第100話 鬼退治編 4 

『我が名は獅子人族の獅子王ヴィンメイ!見つけたぞスキル小僧!今死ね!』


身長3メートル以上はある筋骨隆々とした獅子が鉄球のついた鉄鞭を担ぎ、大声で叫んだ

奴は低く構えると左手を地面につけ、巨大な咆哮を上げる


『なっ!』


俺は驚いた。咆哮を上げるだけで突風が発生し、俺達は吹き飛ばされそうになる

地面は先ほどの攻撃でデコボコになっており、風よけは出来るが鼓膜が破けそうだ

森全体に響き渡るその大きな叫び声で地面が揺れる


《獣王ヴィンメイかよ!こいつはただの屑だ!酒池肉林しか興味がないつまらない獣の王だ》


アカツキ

『どういうことだ!』


《自分の事しか考えれない野郎だ!だが強い!当時の力が戻ってたら勝ち目はねぇ!》


リゲル

『なら倒せれば未完って事か』


全員が一か所に集まり、武器を構えた

遠くの獅子の王、獣の国の獣王ヴィンメイは俺達を見てほくそ笑んだ

まるで馬鹿にしている、何をする気だと言わんばかりの顔なのだ


ルーミア

『大きな獅子ねぇ、気配が感じないのが不気味ね』


シエラ

『凄い強そう』


アネット

『ヴィンメイって歴史上の獣王でしょ?変人かな』


どうやらわかってない

無理もないだろうな

何故昔の偉人が蘇っているかもわかる筈がない


ヴィンメイは癪に障ったのか、アネットさんを睨みつけると、プッと口から何かを飛ばした

だが何も飛んでこない

俺達は身構えたが。何もないのだ

しかし、アネットさんは突然仰け反り、吹き飛んでいった


『アネット!』


クリスハートさんが叫び、吹き飛ぶ彼女に顔を向けるとリゲルが叫ぶ


『余所見すんな馬鹿野郎!』


『!?』


またヴィンメイは口から何かを飛ばした

俺達はその場から跳んで離れると、地面に見えない何かが当たって砕けたんだ

それは何なのかはわからず、俺達はひたすら連続で飛んでくる見えない攻撃をひたすら避け続けた

数秒後、それが止むとヴィンメイは高笑いしてから地面に鉄球の突いた鉄弁をおろす


『よく動く人間だ。アカツキ以外は興味はないが慈悲が深い我だ。全員仲良く殺してやるぞ?まぁ王が自ら手を出して殺すこともない』


すると奴はヒューと下手くそな口笛を吹く

何をしているのだろうと警戒していると。ギルハルドがヴィンメイの行動にビクンっと反応した


リゲルはギルハルドの様子を見て、口を開く


『犬笛だ!人間には聞こえねぇ!これで魔物を集めたり指示をしていたんだ』


『がはははは!気づいても遅い遅い遅い!!』


四方から魔物の気配が集まる

俺達は視線を向けると、エアウルフや赤猪そしてリザードマンやグランドパンサーなどが大量に現れたのだ

30はいるだろう数にティアマトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、愚痴を吐く


『めんどくさがりな王だな。自分からこいや』


『おや?下民が何かいっておるわ。いきなり王と戦えると思うな子熊め』


ティアマトは青筋を浮かべ。襲い掛かる魔物に飛び掛かった

ヴィンメイはただ傍観しているだけ、しかも楽しそうに笑っている


『グラァァァ!』


『くそっ!』


飛び込んでくるグランドパンサーの口に刀を突き刺して地面に倒す

側面から俺の足を噛みつこうとするエアウルフを斬り飛ばし。刀界で正面の魔物に斬撃と衝撃波を飛ばして一網打尽にした


『ほう?』


ヴィンメイは少し驚くだけ

これじゃキリがないのは明らかだ

ティアマトの真空斬で複数を巻き込んで両断し、クリスハートさんは素早く剣を振って周りの獣種の魔物をどんどん冷静に倒していく

だが減ることはない。ヴィンメイが更に犬笛でブラッククズリを5頭も呼んだのだ


どっからそいつら連れて来た!森にそんないないだろ!


