第66話 貴族交流編 2 妨害
森の中で滝坪が見える場所に辿り着いた俺達は小休憩がてら自分達の居場所を商店街で購入した地図で確認することにした
どうやら最深部にいくにはこの滝の向こう側に行かなければならない
そこにトロールがいるのだろうか
仲間は気配は何も感じていないらしいから一先ず休むか
馬のブルドンは呑気に川の水をゴクゴク飲んでおり、相当喉が渇いていたと思える
岩場に腰をおろしたティアマトがふと口を開く
ティアマト
『にしてもだ…英雄5傑は凄ぇな』
リュウグウ
『そうね、真英雄5傑を圧倒的に打ち負かしたぞ』
アカツキ
『やはり当時の五傑に匹敵するっていう情報はガセか』
ティア
『あれ見ちゃえばそうだよね』
彼女は苦笑いしながら答えた
あの時、異常過ぎる凍てついた空気を体から放っていた。
威圧?悪寒?なんなのかはわからないが恐ろしかったのは確かだ
今思い出しても鳥肌が立つ
リリディ
『クローディアさんが五傑だとは一番驚きですよ…しかも僕のお爺さんはアカツキさんのお父さんにクローディアさんとチームを組んでいたとか化け物集団じゃないですか』
ティア
『凄いよね、鬼ヒヨケ覚えてる?アカツキ君のお父さんが現役引退してかなり時間が経過していたとしてもBランクの魔物を倒せるのは納得するには丁度良いよね』
アカツキ
『シグレさんも大概だぞティア』
ティア大爆笑
つられてリリディもクスクスと笑いを堪えていた
アカツキ
『でも母さんが言ってた、国一番になれたのかなって父さんにだ』
リュウグウ
『その3人が加入したチーム以上がマグナ国にいたのか…』
リリディ
『いや、実際は一番だと思います…お爺さんは昔話を僕に聞かせてくれましたが、冒険者時代はグリンピアでヒソヒソと活動していたとか…、知れわたる前に解散していたから一番になれなかったと僕は予想します』
アカツキ
『その線はあるかもしれない、父さんはあまり武勇伝とか口にしない生活だから目立つのを嫌ったんだと思う』
ティアマト
『確かにお前の父さんはそうかもな』
ハイムヴェルトさん
俺の父さん
クローディアさん
3人が加入したチームは活動を広く展開していなかった、その前にハイムヴェルトさんは魔法騎士に入団し、クローディアさんは五傑の話が上がってチームは解散したとなると納得できるな
まさか父さんがそんな冒険者だったなんてな
『キュルルル!』
話していると近くの川から青いクラゲが姿を現した
川だぞ?海で出てこいよ
全長二メートルのクラゲだが胴体は小さく、職種が長い
ティア
『クラゲン!』
リュウグウ
『ネーミングセンス疑うな』
間もなくランクE、半透明な胴体からは赤い球体がドクドクと脈打っている、心臓か
リリディ
『麻痺針に注意してください、2つの長い触手に触れるとピリッとし『ラビットファイアー!』』
ティアが問答無用で魔法を放った
流石はEランク、避けること敵わず5つ全ての熱光線が奴の胴体を貫通すると川辺に倒れた
魔石が出てきたから死んだなこりゃ
リュウグウ
『トロールだが3体は1日だと厳しいわね』
アカツキ
『猶予は3日だ、出来れば今日に1体倒して気負いせず明日に備えたい』
リリディ
『賛成です』
俺はクラゲンの魔石を回収し、ブルドンが背負うリュックに入れた
すると滝の向こう側から魔物の叫び声が聞こえてきたのだ
『ドロロロロォ!』
アカツキ
『この鳴き声』
《兄弟、少し不味いな…急いで向かえ!》
アカツキ
『まさか…、くっ!みんな行くぞ!』
直ぐに仲間と共に滝の向こう側に急いだ
小走りに進んでいくと開けた場所に辿り着き、その奥の方では息絶えたトロールがうつ伏せで倒れていたのだ
恐る恐るリュウグウが槍でつつくが、やはり死んでいる
トロールの体は傷だらけであり、死因は首筋を斬られた事による出血死だとわかる
アカツキ
『同業者か…鉄鞭がない…』
ティア
『あちゃ~』
リリディ
『先にやられましたか…』
やってしまった
Cランクの魔物なんてポンポン出てくる筈がない
ようやく見つけたトロールが他の冒険者に取られたとなると幸先が悪すぎる
ティアマト
『ケッ!マジかよったく』
アカツキ
『森ではよくある、切り替えるしかないぞティアマト』
ティアマト
『わぁってら…』
《ちょいと奥進んでみな》
アカツキ
『へ?』
《横取り野郎がいるぞ?》
俺は首を傾げ、一先ず仲間をつれて少し奥に歩く
するとそこにいたのはトロールが使う鉄鞭を引きずって運ぶ羅生門の冒険者がいた
勿論ガーランドもそこにはいる
彼は仲間と共に鉄鞭を持って運んでいる最中だったのだ
最悪な光景だな
俺達に気付いた羅生門はアッとした表情を浮かべる
しかしガーランドだけはやってやったと言わんばかりの表情だ
自然と嫌な感情が沸き起こる
ガーランド
『やぁ君たちか、悪いけどトロールは倒したからこれは俺たちのだ』
アカツキ
『それは仕方ない、みんないこう』
ガーランド
『それだけかい?』
何が言いたい?
