第81話 合流
『シールド!!』
ティアはそう叫ぶ
斜め上に腕を伸ばし、その先に魔力で出来た盾を発生させたんだ
それに向かって拳を叩きつけたミノタウロスは盾を一撃で粉砕
シールドのスキルレベルは1、それは一撃を防ぐことも困難だ
彼女は飛び退き、俺の邪魔をしない様に離れると直ぐに腕をミノタウロスに向けて伸ばし、ラビットファイアーを放つ
俺も彼女に合わせて動き出す
『光速斬!』
俺はミノタウロスに向けて突っ込んだ
3メートル級であるため、地面を全力で蹴って飛び出した俺は盾を粉砕して隙を見せた奴の首筋を斬り裂いた
『モッ!?』
深くはない、だがしかしダメージにはなっている筈だ
空中で体を半回転させ、奴に体を向けた
ミノタウロスも攻撃してきた俺に振り向き、怒りを顔に浮かべるが…
『っ!?!?』
ラビットファイアーが奴の背中に全て直撃、相当頭に血が上っていたらしくて忘れていたのだろうか
奴の背中から僅かに煙が上がっているが、燃えることはない
ミノタウロスは首を動かし、ティアに視線を向けている
ティア
『前後から行くよ!』
彼女の声に無言で頷き、俺は着地をすると再び刀を両手で強く握りしめて高速斬を使おうと身構える
それに気づいたミノタウロスは素早くこちらに振り向き、両手を掲げて地面に叩きつけるまえに俺は避けた
流石はBランク、そのランクの下位だとしてもその筋力は凄まじく、地面を両拳を使って叩いただけで地面が揺れるのだ
ティアはバランスを崩しそうになるが、それでも腕をミノタウロスの背中に向けてラビットファイアーを撃ち放つ
俺は光速斬を発動し、一気に駆け抜けるとミノタウロスは鼻息を荒くし、腕をこちらに伸ばす
捕まりはしないさ、そうなれば俺はきっと死ぬ
《兄弟!!》
テラ・トーヴァの声も耳に入るが反応する暇はない
こっちは死ぬかもしれない戦いを強いられているからな…
ミノタウロスの手が大きく見える、掴む気なのはわかるが安直過ぎる
『おらぁぁぁぁぁぁぁ!』
俺は必至に刀を前に突きだし、ミノタウロスの掌に突き刺した
それは見事に貫通し、血が流れると奴は腕を引いて苦痛を顔に浮かべ始める
『ウモォォォォォ!』
同時にティアが放ったラビットファイアーが奴の背中に命中する
それによって叫びは止み、奴は膝をついた
今しかないと思い、俺は再び高速斬を使おうとした
だがしかし、不吉な予感が頭をよぎる
何故?理由は簡単だ
膝をついて苦痛を浮かべるはずのミノタウロスは地面に顔を向けて表情は見えない
予想では痛がっている筈なんだ、だけどさ・・・
今、僅かに頭を上げ、目がこっちを向いているのを俺はハッキリと目で確認できた
鳥肌が一気に立つ、それは死線が見え隠れしていたからだろう
襲い掛かっていれば何かされていたかもしれないという恐怖が俺の次なる行動を止めてくれた
ティア
『ショック!』
彼女は腕を伸ばし、黄色い魔法陣から雷弾をミノタウロスの背中に当てるが感電する気配はない
あろうことはミノタウロスは尻尾で近くの石をティアに向かった払い飛ばした
器用な奴だ、ティアはびっくりしながらしゃがみこんで難を逃れたよ
彼女は直ぐに体の正面にシールドを展開し、ミノタウロスに意識を向けさせようとする
『ウモモモ』
ようやく立ち上がるミノタウロスは自身の背中を気にしているらしい
2回も5発の熱光線を受けたのだから無事じゃないからな
何故避けなかったかもなんとなくわかる
攻撃の要である俺を確実に倒す為にあえてわざと当たったんじゃないかな
だがそれも無駄に終わる、魔物なのに不貞腐れた顔をこちらに向けてくる
『ウモモモォォォ!』
奴は近くにあった石を両手で握ると、そのまま俺に向かって襲い掛かる
アカツキ
『なっ!?』
そんな知能をあるのか…
堅いものを握ればただのパンチも凶器となる事はティアマトに聞いたことがある
ミノタウロスはそれを実行しているんだから驚きたくなるよ
『ウモッ!ウモモッ!』
アカツキ
『こいつっ・・・』
俺は奴の攻撃を1つずつ目で見ながら避けていく
地面を殴る猛牛の両手から放たれるストレートパンチは地面に食い込み、それは当たれば一撃だとわかる
ティアは魔力で発生させたシールドを体の左側に移動させ、右手でラビットファイアーを撃った
意外と便利な魔法だ…盾を維持したまま別の魔法が使えるなんてなぁ
『モ!』
後方から魔法が来るのを感じたミノタウロスは振り向きながら腕を大きく振って全ての熱線を弾き飛ばし、直ぐに俺に体を向ける
乱暴すぎるパンチが何度も俺に降り注ぎ、俺は隙あらば避けながら腕を刀で斬る
だけども全然深く斬れることはない、というかさっき掌を貫いたのに石を握るとかやせ我慢でもしているのかこいつ?