『三連突!』


『ギャン!』


リュウグウがエアウルフ3体を槍で貫き、倒す

俺の近くではティアがせっせとグランドパンサー相手に頭部を狙ってサバイバルナイフを突き刺している


リゲル

『おいおい!こりゃ面白いなクワイエット!王なのに連れてくる部下は雑魚かよ』


クワイエット

『話にならないね、王もきっと弱いよ』


2人は周りの魔物を倒しながら憎まれ口をヴィンメイに投げた

安い挑発にしか見えない、俺でもそれは誘っているとしか思えない



だが獣王ヴィンメイは古びた英知を傷つけられたと思い、顔に怒りを浮かべたんだ


『貴様!望み通りにとっておきを呼んでやる』


ヴィンメイは再び犬笛を吹こうとした

そこで奴の顔面に黒弾が命中し、大きな爆発が起きたのだ


アカツキ

『なっ!?威力が!』


ティア

『前よりも高い!』


それはリリディの十八番であるシュツルムという黒魔法の爆発だった

彼はティアマトとギルハルドに守ってもらいながら隙を伺っていたのだ

リゲルがそれを察し、リリディの作戦にのったんだろうな


その爆発で俺達の周りの魔物は驚き、逃げていく

3つほど魔石が発光していたが気にしている暇はない

だがその魔石をギルハルドが勝手に吸収している


ヴィンメイの頭部から黒煙があがり、顔が見えない


『この魔法は…』


アカツキ

『馬鹿な!』


クワイエット

『直撃だったのに』


黒煙を吐息で吹き飛ばす

無傷かと思ったが、奴はそうでもない

顔から僅かに血を流していたのだ


ダメージがあるという事である

奴は頭をおさえ、目を細めた

全然狼狽えておらず、まだ余力を感じる


誰もが攻撃のチャンスを伺っているが、まったくあるように見えない

リゲルでさえしかめっ面のまま剣を構えている

堂々とした姿勢だが。近づけば不味いと自然と感じているんだよ

俺も近づきたくない


その理由はテラ・トーヴァが念術の会話をエーデルハイドにも聞こえるようにし、叫んだ


《近距離戦は死ぬぞ!パワーじゃ誰もかなわん!》


クリスハート

『なんの声だ!』


シエラ

『これ…念術』


《1人だけ物分かりがいいな、説明は後だ…死にたくなければあまり近づくな!近づいても直ぐに離れろ!》


リゲル

『簡単に言うとアカツキはインチキ臭いスキルを持ってる。それを化け物集団がねらってんだ!言うなよお前ら!他言したら俺が殺す』


アネット

『ぐ…変な展開だけど、やるしかないわね』


アネットさんは既にボロボロだ

彼女は見えない攻撃の一撃のダメージが大きいんだ。

額からは血が僅かに流れている


ヴィンメイは鉄球のついた鉄弁をこちらに向けると、話し始めた


『ムゲンは死んだらしいな。あいつも馬鹿だ…力を戻してから挑めばいいものを』


アカツキ

『お前は戻ったのか?』


『完全はまだだが、お前らを倒すには十分だ』


リゲル

『奢りすぎだろ自分に、酔ってるのか?』


『黙れ下民が!…しかしだ、黒魔法をこの時代に持っている者がいるとは驚きだ。お前も早急に倒さねばなるまい。予想外だ』


それは遠回しに天敵だと言っているようなもんだ

ヴィンメイは犬笛を吹き、森からグランドパンサーを10体ほど呼び寄せてから俺達に襲い掛かってきた

ドスドスと足音を立て、堂々とだ


『さぁ!聞かせてみよ!この時代の下民の叫び声を!』


俺は懐にしまっていた発煙弾を取り出して地面に叩きつけようとした

しかし、掴んだ手を掲げた瞬間に低ランクの魔物である鉄鳥が空を舞っており、1羽が俺の手から大事な発煙弾を奪っていったのだ


『しまった!』


『がははは!とっておきはないぞ!?小僧!』


俺は背後から襲い掛かるグランドパンサーを避けながら側面を斬って倒す

直ぐに走ってくるヴィンメイに顔を向けると、奴は武器を振りかぶって地面を抉るようにして振ったんだ


それによって岩や土などがもの凄い勢いで飛んできた

近くのくぼみに隠れ、防ぐことは出来たがヴィンメイは既に宙に跳びあがり、俺に鉄球を振り落とそうと不気味な笑みを浮かべている


『貰ったぞ!』


《兄弟!全力で避けろ!》


『くそっ!光速斬!』