明らかに俺達を意識しての横取りだとわかる
羅生門は疲弊しているけど、きっとトロールとの戦闘での疲れだ
魔法使いの女性がフラフラしながら歩いているが大丈夫だろうか
だが俺には関係ない
下手をうった、それだけだ
ガーランド
『俺達は滝を迂回して帰るよ、貴族様の依頼頑張れよ』
ティアマト
『ケッ!』
ガーランド
『良い反応だ』
ティア
『ティアマト君、ダメだからね?』
きっとティアマトは胸糞の悪さを最大に感じてる
リュウグウの顔を見てもそれは直ぐにわかった
リュウグウ
『…屑め』
アカツキ
『ここは退こう』
《トロールの気配だぜ?兄弟が通った急勾配の坂の近くだ》
俺はテラ・トーヴァが目の前にいたら抱き締めたいと思った
意気揚々と鉄鞭を運ぶガーランドの背を見届けることなく仲間に小声で戻ることを伝え、一気に滝の横の坂を降りてから目的の場所へと急ぐ
リリディ
『どうしたのです?』
アカツキ
『トロールだ、俺達が通った急勾配の坂の近くだ!』
リュウグウ
『本当か?何故関知もまだ範囲外なのにわかる』
ティア
『たまに開闢スキルが持ち主が戦いたい魔物を関知してくれるんだよ』
テラ・トーヴァの事はオブラートに包んで伝えると、リュウグウは驚きを顔に浮かべる
半信半疑のような顔を次に浮かべたリュウグウは走る速度を上げ、俺の横に近寄ってくると話しかけていた
『本当か?』
『あぁ本当だ、きっといる…ここで嘘をついても意味がないだろう?』
『そうだが…』
《兄弟!あまり長く戦うな!面倒な魔物も近くにいる!》
アカツキ
『なんだ?』
走りながら彼に問う
しかし、その前に気配関知の高いリリディとティアが魔物の気配を捉えた
下り坂の前に辿り着くと、俺でもその気配が届く
確かに強い気だ、感じたことのある気だと思いながらも歩きながら息を整え、坂を見下ろす
ティアマト
『へへっ!ショータイムだな』
彼が一番嬉しそうだな
急勾配を登るは俺達が探し求める魔物Cランクのトロール
見事な鉄鞭を肩に担ぎ、2メートル半はあるその巨体が登ってきていたのだ
『ドロロ…』
静かに顔を上げ、俺達を視認したトロールは息を大きく吸い込むと、肩に担いだ鉄鞭を下ろし、引きずりながら走ってきた
坂でも容赦ない重量感溢れる走りを呑気に見届けるなんて俺はしない
アカツキ
『ティア!遠距離からの援護頼む!俺が奴の目を引く!みんなは隙を見て一撃離脱の繰り返し!近くにもっと強い魔物がいるから長引かないようにしよう!』
リリディ
『短期集中、皆さん落ち着いて行きますよ!』
ティアマト
『わぁってら!』
アカツキ
『頼む!』
俺は勢い良く斜面を下りながら光速斬で突っ込むと抜刀しながら右太股を斬り裂いて通過した
『ドロッ!?』
浅くもなく深くもない
斬擊強化は2だが光速斬のスキルレベルが1の為、それが限界だ
だがそれでいい!