『ウモォォ!』
俺は頭上から襲いかかる拳を飛び退いて避けると、着地と同時に刀で地面を斬った
アカツキ
『地斬鉄!』
地面から縦の斬擊がミノタウロスの手の甲に命中すると血が噴き出し、奴は地面から手を抜いて痛がり始めた
一応技に斬鉄と名が入っているのは頑丈なものに対しても斬ることが出来るとは聞いていた
『ウモォ!』
奴の手の甲から流れる血を舌で嘗めとっている
石も離しているのを見ると深くいったみたいだ
ティアが側面からラビットファイアーを放つと、ミノタウロスは両腕でガードして受け止める
『これじゃこっちの体力がなくなるよ!どうしよっか』
ティアが叫ぶ
確かにそうだ、ちまちまとダメージを与えてはいる者の、こっちは凄い疲れる
数分もたたずにこっちがへばって終わりそうだ。何か手はないのか…
逃げれそうにもない事は知っている、さて…どうしたもんか
するとミノタウロスは周りをキョロキョロと見始めると、俺達を見てから苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、森に去っていった
《運が良いな兄弟、近くに別の冒険者が2組近づいてきていたから奴は逃げたんだ》
また撃退だ
最後まで戦う事になってれば非常に不味かったぞ
だが俺達は運が良い。
ティアはシールドを消滅させると地面に座り込んだ
『ティア、大丈夫か?』
『平気、でも逃げるなんて…』
『テラ・トーヴァが近くに別の冒険者チームが2組近づいていたからそれに気づいて逃げたんだろうってさ』
『えっ?そうだったんだ…よかった~』
彼女は安堵を浮かべた
地面が濡れているのなんて関係なく、俺もその場に座る
空はもう赤黒くなってきており、直ぐにでも夜になりそうだ
撃退しただけでも良しとしよう
2人ではあれにはまだ勝てない
奴が武器を持っていないのに、それでも2人じゃ全然駄目だったな
俺はティアと共に立ち上がると、肩を叩かれ、『行こっ』と声をかけられる
戻ろうか
ティアと共に魔物を倒しながら森を突き進み、森の高い場所から街が見えてくる
ここからみると灯りが綺麗だ。
ティアは女性だからこういうのは好きなのかな、凄い楽しそうに見ている
小雨だった雨が少し強くなってきた気がしたので、俺はティアに急ごうと伝えてその場から進むことにした
『ギルドによってから宿に直行しようティア』
『うん、大変だったね』
『俺はかなり気疲れしたよ』
『それは私もだよ、ミノタウロスもだし土駆龍モグラントとも遭遇したしね・・・でもなんでまた会うことになるのかな』
『そうだな…それは俺もわからない、テラ・トーヴァは勿論知っててもその時じゃないとか言って教えないよな?』
《わかってるじゃないか兄弟、まだ教えないぜ?》
『テラちゃんなんて?』
『やっぱり教えないってさ』
『意地悪なスキルだね』
ティアは苦笑いを顔に浮かべると、遠くからゴブリンの悲鳴が聞こえる
多分冒険者が倒したのだろう
俺たちには関係はないな
少し歩くと直ぐに街に入る入り口に辿り着き、俺達はホッと胸をなでおろした
戻ってきたと同時に一気に体が重くなった気がする
こうした時に思うのが実家だ、正直帰りたいと思ってるけども迂闊に帰れないのがこれまた辛い
いつも起きるとシャルロットがいる筈なのにいないという日常も慣れ始めてくると寂しさを感じる
父さんと母さんも当分会ってないな…元気だろうか
俺は街中を歩きながらティアに話しかけてみた
『ティアは寂しくないか?家の事とか』
『寂しいよ、でもアカツキ君とかみんながいるから大丈夫』
『それは確かにそうだな、あいつらも同じだろうに』
『だよね、帰ったら良い物沢山食べよ?』
彼女は笑顔で俺の腕を両手で掴んでくる
1人なら耐えれるかはわからないけどもみんないるから大丈夫だ
それよりも、ティアが自分から俺の腕を掴んだくせにアッとした顔を浮かべると直ぐに離しちゃった
掴んでくれてもいいのよ?
