事情聴取で1時間警備兵の詰所にいたが、その後は護衛付きで宿に戻ったよ

明日は朝が早い、だからこそ俺達は直ぐに寝た



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る