加速してその場から飛び出した

入れ違いで地面を叩くヴィンメイだが、そこを起点に衝撃波が発生し、俺達は再び吹き飛んだ

先ほどの叩きつけよりもマシだ、今回は衝撃波だけ


不意打ちのあれは何だったのか…きっと技スキルに違いない


『プッ!』


『くっ!』


ヴィンメイは顔をこちらに向け、口から見えない弾を飛ばす

あれは空気弾だとテラ・トーヴァが話した

口内で空気を圧縮し、飛ばしているのだと言うが意味が分からん


それを避けつつも飛び込みながら断罪を放ち、ヴィンメイの胸部に斬撃を発生させた

奴は驚き、それを受けた

だけども傷は浅い…


『アンコク!』


『ぬっ!』


ヴィンメイの背後にいたリリディは頭上に黒い刃を発生させて奴に飛ばす

振り向きざまに武器で叩かれて砕ける黒い刃だが、それはフェイクだった


ティアマト

『ギロチン!』


シエラ

『カッター!』


リュウグウ

『槍花閃!』


同時に放たれた技にヴィンメイは笑みを浮かべ。頭上から落ちる斬撃を吐息で破壊し

カッターを顔を横にずらして避けると。リュウグウの放った槍の先から出る光線を伸ばした手の平で受け止めた


リリディ

『シュツルム!』


『ぬっ!』


側面から飛び込んだリリディは腕を伸ばし、黒い魔法陣から黒弾を飛ばす

あれは避けれないだろうと思っていたが、ヴィンメイは腕を出してガードした

爆発が起こると奴は爆炎に飲まれ、爆風によってリリディは吹き飛んだ

しかし、彼は突如として黒い煙と化し、それは俺の横に流れてくるとリリディに戻った


新しい黒魔法は鬼ヒヨケのあのへんな回避スキルか


『ぐぅぅぅぅぅう!』


黒煙の中からヴィンメイがギリギリと口に苛立ちを見せながら距離を置いたリリディを睨んだ

奴の腕からは血が流れる

その間、ルーミアさんが真空斬を放ったが、ヴィンメイは避ける素振りすら見せずに自らの肉体に触れた技が弾け飛んだ


『嘘…』


ルーミアさんは乾いた笑みを浮かべ、肩を落とす


ヴィンメイ

『おのれおのれ貴様ぁ!』


リリディ

『貴様じゃありません、僕はハイ・クルーガーのリリディです』


ヴィンメイ

『名など聞いておらぬ下民が!貴様はジワジワ殺してやる!』


どうやらリリディも狙われるか、だけどもそれは全員同じだ

奴が怒りをあらわにしている最中、リゲルとクワイエットさんが懐に潜り込んだ


『ネズミが!』


ヴィンメイはそう言いながら足で踏みつぶそうとしたが。狙われたリゲルはギリギリ避けて飛び上がった


リゲル

『プンプン王だっけか?』


『殺す』


彼の挑発後、ヴィンメイは素早く鉄鞭を振った

リゲルはインベクトと叫び、質量さのある武器に自身の剣をぶつけた

あれは敵の攻撃を相殺する技スキル

だがヴィンメイは不気味に笑っていた


甲高い音が鳴り響くと、鉄鞭は弾かれたがリゲルは大きく吹き飛んで後方の小さな木に背中を打ち付け、地面に倒れる


クワイエット

『リゲル!!』


『余所見か?』


クワイエット

『!?』


クワイエットさんは振り下ろされた左拳を見て直ぐに飛び退いて避けたが、その瞬間に何かに当たって吹き飛んでいった

あれはヴィンメイの口から放たれた空気弾だ。予測が難しすぎる


ティアマト

『おらぁぁぁぁぁ』


リュウグウ

『鬼突!』


クリスハート

『兜割り!』


全員が奴に襲い掛かり、3人が先陣を切った

ヴィンメイは空気を思い切り吸い込んだ

俺は嫌な予感しか感じない


《逃げろ!!!!》


『『『!?』』』


誰もがその言葉に目を見開き、一斉に距離を取ろうとした

でも先頭の3人は既にヴィンメイの攻撃範囲内、逃げきれなかったんだ


『アッッッ!』


ただの叫び声、それによって炸裂音が響き渡り、その場の全てが発生したソニックブームによって吹き飛ばされた

デコボコの地形が更地になるほどの威力、俺は吹き飛ばされる寸前でティアを掴んだ











体が痛い

大きな木に体をぶつけて咳込んでいると、抱きかかえていたティアが心配そうに話しかけてくる


『アカツキ君!』


『俺は、まだ大丈夫だ』


周りを見ながら彼女と共に立ち上がる