《食べたいのはあなたです、とか言わないのか兄弟》
『馬鹿を言うなテラ、ティアは食べ物じゃないぞ』
《おこちゃまだなぁ、こんな言葉の使い方も知らないのか?ティアちゃんは知ってるらしいぜ?》
俺はもしやと言葉の意味を薄々感じながらも彼女に目を向ける
目を丸く開き、真っ赤な顔だ
『わ・・・私は・・・』
何を言う気だ
俺は期待と不安という2つの言葉のうち、即座に期待を選ぶ
悪い印象はあまりない筈だ、きっと…うん!
だけども可愛いティアのモジモジした様子を息を飲みこんで見ていると、終わりが訪れた
『やっぱり戻ったか!』
ティアマトだ
まだ早いよ!あと数秒待っててくれれば…
ティアマトは笑いながら俺の背中をドンと叩く
強い、強すぎる…俺は転倒した
『おっと悪ぃアカツキ、嬉しくて力が入っちまってよぉ!まぁ戻ると思ってたぜ!』
『いったた・・・本当に馬鹿力だなお前』
また1人
『戻ると思ってたのは僕とリュウグウさんですよ?ティアマトさんは森を全部探すとか脳筋思考フルパワーだったじゃないですか』
『あぁん?そん時はそん時だ』
『はぁ…まぁいいです、アカツキさんもティアさんもお疲れ様です』
リリディの後ろにはリュウグウもいる
そしてニャン太九郎のギルハルドもいるは、赤騎馬ブルドンは馬小屋にさっき預けてきたばかりのようだ
『ミャー』
まんま猫だ、でもちょっと大きい…あれ?少し大きくなった?気のせいか
街を歩く人々が二度見したくなるのもわかる、しかも先ほどとは違ってギルハルドに首輪がついている
それは流れ星の絵が描かれた金属の飾りがついている
ティアはそれが何なのか聞くためにリリディに口を開く
『リリディ君これって?』
『冒険者ギルドに申請したのですよ、魔物のペットとしてね』
なるほど、よくよく彼から話を聞くと
魔物をパートナーにしている者はたまにいるらしいんだよ
グリンピアでは見たことないけどな
3人はニャン太九郎のギルハルドを連れてギルドに向かうと、適性検査を受けて合格し、正式にリリディのパートナーとして承認されたのだ
それなら堂々と街を歩ける
俺達は合流すると、何が起きたかを話しながらギルドに向かい、換金を済ませると真っすぐ宿に戻った
誰もが直ぐに風呂だ
俺とティアは小雨でも長く当たってしまっていたから濡れてしまっている
風呂に入ってから浴衣に着替えると、全員が装備や衣類をフロントマンに預けて洗濯を任せた
勿論チップはつけたよ、1人銅貨2枚だけどね
そして宿に隣接している軽食店に向かうため、連絡通路を通って遅めの夜食となった
時間は21時、俺は皆とテーブルを囲んでゆったり寛いでいた
『まぁ無事なりゃいい』
ティアマトが背伸びをし、口を開く
結構、彼が心配してくれたような感じだ
リュウグウはティアに別な心配をしているのが釈然としないがな!