トロールはバランスを崩し方膝をつくと、ティアのラビットファイアーが奴を襲う
奴は咄嗟の判断で腕を前に出し、顔を守ろうとしていた
5つの小さな熱光線が胴体に触れると、トロールの体は燃え出し、痛みと熱さで暴れ始める
近くに寄れないほどに鉄鞭を大きく振り回していて、ティアマトとリリディそしてリュウグウが驚き飛び退く
リュウグウ
『くっ…これでは近づけん』
ティアマト
『流石にデカい図体が暴れると迫力あるなぁ』
困るリュウグウに対し、ティアマトは興味津々にトロールを眺めている
奴が暴れた事によって火が予想よりも早く鎮火すると、リリディはトロールが顔をこちらに向ける前に腕を伸ばし、切り札ともいえる魔法を撃ち放った
『シュツルム』
黒い魔法陣から放たれた1発の黒弾は以前は小石程度のサイズだったのだが、スキルレベル3という水準になったのを納得させるサイズへと変貌を遂げていた
大人の拳ほどのサイズの黒弾が早い弾速でトロールの鉄鞭を持つ右腕に直撃すると、爆発が起こって砂煙で奴が見えなくなる
その威力に俺は口を開けて驚愕を浮かべる
どうみても生半可な魔法じゃない、流石にトロールもこれで終わっただろと思ってしまう位に凄い威力だ
ティア
『リリディ君!凄い!』
リュウグウ
『メガネ…凄いじゃないか!』
アカツキ
『いっぱしの魔法使いじゃないか』
リリディは嬉しい言葉を貰ったが、その顔は真剣だ
まだ戦闘は続いている、魔物が倒れたのを確認するまでは油断はできない
『ドロロロォォォォ!』
俺達は一度後ろに退く
砂煙の中から右腕を吹き飛ばされ、体中血だらけのトロールが半狂乱で突っ込んできたのだ
鉄鞭は持っていない、きっと右腕と共に吹き飛んだのだろう
《決めろ兄弟!》
『光速斬!』
俺は素早く突っ込むと、大振りな左腕が俺に叩きつけられる前に脇腹を斬って通過し、直ぐに振り向いた
トロールは狼狽えることなく、誰もいない地面に左手を叩きつけた
単調過ぎる攻撃だ…威力はヤバイけども単調になればこっちのもんさ
ティアマトが攻撃後の隙を捉えると、片手斧を振って真空斬を放つ
リュウグウがシャベリンという技を使い、魔力で貫通力が増した槍を投げる
そしてティアはラビットファイアーを撃ち放った
全ての攻撃をトロールはガードすらせずに堂々と体に受け止める
リュウグウの槍はトロールの腹部を貫通し、俺の近くに刺さったので少しビックリしたよ
それでも奴は止まらない、本当に痛みを忘れてしまったようだ
ならばやる事は決まっている
リリディが静かに前に歩くと、走ってくるトロールに向けて腕を伸ばす
するとトロールはビクンと体を震わせて足を止めたのである
何故?決まっている…リリディの魔法が怖いんだろうな
リリディ
『腕でよかったですね、頭部ならば一撃だとわかりました』
『ド…ドルルル…』
後退りしたトロール、僅かな静寂がこの後に何が起きるかを物語っている気がするよ
それは直ぐに起きる
リリディ
『シュツルム』
『ドルルァァァァ!』
トロールは黒い魔法陣を目で捉えると、走り出した
避けるよりも攻撃を選んだんだ
それは逃げるよりも良い判断だと思える、だが判断が良いと言ってもいい結果に導く事は無い
一心不乱に突っ込んだトロールの胴体にリリディの撃ち放った黒弾が命中すると、トロールは爆発に巻き込まれた
顔を腕で隠し、爆風を防いでいるとドスンと大きな音が砂煙の中から聞こえた
ほどなくして風でその場があらわとなると、トロールは完全に息絶えていた
鉄鞭を掴んだ右腕も落ちているのが確認できたが、本当に凄い魔法だったよ
ティア
『リリディ君、凄かったね!』
ティアが凄い興奮しながら口を開く
俺はリュウグウに槍を渡すと、何やら槍を舐め回すように見ている
どうしたのかと思いながらも首を傾げると、彼女はとんでもない事を口にした
リュウグウ
『変な液はつけてないな?』
アカツキ
『…それどういうこと?』
リュウグウ
『いやっ!何でもないわよ!』
何故か彼女は恥ずかしそうにしながら声を荒げるけども意味がわからん
遠くから見ていた赤騎馬ブルドンは俺達に近寄ってくると、ティアの頭を口でモグモグといじり始める