誰もがふらつきながらも奥から歩いてくるヴィンメイに武器を構えていた

技でもない強引な力技だ、あり得ない…

声を一気に出すだけでそんな芸当が出来るとはな…



『俺は技も魔法も、頼らぬ』


ヴィンメイは不気味な笑みを浮かべ、空に手を伸ばす


ティアマト

『ケッ!技無しで強いってのかよ』


『その通りだ、人間には出来ぬ力技…我にはそれが出来るのだ!初手の攻撃は全力で地面を武器で叩きつけたが…あれもただの振り下ろしだ』


シエラ

『あり得ない…』


クリスハート

『そんな…』


リュウグウ

『馬鹿力自慢めが』


愚痴をこぼしていると、クワイエットさんとリゲルが苦痛を浮かべたまま俺達の背後から歩いてやってきた

よく立てたなこいつら…死んだかと思ったぞ


《こいつは他の手下よりもスピードはねぇ!だがそれを潰す力がある!武器を振れば風が発生し、衝撃波を生む!吹き飛ばされて近付けねぇんだよ!》


アカツキ

『面倒過ぎるぞ』


ティア

『近付けないって不味いよ、あっちは遠距離攻撃なんかきっと沢山ある』


『ご名答!』


ヴィンメイはそう叫ぶ

再び犬笛を吹き、ブラッククズリが5体

それらを仲間に任せ、俺はリリディと共に奴に走っていった

ヴィンメイは俺達を見て笑う、まるで問題にしていないようだ


それもそうだよな


『たわけが!』


奴が武器を振ると、衝撃波が飛んできた

俺は光速斬で空に飛び、リリディは黒煙となってヴィンメイの背後にまわって実体化だ


『むっ!』


ヴィンメイの顔が少し険しくなる

俺は奴の頭上から鞘に刀を納め、刀界で真下に斬撃と共に衝撃波を飛ばす

スキルレベルが弱いからか、ヴィンメイの肉体を傷つけることは出来なかった

あいつもそれを瞬時に悟り、リリディに体を向けたのだろう


『ペイン』


『!?』


ヴィンメイは知らぬ魔法に眉を動かす

俺は絶対に受けたくないと思いながらも光速斬でその場から離れて着地したよ

リリディは口元に笑みを浮かべてヴィンメイを見つめた


それを良しとしないヴィンメイは鉄鞭を振ろうとしたが

奴の頭上から黒い雨が降り、それに触れて叫びだした


『ぐわぁぁぁぁぁぁ!』


痛覚神経を刺激する最悪な黒魔法スキル

その雨に触れるとその部分に激痛が走るのだ

ヴィンメイは膝をつき、真上を見上げて口から空気弾を撃って空にあった黒い魔法陣を砕いて阻止した


ティアマト

『余所見か!』


『!?』


ティアマトがタイミングよく飛び込み、片手斧を振りかぶった

首元を狙った素早い攻撃、ヴィンメイは避けずに筋肉を堅くして片手斧を食い込ませた

斬り裂けなかったんだ、それでも僅かにヴィンメイの首元からは血が出ている


『残念だったな!』


ティアマト

『がふっ!』


ただのデコピン、ティアマトはそれを受けて吹き飛んだ

その間、リリディが背後からシュツルムを放ってヴィンメイの背中に命中すると、奴はバランスを崩して膝をつく


《奴の弱点は無駄な余裕だ!本気出す前に倒せ!》


その声を聞く者はここにいる全ての者

俺は先陣を切って飛び出し、ヴィンメイに向かって空中で刀を振った


『断罪!』


ヴィンメイが顔を持ち上げたと同時に俺の斬撃が奴の顔の前に現れ、浅く斬り裂いた


『ぐっ!?』


ヴィンメイは片目を開けながらも手に持つ鉄鞭で俺を叩こうとした

しかし、リュウグウが救援に現れてくれたんだ

槍を回転させてからその場で突き『槍花閃』と叫ぶ

彼女の武器の先から光線が放たれ、桜の花びらが舞う


それはヴィンメイの武器を持つ腕に命中し、貫通はせずとも血を流すと一瞬手が止まった

その隙に俺は光速斬でその場から離れ、奴の攻撃を避けた


『ラビットファイアー!』


『ファイアーボール!』


ティアとシエラが赤い魔法陣から放つ魔法が、隙を見せたヴィンメイに命中し、激しく燃えた


『喝!』と叫び、直ぐに鎮火させたヴィンメイはリリディの放つシュツルムを間一髪避け、飛んでくるクリスハートとアネットの真空斬を裏拳で弾き、リゲルとクワイエットさんが側面から飛び込んできて放った一刀という巨大な斬撃を息を吹くだけで消し、彼らも吹き飛ばす