『ティア、大丈夫だったか?』
『大丈夫だよ?リュウグウちゃん、怪我も無いし』
『アカツキにいらやしいことされて心が痛んでないか?』
リリディとティアマトがクスクス笑ってるし…
ティアは苦笑いを浮かべるのが精一杯の反応のようだ
にしてもニャン太九郎か……
俺はリリディの後ろで寝転がるギルハルドに視線を向けた
『ニャ』
なんだよ?みたいな顔してるってわかる
飼い主のリリディにしか心を許してない様子だな
遅い夜食だとしても周りのテーブルには少なからず宿泊している客、そして夜食をここで食べるために訪れた冒険者が点々といる
『ニャン太九郎が人になつくのか…』
冒険者がボソッと呟きながらミートスパゲティーを頬張っている
彼だけじゃなく、他の客も魔物がいるのになれないのか、チラチラニャン太九郎を見ている
『パパー!強そうな猫さん』
『あ…あぁそうだね』
娘かな…
お父さんは反応に困っていると、ニャン太九郎は娘に視線を向けて『ミャ』と鳴く
『パパー!あの猫さんどこで売ってるの?』
『あれは売ってないよ、森にいるんだ』
『パパ頑張って!』
『無理だなぁ』
だろうな
リュウグウは店員が持ってきたイチゴミルクを飲むと、心地よい顔でグラスを置いた
『一先ずだ、そこの猫は無害でいてくれるらしいな』
『ミャン』
ニャン太九郎は心地よい雰囲気を出している気がする
ティアはなんとなく鳴き声で感情を出しているような気がすると話した
『ニャーだと好感度低い感じだね!リリディ君やさっきの家族の娘さんにはミャー!だもん』
『あながち間違いは無さそうだ』
俺もティアの話しに同調した
噛まれた時も『ニャ』とか言ってたなこいつ
『魔物Cランクのパートナーか』
『リュウグウさん、どうしたのですか?』
『メガネも魔物には詳しいだろう?この猫は特殊スキルのキュウソネコカミを使うとスピードが爆発的に上がり、お前と戦った時のようになる』
『わかってましたよ。キュウソネコカミを使えば魔物ランクはBに到達する。いけそうだったので試しただけです』
『ミャ』
ニャン太九郎、魔物名はそうだがリリディの命名はギルハルド
爪を伸ばし、ペロペロ嘗めてるけど……
よく耐えたな…リリディ
お前のスタッフが頑丈じゃなきゃズタズタだぞ?普通の剣ですら危うい威力の攻撃だったしな
『お待たせしました。王牛ステーキの定食です』
店員が笑顔で俺達全員の王牛ステーキの定食を持ってきた
肉の中ではトップクラス、一人前は銀貨5枚と高い飯だ
今日は色々と大変だったしこれくらいはしないとゆったり寝れない
『明日はブルドンは来れないぜ?なんせ蹄(ヒズメ)の交換らしくてな』
ティアマトが話してくれたよ
どうやらブルドンの蹄鉄(ケイテツ)を換えないといけないらしく
1日預けることにしたらしいのだ。
おまけに健康診断もいつしたか書類もないからしないと駄目らしい
ちなみに料金は銀貨6枚とやや高い、まぁ蹄鉄も購入するんだし仕方ないか
ブルドンは役に立っているから明日いないとなると森に向かった際の魔石をいれるバックは俺かなと考えている
ふと気付く
明日は大雨だ…、フロントマンが言ってたな
全員は黙々と王牛のステーキを美味しそうに食べている
俺も口に含んでみると気持ちがわかる
会話なんて邪魔でしかない、美味い
しかもリリディの後ろにいるギルハルドも皿に乗った王牛の生肉だ
床で美味しそうにバクバク食べてる
『美味しい物を食べるのはいいな!』
リュウグウが一番嬉しそう
《雨か》
テラ・トーヴァが囁く
するとその瞬間に屋根に打ちつける雨が強くなり、音が大きくなる
『凄い音だな』
『明日はおやすみかな』
俺の言葉にティアが答える
これは無理そうだ…
窓の外が見えない、まるで滝だなこりゃ
その雨の激しさで隙間から水が垂れてくると、店員は慌てて雑巾を取りに行った
『リリディ、明日は大人しくしてろよ』
俺はそう告げると、彼は苦笑いしながら答えた
『わかりました』
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