ティア
『倒したからね~ブルドンちゃん』
『ヒヒン』
アカツキ
『リリディ、お前…』
リリディ
『威力を試す実験はしたことありますが、トロールクラスにも多大なダメージを与えれるとは驚きですよ』
アカツキ
『そうだな…助かったよ』
リリディ
『お役に立ててホッとしてますよ、早く回収してこの場を離れ…』
リリディが最後まで言葉を発することなく、それは起きた
『なんだこいつぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『ゴモォォォォォォォォ!!!』
俺達は目を大きく開き、声のする方向へ体を向けた
ガーランドの叫び声、そのあとに聞こえた咆哮が俺達の体に響いて伝わる、凄い声量だ
《くそっ!あのガキ共が!!!》
アカツキ
『何がいるんだ!?』
《兄弟、見捨てろ!あいつらは助からねぇ!!!》
テラ・トーヴァが逃げろと指示を出した
彼がそういうという事は俺達にとって非常に不味い敵であるという事の照明でもある
きっとガーランド率いる羅生門は滝を降りてから俺達より先に街に戻ろうと森を進んでいる最中、とある魔物に遭遇したのだろう
まぁ確かにあいつは俺達が狙っている魔物だとわかっていてトロールを討伐した
それは明らかな妨害であり、冒険者が他の冒険者の邪魔をするのはご法度である
だけどもだ…
ティアマト
『どうするよアカツキ?』
アカツキ
『釈然としないが行こう!』
ティアマト
『ケッ!助けても踏ん反り返ってたら1発殴るかな』
リリディ
『殺す気ですか?』
ティア
『もう話してないで行くよみんな』
俺達は急いで声のする方に走り出した
徐々に近付くと、ティアとリリディの顔が真っ青になる、何がいる?Cじゃないだろ
直ぐに俺の気配感知にもその魔物の気配が届く、暑さなど忘れる程の凍てついた空気を感じ、心臓が大きく脈打っているのがわかる
汗も流れるが暑いからじゃない
ブルドンは異常なほどの興奮をみせている、だけども逃げないのは凄いと賞賛したい
とんでもない馬だなこいつは
こうして辿り着いた森の中で俺達は何がいたかを見ることが出来た
その姿に俺は驚愕を顔に浮かべ、足を止める
『た・・助けてくれ!!』
ガーランドが大怪我をして倒れている仲間達の前で、必死に魔物に抵抗を見せるために片手剣を構えていた
仲間の怪我はかなり酷い、きっと動けない
リーダーとして仲間を守るために魔物から逃げない彼の意志を俺は尊重したいと初めて感じることが出来たよ
根っこから悪い奴じゃないんだな
ティアマト
『なんだ…こいつぁ』
ティア
『アカツキ君…』
『ゴモモモォォォォォ!』
大きな雄叫びで俺達は体を強張らせた
俺達はガーランドを守るために、彼の前に移動すると、魔物に向けて武器を構えた
リリディ
『魔物Bランクのミノタウロスです!!!尋常じゃない耐久力を持った魔物です!』
《兄弟!戦うなら死ぬ気で戦え!!!じゃないと速攻で全滅だぞ!!!》
ミノタウロス、身長は3mとかなりでかい!こんなでかいのか!?本でしか見た事がない
頭の側頭部からは湾曲した大きな角、黄色いモヒカンと少しお洒落な髪型なのは驚きだよ
体は全体的に灰色であり、両腕と両足は黄色い毛で覆われている
筋骨隆々とした細マッチョ、両腕に握るは細長くて刃が大きな大斧だ
鬼ヒヨケと同じ絶望感を感じさせるミノタウロスは急に現れた俺達に視線を向けると、笑みを浮かべ、その大斧を肩に担いで舌なめずりした
『ゴモモモォ…』
リュウグウ
『これは…勝てるのか!?』
アカツキ
『終わればわかる!全員で行くしかない!!!死ぬ気で戦え!倒さないときっと逃げ切れない!』
ティアマト
『上等だぁ!!!やってやるよ!』
リリディ
『いつかは超える壁です!望むところ!』
ティア
『頑張るよ!』
リュウグウ
『お前ら…くそっ!もうどうにでもなれ!』
アカツキ
『行くぞ!俺達馬鹿は!』
『『『剣よりも強い!!!』』』
俺は我先にと言わんばかりに光速斬でミノタウロスに突っ込んでいった
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