『おのれ!馬鹿にしおって!俺は王である!黙って死ね!』


また犬笛、今度はエアウルフが10頭だ


アカツキ

『くそっ!キリがない!』


リリディ

『ギルハルド!殲滅しなさい!』


アネット

『私も雑魚相手にするよ、この怪我じゃそれが精一杯さ』


ルーミア

『私もそうするわ。周りは邪魔させないように倒すからあんたら頑張って!』


助かるよ。ありがとう

ティアが珍しく、スリープという眠り魔法を使った

白い煙がドッと吹き出し、ヴィンメイを包み込んだ

だけども効果はないようだ


『なんだこれは!王に子守唄でも歌うか女!』


鉄鞭を振って煙を吹き飛ばす。

どうやら効かないみたいだな

だが聞かないのはあいつだけ、ティアのスリープの白い煙はヴィンメイの近くにいた魔物を眠らせたんだ


リュウグウ

『助かる!』


『!?』


彼女は息を止め、ヴィンメイの足元にいた

リュウグウだけじゃない、ティアマトやクリスハートさんもいた


リュウグウが鬼突でヴィンメイの腹部を貫こうとしたが、奴は避けた

それでも脇腹を僅かにえぐられて苦痛を顔に浮かべる


クリスハート

『はっ!』


彼女は股下を潜り抜けながら太腿を斬り裂いた

深くはないが浅くてもダメージにはなる

ティアマトが片手斧を振るが、口からの空気弾の直撃で遠くに吹き飛んでいく


『おのれ!』


クリスハートさんが背後から剣を振ろうと近づいた

でもそれは罠だ。ここからならわかる

ヴィンメイの目は背後にいる彼女を横目で見ていたんだ


『死ね!』


剣を振ったクリスハートさんに鉄鞭が襲い掛かる

目を見開き、攻撃を止めて飛び退こうとするが、あれは間に合わない


クリスハート

『こんなっ!』


剣を前に出してガードしようと考えたのだろう

そんな時間もない

しかし、リゲルが横からクリスハートさんを抱きかかえて共にその場から脱したんだ


ヴィンメイの振った鉄鞭で僅かに衝撃波が発生して俺達も吹き飛ばされそうになるが、踏ん張ったぞ


リゲルはクリスハートさんを抱きかかえたままゴロゴロと地面を転がり、止まると咳込んだ


リゲル

『てめぇ!考えて攻撃しろ』


クリスハート

『なななななな!』


リゲル

『あ?なんだ?…あぁ』


抱きかかえた場所が悪く、クリスハートさんの胸を掴んでいたらしい

リゲルは慌てる素振りを見せずに彼女の腕を掴んで起き上がらせ、溜息を漏らして口を開く


『今は敵に集中しろ、死ぬぞお前』


『わ…わかりました』


落ち着いたらしい

だけどもヴィンメイに攻撃を当てるのは難しいな

ある程度は当たっている、しかし致命傷にならないのが痛すぎる

近づいても確実に何かに吹き飛ばされるからだ


ティアマトがしかめっ面のまま奥から歩いてくるけどもこいつもタフだな…

耐久力強化のおかげでまだ元気そうだ


リリディ

『シュツルム!』


『ぐっ!』


クワイエットさんがヴィンメイの意識を逸らしている隙にリリディが黒弾を腹部に命中させ、ヴィンメイをふらつかせた


『面倒な魔法だな!あと少し力を取り戻していれば…』


ヴィンメイは怒りを浮かべながら拳を強く握りしめた

いける。俺はそう思った

でもテラ・トーヴァは《油断するな。こいつは殲滅能力は桁違いだ》と言い放つ


『シャァァァァ』


『ギャフ!』


エアウルフに紛れて襲い掛かるグランドパンサーをギルハルドは首を斬り裂いて倒し、発光した魔石を吸収しようと近づいていた

それが俺の余所見。駄目だった


『もう少し力があれば魔法無しで倒せた』


悪魔のような笑みを浮かべたヴィンメイに全員が悪寒を感じた

奴に気はほとんどないのにもかかわらずに死を感じたんだ

体が強張るのを感じ、俺は気をつけろと叫んだ


それは遅かった


ヴィンメイは握り締めた拳を空に掲げ、拳の中の強い光は辺り一面を明るく照らす

魔力を異常なほどに流し込んでいる、それがわかり、俺は不味いと悟った

テラ・トーヴァが叫ぶよりも早く、ヴィンメイが囁いた


《お前ら!全力でこの場から離『ノヴァツァリア』》


奴を中心に大爆発が起き、爆風が一瞬で俺達を包み込んだ

そこで俺は意識が飛んだ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る